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第23話 2代目勇者が動き出す

 ……なんだこの女?

 見たことも無い女だ。


「へ、部屋、間違えてない?」

「あなたが葬送術師のキラーマでしょ?」

「そうだけど……」

「なら間違ってない」


 ベッドの上で膝立ちになった女は服を脱ぎだす。


「ちょ、ちょっと待ってっ! 誰なの君?」

「誰でもいいじゃない。気持ちの良いことしてあげるから」


 女が俺の間近まで来る。

 そのとき女の目が妖しく光った。


「……淫魔か」

「あら? 魅了にはかからないのね」


 魅了は性的な好意を増幅させるものだと聞いた。

 俺はこの女に対してそのような感情を抱いていないので魅了は通じない。


「わたしのこと好みじゃない?」

「知らん女を抱くほど無節操じゃない」


 正しくは女を抱くに興味が無い。

 けど知らん女に俺のプライベートなことを教えてやる必要も無いだろう。


「あらそう。けど、知らない女のほうがあと腐れなくていいでしょ」


 淫魔が俺の身体へ触れる。


「冥王の差し金か? 俺を魅了して落とすための」

「そうもしれないし、違うかも……」

「……っ」


 俺はベッドから降りて淫魔と距離を取る。


「冥王の居場所を知っているのか?」

「冥王がわたしみたいな淫魔に居場所を教えるとでも?」


 ……確かにそれもそうだ。

 こいつが知ってるくらいならセラナでも知っていただろう。


「帰ってお前の主に伝えろ。俺を魅了することなんて不可能だってな」

「ふふ、もしかして男のほうが好きだったり?」

「まったく違う」


 それだけは断言できた。


「それはどうかしら?」


 淫魔は服を着て立ち上がる。


「あなたが普通の男であるなら、美しい女の魅力には抗えない。どんな力を持った強者でも、男であるならば女の操り人形になってしまう。それが世界の理」


 そう言うと淫魔は背中から羽を生やし、窓から飛び立って行った。


「うーん……」


 女を使って俺を魅了する……か。

 作戦としては悪くない。

 が、奴らには誤算がある。


「墓で魅了されたらヤバかったな……」


 立派で美しい墓に迫られたら落ちてたかも。


 墓にしか興味の無い男。

 そんな男がいるなんて、奴らには到底、想像もできなかったろう……。


 その後は何事も無く、ぐっすり眠って朝を迎える。

 部屋へ入って来たメイドに朝食の準備ができたと告げられ、2人とともに城の食堂へ向かった。


「世界中の国々が冥王の軍に襲われているのでしょうか?」


 食事中、俺は国王へと問う。


「ええ。世界中の国々が襲われているようです。大きな国はなんとか持ちこたえているようですが、小さな国は滅ぼされてしまった国もあるとかで……」

「そうですか……」


 このままでは本当に生者がすべて殺されてしまう。

 早く冥王を見つけて始末しなければ。


「もしかして冥王の居場所に心当たりがあったりとかは?」

「申し訳ありません。それは私にもわかりません」


 やっぱりそうか。

 ダメ元で聞いてみたが思った通りの答えが返ってきた。


「では勇者か魔王がいる場所はご存じでしょうか?」

「はい。ゼルバリア帝国に二代目勇者様であるイーメリアス様がいると、冒険者たちが話しているのを兵士が耳にしたと聞いております」

「ゼルバリア帝国……」


 人間界のことを疎いのでもちろん俺は知らない。


「世界で1、2を争う大国だよ。北のほうにある」

「そうなんだ」


 大国ならばまだ滅びてはいないか。


「ゼルバリア帝国の状況はご存じですか?」

「はい。滅んではいないようです。ただ、最近、皇帝の様子がおかしいとか」

「皇帝が?」

「はい。皇帝は善政を敷く良い御方なのですが、急に人が変わられたように国民を苦しめるような政治を行うようになったと聞きました」

「そうですか……」


 善政をしていた皇帝が急に変化を。確かに妙ではあるのかも。

 しかし冥王や死者英雄とは関係無いような気がした。


「イーメリアス様の出現とほぼ同時期らしいのでもしかすればなにか関係があるのかもしれませんな」

「……」


 勇者イーメリアスなら冥王の居場所を知っているはず。

 皇帝の変化と関係があるかはわからないが、ゼルバリア帝国へは行ってみるべきだろうと思った。



 ―――2代目勇者イーメリアス視点―――



「へ、陛下、民は高い税に苦しんでおります。餓死者も多く出る始末。このままでは国が滅びます。どうかお考え直しを」


 皇帝の間に現れた老齢の大臣のひとりが皇帝に平伏しながら懇願している。

 その姿を皇帝は冷たい目で見下ろしていた。


「余の政治が間違っていると申すか?」

「お、恐れながら……」


 それを聞いた皇帝は眉をひそめる。


「イーメリアス様、どう致しましょう?」


 皇帝は媚びるような視線をわたしへ向けてくる。


「このままでは本当に国が滅びてしまう可能性もあると思うのですが……」

「首をはねなさい」

「えっ?」

「皇帝の政治に不満を持つ逆賊は処刑。当然でしょう?」


 豪奢なイスから立ち上がったわたしは皇帝の頭を抱く。


「あなたは正しい。いつだって。そうでしょう?」

