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第20話 ユアリVS音速の将軍

「どうやら説得は失敗したみたいじゃな」


 この敵意に満ちた雰囲気からそれを察した。


 周囲の死者英雄たちはニヤニヤしながら俺たちを眺めている。

 侵入者に警戒しているというより、入って来た獲物を楽し気に眺めているという感じであった。


「あのおっさんが葬送術使いか?」

「はっ、どこにでもいる普通のおっさんじゃねーか」

「盗掘団の連中によればこいつらにラクサスとハルガディアスがやられたそうだぞ」

「こんな奴らに? 嘘だろ? おっさんの他には女とガキしかいねーぞ」

「奴らもたいしたことないな」

「油断でもして葬送術にやられたか」


 ……広いエントランスには100人ほどいるか。

 奥にはもっといるだろう。

 これを突破して奥のロイマーノがいるところまで行くのは至難に思えた。


「あのおっさんが使う葬送術にだけ警戒してれば怖くない。一斉にかかってやっちまえっ!!」

「おおおおおっ!!」


 英雄たちが一斉に襲い掛かって来る。


「俺が葬送術で奴らを葬るっ! 2人は敵を俺に近づけさせないでくれっ!」

「わかったっ!」

「うむ」


 最初に襲い掛かって来た10人を葬送術で葬る。


「隙ありだっ!!」


 その背後から英雄が俺へ斬りかかって来る。


「させないっ!」


 俺の前へ立ったユアリが英雄の剣を弾く。


「このっ!!」

「おおおっ!!」


 3人が一斉に飛び掛かって来る。が、


「ふん」


 メリアードヴァイス様の放った氷の塊が3人を吹き飛ばす。

 そのあいだに俺はふたたび葬送術を展開し、次々と死者英雄を葬送していった。


「これでどうじゃ」


 メリアードヴァイス様が魔法で壁を破壊。

 夕日が差し込み、穴の側にいた英雄が何人か消滅する。


「それくらいは予想してるぞっ!」


 瞬間、闇魔法が展開され周囲はふたたび闇に。


「ふむ。やはり闇魔法使いがいたか。じゃが」


 メリアードヴァイス様の杖に灯る火が一層に激しく燃え上がる。


「ハルガディアスのものにくらべればたいしたことはない。この程度の闇魔法ではわしの火魔法を食らうことなどできん」


 外での戦闘は違う。

 今回は闇空間でもメリアードヴァイス様の火が周囲を明るく照らし、敵の姿がはっきりと見えていた。


「これならっ!!」


 暗闇を恐れることは無い。

 ユアリとメリアードヴァイス様の助けられ、俺は次々に死者英雄たちを葬っていく。


「む、陽は完全に落ちたようじゃ。こちらの動きに気付いた連中がここへ援軍に来るかもしれん」

「その前にロイマーノを仕留めましょうっ!」


 リーダーを失えば動きは鈍るはず。

 そうすれば少なくとも今夜、王都へ攻め込むことは無くなるだろう。


 できれば全員を倒したい。

 しかし魔力も減ってきている。

 全員を倒すには、どうしても一度戻って回復する必要があった。


 ロイマーノを倒し、一旦、王都へ戻る。

 回復したらふたたびここへ攻め込むという考えだ。


 俺たち3人は死者英雄を倒しつつ奥へと進む。


「メリアードヴァイス様、魔力はあとどのくらい残ってますか?」

「10分の1くらいかの。あまり無駄遣いはできん。お前はどうじゃ?」

「こちらも無駄遣いできるほど残ってはおりませんね……」


 できれば戦闘は避けて進みたい

 ……しかしそういうわけにもいかなそうだった。


「あれは……」


 通路の先に誰か立っている。

 死者英雄だ。しかし佇まいから、他の奴とは違う雰囲気を感じた。


「むっ、お前は」

「ご存じなのですか?」

「うむ」


 俺たちは立ち止まりその男と向かい合う。


 黒い鎧を着た中年の男。

 武骨さのある岩のよう顔から、歴戦の勇士の様相を感じた。


「おひさしぶりですメリアードヴァイス様」


 男は礼儀正しく頭を下げる。


「ひさしぶりじゃなリードギア」

「誰ですか?」

「わしに仕えていた将軍のひとりじゃ」


 リードギア。

 そういえば名を聞いたことがあるような気もする。


「人間界で死んだと聞いたが、そうか。墓も人間界にあったようじゃな」

「はい。盗掘団によって蘇り、死者としてふたたび現世へ戻りました」


 他の英雄とどこか違う。

 話せそうな様子だった。


 背後から死者英雄たちの足音が聞こえる。

