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第1話 召喚

 

「わっ……とぉ……?」

 

 スコン。

 落ちる様に。自由落下を続ける夢から覚める様に。床の感覚がやってくる。晋の手の触れる感覚から床は教室の物とは違う事がわかる。

 ここは教室ではない。

 

「ようこそ! 異世界の勇者達よ!」

 

 重たく響く低音。

 聞いたことのない声。何者かが晋達の前にいる。光に眩んだ視力が戻ってくる。周囲にはクラスメイトの姿が確認できた。

 声の主は、と晋が顔を上げると皺が深く刻まれた男と、濃い化粧をした女性が高級感のある椅子にソファーに腰掛けていた。

 

「私はアリスデア王国国王、グリム・アリスデアである! 突然の事に状況を理解できていない者が大半であろう」

 

 厳格と言うのが第一印象だ。

 響く声、長く伸ばされた白い髭に大きな身体。裕福である、と言うのは身なりからも分かり、国王であると言う名乗りでより確かな物となる。

 

「…………」

 

 この場で発言をする事は誰にも憚られる。国王と隣にいる女性もまた彼に近しい者である事は推察できる。そして、国王と国王に近しい身分であるいう偉大でやんごとなき彼らとクラスメイトだけがこの部屋にいる訳ではない。

 

「では、お主達を召喚した理由を説明しよう」

 

 グリムは聞き取りやすい声で語り始める。

 きっと彼は何かを語ると言う事に慣れているのだろう。

 

 内容は以下の通りだ。

 

 アリスデア王国は現在、人類側の戦力として魔王対策連合軍に資金と軍事力を提供している。しかしながら、長らく続く戦争状態に資金や軍事力にも翳りが見え始めている。

 

 では何処から回収するか。

 

 魔王に対抗するには根本的に魔族と人間の個体能力に差がある。ならば個体能力が優れた者が居れば、僅かでもマシになるのではないか。

 

 ここで伝承にある異世界の勇者の話だ。

 異世界より勇者を召喚する事により兵力を得られる。彼らは召喚される際に世界を越えるための身体が再構築され、強靭な肉体と能力を得てやって来るのだと。

 

 彼らであれば戦場でも一騎当千。

 人類の為に戦っていただきたい。

 

「──ということだ」

 

 この話を聞いて従うなどと言う者はまず居ない。この話には晋達にとっての旨味が何一つない。戦ったところで何があると言うのか。

 

「発言よろしいですか……?」

 

 恐る恐ると言った様子で智が声を発する。

 

「よかろう」

 

 グリムの許可が出た事で智は発言を続ける。

 

「我々は……何故、戦うのですか?」

 

 智の疑問にグリムが顔を顰める。

 面倒だと思ったのだろう。

 

「突然に呼び出され、故郷から引き離され……何の為に」

 

 命を懸けて戦う程の愛国心を地球、日本から来た彼らがアリスデアに抱く訳がない。

 

「では……お主達が魔王を討ち果たせば元の世界に帰れるとしよう」

「……帰れるのですか?」

「ああ、魔王を倒したのであれば故郷への帰還を約束する」

 

 戦う為の理由が出来上がった。

 帰るにはアリスデア、延(ひ)いてはこの世界の人類を守るための戦いに力を貸す事が帰還の為の条件である。

 

「帰りたくば戦え」

 

 でなければ帰還は約束しない。

 命を懸けてこの世界の為に、魔王を殺せとグリムは求める。

 

「お主達には力が与えられている」

 

 グリムが控えている魔法使いの男にクイと顎で指すと銀色の騎士甲冑を身につけた褐色の男が晋達の前に立つ。

 

「……俺は騎士団長マルス・グレンだ」

 

 伸ばした顎髭を左手で摩りながら自己紹介を短く済ませ「着いて来い」と一言告げて歩いていく。

 行く先は部屋の外。

 扉が開き廊下に出ると、そのまま速度を緩めずにマルスは歩き階段を降りて行き、また扉を開く。

 瞬間に風が入り込む。

 晋の視界に飛び込んできたのは青空と、広大な庭。

 知らない大地、知らない世界。

 ここは彼らの住んでいた場所ではない。

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