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第5話 魔界で起こった異変

「そらそらっ! いつまで避けられるかなっ!」


 斬撃が次々とユアリを襲う。

 それをユアリは必死な様子でかわし続ける。


 避けるだけで精一杯な様子だ。

 ここから攻めるのは難しいだろう。


「ちょこまかと。おいお前らっ!」

「えっ? あっ」


 ボスの声に従い、手下たちがユアリを取り押さえる。

 避け続けて疲れ切っていたのだろう。

 あっさり捕まり、息を切らせていた。


「こ、このっ! 卑怯者っ!」

「あははっ! てめえ自分が誰と戦ってるかわかってんの? 野盗だよ。残虐非道な野盗を相手にしてんだよ。正々堂々と相手なんてするわけねーだろバーカ」


 両腕を抑えられたユアリへ向かって斬撃が飛ぶ。


 これはもうダメか。

 しかたないなと俺は動く。


「おじさんっ!?」


 向かい来る斬撃の前へと進み出た俺を目にしたユアリが叫ぶ。


「無意味だよっ! 2人一緒に真っ二つだっ! あははははっ!」

「逃げてっ!」

「必要無い」


 そして俺の身体を斬撃が襲う。……しかし、


「へ?」


 なんともない俺を見てボスの女が目を見開く。


「ふむ。服が破れた」


 身体は無傷。

 しかし服が破れてしまった。


「まあ500年は着たしそろそろ買い替えどきかな」

「な、なな……っ」


 女ボスは驚きの表情であとずさる。


「その剣、どこで手に入れた?」

「ぐ、う……」

「どこで手に入れたか聞いてるんだ」

「うるさいっ! 死ねっ!」


 ふたたび斬撃が。

 しかし無傷。

 皮膚1枚すら傷ついていなかった。


「な、なんだあの魔族のおっさん?」

「魔剣の斬撃を受けても平気なのか?」

「も、もしかして魔王とかなんじゃ……」


 なんで俺を魔王様と勘違いする奴がいるのか?

 魔王様もずいぶん侮られたものである。


「それは故人の持ち物だ。故人の遺志を無視して持ち出していいものじゃない」

「黙れっ!!」


 連続で飛んで来る斬撃。

 それを受けながら俺は野盗のボスへと近づいて行く。


 やがてボスの目前まで行き、魔剣の刀身を掴んだ。


「な、なんだお前はっ!」

「俺はただの墓守だ。元な」


 俺は刀身を掴みながら、顔を女ボスの眼前へと近づける。


「もう一度だけ聞くぞ。この魔剣はどこで手に入れた? もしもお前が墓を暴いて手に入れたというのなら、このまま……」

「と、盗掘団から買ったんだよっ!!」


 盗掘団。

 その名を聞いた俺の中でなにか燃え上がるものを感じる。


「ひいっ!?」


 俺は一体今、どんな目をしているのだろう?

