第2話 勇者の子孫を名乗る美少女
「違う違うっ! そんなことしないっ! 絶対にっ!」
「ほんとかーっ?」
「ほんとだってっ!」
「……まあこんな魔族の変なおじさんが警備の厳重な勇者の墓を荒したりできるわけないか」
「う、うん」
なんとか信じてもらえたっぽい。
変なおじさんというのは引っ掛かるけど。
「えっと、君は……もしかして冒険者?」
腰に剣をぶら下げているのでそうだと思った。
「えっ? まあそんなもんだけど。おじさんはなに? 通りすがりの変態?」
「変態じゃないって。俺は元墓守」
「墓守? ここの?」
「遠いとこの」
「ふーん」
少女は訝し気な目で俺を見つめる。
「君のお父さんのお墓なの?」
「そう。ふふん。わたしのお父さん、なんとあの勇者ロイマーノの子孫だったんだよ。ロイマーノ。魔族のおじさんでも知ってるでしょ?」
「うん」
勇者ロイマーノとは4代目魔王ハルガディアス様を倒した男だ。勝ちはしたものの、ハルガディアス様との激しい戦闘の傷がもとでのちに死んだと聞いたが。
「お父さんが子孫だったってことはわたしもその子孫ってこと。どう? すごいでしょ? すごいって言えーっ! なははーっ!」
大きな胸を張りながら腰に手を当てて笑う。
有名人の子孫だ。
確かにすごいけど……。
「ロイマーノって700年も前の人だし、血はすごく薄いんじゃ……」
「うるさいな。それでも子孫には変わりないでしょ」
まあそうだが。
「あの、勇者の墓が荒らされたって本当なの?」
「そうそう最近、荒らされたらしいんだよね。けど変なのよー」
「変って?」
「一緒に埋葬されてた金品は残ってるの。無くなったのはロイマーノ様の遺体と使っていた剣だけなんだって」
「遺体と剣が……」
盗掘者ならば埋葬品を狙うだろう。
剣はわかるが、遺体を持って行くのは奇妙だった。
「なんか盗掘者から予告状がきてたとかで、冒険者が大勢でお墓を守ってたみたいなんだけど、みんな殺されたって。ちょっと不思議な状態で」
「不思議な状態って?」
「外傷が一切無かったんだって。100人はいた冒険者がみんな。それで死んでたとかで」
……そんなことあり得るのか?
確かに奇妙であった。
まるで魂を抜かれて殺されたみたいな。
もしもそんなことをできる者がいるとしたら……。
いやあり得ない、か。
「棺からロイマーノ様が出てきて自分で歩いて出て行ったのを目撃した人がいるって噂もあるんだよね」
「まさか」
死体が自分で棺から出て行くなんてそんな馬鹿なこと。
「まあそれは見間違いだろうね。てかおじさん、こんなとこでなにやってんの? この辺の人……てかこの辺に住んでる魔族じゃないよね?」
「ああ。最近、魔界から出てきたんだ。それまではずっと墓守をやっててね」
「人間の世界は初めてなの?」
「うん。てか魔界もほとんど知らない。1000年間、ずっと墓地にいたから」
「せ、せせ、1000年っ!? おじさんいくつなのっ!」
「うん? いくつだったかな? 1200歳くらい?」
「はえー。1200年のうち1000年もずっと墓地にいたんだ?」
「そうだよ」
考えてみれば変な話だ。
墓守になってからは一度も墓地から出たことがなかったなんて。
「なんで外に出なかったの?」
「初代魔王様の命令とかで出るのが禁止されてたの」
今の魔王様に出て行けって言われたから出て来た。
けど出て来てよかったのかなと今さらながら思った。
「1000年も生きてたんならロイマーノ様に会ったことあるんじゃない?」
「あるわけないよ。ロイマーノの時代は魔族と人間が戦争してたし、俺なんかが会ってたらとっくに殺されてるよ」
「それもそっか」
「けどロイマーノだって名乗るやつは来たことあったな」
「えっ? 偽物ってこと?」
「そう」
王墓にはよくそういう偽物が来た。
なんでかは知らんけど。
「まあ有名人は偽物多いよねー」
「うん。偽物がよく墓荒らしに来てたんだよ」
まあいい暇つぶしにはなってたけど。
「お墓から偽物を追い払ってたならおじさん、まあまあ強いんだ?」
「偽物倒して強いかはわからないけど、戦えはするよ」
基本は体術だが、一族に伝わる一子相伝の術も使える。
まあ滅多には使うことが無いものだけど。
「じゃあさ、わたしと一緒に野盗退治に行かない?」
