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第26話 葬送術を看破する刺客

 見上げた先には槍が。

 寸前で俺は横へ飛んでかわす。


「なんだっ!?」


 単なるゴロツキの攻撃とは思えない。

 これはもしや……。


「えっ? うおっ!?」


 床を貫いた槍が再び動いて穂先が俺へと向かって来る。


「な、なんだこいつっ!?」


 矢のように空を走る槍の一撃を避ける。

 そのまま俺は外へと飛び出した。


「普通の槍じゃない。聖槍か魔槍か……」


 とにかくこのままじゃマズい。


 槍は俺の心臓を狙っている。

 左胸を目掛け、ふたたび伸びて来る。


「キラーマさんっ!」


 俺へ向かって来る槍の前に複数の霊が重なったような物体が現れる。

 槍はそれに防がれ、地面へと落ちた。


「ぎゃああっ!? ゆ、幽霊っ!?」


 びっくりした俺はあとずさる。


「落ち着いてください。これは呪霊術です」

「じゅ、呪霊術?」


 そう言えば聞いたことがある。

 悪霊を召喚して使役する術があるとか……。


「あ、ありがとうございます。けどすいません幽霊苦手で……」

「そうなんですか? 墓守をされていたのに珍しいですね」

「ええ。それより下がってください」


 槍が飛んで来たということは持ち主が近くにいるはず。


 どこだ?


 と、そのとき槍が動く。

 しかしこちらへは向かって来ず、上のほうへ飛んで行った。


「――ふふん。思ったよりもやるようだねぇ」

「お前は……っ」


 木の上に誰かいる。


 白銀の鎧を着た男。

 その男は槍を掴むと、木から飛び降り俺たちの前へ立った。


「お前は……死者英雄か」

「ご名答。僕はイーメリアス様の忠実なる騎士のひとり、ガノックス。葬送術師キラーマ。君の首をもらいに来た」

「お前が死者なら俺には勝てないぞ」


 俺は葬送術を使い、ガノックスの背後に黒い棺を……。


「甘いね」

「あっ!?」


 ガノックスは槍を投げて棺を破壊する。


「聖槍ハンドラー。狙った獲物は逃がさない。十分にわかっただろう?」

「くっ……」


 まさか棺を破壊されるとは。


 こいつ……他の英雄とは違う。


「さてさてさっきのはお遊びだよ。こっからは本番。本気で……殺しちゃうから、ねっ!」

「っ!?」


 ふたたび槍が投擲される。

 狙いはやはり心臓。


「くっ」


 避けるが、意味は無い。

 何度でも襲い掛かってくる。


「させませんっ!」


 アーラスさんの呪霊術が俺を守る。……が、


「えっ? きゃあっ!?」


 槍の進行は一瞬だけ止まったが、今度は落ちずに呪霊を貫いた。


「本気って言ったでしょ。もうそんなのじゃ防げないよ」

「く、くそっ」


 避けても避けても追って来る。


 永遠に追い続けて来るんじゃないか?

