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第1話 早期退職で追い出される

「キラーマ、お前はクビだ出て行け」

「ええ……」


 参拝のついでにやって来た若い魔王様にそう言われる。


 1000年間、歴代魔王の墓を守り続けてきた俺――キラーマ・ヴァンダードは、突然の解雇を言い渡されたのだ。


「契約は生涯ということになっているはずですが……」

「そんなの知らん。早期退職だ。退職金は1・5倍になるぞ。嬉しいだろ」

「はあ」


 1000年も続けてあっさりクビとは。

 しかし魔王様にクビと言われては辞めるしかなかった。


「どういうわけか先代までの魔王はお前ら一族を高給で雇い続けた。大昔から続く一族の本家らしいが、たかが墓守だ。高い給料を払うなど無駄だ」

「はあまあ……」


 他の奴がどれくらい給料をもらってるのかは知らん。

 しかし墓守にしては妙に高給な気はしていた。


「しかしミトロス様、私の後任はどうするのですか?」

「――ご安心を。後任はわたくしが務めますわ」


 部屋の扉が開いて現れたのは派手な格好の女だった。


「この方が後任ですか?」

「ああ。お前の遠い親戚だ」

「親戚……」


 俺に親戚なんていたのか。

 ずっと王墓にいたから知らなかった。


「大昔からの決まり事でお前と同じ一族しか墓守が務められんらしいからな。まあ俺はどうでもいいんだが、伝統にうるさい年寄り幹部の意見を聞いてやったわけだ」

「そういうことですわ。お年寄りはとっとと引退なさってください」


 嫌味な顔で言われて不愉快な気分になる。

 しかし言い返してどうなるものでもない。


 1000年もここから出ていないのでクビは参った……。


「じゃあ引継ぎは……」

「いらん。やることなど掃除くらいだろ」

「まあそうですね」


 やって来る冒険者を掃除する。つまり追い払うだけだ。

 主な仕事はそれくらいだ。俺より強い魔族に教えるようなことではないか。


「最後にそこらを綺麗にしていきたいのですが」

「そうしろ。3日後からはこのルロイに墓守を任せるからそれまでには出て行けよ。新魔王軍にお前のようなジジイはいらん」


 そう言いながら魔王様は退職金の入った袋を地面へ投げ落とす。


「ああルロイさん、あとのことは……」

「話しかけないでくれます? 汚らしい。あなたみたいなくたびれた汚らしい年寄りと血が繋がってるなんて考えるだけで気持ちが悪いのですから」

「あ……そう」


 フンと鼻を鳴らし、ルロイは魔王様と一緒に出て行った。


「まあいいか」


 そう呟き、俺は王墓の清掃を始める。


 5代目様。


 4代目様。


 3代目様。


 2代目様。


 歴代魔王様が眠られている墓をひとつずつ綺麗に清掃していく。

 最後にやって来たのは初代様の墓だ。


「あなたにはご先祖様がお世話になりました。できれば墓守の役目は自分の子にでも継がせたかったんですが、俺に子はできそうもありませんし、墓守の役目もクビです。1000年間、お世話をさせていただきありがとうございました」


 感謝の念を込めて清掃をする。


 次に親父とおふくろの墓を掃除だ。


「俺がいなくなっても魔王様たちと一緒だ。寂しくは無いだろ」


 命日にはまた来て掃除をしよう。

 それまでお別れだ。


 両親の墓を清掃し終えると俺は王墓の端にある階段を降りて地下へ。

 階下には見渡す限りの武器が地面に刺さっていた。

 俺が作ったものだけでもたぶん1万個以上はある。


「1000年のあいだずいぶん埋めたもんだ」


 勇者とか英雄とか名乗って墓を荒らしに来た奴らの墓だ。

 ご遺体となってしまえば敵も味方も無い。

 なので奴らも埋葬してやった。


 じいさんや親父、それより前の先祖が作ったものも数多くある。

 それらを含めると数えきれないほど墓があった。


「これじゃ人の墓だか武器の墓だかわからんな」


 ついでだ。

 奴らの墓も掃除してやる。


 ……しかし途中で掃除はやめた。

 俺が作った墓だけでも明らかに3万以上はある。


「うーん……こんなに倒した記憶が無い」


 ネズミ退治くらいの感覚だったからしかたないけど。


 もういいや。キリがない。

 俺は出て行くため王墓の出口へ。


「……そういえば」


 俺が王墓を離れるのは初めてか。

 子供のころは近所の学校くらいには行っていたがそれくらいだ。

 遠く離れたことは無い。


「なんか知らんけど、王墓から離れちゃいけなかったんだよな」


 聞いたことはあるが、親父も知らないらしかった。

 ただ大昔からある一族の決まり事だからだとか。


 どうせ古いしきたりとかそんなんだろう。


「そんなもん今まで忠実に守って馬鹿みたいだな」


 そう思い俺は外へと出ようと……。


「うん?」


 王墓の奥。

 そこから誰かの視線を感じたような。


「気のせいか」


 ここには俺しかいない。

 気のせいだろうと俺は王墓の外へ向かって歩いた。


 袋の中には金貨100枚。

 王墓から1歩も外へ出ず1000年も働いてこれだけ。


「まあいい。初めて外へ出たんだ。冒険者でもやって世界を見て回るか」


 世界を回ってなにしようかな?


「あ、そうだ。世界中の墓を見に行こう」


 1000年も墓にいたから趣味は墓しかない。


 世界にはどんな墓があるんだろう?

