第24話 墓守の女性に出会う
国王や臣下、王都の人々に見送られながら俺たちは馬車で出発する。
目的地はもちろんゼルバリア帝国だ。
「メリアードヴァイス様の時空間魔法で転移したら一瞬で着くんじゃないですか?」
ふとそんなことを思い尋ねる。
「簡単に言ってくれるのう。あれは繊細で難しい魔法なんじゃ。目的の場所へ到着できるとは限らん。少しでも使い方を間違えれば時空の狭間に引っ掛かって二度と元の世界へは戻れなくなる可能性もある」
「それは怖いですね……。やめときましょう」
時間と金がかかっても馬車で行くのが安全だった。
「うーん……」
「どうかした?」
ユアリが抜き身の剣を眺めながら唸っている。
「新しく買った剣、なんかしっくりこない。手に馴染まないと言うか」
ユアリが持っていた剣はリードギアとの戦いで折れてしまった。
今の剣は王都で買ったものだが、あまり気に入らないらしい。
「それだって結構、時間かけて選んだやつじゃん」
「これが一番マシだったんだけどねぇ……」
俺には前の剣とほぼ同じに見える。
しかし剣を扱うユアリにとっては大きな違いがあるのかもしれなかった。
「1流の剣士は使い慣れた剣が折れたら剣士を引退するとも聞く。このまま馴染む剣が見つからねばお前も引退になるかものう。剣士だか勇者を」
「勇者だよわたしは。けど剣が見つからないと引退もあり得るかも」
思ったより深刻な悩みのようだ。
俺も行く先々でいろいろ剣を探してやるか。
「そういえば2代目勇者のイーメリアスってどんな人なんだ?」
3代目魔王ゴラムドガウラー様を倒した。
それくらいしかイーメリアスについては知らなかった。
「ロイマーノ様よりも昔の人だからねぇ。3000年くらい前だったかな? とにかく絶世の美女だったらしいよ」
「絶世の美女ねぇ……」
美女の勇者か
物語の題材には良さそうだ。
「名家の出身で品行方正。正義を愛する心優しく美しい勇者さまだったとか」
「へー」
じゃあ良い人だったり?
「わしが冥界で聞いた話と違うのう」
と、メリアードヴァイス様はふうと息を吐きつつ言う。
「そうなんですか?」
「歴史は勝者が作る。歴史の本に書いてあることがすべて真実とは限らん」
「ではどういう人だったんですか?」
「うむ。貴族の生まれで使用人をいたぶって楽しむような性格の悪い女じゃったらしい。自らの美貌を鼻にかけ、貴族の男たちを争わせたりして遊んでいたとか」
「そんな女がどうして勇者になんて?」
ただの性悪女だ。
そこからどうやって勇者になったのか想像がつかない。
「自己顕示欲の塊みたいな女じゃったそうでの。なにを思ったか魔王や魔族すら自分の美貌には平伏すと考えたそうじゃ。大国の王を魅了して最強の聖剣を見つけ出させ、それを使って魔王軍と戦った。もちろん正義のためではない。絶対的な富と名声を手に入れるためじゃ」
「それで、3代目魔王様はどのように討伐されたのでしょうか?」
「情けない話じゃ。イーメリアスに見惚れ、ボケっとしてるところを聖剣で刺されて殺されたそうじゃ」
……本当に情けない話だった。
「まあどんだけ絶世の美女かは知らんが、わしのほうがかわいいけどの」
「あ、えーはい」
美女と張り合う中身じいさんの幼女にどう反応したらいいのか困った。
「ゼルバリア帝国に現れた2代目勇者様は本物かなぁ?」
「性格悪かったら本物じゃない?」
本物ならば冥王の居場所を知っているはずだ。
あれでもロイマーノは偽物でも冥王の居場所を知ってるっぽかったな?
