第3話 死者に襲われる
「死んでるって……えっ? なに言ってのおじさん?」
「俺もわからない。けどあれは生きてない。それはわかるんだ」
俺はそういう術を親父から習っている。
今まで使うことなど一度も無かったのだが……。
「お前は……何者だ?」
その男は俺を見る。
友好的ではない。殺意に満ちた目で。
「……ロールレック」
男はそう一言だけ呟く。
「ロ、ロールレックって……」
「知ってるのか?」
「いやその……ずいぶん前に死んだS級冒険者の名前と同じだったから」
死んだ。
ならば同名の別人。
そう考えるべきだが……。
「そう。俺はそのロールレックだ」
「そ、そんなのあり得ないっ! 200年も前の人だしっ!」
「蘇ったのだ。あの御方の力で」
「あの御方って……」
ユアリは呆然と男を見つめている。
あの御方……。
まさか。
「あの御方のため。我ら死者のため。お前たちには死んでもらうぞっ!!」
ロールレックが剣を振り上げて襲い掛かって来る。
「わあっ!?」
ユアリが剣を抜いて攻撃を弾く。
「ちょっといきなり……このっ!!」
踏み込んだユアリの一撃がロールレックの腕を斬る。……が、
「えっ?」
傷はすぐに塞がった。
「ど、どうしてっ!?」
「俺は死者だ。ふふふ……」
「えっ?」
ロールレックは剣を地面に突き刺し、両手を左右へ広げる。
「好きに斬り刻んでみろ」
「なにを……」
「怖気づいたか?」
「くっ……このっ!!」
ユアリは踏み込み、肩から脇腹へと斜めにロールレックの身体を斬りつける。
「この程度か?」
「なっ……まだっ!」
今度は心臓を刺す。
そして手足を斬り落とす。
それでもロールレックの顔は笑っていた。
「こんな……なんでっ!? どうしてっ!?」
どうやっても死なない。
この奇怪な現象にユアリはパニックを起こしているようだった。
「くくくっ、まだ斬れるところが残ってるぞ」
と、ロールレックの視線が下がる。
首を斬ってみろと、そう言っているのだろう。
「う……あああああっ!!!」
一刀両断。
ユアリの剣がロールレックの首を落とす。……しかし、
「けっけっけっ」
「そんな……っ」
地面を転がりながら首だけでロールレックは笑っていた。
ユアリの表情が絶句に固まる。
「死者に痛みはない。そして死も無い。お前らが俺を殺すことは不可能なんだよ」
胴体から血管のようなものが伸びる。
それが斬り落とされた首や手足と繋がって引き戻す。
そして元通りくっつき、立ち上がった。
「バ、バケモノ……っ」
「バケモノ? 今はそうかもしれない。けどいずれはこれが普通になる。死も痛みも無い、夢のような世界が実現されるんだ」
「なにを言って……」
「世界は変わる。もうすぐ、な」
世界が変わる。
それはまさか。もしかして……。
嫌な予感が俺の頭を過ぎる。
「お前たちも俺の世界へ連れて行ってやろう」
ロールレックが地面から剣を引き抜く。
「死ね。あの御方の偉大なる目的のためにっ!!」
ふたたび斬りかかって来るロールレック。
怯んでしまっている様子のユアリの頭上へ剣が……。
「がはっ!?」
俺はロールレックを蹴り飛ばす。
「おじさんっ!!」
「下がってろっ!」
俺はユアリを守るように立つ。
「くくっ。どちらもなかなかやるようだ。けど俺は死者だ。死ぬことは無い。お前らがどれほど強かろうと俺を殺すことはできない」
「それはどうかな?」
掲げた俺の手が黒く光る。
そしてロールレックの背後に揺らめくなにかが……。
「……いや、使う必要もないか」
俺は遠くを指差す。
そこにはわずかな光が見えた。
「はっ!? よ、夜明けかっ!?」
「森が暗くて気付かなかったみたいだな」
「くっ……」
ロールレックが逃げようとする。しかし……。
「は、離せっ!」
俺はロールレックを背後から羽交い締めにして捕らえる。
「や、やめろっ! 冥界へは帰りたくないっ!! このまま肉体を失ったら、俺はもう二度と現世へは戻れなくなるんだっ! 離せっ! 離してくれっ!!」
「死者は冥界で転生を待つ。それが世界の理だ。現世へ戻って来ちゃいけない」
「やめろーっ!!」
やがて太陽の光が森の中も照らし……。
「うぎゃああああっ!!!」
ロールレックの身体を焼く。
やがて灰となり、ロールレックの姿は消えた。
「な、なんだったの?」
「死人だよ」
「し、死人って……なんでそんな」
「……」
ロールレックが言っていたあの御方という者。
死者を蘇らせることができるとしたら、ひとりしか心当たりがなかった。
「まさか……現世に出てきたのか。奴が」
「えっ? 奴って?」
「うん? あ、いや……なんでもない。とりあえず村へ向かおうか」
「気になるじゃん。教えてよ」
「そのうちね」
俺もまだ半信半疑だ。
しかし別の可能性はどう考えてもあり得なかった。
お読みいただきありがとうございます。
おもしろいと思っていただけたらぜひ評価もお願いいたします。
感想もお待ちしております。
次回、盗賊のアジトへ。




