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第19話 闇が晴れて形勢逆転

 ―――キラーマ視点―――


「くっ……」


 見えなくてもわかる。

 野盗のボスが使っていたときとは雲泥の差を感じる斬撃が飛んで来ていた。


「おじさんっ! これマジヤバいってっ!!」

「大丈夫っ! 君が死んでも俺が立派な墓を作ってやるからっ!!」

「自分だけ生き残ろうとすなーっ!!」


 小脇に抱えられながらユアリが喚く。


 冗談はさておき、これは確かにマズい。


 野盗の斬撃よりも圧倒的に威力が高い。

 食らえば痛いじゃ済まないだろう。


「このっ!」


 気配を探って近づき、その場を殴りつける。


「遅いぜっ!」

「うおっ!?」


 背後から飛んで来た斬撃をギリギリでかわす。


 気配だけで攻撃を当てるのは難しい。

 こっちは生者だ。避けるのだって永遠にはできない。けど向こうは……。


「はっはっはっ! オラオラどうしたっ! 動きが鈍ってきてるぜっ!!」


 疲れも感じさせず常に全力で動く。

 このままではジリ貧であった。


「お仲間のガキは戻って来ねぇなぁ。あのガキが普通じゃないってのはわかるが、この闇空間から出るのは無理だぜ」

「なに?」

「この闇空間を作り出してるのは4代目魔王、ハルガディアスだ」

「ハ、ハルガディアス……様」


 歴代最強の魔王と言われた御方だ。闇魔法を得意とするあの御方の作り出した空間ならば、解除させるなど容易ではない。


「ハ、ハルガディアスって……。あの子、もう殺されてるんじゃ……」

「大丈夫」


 初代魔王、メリアードヴァイス様ならばなんとかしてくれる。

 俺たちは信じて待つしかなかった。


「ずいぶん信頼してるじゃねーか。あのガキが何者かは知らねーけど、お前らがここで死ぬことは確定だぜっ! オラオラオラァっ!!!」


 剣を連続で振る音がする、

 それとともに複数の斬撃が迫る音が響いた。


「うあっ!? おあっ!?」


 音を頼りになんとか避ける。

 しかし長くは持たない。

 体力には限界があった。


「おじさんわたしを降ろしてっ! おじさんだけなら……っ」

「俺に世界中を案内してくれるんだろ? 仲間は見捨てないっ!」


 初代魔王様ならやってくれる。

 俺はあの人を信じた。


「あっ!」


 ユアリが声を上げる。

 その理由はすぐにわかった。


「なに? これは……っ」


 闇の空間が剥がれ、一筋の光が差す。


 闇空間が壊れ始めた。

 メリアードヴァイス様がやってくれたのだと思った。


「まさか……ハルガディアスがあんなガキに?」

「終わりだ。ラクサス」

「け、形勢逆転か。くそっ!!」


 ラクサスが背を向けて逃げ出す。


「逃がすかっ!」


 俺は葬送術を使う。

 棺が現れ、鎖がラクサスを捕らえる。


「く、くそおおおっ!!! は、離せーっ!!」

「冥界へ帰れっ!」


 棺が閉じて消滅する。

 それと同時に闇空間も完全に消失した。


「はあ……」


 勝った。

 かなり疲れた俺は息を切らして膝をつく。


「だ、大丈夫おじさん?」

「だ、大丈夫。疲れただけだから」


 まだ戦いは続くかもしれない。

 へばってもいられなかった。


「どうやらこっちも終わったようじゃの」

「あ」


 初代魔王様が杖をつきながらこちらへ歩いて来た。


「ええ。けど、だいぶ被害を出してしまいました」


 周囲にはラクサスによって殺された冒険者たちの死体があった。


「しかたない。こやつらも覚悟があってここへ来たのじゃ。気に病むことは無い」

「はい。けど、ちゃんと墓を作ってやらないと」

「それはあとにせい」


 初代魔王様が杖で夕日を指す。


「まもなく陽が落ちる。落ちれば死者どもが王都へ攻め込むじゃろう」

「け、けど、セラナ……様の説得がうまくいけば……」

「あの女が戻ってからそれなりに時間は経った。失敗したと見るべきじゃろう」

「そんな……」


 まだはっきりとはわからない。

 けど、俺も初代魔王様の読みが当たってると思った。


「支城に入ってみよう。入ってみればわかることだから」


 ロイマーノの偽物だか本物だかが改心していれば仲間の英雄たちも攻撃してこないはず。攻撃してくればそういうことだ。


「支城の中には数多くの死者英雄たちがいるはずじゃ。城の規模から考えて500人。他には盗掘団の連中もいるかもしれん。外での騒ぎを知ってその連中が応援を呼びに行けば他の場所にいる英雄たちが援軍で来るじゃろう」

「1000人くらいは相手にするつもりでいたほうがいい。ということですか」

「それくらいの心構えを持っておいたほうがよい」


 こっちは3人。

 対して向こうは1000人。


 数の上では圧倒的に向こうが有利だった。


「ハルガディアスとの戦いでわしはだいぶ魔力を消費してしまった。長くは戦えん。奴らもハルガディアスとラクサスを失って戦力を減らしている。今夜は動かぬ可能性もある。一度引いて立て直すという選択肢もあるぞ」

「……いえ」


 読みが外れて王都へ攻め込まれては大勢の死者が出る。

 もしかしたらで引くのは賛成できなかった。


「王都へ攻め込む可能性も十分にあります。行きましょう。今夜のうちに決着をつけます」

「わかった」


 願わくばシスターの説得がうまくいっていてほしい。

 そう思いつつ俺は支城を見上げた。


「ユアリはここで待っていたほうがいい。ここからはかなり危険だ」

「嫌だ。わたしも行く」

「けど……」

「守ってもらおうなんて思ってない。わたし、勇者だから」

「……」


 ユアリの目に強い意志を感じる。


 ロイマーノが本物かどうか確かめたいという思い。

 そして勇者として人々を守りたいという思いがユアリの目には込められていた。


「わかった。一緒に行こう」

「うんっ」


 俺たちは3人で支城へ向かう。

 その際、一瞬だけ振り返る。


「必ず戻って墓は作るからな」


 正面の大きな扉の前に立つ。


「いっそ、この建物ごと破壊したほうがいいかもな」


 まだ夕日が出ている。

 建物を破壊してしまうのが合理的な討伐方法に思えた。


「ハルガディアスほど強力な闇空間を作り出せる者はおらんじゃろうが、闇魔法自体の使い手は多い。建物を破壊しても倒し切れるとは限らんな」

「そうか……」

「そ、そうだよっ! それにもしかしたら捕まってる人とかもいるかもだし」

「うん。それもそうだな」


 やはり攻め込まなければダメか。


 しかたないと俺たちは中へと入る。


「く、暗いね……」

「ああ」


 なにも見えない。

 真っ暗だ。


 恐らく陽の光が入って来ないよう、窓を締め切り目張りもしているのだろう。


「おるのう」

「ええ」

「いるね」


 俺たちは周囲へ向けて臨戦態勢を取る。

 そしてメリアードヴァイス様が魔法で杖の先へ火を灯した。


 瞬間、周囲を囲む大勢の死者英雄たちの姿が見えた。

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