第31話 1対1での戦いを申し込まれる
「お前は……?」
「俺の名はシルバン。イーメリアス様の騎士だ」
それを聞いて俺は警戒を強める。
ガノックスと同じ立場に奴か。
ならばかなり強いと思ったほうがいい。
「待て。今ここでお前らとやり合うつもりは無い」
「なに?」
ならなんで俺たちの前に現れた?
こいつの目的はなんだ?
あの屋敷のときみたいになにか罠を?
俺は警戒を解かず、シルバンという男を睨み続けた。
「1対1だ」
「えっ?」
「1対1での戦いをお前に申し込む」
意外なことを言われて俺は呆然とする。
「どういうことだ?」
「言葉通りだ。3日後の夜、この町にある闘技場へ来い。そこでやる」
「そんな罠にかかると思うか?」
どうせ大勢で待ち伏せしているのだろう。
そんな手にかかるか。
「そう思うなら来なくてもいい。しかし俺はガノックスたちみたいに策を弄するのは好かん。できれば正々堂々、お前とは戦いたい」
「……」
こいつ……ガノックスたちとは違うのか?
けどあっさり信じるわけにもいかない。
「とは言え、イーメリアス様に命令されれば正々堂々ともいかなくなる。その前にお前とは決着をつけたい。どうするかはお前が決めろ」
そう言ってシルバンは背を向ける。
「待て」
その背へ向かい俺は声をかける。
「お前、冥王の考えには賛同しているのか?」
「……」
「冥王は全生者の死を目論んでいる。そんなことをお前は許せるのか?」
こいつは少し話せるかもしれない。
そう思ったが故の問いだ。
「……死の無い世界。悪くはない。愛する者と別れることの無い素晴らしい世界だ」
「……」
シルバンはそのまま去って行く。
奴の言う愛する者。
それはイーメリアスのことだろうと思った。
「うしろ向いてるし、今のうちに葬送術で倒しちゃえば?」
「いや、それは卑怯と言うか……」
ユアリの言う通りにするのがいいんだろうとも思う。
しかしできなかった。
「どうするんじゃ?」
「少し考えてみます」
3日後だ。
今すぐに答えを出す必要も無いだろう。
とりあえず宿を見つけた俺たちはそこで一夜を過ごす。
……そして翌朝。
「おじさん、剣を探しに行くから付き合ってよ」
「いいけど、俺あんまり武器に詳しくないよ」
「1000年も生きるんだし、なんとなくわかることもあるでしょ」
「まあ……そうかも」
墓守をやってたときは剣を持った奴と戦ったことも何度かある。
そう考えると確かになんとなくわかることもあるかもしれなかった。
メリア様とアーラスさんを宿へ残し、俺はユアリと武器屋へ。
武器屋へやって来たユアリは展示品の剣を眺めてうんうん唸る。
「どうかな?」
「ちょっと長いんじゃない?」
剣を見て直感でそう思う。
「やっぱ長いよねー。じゃあこれはどうかな?」
俺の前で軽く振って見せる。
「胸がデカいから振りづらそう」
「どこ見てんだスケベ」
「素直にそう思っただけなんだけど……」
しかしどうもしっくりこないのか、ユアリは剣を戻す。
「鍛冶屋に依頼して作ってもらえば?」
「しっくりしない感じを伝えるのが難しい」
「あそ」
これは理想の剣が見つかるまで時間がかかりそうである。
それから数軒ほど武器屋を回るが、結局、気に入る剣は見つからなかった。
「どうしっくりこないの?」
「うーん……なんかこう、勇者って感じがしないっていうか」
なに言ってんだこの子は?
