第27話 豪邸に招かれる
翌朝、俺たちは歩きで王都へ向かう。
「王都までどのくらいですか?」
「歩きですと1週間くらいでしょうか」
アーラスさんが答える。
まあそのくらいはかかるか。
昼間はいい。
しかし不安なのは夜だ。
夜は死者英雄に襲われる可能性があるので、どこか安全なところで休みたい。
とは言え、俺たちはお尋ね者みたいなものだ。馬車は使えないし気軽に町へも入れない。なので夜は野宿になりそうだなと憂鬱な気分になった。
「あ、おじさん、あそこ」
「えっ?」
ユアリが進行方向を指差す。
馬車だ。
それを盗賊らしき者たちが囲んでいた。
「襲われてるみたいだな」
「これは助けないとっ! うおおおっ! 今助けるぞーっ!!」
馬車へ向かってひとり駆けて行く。
俺たちはお尋ね者みたいなもんだから慎重に……。
なんて話をする前に行ってしまった。
まあユアリだし、しかたないか。
俺たちが追いつく頃には盗賊は逃げ去っていた。
「ありがとうございますっ! 助かりましたっ!」
馬車の外では豪奢な服を着た恰幅の良い男がユアリへお礼を言っていた。
「いいえっ! 困っている人を救うのが勇者の役目ですからっ!」
「おお、勇者様でしたか。これはぜひお礼をさせていただかなくては。ぜひぜひ我が屋敷へとおいでくださいませ」
「いやお礼なんていりませんっ! 勇者ですからっ!」
「そんなことをおっしゃらずにぜひ」
なにやらお礼をしたい、いらないでもめている。
俺としても先を急ぎたいのでお礼は遠慮してもらいたいところだが。
「あの、キラーマ様、もうすぐ夜になります。夜になれば死者英雄が襲って来るでしょう。真っ暗な場所で襲われたら危険ですし、ここはお言葉に甘えて屋敷に泊めていただくのはいかがでしょうか?」
「いやでも、俺たちのことを知っていたら……」
金貨1万枚のために襲われたりするかも。
それが心配だった。
「ご安心ください」
「わっ!?」
いつの間にか側に来ていた男が俺の顔を見上げてニッコリ笑う。
「もちろんあなたたちのことは存じております。しかし自分で言うのもなんですが、私は大金持ちです。金貨1万枚くらいで恩人のお仲間を襲ったりしませんよ」
「そ、そうですか」
「そうです」
人の良さそうな顔で男はニコニコ笑う。
「まあいいじゃろ。野宿は辛いしの」
「メリア様がそう言うのでしたら……」
ということで俺たちは男の馬車に乗って屋敷へ。
……ついてみるとその屋敷は想像以上にデカく、びっくりした。
「本日はパーティがございます。ぜひ皆さまもご参加ください」
パーティか。
聞いたことはあるけど参加したことは無いな。
……やがて夜になり、俺たちはパーティへ招待される。
「パーティ用の服を貸してもらったけど……」
タキシードという服だ。
しかしどうも堅苦しい感じで馴染めない。
「おーなかなか決まっとるではないか」
と、そこへメリア様が。
かわいらしいドレスを着てこちらへ歩いて来た。
「どうじゃ?」
「なにがですか?」
「鈍い奴じゃ。この格好を見たら感想があるじゃろ普通は」
「ああ、かわいいですね」
「それじゃそれじゃ。ぬふふ」
くるくる回って嬉しそう。
中身は2万歳のじいさんである。
「なんじゃその目は?」
「いえなんでも」
最初は文句を言っていたが、いつの間にかこの小さい姿がお気に入りになったらしい。最近は鏡を見つけると自分の姿を眺めてニヤニヤしてるし。
「お待たせしました」
「あ、アーラスさん」
今度はアーラスさんがドレスを着てやって来る。
元から綺麗な人だが、ドレスを着てますます輝いて見えた。
「ど、どうでしょうか?」
「綺麗ですよ。すごく」
俺がそう答えると、アーラスさんは頬を染めて微笑んだ。
「ユアリは?」
「もうすぐ来るかと……」
「うん?」
柱の陰から顔を出してユアリがこちらを見ていた。
「なにしてるんだよ?」
「だ、だってドレスとか着慣れて無いから……恥ずかしくて」
「俺もこういう服は着慣れて無いよ。お互い様」
「う、うん」
ひょこっと柱から出て来るユアリ。
その姿を見た瞬間、俺は言葉を失ってしまった。
「ど、どうかなぁ?」
恥ずかしそうに俺の前へ立つ。
いつもは軽装の鎧を着ている。
だからドレスを着た姿はすごく新鮮と言うか……。
「あーその……なんて言うか」
「……やっぱ似合わない?」
「そ、そういうことじゃなくて……」
なんだろう? 綺麗だよって言葉じゃ足りない。
もっと良い言葉をかけたいが、それを思いつくことができなかった。
「いいよもう。どうせ似合わないんでしょ」
「そんなことは……その」
ああ、なんか俺、変だな。
ユアリに対してなんか気持ちがおかしい。
「皆さま、これよりパーティが始まります。会場へご案内いたしますのでどうぞ」
と、メイドへ案内され俺たちはパーティ会場へ。
パーティってどんな感じなんだろう?
少し楽しみに思いながら会場へやって来る。と、
「おお」
人が大勢いる。
皆、俺たちみたいな格好をして楽し気に会話をしていた。
「これからダンスが始まります。皆さんもどうぞダンスを披露なさってください」
家主の男に言われるも、俺はダンスなどしたことが無い。
会場の客たちがペアでダンスを始める。
弱った俺はそのまま立ち尽くしていた。
「じゃ、じゃあわたしが一緒にダンスしてあげてもいいけど?」
「ダンスできるの?」
「たぶん」
なんか不安だな。
まあいいかと俺はユアリの手を取る。
「手、柔らかいな」
「な、なに言ってんの。ほら」
と、2人でダンスしてみる。
……しかしどうもうまくいかない。ダンスなんてまったくわからないが、うまくできてるような気がしなかった。
「ダンスってこれでいいのか?」
「たぶん違う……」
周囲の人たちがクスクスと笑っている。
やっぱりなんか違うらしかった。
「おじさん下手だね」
「お互い様だろ」
どっちも等しく下手である。
「下手くそじゃのう」
「だってわたし、ダンスとかあんまり知らないしっ」
「俺も……」
1000年も生きてるのにちょっと情けない。
「あ、じゃあわたしと踊りませんか? わたし少しならできるので」
「えっ? あっと」
アーラスさんに手を引かれて広間の中心へ。
そのまま操られるように俺はアーラスさんに合わせて動いた。
「「「おおっ!!」」」
周囲から歓声が沸く。
ダンスのことはわからない。
けど、ものすごく華麗だ。すごく格好良く動いているのはわかった。
やがてダンスは終わる。瞬間、
パチパチパチパチ!!!
大広間に喝采が響き渡る。
「最高だっ!」
「ベストなカップルですよーっ!」
「いやーたいしたもんだー」
歓声とともに俺たち賞賛が送られる。
俺はただ操られるように動いていただけなので恐縮してしまう。
「アーラスさん、ダンスすごい上手ですね」
「キラーマさんがうまく合わせてくれたからですよ」
「いや、俺は……」
ふと、ユアリのほうへ目をやる。
目が合うも、すぐに視線を逸らされてしまう。
そしてそのままひとり、大広間から出て行ってしまった。
どうしたんだろう?
様子が気になり、俺は心配になった。