 あらゆる墓、あらゆる埋葬方法。

 それらを知って俺がしたいことは……。


「誰もが入りたがる世界一の墓を作ろう」


 見ただけで埋葬されたくなって今すぐ死にたくなるようなすごい墓だ。

 それを俺は作る。


 そのためには人間の墓も知り尽くす必要がある。


 悪くない目標だ。

 第二の人生も墓尽くしになりそうである。


「なんか楽しみになってきたな」


 まずは人間の町へ行って墓を見よう。

 ついでに冒険者登録だ。


 ということで数か月ほど歩いて人間の町へとやって来た。


「ここが人間の町か」


 いろんな種族の者が行き交っている。

 実に賑やかで物珍しかった。


「おいおいこんなところに魔物がいるぞ」

「ん?」


 入っていきなり声をかけてきたのは冒険者らしき連中だ。


「ドラグナイツが魔族のおっさんに絡んでるぞ」

「おっさんも不運だな」


 町の人たちがやれやれという顔でこちらを見ている。


 魔族と人間の戦争が終わって久しい。

 今さら魔族に敵意を向けてくる人間も珍しかった。


「俺は魔物じゃなくて魔族だ」

「一緒だろ。出て行け。ぶっ殺すぞ」


 冒険者たちが俺を囲み武器を抜く。


「おい魔族のおっさん、逃げたほうがいいぞ。そいつはS級冒険者のマシルだ。性格は悪いが最強クラスの冒険者で、魔物退治に関しちゃ英雄とも呼ばれてる。悪いことは言わない。言う通り出て行ったほうがいいぜ」

「だとよ魔物のおっさん。どうする?」


 町の人から忠告を受ける俺だが、その場から動かない。


 出て行く理由が無い。

 こんな理不尽に従うなど馬鹿げていた。


「おいマシル、このおっさん死にたいらしいぜ」

「やっちゃおうよ。魔族の角って高く売れるらしいしさ」

「けど今は魔族でも殺したら犯罪だぞ?」

「はんっ、俺は英雄だぜ。あっちこっちの国王とも知り合いだ。魔族を1匹殺したくらいじゃどうにもならねーよ」

「そ、それもそうだな」


 マシルと仲間たちが俺への殺気を強める。


「このおっさん殺したらまた魔族と戦争になるかもしれないね」

「だったら最高だ。そうなったら今度から遠慮無く魔族を殺せるぜーっ!」


 ドラグナイツという冒険者たちが一斉に俺へ襲い掛かって来る。


「あーあ」

「早く逃げればよかったのに」


 そんな声を聞きつつ俺は腕を組む。


「死ねっ!」


 そして攻撃が一斉に俺へ当たる。……が、


「えっ?」


 俺は無傷。

 腕を組んだ状態で微動だにしていなかった。


「まさか王墓の外でも英雄とか名乗るやつと戦うことになるとはな。毎年、数十人……いや、数百人は来てたかな。魔王を倒して来たとか言う大ぼら吹きもいたな」

「な、なに? お前は……」


 剣を掴む。


「お前、本当に英雄なのか?」

「え、英雄だっ! 最強の英雄だぞ俺はっ!」

「人間は嘘を吐くのが好きだな」

「う、うわっ!?」


 剣を掴んだままマシルを持ち上げる。


「この町の墓はどっちだ?」

「は?」

「どっちだ?」

「……」


 マシルの顔が通りの向こうを見つめる。


「ありがとう」

「ど、どういたしまして……」

「感謝の印だ。旅行へ行って来い」

「へ? うわああああっ!!?」


 そのまま遠くへ投げ飛ばした。


 周囲はシンと静まり返っている。


 マシルの仲間たちも町の人たちもきょとんと俺を見ていた。


「なんで俺の前には英雄って嘘吐く奴がやたら現れるんだ?」


 彼方へと飛んで行ったマシルとか言う奴を眺めながら俺はそう呟く。

 そのまま俺は墓のほうへと歩いた。


「な、なんだあの魔族のおっさん?」

「もしかして魔王じゃ……」


 背中でそれを聞いて俺は思わずフッと笑う。


「俺はただの元墓守だよ。魔王様だなんてとんでもない」


 一瞬だけ振り返ってそう告げ、俺はその場を去った。


 そして町はずれの墓地へとやって来る。


「良い墓だ」


 綺麗な墓を見つけて眺める。


 質素な墓だが手入れは行き届いている。

 こういう墓を見るのは気持ちが良い。


「埋葬されている人間もさぞ喜んでいることだろう」


 しかし良い墓だ。

 思わず頬ずりしたくなってしまう。


「……ちょっとだけならいいか。すりすり」


 お墓へ頬ずり。

 実はちょっとした俺の趣味だったりして……。


「――パ、パパの墓に変なおじさんがーっ!?」

「うん?」


 背後で叫ばれ振り返る。

 そこにいたの栗色の髪をした綺麗な少女だった。


「なにしてんのパパのお墓でーっ! 変態かこのやろーっ!」

「ち、違うっ! 変態じゃないっ! 墓が好きなだけだっ!」

「変態じゃねーかっ!」

「墓を見ると興奮するだけだっ! 変態じゃないっ!」

「ますます変態じゃねーかっ!」


 ……うーむなぜか変態にされてしまった。

 ただ墓が好きなだけなのに。


「もしかしてお前かーっ! 勇者ロイマーノ様の墓を荒したのはーっ!」

「えっ? 勇者の墓が荒らされた?」


 それは元墓守として聞き捨てならないことだった。

お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる方はぜひブクマをよろしくお願いいたします。


次回、勇者オタクな少女が登場。

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