聞いてもよくわからなかった。
「前の剣はうちに代々伝わる剣だったんだよねー。ロイマーノ様が使ったこともあるとかっていうさ」
「そんな貴重な剣だったんだ」
それの代わりを見つけるのは大変そうである。
「あーなんかお腹空いた。おじさん、なんか食べに行こうよ」
「そうだね」
そろそろ昼時か
ということで俺たちは飲食店へ。
「な、なんかちょっとデートみたいだね」
「そう?」
パンを食べながら俺は言葉を返す。
デートなんてしたことないからわからない。
こういう感じなんだろうか。
「おじさんってさ、こうやってわたしと2人っきりで過ごしてて楽しいって思う?」
「うん? うんまあ。楽しいと言うかなんか落ち着く。気兼ねしなくていいし」
家族と一緒にいるみたいなそんな感覚である。
「それ、おじさんにとってわたしってどういう存在になるのよ?」
「嫁さんみたいな」
「ぶっ!?」
不意にユアリが食べたものを吹き出す。
「汚いな。どうしたの?」
「お、おじさんが急に変なこと言うからっ」
「言ったかな?」
聞かれたから正直に答えただけである。
「う、うん。そっか。おじさんにとって嫁さんね。わたし」
「娘のほうがよかったかな? 嫌だよなぁ。こんなおじさんに嫁さんとか言われたら」
「い、いや大丈夫っ。いいから嫁さんで」
「そう?」
しかし嫁さんってこんな感じなのかなぁ。
結婚なんて考えたことも無いけど。
なんか顔を赤くしながらユアリは料理を食べ終える。
俺も食い終わり、一息ついた。
「じゃあ帰ろうか」
「あ、もうちょっとだけ」
「どっか行きたいとこあるの?」
「そうじゃないけど……少し歩こうよ。せっかくだし」
「そうだな」
せっかく町へ出たんだ。
もう少し見て回ってもいいだろう。
「しかしこの町もひどいな」
以前の町とそう変わらない。
死体がその辺に転がり、行き交う人たちの目は疲れ果てていた。
「うん。早くイーメリアスを倒してこの国を救わないとね」
「俺はそんな正義の味方な男じゃないけどね」
目的はあくまで冥王の目的阻止だ。
この国を救うことになってもそれはついでに過ぎない。
「けど大勢の人が救われて死人が減ったら嬉しいでしょ?」
「そりゃまあね」
「だったらおじさんもやっぱり正義の味方。勇者なんだよ」
「俺は魔族だよ」
どちらかと言えば勇者に討伐される側である。
「そんなの関係無いよ。勇者かどうかは心が重要なんだから」
「そんなもんかな」
「うん」
ユアリは俺の顔を見上げてニッコリ笑う。
こんなおっさんが勇者か。
しかしそう言われるのは悪い気がしなかった。
「あ、雨降ってきたよ」
「ああ」
曇り空からどしゃ降りになる。
俺たちは慌てて軒先へ避難した。
「こんだけ大降りならすぐやむだろ」
「うん。ぶるる……」
と、ユアリが小さく震える。
「寒いのか?」
「うん。ちょっと冷えてきたかも」
「じゃあ……」
俺はユアリを抱き寄せる。
「お、おじさん?」
「こうやって身を寄せ合えば少しはあったかいだろ?」
「う、うん」
「嫌なら離れてもいけど」
「ううん。嫌じゃないよ。ありがとう」
そう言ってユアリはさらに俺のほうへ身を寄せる。
ユアリの温もりが俺の身体へ……。
なんだろう?
不思議と胸がドキリとした。
「……おじさん」
「うん?」
「なんでもない」
「なんだよ?」
「なんでもないって」
なにかわからないが、ユアリは嬉しそうであった。
「……シルバンと1対1で戦うの?」
「うん? うん。どうするかな……」
罠かもしれない。
けど、そうじゃないと思えた。
「少し小降りになってきたかな。もう行くか?」
「もう少し……」
身を寄せながらユアリは言う。
ならもう少し……。
「……はっ!?」
背後に気配。
振り返ると、そこにはナイフを掲げた女が立っていた。




