第21話 キラーマを救ったセラナの聖霊術
「セ、セラナ様っ!」
隣でユアリが叫ぶ。
そんなユアリをロイマーノと周囲にいる死者英雄が見た。
「まさかここでまで来ちまうとはなぁ。ラクサスもハルガディアスも、他の奴らも役立たずだ。英雄だ魔王だなんて聞いて呆れるぜ」
「あ、あなたがまさか……ロイマーノ、様?」
ユアリの目がセラナのほうへ向く。
その視線から逃れるようにセラナは顔を伏せた。
「そうよ。俺様が最強勇者のロイマーノ様だ。会えて嬉しいだろ? かっかっかっ」
「……っ」
目を見開いてユアリはあとずさる。
ここにいるのが本物だと思っていたのだろう。
ならばこの反応は当然であった。
「あ、あなたはロイマーノ様じゃない……。偽物……偽物だっ!!」
「はあ? 本物だよ俺は。なあ?」
問いかけに周囲の英雄たちが頷く。
こいつは偽物だ。
俺にはわかっていた。
「嘘っ! 絶対に偽物っ!」
「うるせえ。てめえが信じようと信じまいと俺は本物だ」
偽物は本物だと言い張る。
すでにバレていることだ。
しかし奴はどうしても自分を本物だと思わせたいらしい。
「どうも妙じゃの」
「ええ」
メリアードヴァイス様もやはり気付いているらしい。
ロイマーノの気配がややぼやけた感じがする。
しかしその理由はなんとなくわかっていた。
「ふん。ここに来るまでずいぶん魔力を消耗しただろ。俺を冥界へ送る分は残ってんのか? ああん? おっさんよ」
「ああ。お前の分くらいは残ってる」
正直に言えばあと3人分くらいか。
少なくともここにいる奴ら全員は無理だった。
「冥界へ行きたい奴からかかって来い」
だが誰も向かってこない。
ここへ来るまで多くの英雄を冥界へ送ったのだ。
その事実がわかっているだろう英雄たちは動かなかった。
「行けよ。お前らが冥界へ行けばあいつはもうなにもできない」
「け、けど……」
「お、俺は嫌だぞ。冥界へ行くなんて……」
「俺も……」
エントランスときよりも数は少ない。
圧倒的多数という有利が無く、攻めあぐねている様子だった。
「だったら行かせるまでだ」
と、そのときロイマーノの右目が赤く光る。
瞬間、死者英雄たちの目からは光が失われた。
「冥王の目を借りていたか」
「冥王の目?」
「死者を強制的に操る目じゃ。……来るぞ」
攻めあぐねていた死者英雄たちが一斉に襲い掛かって来る。
俺は葬送術を展開しようとするが……。
「あっ!?」
目の前で空間に切れ目が。
その切れ目に刻まれ死者英雄たちの身体がバラバラになる。
「失せろ」
そして身体のパーツごと死者英雄たち消え去った。
ロイマーノとセラナの2人を残して。
「空間断絶に仕込んだ転移魔法でどこかへ飛ばした。これでわしの魔力はほぼゼロじゃ。火の魔法で灯を灯すくらいしかできん。あとは頼んだぞ」
「はい」
俺はロイマーノへ向かい、葬送術を使おうと手をかざす。
「俺のを覚えてるか偽物」
「ああ? 俺はてめえなんか知らねーよ」
「よく見ろ。会ったことがある。700年前……魔界の王墓で」
「魔界の王墓……」
ロイマーノがじっと俺を見る。
その顔が少しずつ青くなっていく。
「て、てめえは……まさか」
「魔王様の王墓を守っていた墓守だ」
「……っ!?」
ロイマーノがあとずさる。
その顔は恐怖と怒りが混じったような複雑なものだった。
「な、なんでてめえがここに……っ」
「俺が葬送術師だからだ。言うまでもないだろ」
「まさか葬送術師がてめえだったとはな……」
ロイマーノはニヤリと笑う。
「あのときの借りを返せるなんて嬉しいぜ」
「返せるか? 偽物が」
「俺は本物だって言ってんだろ。この剣が証拠だ」
