第9話 竜を殺した英雄との戦い
―――魔王ミトロス視点―――
「キラーマの一族がもっとも強い力を?」
俺はルロイへと目をやる。
こいつはキラーマと同じ一族だ。
しかしそれほど強い力を持っていない。
「ルロイ、なにか知っているか?」
「い、いいえ。わたくしはなにも……」
こいつは単なる女だ。むしろ弱い。
家族にもそれほど強い力を持った者はいない。
「強い力があるならば魔界を支配していたはずです。それができない一族がもっとも強いというのは解せません」
「まだ青いな」
「どういうことです?」
「強き者が皆、支配者になりたがるという考えがじゃ。真に強き者は支配など下らぬということを知っている。キラーマの一族は大昔からそういう考えを産まれたときから持っている不思議な一族なのじゃ」
……力を持っていながら支配者という地位を望まない。
そんなことあり得るはずが無い。
力があれば頂点に立ちたいと思うのが当然のこと。
それをしないキラーマや奴の一族が強いとはとても信じられなかった。
「ここにいるルロイは奴と同じ一族です。しかし強くはありません。魔法もそこそこですし、剣や武術にも特別、優れているというわけでも……」
「魔法や剣術、武術など生者の児戯じゃ。キラーマが持っているのはそれらより上の力。生死を支配する能力と言ってもいい」
「生死を支配する能力……ですか」
一体それはどんな力なのか?
想像もつかない。
だがあんなしょぼくれたジジイの持ってる力だ。
そんなたいしたものであるはずが……。
「とにかく冥王を止めるにはキラーマの力が必要じゃ」
「必要ありません」
俺は初代様の言葉を否定する。
「魔王軍の総力を持ってすれば冥王など恐れるに足りません。むしろ魔界の勢力で冥界を支配してやりましょうぞ」
「無理じゃ」
「なぜですか?」
「死者は二度と死なん。冥王の軍は皆が死者。殺すことはできん」
「そんな……馬鹿なこと」
殺すことができない。
それではどれほどの大軍を持ってしても勝つことは不可能だ。
「死者を冥界へ帰せるものは冥王ともうひとり」
「まさか……」
あの男……くたびれた墓守の顔を俺は思い浮かべた。
―――キラーマ視点―――
「なんだ……一体?」
死者が蘇った?
そんな馬鹿なことがあり得るのか? ……いや。
俺は村へ行く途中で会ったロールレックという男を思い出す。
まさかこいつもあの男と同じ……。
抱えていた町長を放し、眠っているユアリを木の根元へと座らせる。
墓から出てきたボルザックは不思議そうに周囲を見回していた。
「ここは……一体?」
ボルザックは自分の身体を眺めまわす。
「俺は老いて……死んだ。そして冥界を漂っていたはず。なぜここに……?」
「お前は冥王様のお力で復活したのだっ!」
冥王だと?
知っている。
その名の通り冥界の王だ。
奴の力で復活した? こいつも、ロールレックも。
けど、なんで冥界の力を盗掘団のあの男が……。
「冥王……。そいつのおかげで俺は冥界から現世へ戻って来れたのか」
「そうだ。しかし冒険者という強者の魂を冥界へ送った代償にお前の魂が呼び戻され、肉体も蘇った。冥王様の配下としてな」
「冥王の配下だと? 俺は冥王になど仕える気は無い」
「ならばふたたび冥界へ戻るか?」
「う……」
冥界へ戻るか。
そう聞いたボルザックの表情が歪む。
「……あそこはなにも無い。ただ眠るのみ。そんな世界へは戻りたくない」
「なら従うんだな?」
「……」
「冥王様のお力ならば無理やり言うことを聞かせることもできるんだ。素直に言うことを聞いといたほうがいいと思うぜ」
無理やり。
確かに冥王の力ならばそれも可能だろう。
ここまで言われたらボルザックに選択の余地は無いと思えた。
「どうするんだ?」
「……わかった。従おう」
「賢明だ。これからは冥王様に従え。冥王様に仕えるギエルモンド盗掘団のボスに従え。ボスの命令は冥王様の命令だ。ボスの指示を受けている俺の命令はボスの命令だ。つまりお前は俺に従うんだ。いいな?」
「不本意だが……しかたない」
冥王とギエルモンド盗掘団にどんな繋がりがあるのかはわからない。
ただひとつわかっていることは……。
「おい、盗掘野郎」
俺はガデルを指差す。
「ご遺体を弄ぶことは許さんぞ」
奴らは遺体を弄んでいる。
これは元墓守として許せないことだった。
「黙れ。これは冥王様による崇高な計画だ」
「崇高な計画? 死も痛みも無い世界を作るとかか?」
「ご名答。誰に聞いた?」
「誰でもいい。それよりもご遺体は弄ばせん」
「ふん。ボルザック、最初の命令だ。そこのおっさんを殺せ」
ガデルの声を聞いたボルザックが俺を見る。
「あんたに恨みは無い。けど、俺も冥界に戻りたくないんでな」
「あんたは死んだんだ。現世にいるべきじゃない」
「死んだことも無いくせに……わかったようなことを言うなぁぁぁっ!!」
ボルザックは巨剣を振り回し、俺へと斬りかかって来る。
あれだけの巨剣をこれほど軽快に扱うとは。
さすがは英雄か。
「さて、元墓守の俺が勝てるかどうか」
だがやるしかない。
剣が俺へ向かって振り降ろされる。
横っ飛びでそれをかわす。
「やるなおっさんっ!!」
怒涛の連撃で巨剣が俺を狙う。
しかしすべて当たらなかった。
こんなものか?
これなら俺が王墓で戦った勇者や英雄の名を騙る連中と大差無い。
竜殺しの英雄は後世の人間が作った大袈裟な伝説だったか?
「なにやってるっ! そんなジジイ、とっとと殺っちまえっ!」
「……いや、こいつ、ただのジジイじゃないっ!」
振り降ろされた巨剣をかわす。そして、
「ふんっ」
手刀で首を落とす。
……しかし首の付け根から血管が伸び、頭はすぐに元通りくっついた。
「く、くく……やはり俺は死人か。痛みすら感じない」
「やっぱり物理的には無理か」
「そのようだっ!!」
ボルザックの右手が俺の胸を打つ。
殴り飛ばされた俺は芝生を転がった。
「はははははっ! そんなことをしたって無駄だっ! ボルザックはすでに死んでいるっ! 死人は二度と死なないっ!」
「知ってるよ」
俺は立ち上がってため息を吐く。
これ以上、ご遺体を弄ばれるわけにもいかないか。
「死者を葬れるのは冥王様だけだっ! 勝てるはず無いんだよっ! ぎゃははっ!」
「……」
死者を葬れるのは冥王だけ。
それが違うことを、俺は知っていた。
「……この術を使うことは無いと思ってたんだが」
「なに?」
俺は右手を掲げる。
「もしも目の前に死者現れ、戦うことになったら使え。親父はそう言ってた」
「なんだ? なにをする気だ?」
掲げた手を拳へと握る。……と。
「な、なに? あれは……」
ガデルの見開いた目が宙を見る。
そこに浮いていたのは黒い棺であった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、キラーマの強さを知るも呼び戻したくないミトロス。