 そう思えるほどしつこく槍は俺を追い回してきた。


「逃げても無駄だよ。ハンドラーは追い続ける限り所持者の体力を減らす。けど死者の体力は無尽蔵だ。だから永遠に追い続ける。君が死ぬまでね」


 避けても避けても槍は勢いを衰えさせずに追って来る。


 これは本当にマズい。

 倒す方法があるとすれば所持者を狙うことだが……。


「ぐ、うっ」


 近付こうとすれば槍が先回りしてそれを阻む。


「はははっ。僕を狙って来るなんて想定済みなことだよ。残念だったね」

「うう……」

「動きが鈍ってきたね。そろそろ限界かな? それじゃあ終わらせてもらうよ」


 槍の勢いがさらに増す。


 万事休す。

 ……そう思ったとき、


「――えやああああっ!!」


 この場へ駆け込んできたユアリがガノックスへ斬りかかる。


「おっと」


 ガノックスは槍を戻してユアリの剣を受け止める。


「ほれ」

「ぐっ」


 胸にツララの塊を受けたガノックスは後方へ飛び退る。


「ユアリっ、メリアードヴァイス様っ」


 現れた2人がガノックスと向かい合って立つ。


「どこに行ったかと思えばこんなところで女とイチャついているとはのう」

「おじさん、夫がいる女性に手を出してトラブったの」

「ち、違う違うっ! どっちもっ! あいつは……」

「わかっておる。冗談じゃ」


 胸に刺さったツララの傷をあっという間に再生させたガノックスが、こちらを見ながらフッと笑う。


「初代魔王メリアードヴァイス。そんなのが出て来られちゃちょっと分が悪いかな」

「ちょっと、かの?」

「ふん」


 ガノックスは槍を空高く放る。

 そして自身も叩く跳び上がり、槍へと乗る。


「今日のところは引くよ。けど必ず首は取る。近いうちにね」


 そのまま遠くへと飛び去って行った。


「はあ……」


 俺はその場に屈む。


 まさか棺を破壊されてしまうとは。

 死者英雄を侮っていたなと俺は反省した。


「なんかおじさん、大変なことになってるよ。賞金首みたいになってるし」

「あちこちでお前を捜しておる。男も女ものう」

「そうなんだよ。だからわたしたちもおじさんを捜してたんだけど、ゴロツキみたいな連中がこっち来たからもしかしてと思って」


 それで俺の居場所がわかったのか。

 おかげで助かった。


「ありがとう。助かったよ」

「べ、別にー。おじさんはその……仲間だし」

「お前が死んだら終わりじゃ。もう少し自重するんじゃな」

「う、うん」


 相手が死者なら簡単に倒せる。

 そんな侮りは捨てるべきだと今回のことで学んだ。


「アーラスさんもありがとう。あなたの呪霊術が無かったら……」

「いえ、それよりもキラーマ様」

「さ、様なんてたいした存在じゃないよ俺は」

「いいえ。魔王様のお墓を守り、葬送術の使い手でもあるあなたはご立派な御方です。その、もしよろしければわたしにもお手伝いさせていただけませんか?」

「お手伝いって?」

「このままではイーメリアスに国を滅ぼされてしまいます。大勢の人が苦しめられ死んでいくのを黙って見てなんていられません。キラーマ様たちがイーメリアスと戦うならば、わたしにもお手伝いさせてもらいたいのです」

「いやけど……」


 確かに戦う力はあるらしい。

 けど危険な戦いだ。

 巻き込むわけには……。


「連れて行ったら行ったらいいんじゃないかの?」

「メリアードヴァイス様?」

「すでに敵はこの娘をお前の仲間と認識しておる。ここへ置いて行けば狙われる可能性もあるじゃろう。一緒に連れて行くのが安全だと思うがの」

「そ、それは……まあ」


 メリアードヴァイス様の言うことはもっともであった。


「足手まといにはなりませんっ。ぜひお願いいたします」

「わ。わかりました」


 こうなってはしかたない。

 少し不安だが、アーラスさんを連れて行くことに決めた。



 ―――イーメリアス視点―――



「イーメリアス様」


 自室でくつろいでいるところへ淫魔のアマンセラが入って来る。


「葬送術使いはどうなってるの?」

「賞金首として追わせてます。男に首を落とされるか、女に魅了で落とされるか。いずれにしても時間の問題かと」

「ふふん。そう」

「しかし殺してしまってもよいのですか? のちのち使える男では?」

「殺されてしまうくらいならたいして使い物にはならない。対冥王の武器にするなら、それだけ強い男じゃなきゃわたしの身を危うくする存在になりかねないから」


 葬送術使いを側へ置けば冥王はわたしを警戒する。もしも葬送術使いが弱ければ、わたしもろとも冥王に消されかねない。


 せめて相打ちになるくらいの強さは無ければ。

 どちらもいなくなってくれれば最高なのだが……。


「――葬送術使いなど必要ありませんよ」


 と、そこへガノックスが現れる。


「イーメリアス様には僕がついております。僕さえいれば冥王など……」

「――お前ひとりでイーメリアス様のお役に立てるつもりか?」


 いつの間にそこへいたのか?

 柱へ寄りかかっていたのは竜の鎧を着た男、シルバンであった。


「イーメリアス様には俺がついている。お前などいらん」

「なんだと? シルバン、貴様……っ」

「――やめろ。イーメリアス様の前で見苦しい」


 顔と身体、すべてを黒いマントで覆った男が地面から溶けるように現れる。


「失礼たしましたイーメリアス様。この2人には私から厳しく……」

「なに偉そうに言ってやがる」

「君が一番の新入りだろう。だいたい君は……」

「もういい」


 わたしは3人を止める。


「お前らが奴を殺そうが、女が奴を魅了してものにそんなことはわたしにとって余興に過ぎない。わたしにはこの美貌がある。この美貌があれば冥王すら跪かせることができる。美こそが最強。それに勝る強さなんて無い。そうでしょう?」

「その通りでございます」

「もちろん」

「はい」


 3人は私の言葉に同意する。


 葬送術使いが手に入ればそれでいい。

 手に入らなければそれもよし。


 最強の武器はすでにある。


 この美貌。

 これさえあればなんでも手に入る。


 わたしは産まれながらにして最強。

 敵う者など、全世界のどこにもいないのだ。

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