第18話 初代魔王VS4代目魔王
「お前は……いやあなたは、もしや」
「姿は変わっても、お前ほどの奴なら気付けるか」
魔力の量は変わっていない。
わしと同等の魔力を持つ者など、数えるほどしかいないのだから。
「やはりメリアードヴァイス様」
「ハルガディアス。冥界では何度か会ったのう」
最強の力を持つ魔王として4代目を務めた男。
魔力はさすが、わしよりも上であった。
「その姿は?」
「キラーマ……葬送術師の力で転生したのじゃ」
「転生? 葬送術師とはそこまの力を……。しかし用意周到なことですな。冥王に利用されぬよう、ご自分の遺体を王墓とは別の場所へ埋葬させるとは」
「貴様は愚かじゃな」
わしの言葉を聞いてか、ハルガディアスの魔力に尖りを感じる。
「かつて最強の魔王とまで言われた男が冥王の下につき、あまつさえ自分を殺したロイマーノとも組むとはのう。魔王の名を冠した者として恥ずかしいとは思わんか?」
「思いませんね」
ハルガディアスは即答する。
「ロイマーノに敗北した時点で魔王としてのプライドなど捨て去りました。今はただ、冥界へ戻りたくないというだけでここにいます」
「……最強と言われた魔王もこの程度か」
「どの程度かはすぐにわからせてあげますよ」
「さてどうかの。少し遊んでやろう」
姿は見えなくても魔力は丸見えだ。
どこにいるかは見えずともわかった。
「っ」
周囲の闇が刃と化し、こちらへ斬りかかって来る。
「闇魔法、闇斬り。どこから斬られるかわからないのは恐怖でしょう?」
「舐めるな」
守護魔法でシールドを張る、
闇の刃をキンと弾く音が聞こえた。
「こんな程度ではわしを傷つけられんぞ」
「わかっていますよ。ふふ、さすがは初代様です。ならこれはどうです?
闇の刃が溶け、シールドへ張り付く
そしてシールドを同じ闇へと変えていった。
「闇魔法、闇侵食。触れたものすべてを闇へと変える」
「なるほど。おもしろい魔法じゃ」
シールドを解除してその場を飛び退く。
「闇に飲まれてしまいなさい」
周囲の闇が飛び掛かって来る。
「甘い」
だがその闇はすべて一瞬で切り刻まれた。
「なに? これは……」
「時空間魔法、空間断絶。この魔法はあらゆるものを切り刻む」
「むっ?」
空間断絶でハルガディアスの四肢を切断する。
胴体と頭だけになったハルガディアスがその場へ転がった。
「油断じゃな。不死という驕りが無ければかわせたはずじゃ」
「そうかもしれませぬな」
四肢はあっという間にくっつき、ハルガディアスは立ち上がる。
「わたしに2度目の死は無い。そしてこの闇空間では私の闇魔法が最強です。あなたが勝てる可能性は万にひとつも無い」
「どうかの。少なくとも、手を抜いてる状態のお前に負けるつもりはないのう」
「ほほう」
そう呟くハルガディアス。
奴がニヤリと笑っているのがなんとなくわかった。
「もうしばらく遊んで差し上げようと思ったのですが」
「遊びは十分じゃろう。あんまり遊ぶのもキラーマに悪いしの」
「ではお互いにここからは本気ということで」
「そうしよう」
ハルガディアスの魔力が増大していく。
奴は身体を変化させる変身タイプの魔族だ。
変身をすることで魔力を10倍以上、増幅することができる。
「がははっ! こうなってしまえば戦いは終わったも同然だっ! 遊んでいるうちに逃げておくんだったなっ!」
「もとよりそんなつもりは無い」
「ではこれで終わりだっ!」
「うん?」
足元から巨大な魔力を感じる。そして……。
ドン!!
爆発。
半径50メートル四方を闇の爆風が覆った。
「がははっ! 闇とともに飛び散れ古き魔王よっ!!」
高らかにハルガディアスは笑う。……が、
「むっ?」
ハルガディアスの首が飛んで落ちる。
「まだ生きていたか」
「時空間を操る魔法は得意なんでのう」
空間転移魔法。
時空間魔法の基本である。
「だが時間の無駄だ」
落ちた頭はすぐにくっつく。
「ではこれならどうですか?」
「!?」
ふたたび巨大な魔力を感じる。
今度は頭上から……。
「これは……」
身体がふわりと浮く。
空へ吸い込まれていくような感覚だった。
「時空間闇魔法、黒渦っ! 吸い込まれて異次元へと去れっ! がははっ!!」
「時空間闇魔法とは……おもしろい」
わしは杖を高く掲げる。
「ふんっ!」
「なにっ?」
瞬間、黒い渦が粉々になる。
「時空間魔法、空間破壊。対象の空間に存在するあらゆるものを破壊する」
「くくくっ、さすがは史上初めて魔界を統一した魔王、メリアードヴァイス様だ。これは倒しがいがあるぞっ!!」
「ぬっ!?」
着地した瞬間、両足首が闇に飲まれる、
同時に両手も闇に飲まれた。
「闇魔法、闇縛り。もう動くことはできんぞ。そして」
周囲に高い魔力が。
それが複数、ぞろぞろと現れた。
「異次元から闇の生物を召喚した。動けぬ貴様はこいつらに嬲り殺される。がははっ!! 今度こそ終わりだぞっ!!」
「……気付かんのか?」
「なに?」
「自分の身体になにが起きているか?」
「なにを言って……むっ!?」
そのときハルガディアスの右腕が消失する。
続いて左腕、両足、胴体が消えた。
「な、なんだ……これは?」
「空間断絶を食らわせたとき、貴様の身体に空間転移魔法を仕込んだ。貴様の巨大な魔力に阻まれて中々、発動せんかったがの。今ごろ手足は世界のどこかに転がっておる」
「お、おのれ……」
「これで貴様はなにもできんな」
「ふんっ! だが闇空間が維持される限り闇の生物は消えんっ! 俺がどんな状態になろうとも、貴様が死ぬことには変わらんのだっ!!」
「……甘いのう」
「なに……が、ぐっ!?」
ハルガディアスが短く呻き声を上げる。
「貴様の首を落としたとき、脳に幻覚魔法を仕込んだ。こちらもようやくようやく効果が出てきたようじゃな」
「があああああっ!!!」
叫び声が闇世界へ響く。
ハルガディアスの脳に仕込んだのはロイマーノに殺されたときの記憶だ。
事実よりも凄惨に、屈辱に塗れた敗北が頭の中で何度も繰り返されている。その幻覚は奴の精神が壊れるまで続く。
「お前のほうが魔力は上じゃ。不死身という驕りが無ければわしの幻覚魔法など恐らく通じんかったじゃろう。かかったとしても、魔王としての絶対的なプライドを保っていればそんな幻覚などに惑わされることも無かった」
やがて闇世界が消えていく。
ハルガディアスの精神が崩壊したのだ。
「が、ああ、あああ……」
闇が無くなると、そこには頭だけで苦しむハルガディアスがいた。
「も、もう……やめて……やめてくれ……」
すでに幻覚は見えていないはず。
しかし脳にこびりついてしまった幻覚は、奴の頭から消えないようだった。
「確かにお前は最強の力を持った魔王であったのかもしれない。しかし、最強の魔王では無かった」
「が、ああ……」
「自分の力に驕り、たった一度の敗北で魔王のプライドを捨ててしまうような男が最強の魔王であるはずは無い」
もはやわしの声など聞こえてはいないだろう。
そんなハルガディアスの首をそこへ残し、わしはキラーマのもとへ向かった。




