第29話 魂を吸って爆発する結界
「閉じ込められたって……どういうことですか?」
「うむ」
と、メリア様は上を見上げる。
「この屋敷を含めた周辺の敷地が強力な結界に覆われた」
「えっ? じゃあ……」
「結界の外には出られん」
それを聞いて俺はガノックスの言っていたことを理解する。
逃げられないとはこういうことだったか。
「パーティにいた人たちもみんないつの間にか消えてしまって……。それで心配になってキラーマ様たちを追って来たんです」
「どうも最初から罠だったみたいですね」
「はい。屋敷中、兵士たちがいっぱいで……」
「死者英雄は見かけませんでしたか?」
「いいえ。兵士たちだけみたいです」
死者英雄はいない。
兵士のみか。
俺たちを結界へ閉じ込めて兵士たちに始末させる。
それが狙いなんだろうか。
「メリア様、結界を破ることはできませんか?」
「かなり強力な結界じゃ。穴を空けて突破という方法は難しい。しかしこれだけ強力なら結界を維持する物体が内側にあるはず。それは破壊すればよい」
「結界を維持する物体ですか?」
「うむ。それがなにかはわからん。しかし独特な見た目をしているはずじゃ」
それを探して破壊する。
屋敷内にいる兵士たちもそれほど強くないだろう。
なら難しいことも無い。
しかしガノックスの狙いは本当にそんなことなのか?
兵士たちを倒した俺たちを見ても余裕の表情をしていた。
なにか他にあるのでは?
そんな気がした。
「キラーマ、お前も妙に思っているようじゃな」
「ええ。こんなことで俺たちを倒せると思ってるとは考えられません。なにか別の策略があるんじゃないかと」
「うむ。わしもそう思う」
それがなんなのか?
実に不気味であった。
「と、とにかくその結界を維持する物体を探そうよっ! それさえ見つけて破壊しちゃえばわたしたちの勝ちなんだしさっ!」
「それもそうだね」
閉じ込めたなら俺たちをここに留め置きたい理由があるのだ。
結界から脱出さえすればガノックスの企みも失敗だろう。
とにかくと俺たちはその物体を探しに屋敷内へ。
しかし屋敷は広い。
結界に覆われている敷地も含めるとかなりの範囲だ。
「これはかなり時間がかかりそうですねキラーマ様」
「はい。けど時間をかければいずれ見つかりますよ」
時間制限があるわけじゃない。
兵士を倒しながらじっくり探せばいい。
「むっ。兵が来たようじゃ」
進行方向からわっと兵士が大勢、駆けて来る。
「おいお前らっ! お前らは死者に利用されてるんだぞっ! 死者英雄は全生者の死が目的だっ! 従うのは間違ってるっ!」
俺がそう叫ぶと、兵士たちは足を止めてニヤリと笑う。
「そんなことは知っている」
「えっ?」
「俺たちは美しきイーメリアス様に従うのみ。イーメリアス様のためなら死んでもいい。イーメリアス様こそが正義。美しきことは正義なのだーっ!!」
そう声を上げながら全員が襲い掛かって来る。
「説得は無理のようじゃ」
「そのようですね」
さすがは魔王すら魅了した勇者か。
これは普通の英雄とは違う意味で手強そうだった。
「わたしもさっき説得してみたんだけど、全然ダメだったよ」
「ああ。完全にイーメリアスの配下になってしまったようだな」
ダメ元で説得してみたが無理だった。
しかたないので俺たちは兵士たちと戦う。
「……はあ」
十数人の兵士をみんなで倒して一息つく。
手強くはない。
死者英雄の集団とくらべれば倒すのは楽だ。
だからこそ奇妙。
なぜガノックスは死者英雄ではなく生者の兵を使うのか?
俺たちを倒すつもりなら死者英雄を使うはず。
そうしないのが不気味だった。
「これは……」
アーラスさんが周囲に首を巡らしながら呟く。
「どうしました?」
「はい。亡くなった兵たちの魂が変なんです」
「と言いますと?」
「なんか……吸い込まれるような動きをしてると言いますか」
「吸い込まれる?」
どういうことだ?
なんで魂がそんな動きを……?
「ふむ。これはまさか」
メリア様が眉をひそませ難しい表情をする。
「霊爆結界か」
「霊爆結界?」
「うむ。結界内で死んだ者の魂を吸い、一定量を吸うと爆発する結界じゃ」
「ば、爆発って……。どれくらいの威力で?」
「結界内にはなにも残らんくらいの威力じゃ」
つまり爆発すれば俺たち全員、死ぬということである。
「あ、そうだっ! 転移魔法で逃げればいいじゃんっ! ちびっ子魔王のっ!」
ユアリの提案に俺は頷く。
多少の危険があってもここにいるよりはそっちリスクを取るべきと思う。
「この結界は強力なものと言ったじゃろう。外界とは空間ごと断絶されておる。転移魔法でも外には出られん」
「そ、そんなー……」
ユアリはがっくり肩を落とす。
「そんなことよりもこれからは兵を殺してはならん。殺せば魂を吸われて結界内の爆破が近づくからのう」
「わかりました」
ガノックスの狙いはこれだったんだ。
俺たちに兵士を殺させ結界内を爆破する。
だが要は死者を出さなければいいだけだ。
仕掛けがわかればこっちのものである。
「兵士が出て来ても殺さず気絶させるのじゃ」
「む、難しいなぁ。わたしそういう戦い方したことないから」
「わたしの呪霊術でも難しそうです」
なんてことを話してるうちにまた兵士の集団が現れる。
「2人は下がって。ここは俺とメリア様で……うん?」
兵士たちはこちらへ襲い掛かって来るという様子ではない。
なにか……逃げているような様子であった。
「む、キラーマ、あれを見よ」
「あっ!?」
兵士たちの背後からなにかが迫って来る。
魔物だ。
魔物が兵士を襲っていた。
「どうやら、そう簡単に脱出はできそうもないのう」
「そのようですね」
のんびりしていれば魔物と兵士が殺し合って爆破が近づく。
もたもたしている時間は無いようだった。
「い、急がないとどんどん死んで爆発しちゃうよっ!」
「けど、すぐには見つかりそうもありませんよ。どうしたら……」
ユアリとアーラスさんが慌てた表情を見せる。
独特な見た目。
それだけを手掛かりにこの広い場所から探すのは……。
「ん? おじさんあれ……なんだろ?」
「えっ?」
兵士と魔物が戦うほうをユアリが指差す。
そこにはなにか光るものが……。
「なんだあれ?」
金色の……スライム?
それが兵士や魔物の足元をちょろちょろと動き回っていた。
金色のスライムなんて聞いたこと無い。
てことはまさか……。
「あれじゃ。あれを倒すのじゃ」
「は、はいっ!」
あれが結界を維持している物体。
そうとわかれば……。
「あっ!?」
金色のスライムと目が合う。
瞬間、金色のスライムは目にも止まらぬ速さで逃げ出した。




