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7日目 11 上空にて~丸太のゆくえ~

 ◇


 宿から走り去った舞剣士ヒナ(ちいねーちゃん)を上空から探す。


 浮遊の幻術を使い【野ウサギと木漏れ日亭(宿)】から宿場街近くまで飛んできた。

 冬が始まろうとしている季節の曇り空、それも上空。

 外套を羽織ってきたとはいえ、空気は冷たいよねー。

 雪、降るのかな……。


 すぐ追いかけたつもりだったし、上から見下ろせば目立つ緋色髪のはずなのに…………見つからないねー。

 ちいねーちゃん、結構足が速いんだよねー。


 それとも、もう何者かに屋内とか路地裏に連れ込まれてあられもない姿に……?



「そろそろ街に入るな」



 本人(ちいねーちゃん)に知れたらただじゃ済まない妄想は、不意にかけられた声で消し飛んだ。

 あぶない、あぶない。


 声はボクの懐《ふところ》、藤紫色《ウィスタリア》の毛並みを持つ子ウサギから。

 本来の姿はボクと髪と瞳の色以外そっくりな同族の、”ウィー”ことアイリス=ウィスタリア。

 暴魔《ぼうま》と称する手が出るのが早いヤツ……のはずなのに、手も足も出せないウサギ姿になるのは不思議なものだよねー。


 あとさ、勝手に付いてきた上に「サキ(我が主)の懐より狭い」とかぶつくさ文句うるさいんだよね。

 自分の懐だっておんなじサイズじゃないかー。



「な、なぁ、俺たち空飛んでたら目立つんじゃねーの⁉」


「隠れ蓑(ハイド)の幻術かけてるから、町の人から姿は見えないはずだよー。大きな声は出さないでねー」



 もう一つの声はボクが”お姫様抱っこ”している少年、コイズ。

 弱っちいニンゲンのくせにボクを守れるようになるんだとか言っちゃうカワイイやつ。

 笑っちゃうよねー。ちょっぴり嬉しいケド。



「ジーナ(おねーちゃん)を追ってた教会の探索部隊の目を誤魔化したことだってあるんだよー」



 魔力の感度が高い人じゃないと感知できない、ハズ…………。

 けれど、この町で開かれる収穫祭にはすっごいたくさんの人が来るって話で、ボクの幻術なんかも破っちゃうヤツもいたりするんだろうなぁ。

 戦闘になるのはちょっと、嫌かも……。



 街の内外を仕切る門を越えると、木々や草地中心だった景色から建物がひしめくようになった。


 街の中心を走る大通りには左右の建物をたくさんの紐で結び、色とりどりの図柄をあしらった三角や四角の布が吊るされている。

 収穫祭に寄付をした王都や聖都の貴族たちが、権威を示すため職人に作らせ飾らせてるんだって。

 手の込んだことするよねー。



「ところでレグ、あの緋色髪の女を追いかけてどうするのだ?」



 懐の紫ウサギが問いかける。

 聞きなれない名前に少年コイズが聞き返してきた。



「レグ? アヤメさんじゃねーの?」


「ボクはアヤメ=レグホーンだからー、レグ。これはアイリス=ウィスタリアだから、ウィー」



 ボクは目線でウィーを指す。

「”これ”と言うな」と言いたげな、ウサギらしからぬ目つきで睨み返された。

 へぇ、と不思議そうな目でコイズは紫ウサギを見る。



「ウィーは喧嘩っ早い魔族だからね、コイズはからかったりしないようにー」


「お、お、脅かすなよっ!」



 冗談ぽく言ったのに真に受けて慌てるコイズ。

 挑発しがちなクソガキの自覚あるんだね。


 そのやりとりに呆れた溜息をついて口を挟むウィー。



「で、どうするのだ?」



 あ、話が飛んでたね。

 そだね、追いかけたのはなんでだっけ……?



「んーーっと……わかんないや」


「はぁ? …………では、なぜ来たのだ?」



 あからさまに怪訝な声で尋ねられる。

 そう言われてもー。



「んーっと……面白そう、だから?」


「まったくお前というやつはいつもそうだ、前々から言おうと思っていたのだがな「って、ねぇ! ねぇねぇねぇねぇ! 上から何か来るよ!?」


「うえー?」



 子ウサギ姿の暴魔ウィーの口うるさい説教が始まりかけたところに、建具屋の息子コイズが何かを見つけたらしくボクの背の方を指さす。


 振り返った上空には、



「竜《ドラゴン》!?」


「いや、鳥類……怪鳥《ハルピュイア》か……?」



 二人とも適当なこと言って。

 見えたのはどちらでもなくて、太いも(・)の(・)にまたがった……ニンゲン?



「オーツーさぁん! これぇ! 降りるときはどうするんですかー!?」


「知りません! ぶつかって止まるか落下するかです!」


「そんなの無茶ですー!」



 飛んでくるのはボクじゃ抱えられるか怪しい、太ぉーい丸太。

 乗っかって騒いでいる黄土色の法衣の人はたしか、オーツーってドルイド僧?で、もう一人は……



「サキ‼」



 紫ウサギがボクの懐から飛び出しそうな勢いで顔を出し叫んだ。

 大きい声出さないでって言ったよね……?



「あーーーーくーーーーーーーぅーーーーーん!」



 サキと呼ばれた暴魔ウィーの主人の声だけが取り残される。

 女子二人が跨った丸太はボクたちの頭上を下降気味に飛んで行った。

 もう落下してるって言ったほうが正しいかも……。


 あれは完全に街に落ちるよね、うん。

 騒ぎになるよね、うん。



「感心している場合ではない! 追うのだレグ!」


「お、おい! ヒナねーちゃん追うんだろっ⁉」



 うぅーん、困ったことになったよねぇー。



「もういい!」


「あっ、ウィー‼」


「いでっっ!」



 紫色の子ウサギが胸元から跳び出し、建具屋の息子コイズの顔を蹴って丸太を追いかけて飛んで行った。

 コイズの眉間には赤く足跡が残されている。

 無茶するなぁ、もう……。



「しょうがないなー、追いかけるよー!」



 速度を上げ、ボクも丸太と暴魔ウィーの後を追った。

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