「野盗退治?」
「うん。近隣の村で野盗の被害があるんだって」
「ああ、冒険者ギルドの依頼ってやつだね」
「ちがーうっ!!」
「えっ?」
急に大声を出した少女は両手を腰に当ててふたたび大きな胸を張る。
「わたしは勇者っ! お金をもらって人助けはしなーいのだっ!! なははーっ!!」
「そ、そう」
なんか変な子だな。
けど悪い子じゃなさそう。
「うーん勇者。勇者って良い響きぃぃ。えへへー」
「うわ、なんかちょっと変態っぽいよ」
「変態じゃないっ! 勇者をおかずにパンを20個食えるだけだっ!」
「変態じゃねーかっ!」
「変態じゃないっ! 勇者って言葉に興奮し過ぎて出た鼻血で出血多量になって死にかけただけだっ!」
「ますます変態じゃねーかっ!!」
変を通り越してかなりおかしい子なのかも。
「てか君、お金もらわないでどうやって生活してるの?」
「普段は食堂で日雇いの仕事してるよ」
思ったより普通だった。
「おじさんどーせ暇なんでしょ? 一緒に野盗退治行こうよ」
「暇じゃないよ。俺には全世界の墓地を巡るという壮大な目的が……」
「つまり暇なんでしょ?」
「君は人の話を聞かんなぁ」
野盗退治なんて興味無い。
けど墓には興味ある。村があるなら墓もあるだろう。
「良い墓はあるかな? ワクワクするような」
「いや知らねーよそんなの」
墓は見たい。
しかし野盗退治まで手伝うのはなぁ……。
「じゃあこうしよ。わたし、全世界を巡って人助けしたいの」
「そうなんだ」
「うん。おじさんは全世界の墓地を巡りたい。けど人間の世界をあんまり知らない」
「まあうん」
とりあえず魔界から近いこの町に来たが、人間の世界についてはまったくわからん。どこをどう巡ればいいかもわからなかった。
「だからわたしがこの世界を案内してあげる。おじさんはその代わりわたしの人助けを手伝う。悪くない取引でしょ?」
そう言われて俺は考える。
悪くない提案だ。
俺ひとりで世界を巡るより効率が良くなりそうだし。
「わかった。君の人助けを手伝うよ」
「わたしはおじさんに世界を案内する。取引成立だね。わたしはユアリ。いずれ全世界の人間たちが勇者として崇める女だよ。おじさんは?」
「俺はキラーマ。いずれ全世界の魔族と人間が今すぐに死にたくなるような世界最高の墓を作る男だ」
「今すぐ死にたくなるって、それどうなの?」
「墓なんだから悪くないと思うけど?」
誰もがすぐに死にたくなるような墓。
素晴らしい墓じゃないか。
「君が野盗に殺されたら立派な墓を建ててあげるよ」
「不吉なこと言うなっ!」
「けど俺は墓の専門家だぞ?」
「だからなんだよっ! 死ねってのかっ!」
この子にはどんな墓がいいだろう。
顔を見ながらじっくり考える。
「なんだよその目っ! こえーよっ!」
「丸い墓石がいいと思う」
「うるせえっ! けどまあ、野盗は結構、手強いらしいけどね」
「そうなの?」
「うん。なんでも野盗のボスは不思議な剣を持ってて、A級の冒険者パーティーもひとりで一掃したとか。噂じゃ、勇者ロイマーノの仲間が持ってた武器なんじゃないかって」
「ふーん」
不思議な剣か。
ならたぶん……。
「大丈夫なの君は?」
「もちろんっ! なぜならわたしはっ! シャキーン! 勇者だからっ!」
「変なポーズ」
「うるっせっ! 行くぞおっさんっ!」
ということで俺は勇者好きの変態、ユアリとともに野盗退治へ向かった。
「おじさん、この辺は魔物が出るから気を付けてね」
野盗の被害に遭っている村へ向かう道中の森。
ユアリは周囲を警戒しながら俺に言う。
もうすぐ夜明けか。
昼間に出発してもう半日以上は歩いた。
「……うん?」
「どうしたのおじさん?」
俺は森の奥を見つめる。
「なにかいるな」
「魔物?」
ユアリは腰の剣を抜く。
「……いや」
それが姿を現す。
……鎧を着た人間だ。手には剣を持っている。
「や、野盗?」
「違う」
人間には違いない。
しかし変だ。
……生気を感じない。
「あれは……死んでる」
「えっ?」
ユアリはきょとんと俺を見る。
俺自身もわけがわからなかった。
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次回、襲い来る謎の死者。