「ふ、ふふ。そうだ。余は正しい。誰かこの者の首をはねよっ!」


 場は騒然とする。


 長く使えていた臣下だ。

 周囲もこういう反応を見せるだろう。


「へ、陛下……。おやさしい賢帝であったあなたはどこへ? 以前の陛下へお戻りください。我々臣下と民はそれを望んで……」

「ええいうるさい黙れっ! 誰かこの者の首を早くはねんかっ!」


 しかし誰も動かない。

 どうしていいかわからないという様子だった。


「ここにいる全員、陛下の命に逆らう逆賊ね。みんな処刑してしまいましょう。家族もみんな道連れに」

「か、家族も? しかしそれは……」

「逆賊の血を残せばのちのち陛下に敵になるでしょう? だったら今のうちにすべて殺してしまうの。家族一緒なら冥界でも寂しくないでしょう? むしろ家族と一緒に葬ってあげるのは慈悲深いことなんだから」

「そ、それもそうか。ここにいる全員は処刑だっ! 家族もろともなっ! 世の慈悲深さに感謝するがいい。ふはははっ!!」


 ……かつては名君と呼ばれた男。

 しかし今はこの様。男など所詮は女の魅力には叶わない愚かなものだ。


「こ、この女狐が……っ! みんなっ! 剣を取れっ! この女狐が陛下を狂わせたっ! こいつを捕らえて陽に晒せっ! それで陛下は元へ戻られるっ!」


 大臣の男は立ち上がって剣を抜く。

 しかし兵士たちは剣を抜かない。誰ひとり大臣に従う者はいなかった。


「お前たちどうした? なぜ剣を取らない? この女を殺せば……」

「イーメリアス様を傷つけることなどできません」


 兵士の言葉を聞いた大臣は目を見開く。


「美しきイーメリアス様こそが正義」

「美しさは正義」

「イーメリアス様に刃向かうものこそ悪」


 口々に言う兵士の言葉を聞いて大臣はあとずさる。


「そ、そんな……。貴様たち、この国がどうなってもいいと言うのか?」

「イーメリアス様のお心のままに」


 兵士らはわたしへ跪く。


 わたくしは美しい。

 ゆえに正義。

 美しいわたくしに刃向かう者は悪。

 それこそが世界の理である。


「こ、こうなったらわしひとりでもっ!!」


 懐からナイフを取り出した大臣がわたくしへ斬りかかって来る。


「イーメリアス様っ!」

「問題ありません」


 立ち上がろうとする皇帝を制し、わたしは腰の剣を抜く。

 柄の先に刃が無い剣を。


「な、なんだ? 刃が……無い?」


 不気味に思ったのか大臣は足を止める。


「聖剣グローウェルアザー。この剣は持ち主が美しければ美しいほど、強い剣となって持ち主を守ってくれる」

「刃の無い剣が強い剣となる? ……がはっ!?」


 大臣はナイフで自分の首を刺す。

 そのまま血を吐き、その場へ倒れた。


「イ、イーメリアス様、その剣は……?」

「わたくしの願いを叶えて自害をさせましたの。ふふ」


 剣を鞘へ納めてわたしは笑う。


 国を滅ぼすのに自ら手を下す必要は無い。

 人間同士で殺し合わせればいい。それがもっとも美しく、おもしろいのだ。


「じゃあわたくしは自分の部屋へ戻りますから。あとはよろしくお願いします陛下」

「は、はい」


 見惚れる視線を背後に感じながらわたしは皇帝の間を出る。

 それから自室へ向かって歩いていると、


「イーメリアス様」

「あら? アマンセラ」


 葬送術師とやらのところへやっておいた淫魔だ。

 きっと葬送術師の男を手なずけたという報告をしにきたのだろう。


「どうでした? 簡単に落とせたでしょう? 殿方などどんなに強い力やご立派な立場にいても所詮はみんなスケベな動物なんですからね」

「いえそれが……」

「……まさか失敗を?」

「はい。残念ながら」


 噂によれば1000年も王墓から出たことが無く、女を知らない童貞親父と聞いた。そんな男が淫魔の誘いを拒めたと……?


「その方、男が好きとかじゃありませんの?」


 さっきの大臣みたいな奴だ。

 ある意味、そういう男はわたくしの天敵だ。


「いえ、そういうわけではないようです」

「じゃあどうして……?」

「わたしでは性癖にそぐわなかったのかもしれません」

「ふん」


 なら別の女を使うまでか。

 その葬送術使いが好む女を……。


「動向を探らせている密偵によりますと、どうやらゼルバリアへ向かうとのことで」

「なら好都合ね」


 ここへ来るならあらゆる女を送り込んで篭絡してやる。


 ゼルバリア帝国に美女どもはいつでも使える状態にしてある。どんな性癖の奴でも必ず落とせるくらい、多種多様な女を集めた。


 葬送術がどんなに厄介であろうと使い手は男だ。

 ならば絶世の美女であるわたしに敵うはずは無い。


「3代目魔王、ゴラムドガウラーを美貌だけで討伐した絶世の美女、2代目勇者イーメリアスに叶う男なんて存在しません。ふふ……あーはっはっはっはっ!!」


 いつか冥王すらこの美貌で落として見せる。そしてすべての世界はわたしのものに。


 葬送術師のおっさん。

 そうなったらお前はわたしの靴磨きにでも使ってやる


 それを見下ろしながらわたくしは笑うのだ。


 その日が来るのを確信しながらわたくしは微笑んだ。

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