第30話 新たな刺客は初代魔王の知り合い?
「逃げたっ! おじさんっ!」
「ああっ!」
戦っている兵士と魔物を避けて俺たちは金色のスライムを追う。
しかし速い。
あっという間に見失い、俺たちはその場へ立ち尽くす。
「は、速すぎます。追っても捕まえられませんよあれじゃあ……」
アーラスさんの言う通りだ。
追いかけて捕まえられるような速さではない。
「あれは生き物ではない。追えば逃げるように作られている物体じゃ。捕らえて破壊するのは困難じゃなろうな」
「どうすれば……?」
「追ってると思わせなければいい。そうやって近づいて破壊するんじゃ」
言葉にすれば簡単だが、やるのは難しそう。
ともかくやってみるしかない。
俺たちは兵士や魔物をかわしつつ金色のスライムを探す。
……と、やがて大広間で金色のスライムを見つける。
「だいぶ魂を吸われている。ここで逃がしたら終わりじゃぞ。慎重にの」
「わかりました」
もう逃がせない。
慎重に。慎重にいかなければ。
「けどどうすんのさ? 追ってると思わせないで近づくってムズくない?」
「う、うーん……」
「意識させなければよい。捕まえようとせず、別のことをしながら近づくんじゃ。意識を減らすために近づく人数は少ないほうがよい。キラーマとユアリで行け」
「は、はい」
俺たちは作戦を話し合う。
そして4人で頷き合い、動き出した。
「おじさんってさ、小さい女の子が好きだよね」
「なんてこと言うんだ君は」
そんなまったく関係無い話をしながら金色のスライムに近づく。
追っているとは思われていない。
その証拠に金色のスライムは逃げようとしていなかった。
「だってちびっ子魔王にエッチなことされそうになって喜んでたじゃん」
「喜んでないよ。襲われてただけ」
「じゃ、じゃあ……わたしが襲ったら嬉しい?」
「襲われて嬉しいってことは無いけど……」
「なによーっ! やっぱり小さい女の子好きなんじゃんっ!」
「なんでそうなるんだよ」
あと2歩ほど。
それくらいスライムへと近づいた。
俺はユアリと目配せする。
そして……。
「っ!」
2人同時に金色のスライムへ飛びつく。……が、
「くっ!?」
指先がかすっただけで逃げられる。
「させません」
しかしアーラスさんがその行く手を呪霊術で塞ぐ。
金色スライムの動きが一瞬だけ止まる。その隙を俺は逃さなかった。
上空に黒い棺が浮かぶ。
そこから伸びた鎖が金色スライムを捕らえる。
「ユアリっ!」
「わかってるっ! えやあああっ!!」
剣を振りかぶったユアリが金色スライムを真っ二つにする。瞬間、
「うあっ!?」
周囲の景色が変わる。
屋敷が消失し、俺たちはなにも無い場所に立っていた。
「結界は消失した。屋敷も金色のスライムを核として維持されていた幻覚のようなものだったようじゃの」
「はい……」
なんとかなった。
しかしギリギリだ。
ともかく安心した俺は一息つく。
「しかしわしでも破壊できぬほどの結界。そして見抜けぬほどの幻覚か。これはかなりの使い手……むっ」
メリア様がどこかを睨む。
俺は自然とそちらへ目をやる。
「あっ」
そこに誰かが立っている。
顔を黒いフードで隠し、全身も黒いマントで隠した何者かだ。
「メリア様、あいつは……」
「死者じゃな。結界と屋敷を魔法で作ったのもあいつじゃろう」
男か女か。
それすらわからない不気味な奴はじっとこちらを見ている。
なにをしてくるのか?
俺は警戒心を強めてそいつを睨み続けた。
「……さすがですな」
「なんじゃと?」
フードの奥からメリア様へと言葉を吐く。
「さすがは初代魔王メリアードヴァイス様です。吾輩の霊爆結界を破るとは、感服いたしましたぞ」
「わしの力では無い。こやつらが協力した結果じゃ。それよりもお前……もしや」
「いずれまた会いましょう。そのときは吾輩の真の力をお見せいたします」
フードの奴が高く跳ぶ。
「逃がすかっ!」
奴を逃がす理由は無い。
葬送術を展開。
棺で奴を……。
「あっ!?」
奴の杖が棺を狙う。
瞬間、棺が爆発した。
「なっ……」
「やはりあやつ……」
そこへ大きな鳥の魔物が現れる。
フードの奴はそれに乗り、遠くへと去って行った。
「知り合いですか?」
「たぶんの」
メリア様の知り合いで強力な魔法使い。
ということはもしや……。
嫌な予感をさせつつ、俺は奴が飛び去った空を見つめた。
―――ガノックス視点―――
上空から連中を見下ろしつつ僕は舌を打つ。
「生き延びたか」
まあ向こうには初代魔王メリアードヴァイスがいるのだ。
想定できたことではある。
「やはり初代には勝てないか?」
鳥の魔物に乗って側へ来た奴に俺は言う。
「魔力は俺とそう変わらん。良い仲間を連れているようだ」
「言い訳はいらないよ。君は負けた。それだけだ」
「……」
フードの奥から覗く鋭い眼光が僕を睨む。
かつてはこの目を多くの者が恐れたのだろう。
しかしそれもイーメリアス様の前に倒れるまでの話だ。
「次は仕留める」
「そうできたらいいね」
そのまま奴は去って行く。
「その前に僕が倒すさ」
そうしてイーメリアス様の愛をすべて受ける。
それが叶ったらどんなに嬉しいだろうか。
「イーメリアス様、あなたの望みは僕が必ず」
王都のほうを眺めつつ、僕はそう呟いた。
―――キラーマ視点―――
……夜が明け、少し寝た俺たちは王都へ向かって歩くことに。
馬車はどこかへ行ってしまった。
ので、しかたなく歩くことになった。
「ねー王都までどのくらいなのー?」
「歩きですとあと3日くらいですかね……」
「うわーん」
アーラスの答えを聞いてユアリが悲鳴を上げる。
確かに3日も歩くのはしんどい。
とはいえ、町に寄れば追われるだろうし……。
「はあ……」
立ち止まったアーラスさんが荒く息を吐く。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。あんまり長距離を歩くことが無かったので……。大丈夫です。すいません」
「いいえ。あの、よかったらおぶりましょうか?」
「そんな……平気です。ご迷惑はおかけしません」
そう言ってアーラスさんはふたたび歩き出す。
やはりどこか町か村へ寄って休んだほうがいいか。
顔をフードかなにかで隠せばなんとかなるだろう。
「おぶってくれるの? ありがとうおじさん」
「君をおぶるなんて言ってないよ」
「なんでよー。アーラスさんのことはおぶろうとしたのにー」
「君は重そ……ほごぉっ!?」
お腹を蹴られた。
「町へ行こうよ。おじさんの顔隠せば大丈夫でしょ」
「そ、そうだね」
ということで近くの町へ。
俺は持っていた布で顔を隠した。
「ギリギリで夜になっちゃったね」
町へ着いた頃には丁度、夜になった。
町中でも死者英雄には警戒しなければいけないから、ゆっくりともできないが。
「とりあえず宿屋を探そうか」
そう俺が言ったとき、
「えっ? あっ……」
誰かが俺たちの前に現れる。
竜をかたどった鎧を着た妙な男だ。
しかしなんとなくわかった。
こいつが死者英雄であると。




