第28話 襲撃されるユアリ
―――ユアリ視点―――
おじさんのバカバカ。
そんなことを思いながらわたしは大広間を出て早足で歩く。
イライラする。
なんでかイライラする自分にもイライラする。
「おじさんが悪いんだ……」
いやおじさんは悪くない。
わかってる。
けど、どうしても悪いって思っちゃう。
「あーもうっ」
バルコニーまで来てわたしは手すりを掴む。
なんでこんなに胸がムカムカするのか?
おじさんがアーラスさんと仲良くしてるの見るとなんか……。
「もしかしてわたし、おじさんのこと……」
いやいやあり得ない。
顔だって格好良く無いし、墓好きの変な人だし。……けど、
「良い人……だよね」
命を大切に思う良い人だ。
頼りがいもある。
一緒にいて安心できるし。
意外と身だしなみには気を付けてて清潔感があったり……。
「け、けどっ! めちゃおじさんじゃんっ!」
いくつ年上だよっ!
1000歳くらい? あり得ねーよそんなの歳の差っ!
「違うっ! 違うからこれっ! 恋とかじゃないから―っ!!」
夜空へ向かって大声で叫ぶ。
「けど別に嫌いってわけじゃないからーっ! どちらかと言えば……す、好き、かもだけどーっ!」
そんな言葉を叫んで夜空の空気を震わす。
……少しスッキリしたわたしは、手すりに向かって大きく息を吐く。
「もー……やっぱおじさんが悪いよぉ。いや悪く無いんだけどー」
考えるも面倒になった。
とりあえず戻ろう。
そんでおじさんをぶん殴ろう。
それで解決だ。
ということでわたしは踵を返し……。
「――ひな鳥が1羽、親鳥から離れたね」
「えっ?」
空から声が。
振り返って見上げると……。
「お前は……っ」
ガノックス。
町でおじさんを襲った死者英雄が槍の上に立って笑っていた。
「なんでお前がここに……っ?」
「端的に言えば罠に嵌めたんだ」
「罠に? え……?」
周囲に気配が。
いつの間にかわたしは兵隊に囲まれていた。
「都合良く休める場所ができると思ったかい? 最初から罠だったんだよ。盗賊に襲われる男も、男を襲った盗賊も。くっくっくっ」
「ちぃっ!」
誘い込まれた。この屋敷に。
それじゃあ今ごろおじさんたちも……。
「葬送術使いなんかと組んだのが運の尽きだ。くくっ、死んだら君も僕らの仲間にしてあげるよ。憐れなひな鳥。死の世界へようこそ」
兵士が動き出す。
しかしいまのわたしに剣は無い。
「あなたたち人間でしょっ! こいつら人間をみんな殺そうとしてるんだよっ! それに味方する気なのっ!」
わたしは兵士たちへそう言う。
しかし剣を引くことは無かった。
「美しきイーメリアス様こそが正義だ」
「美しさこそが正義」
「それに刃向かう者は悪。当然のことだろう」
兵士たちはそう言ってユアリへと迫って来る。
「無駄だよ。皆、イーメリアス様に忠誠を誓っている。彼らはもう帝国の兵士ではない。イーメリアス様の忠実なる僕だ」
「くっ……」
説得は無理。
万事休すか……。
「――ユアリっ!」
「えっ?」
おじさんの声。
振り向くと……。
「あっ!?」
鞘に入った剣が飛んで来る。
わたしはそれを掴み、剣を抜き放つ。
「無事か?」
「そう見えるならね」
兵士をなぎ倒しながら来たおじさんがわたしと背中合わせになって立つ。
「ど、どうしてわたしがここにいるってわかったの?」
「出て行ったから気になってついて来たんだよ」
「わたしのことが? どうして?」
「どうしてって……気になったから」
「放っとけばいいじゃん。アーラスさんと良い感じだったんだし」
「アーラスさんは関係な……おっと」
襲い掛かって来た兵士のひとりをおじさんが殴り倒す。
「話はあとだ。まずはこいつらを」
「わ、わかった」
剣がある。
おじさんがいる。
もう負ける気はしなかった。
「ふん。丁度良い。まとめて消せ」
ガノックスの声とともに兵たちが一斉に襲い掛かって来る。
わたしとおじさんは同時に動き出し、兵を倒して行く。
「ユアリっ! そっち行ったぞっ!」
「わかってるっ!」
こっちへ来た兵士を斬り倒す。
「おじさんっ! うしろっ!」
「おおっと」
背後からの攻撃に気付いたおしさんが回し蹴りで兵を蹴り飛ばす。
華麗なものじゃない。
けど協力している。
協力して、わたしたちは戦いというダンスをしていた。
「たああっ!!」
「がはっ!」
最後のひとり。
それを倒してわたしは息を吐く。
「あとはお前だっ!」
剣の切っ先を上空のガノックスへ向ける。
それを見たガノックスはニヤリと笑った。
「やるねぇ。さすがだ。けどパーティはこれからだよ」
「いや、ここで終わりだっ!」
おじさんが黒い棺を出現させる。だが、
「くそっ!?」
ガノックスを乗せた槍が棺を破壊してしまう。
「学ばないねぇ。僕にそれは通じない。くくっ、ではパーティを楽しみたまえ。僕はしばらく高みの見物をさせてもらうよ」
「逃がすかっ!」
「逃げられないのは君たちだよ」
「なに?」
「それじゃあね」
槍とともにガノックスは飛び去る。
「逃げられないって……どういうことだ??」
おじさんが呟く。
まだ兵士がいる?
けどわたしにおじさん、それにちびっ子魔王とアーラスさんもいるんだ。
兵士なんてどれくらいいても逃げられないってことは無いと思う
「怪我は無かったか?」
こちらを向いたおじさんが言う。
「うん」
2人っきりなってしまいなんとなく気まずい。
なにか話さないと。
しかしなにも思い浮かばない。
だからなんとなく俯いていた。
「……それ、似合ってる」
「えっ?」
おじさんの言葉を聞いてわたしは顔を上げる。
「ドレス似合ってる。そういうの、よく似合うんだな」
「な、なに今さら? さっきはなにも言ってくれなかったのに」
「いやさっきはみんないたし……なんかその、恥ずかしくて」
「アーラスさんには言えたのに?」
「うん? うん。確かにそうだな。なんでだろ?」
おじさんは首を傾げる。
わたしもわからない。
似合ってるってわたしに言うのをおじさんが恥ずかしがったのか。
……もしかして。
つい口から出そうになった言葉を飲み込む。
まだはっきりとはわからない。
言ってしまえば変な感じになりそうだったから。
「うん? どうかしたか?」
「な、なんでもない。それよりみんなところ戻ろう。心配だし」
「そうだな」
ともかくここから脱出しなくては。
今考えることはそれだった。
「――どうやら閉じ込められたらしいのう」
「えっ?」
声がしたほうを見る。
と、こちらへ歩いて来るちびっ子魔王とアーラスさんの姿が見えた。