 威勢の良かった女ボスがちびりそうな顔で俺を見ていた。


「盗掘団の名前は?」

「た、確か……ギエルモンド盗掘団とかいう連中だったような」

「そいつらはどこにいる?」

「し、知らないよ。あちこちの墓場を荒らしまわってるらしいってことしか」

「わかった。ありがとう」

「じゃ、じゃあ解放してくれるか?」

「そんなわけないだろ」

「はがっ!?」


 頭をぶん殴って気絶させる。


「うわああっ!!」

「ボスがやられたっ!!」

「逃げろっ!!」


 倒れたボスを見て手下たちが広間の出口へ殺到する。


「逃げるなっ!」


 その足音を聞きながら俺は大声で一喝。

 広場に響くその声が足音を止める。


「そこから1歩でも動けば命は無いぞ」


 そう呟く。

 瞬間、手下たちはその場へへたりこんだ。


 俺は気絶したボスから魔剣を取り上げ肩へ担ぐ。


「ユアリ」

「は、はい」

「今度は俺の用に付き合ってもらうぞ」

「おじさんの用って……パンツ穿くこと?」

「そうパンツを……ってうおっ!?」


 よく見たらおじさん、服が切り刻まれて素っ裸であった。


「きゃーっ! なに見てんのよっ!!」

「見たいから見たわけじゃないんだけどっ! てかそんなもん見せられてこっちがきゃーだよっ! 汚いっ!」

「汚いとはなんだっ! 1200年も連れ添った相棒だぞっ!」

「近づいて来るなっ!」

「いたーいっ!」


 頬をひっぱたかれた。


「……ということで俺は盗掘団を追うから付き合ってね」


 野盗の墓を作りながら俺は言う。


「それはいいけど、服を着ろ服を」

「そんなこと言ってももう着れないし」


 もはや服と言うよりボロきれである。


「死体からもらえばいいじゃん」

「元墓守として故人のものをいただくことはできん」

「じゃあ生きてるのからもらえばいいじゃん」

「あ、そうか」


 それには気付かなかった。

 ということで俺は生きてる野盗から服を奪い取って着た。

 裸の野盗は泣いていた。


「わざわざ野盗の墓なんて作ってあげる必要あるの?」

「死んだらみんなご遺体だ。どんな人生を歩んでいようと、最後くらいは墓に入れてやらなきゃかわいそうだろ」

「ふーん。わたしにはよくわかんないけど」

「君が死んだらもっと立派な墓を建ててあげるよ」

「そりゃどうも。嬉しくて泣いちゃいそ」


 死んだ野盗たちの墓を作り終えた俺たちはアジトの外へ。

 生き残ってる奴らを兵士に引き渡すため、近隣の町へ向かって歩いた。


「ねえ、おじさんってなんでそんな強いの? もしかして魔王?」

「そんなわけないでしょ。俺はただの元墓守」

「魔界の墓守ってすごく強いんだ」

「強くないよ。たぶん普通くらい」


 他の魔族がどれくらい強いかは知らないからなんとも言えないけど。


「へー魔族ってそんな強いんだ。じゃあ魔王はものすごく強いんだろうね」

「そりゃそうだ。俺なんかじゃ足元にも及ばないくらいね」


 魔王様はすべての魔族の頂点に立つ御方だ。

 当代の魔王様だってあんな感じでも俺よりずっと強い。


 俺なんかは魔族の下っ端。

 単なる墓守でしかないのだから……。



 ―――ルロイ視点―――



 ――時《とき》はキラーマが王墓を出て行って数日後へと戻る。

 そのころ魔界では……。


「ふん。ようやくあのジジイを追い出せましたわ」


 我が一族にとって王墓の墓守は伝統ある名誉ある役目だ。それをいつまでもあんなジジイにやらせていたのは実に不愉快だった。


「けど、魔王様が代替わりしたおかげでようやく……」


 分家の身でありながら父上はミトロス様に重用され、魔王軍で上り詰めた。

 そしてわたくしに墓守の地位をと魔王様へ進言してくださった。


「これからはわたくしたちが一族の頂点ですわ。くくく……あーはっはっはっ!!」


 王墓の管理小屋内でわたくしは大声で笑う。


「もっと大きな屋敷がほしいですわね。こんなボロ小屋なんて潰して……ん?」


 なにやら大きな揺れを感じる。


「じ、地震? えっ? な、なんですのっ!?」


 あちこちの地面が大きく盛り上がる。

 ……その後、地面の揺れは収まり、あとに残ったのは荒されたような大地。そして大勢の足音だった。


「一体なにが……? えっ!? あ、あれは……っ」


 管理小屋の窓から恐怖を目にしたルロイは大急ぎで魔王城へ向かった。



 ―――魔王ミトロス視点―――



「ミ、ミトロス様っ!」


 自室へルロイが駆け込んで来る。

 なにやら必死の形相だが……。


「どうした?」

「は、はい。王墓内で事件が起こりまして……」

「なに? なにがあったんだ?」

「とんでもないことが……。と、とにかく来ていただけますか?」


 一体なにがあったのか?

 ルロイの様子からして、ただ事ではないことだけはわかった。


 俺はルロイとともに王墓へ向かう。


「……これはひどいな」


 荒れ放題でめちゃくちゃだ。

 墓の中に死体は無く、どうやら持ち去られたようだった。


 しかし奇妙だ。

 死体は無いのに、かつての魔王とともに埋められた財宝は残っている。


 なぜ死体だけ持ち去り財宝は置いて行ったのか?

 不可解で実に不気味であった。


「なにがあったんだ?」

「し、死体が……大勢の死体が王墓から歩いて出て行くのを見たのですわっ」

「なにを馬鹿な」


 そんなことあるはずがない。


「ほ、本当ですわ。ああ、初代様のお墓までめちゃくちゃに……」

「ああ」


 掘り返したというより、まるで中から這い出て来たようなあとに見える。

 まさかルロイの言っていることは本当なんじゃ……。


「――キラーマはどこだ?」

「なに?」


 俺はルロイへ目をやる。


「わ、わたくしはなにも……」

「?」


 ここには俺とルロイだけ。

 他には誰もいない。


 気のせいか……?


「キラーマはどこだと聞いている」

「はっ!?」


 なにかいる。

 しかしなんだこの奇妙な気配は。

 なにかすごく……強い、意志だけのような気配であった。


「ミ、ミトロス様……あ、あれをっ」

「なっ!?」


 ルロイの指差す方向へ目をやる。

 そこにはぼんやりと輝く何者かがいた。


「誰だ……い、いや」


 見たことがある。

 確か……肖像画で。


「ま、まさかあなたは……」


 あり得ない。

 いや、しかしこの姿は間違い無かった。


「しょ、初代魔王、メリアードヴァイス……様」


 白髪に長い髭をたくわえた老人。

 しかし鋭い眼光を持つその御方が俺に厳しい視線を向けていた。

お読みいただきありがとうございます。


次回、動き出した冥王。

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