セラナの背に刺さっている剣を引き抜き構える。
「聖剣シェルマロード。魔族相手には大ダメージを与えられる剣だぜ」
「……」
「てめえとやったときはこれを当てることができなかった。一度でもこれで斬れば魔族のてめえには致命傷だ」
「当てられるのか?」
「勇者舐めんじゃねーぞ。勇者が二度も負けるかよっ!!」
そう声を上げてロイマーノが斬りかかって来る。
「はっ!? ダ、ダメですっ! それは……っ」
セラナが叫ぶ。
俺はロイマーノの一撃をかわした。
瞬間、
「ぐっ……なにっ?」
背後から同じ聖剣を構えて突いてきたロイマーノの剣を掴む。
「馬鹿なっ!? なぜ……っ? 気配は魔法で消していたはずだっ!」
ロイマーノが2人いる。
この状況に俺は驚いていなかった。
「影武者の指輪じゃな。実態がある分身を作る指輪じゃ」
そうメリアードヴァイス様が言うと、影武者のほうは剣とともに消えた。
「最初から言ってたろ。お前は偽物だって」
「て、てめえ最初から気付いて……っ」
「背後に隠れているのはわかっていた。目の前にいた奴は気配がぼやけていたし、わずかに俺の背後を気にしてる素振りがあった」
「く、くそ……っ」
「終わりだ」
俺はロイマーノを冥界へ送ろうと葬送術を……。
「っ!? がはっ!?」
「おじさんっ!!」
上空からなにかが飛び降りて来て俺の左胸を背中から剣で刺す。
振り向くと、そこにいたのはロイマーノだった。
「か、かかっ。影武者の指輪がひとつとは限らないぜ」
……油断した。
まさか本物は天井に張り付いていたとは。
「今度は俺の勝ちだぜ。かかかっ!!」
「……っ」
俺は両手を背後にロイマーノの頭を掴む。そして、
「うおっ!!?」
思い切り投げた。
それから刺さったままの聖剣を左胸から抜いた。
「し、心臓を貫いたんだぞっ!? まだ生きてやがんのかっ!?」
「そ、そうみたいだな」
どういうわけは俺は生きていた。
なぜ……?」
その理由はすぐにわかった。
「セラナ……?」
セラナの手がこちらへ向き、なにかの魔法を放っているようだった。
「再生の加護。これをかけると一度だけダメージを無効化します」
「セ、セラナてめえっ!!」
「説得ができなかったわたしができるせめてもの償いです」
後悔と満足。
それが混ざったような表情でセラナは俺を見ていた。
「め、冥界へ送り返されてたまるかっ!!」
「むっ!?」
突如、周囲に霧が発生し視界が遮られる。
「霧を発生させる魔法じゃな」
「ど、どこだっ!!」
扉へ向かって走るロイマーノの足音。
「逃がすかっ!!」
俺はそちらへ葬送術を展開。
ぼんやり見えるロイマーノの背へ鎖が伸びて行き……。
「ぐあっ!?」
ロイマーノを捕らえる。
「やめろっ!! 俺は冥界へなんて戻りたく……っ」
「冥界へ送る前に聞く。冥王の居場所を教えろ」
こいつを倒したって終わらない。
諸悪の根源である冥王を見つけ出して倒し、それでようやく終わるのだ。
「い、言うか馬鹿。言うわけねーだろっ!」
「ならお前にもう用は無い。冥界で本物に詫びろ」
「ぐあああああっ!! くそぉぉぉっ!!」
蓋が閉じられ、棺は消失した。
「はあ……」
終わった。
俺は一気に疲れがきたような気がして膝をつく。
「おじさんっ!」
ユアリが駆け寄って来て俺の身体を支える。
「俺の言った通り、ロイマーノは偽物だったろ?」
「う、うん。おじさんの言った通りだった」
「勇者ロイマーノは勇敢で心優しい男だ。あんな男とは違ってな」
「うん。うん……」
ユアリは嬉しそうに笑う。
その目端にはわずかな涙が見えた。