あれ? じゃああいつって本物? いやけど王墓に来た偽物と同じ奴だったし、偽物には違いないよなぁ。
……まあいいかと考えるのをやめた。
町へ寄って夜を過ごし、馬車を乗り継ぐ。
そうして俺たちは、ようやくゼルバリア帝国領へ入った。
そして最初に辿り着いた町で……。
「これは……」
町の入り口に死体が転がっていた。
やせ細った様子からして餓死のようだった。
町の人たちにも生気が無い。
死体との差は動いているか止まっているかくらいしかないほどだった。
「なんか……ひどいな」
そうとしか言いようが無かった。
「ゼルバリア帝国皇帝のドルマール5世は名君って聞いたんだけどね」
以前はそうだったのかもしれない。
しかしなにかあり、変わってしまったようだった。
「墓を作ってやらなきゃな……」
「あとにせいあとに」
「いやでも……」
ご遺体を野ざらしにしておくなど元墓守としては心苦しいと言うか……。
「まずは宿探しじゃ。しかしこんなところでまともに休めるのかのう」
「とりあえず探してみましょうか」
ということで宿を探す。
……見つけた宿屋は意外にも普通で、問題無く泊まれそうだった。
しかし店主らしき人も従業員も目は死んでいた。
「この町で剣を探そうかなーって思ってたけど、あんまり良い剣は無さそうだね」
「うん」
中規模くらいの町だ。
ディルニエ王国の王都以上に良い剣が売ってる可能性は低そうだった。
「まあでもあとで一緒に探してみようか」
「うん」
どことなく嬉しそうにユアリは返事をした。
「なんか食べに行くのじゃ」
ということで俺たちは宿の外へ……。
「うん?」
荷車を引いて通りを歩く眼鏡の若い女性がいた。
「魔族の女じゃの」
「はい」
額に短い角が2本あるので間違い無い。
しかしそれよりも荷車に載せている存在が気になった。
「死体を運んでるみたいだね」
ユアリが不思議そうに言う。
荷車に載っているのは荷物ではなく死体だった。
「す、すみません。その死体はどちらへ運ぶんですか?」
興味を引かれた俺は考えるよりも早く女性へ尋ねていた。
「えっ? あ、はい。墓地へ行って埋葬をしようと……」
「ご遺族の方ですか?」
「いいえ。わたし、町の墓守をしていまして。ご遺体が野ざらしにされている心苦しいので、墓地の端にでも埋葬してあげようと」
「おお」
なんて素晴らしい考えを持った女性なんだ。
こんな女性には初めて会った。
女性との出会いはあんまり多くないけど。
「手伝いますっ!」
「えっ? いやでも……」
「実は俺、元墓守でして、ご遺体が野ざらしにされていることに心を痛めていたのです。ぜひ手伝わせていただけないでしょうか?」
「まあそうでしたか。そういうことでしたらお手伝いいただこうかと……」
「はいっ!」
俺は荷車を押すため後ろへ回る。
「ちょっとおじさん、なんか食べに行くんでしょ?」
「先に行ってて。俺は埋葬を手伝うから」
「わ、わたしの剣を探してくれるのはー?」
「それもあとで」
「もーっ」
彼女の引く荷車を押して行く。
やがて町はずれにある墓地へとついた。
「良い墓地ですね」
綺麗に掃除されている。
管理が行き届いている証拠だ。
「こんな広い墓地の掃除をあなたひとりで?」
「いいえ。先日までは父が管理をしていて掃除もわたしと2人でやっていました。けど、最近はまともに食べることもできず、体調を崩しておりまして。今朝がた起きて来ないので見に行ったら……」
「ああ……」
なんとも痛ましい話である。
「ではお父様のお墓も?」
「はい。父の遺体は先祖代々のお墓があるところへ埋葬いたしました」
「そうですか。それじゃあこれからはあなたひとりで管理を」
「ええ」
こんなか弱い女性がひとりで墓地を管理とは。
手伝ってあげたい。
しかし俺には役目が……。
「ご遺体は向こうのほうへ埋葬いたしましょう。スペースがあるので」
「あ、はい」
荷車を押して墓地の奥へ。
そこに広いスペースがあり、2人で穴を掘って埋葬していった。
やがてすべてのご遺体を埋葬し終わる。
気付けばもう夕方だ。ユアリとメリアードヴァイス様が心配してるかな。
「お手伝いいただいてありがとうございました」
「いいえ。ご遺体を放っておくわけにはいきませんから」
「お優しい方なんですね」
「いえ、性分と言いますか……」
「わたしもご遺体は放っておけない性分なんです。どんな人生を歩んでいても亡くなれば皆、おんなじご遺体です。最後くらいは安らかに眠らせてあげたくて」
「俺もそう思います」
こんなに考えかたの合う人は初めてだ。
俺みたいに考えてくれる人もいるんだなと嬉しく思う。
「あの、冒険者の方でしょうか?」
「あ、いえ、旅人とみたいなもんで」
「まあそうでしたか。その、お名前を窺っても?」
「あ、はい。俺はキラーマです」
「わたしはアーラスです」
「ア、アーラスさん。あのよろしければこのあと一緒にお食事にでも……」
「――あっ! 見つけたーっ!
「へ?」
離れた場所から女の声が。
見ると、知らない女がこちらを指差していた。
「なんだ……? えっ?」
その背後から女の集団がぞろぞろと現れる。
「わたしが先っ!」
「あたしがーっ!」
「なにくそぉっ!!」
なんか知らんがわれ先にとこちらへ向かってきた。