 できれば戦わず急いで先へ進みたいが。


「通してはくれぬか?」

「それはできません」


 リードギアは即答する。


「そうじゃろうな。実直なお前ならば」


「はい。今は冥王に使えております。主を裏切ることはできません」

「なら……しかたないっ!」


 俺は葬送術を展開し、リードギアを棺の鎖で捕えようとする。


「ふっ」

「あっ!?」


 鎖が捕らえたのは残像。

 本物はすでに別の場所へ移動していた。


「あれは音速のリードギアと呼ばれたほどの男じゃ。容易には捕らえられん」

「くっ……」


 魔力を無駄遣いできない状況で最悪の敵が現れてしまった。

 背後から死者英雄たちがやって来て前後を囲まれてしまう。


「むう、これは面倒なことになったのう」

「はい」


 しかたない。

 出し惜しみせず強行突破するしかないか。


「えやああああっ!!」

「えっ?」


 不意にユアリがリードギアへ斬りかかって行く。


「わたしが奴の動きを止めるっ! 止まったら葬送術でっ!」


 ユアリが剣を振るう。

 しかしあっさり避けられる。


「ほう。威勢の良い娘だ。名を聞いておこう」

「わたしはユアリっ! 勇者ロイマーノの子孫っ! 勇者ユアリだぁぁぁっ!!」


 勢い良く剣を薙ぐが当たらない。


「くそっ!」

「ロイマーノの子孫か。おもしろい。そのまっすぐさ、気に入ったぞ。3分、時間をやる。それまでに俺のどこでもいい。傷をつけられたらここは通してやる」

「な、舐めるなーっ!!」


 ユアリの攻撃は当たらない。

 まさに音速の動きでかわしていた。


「よぉし俺たちもリードギアに加勢するぞっ!!」

「邪魔をするなっ!!」


 動こうとしていた死者英雄たちがリードギアに一喝されて足を止める。


「これは1対1の真剣勝負だっ! 下がっていろっ!!」


 迫力に気圧されたのか死者英雄たちはなにも言わず立ち尽くしていた。


「えやっ! たああっ!!」


 素早い動きで剣を振るユアリ。

 しかしリードギアはそれ以上の速さで避ける。


 どう見ても当たりそうにない。

 圧倒的にリードギアのほうが実力は上だった。


「悪くはない。しかしまだ動きが若い」


 剣を抜いたリードギアがユアリの剣を弾く。

 ユアリの剣は折れ、地面へと落ちた。


「さらに精進すれば良い剣士になった。実に惜しいな」

「くっ……あああああっ!!」


 折れた剣を握り、声を上げて斬りかかる。

 だがそれもかわされ、ユアリはその場へつまづき膝をつく。


「もうすぐ3分。終わりだな」


 リードギアがユアリの背後へ近づく。


「ユアリっ!!」


 俺は叫ぶ。

 瞬間、振り返ったユアリがリードギアへ向かってなにかを投げる。


「なっ……ぐっ」


 リードギアの頬に傷が。

 直後、折れた剣先が地面へ落ちた。


「は、はは……やった」

「むう……」


 傷はすぐに再生する。

 しかし傷を負ったという事実に変わりはなかった。


「どうするんじゃリードギア?」

「戦士に二言はありません」


 そう言ってリードギアは道を開ける。


「たいした女だ。良い剣士になるぞ」

「剣士じゃない。わたしは勇者なの」

「……そうだな」


 フッと笑うリードギア。

 その顔はどこか嬉しそうだった。


「俺の負けだ。冥界に戻したければそうするがいい」

「……今は魔力を無駄にできない。また今度だ」


 そうリードギアに言い、俺たちは奥へ走った。


「ま、待てっ! 逃がすかっ!」


 背後の英雄たちも走り出す。……が、


「うおおっ!!?」


 通路が崩れる。

 英雄たちはそれに巻き込まれて落ちていった。


「どうやらさっきの戦いで地面を破壊してしまっていたようだ」


 リードギアはそう言い、どこかへと去って行った。


「こちらの味方をしたいならそう言えばいい。不器用な男じゃ」

「そのようです」


 しかし良い男であった。


 またどこかで会うこともあるだろう。

 そのとき俺は彼をどうするのか?


 悩みどころであった。


 俺たちは走り、やがて奥の部屋へと到達する。

 そこに見えたのは……。


「あっ!?」


 玉座の前に立つロイマーノ。そしてその足元には背中へ剣をつき立てられ、うつ伏せに倒れるセラナの姿があった。

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