第17話 暗闇の中で襲い来る勇者の仲間
「冒険者の集団がいるね」
「ああ」
支城の側にある岩陰に大勢が待機している。
100人以上はいるだろうか。今にも攻め込みそうな雰囲気だった。
「おいおっさんたち」
その中の10人ほどがこちらへ気付いて近づいて来た。
「冒険者か?」
「いや、冒険者ではないけど……」
「ふーん……」
冒険者では無いと答えた俺を男はじっと見てくる。
「これから攻め込むのか?」
「その予定だ。ギルドの依頼でな」
「やめておけ」
そう言った俺の顔を冒険者の男は睨む。
「は? なんで?」
「昼間に攻め込んで倒すつもりなんだろ?」
「奴らは陽の光に弱いからな。建物を破壊しちまえばいちころだろ」
それは確かにそうだが……。
「前に攻め込んだ王都の兵たちもそれくらいはやろうとしただろう。けど全滅した。なにか対策をしてるんだ。やめといたほうがいい」
「じゃあなんだ? 攻めて来るまで待って黙って殺されろってのか?」
「そうじゃない」
死者の仲間が今、説得している。
なんて言っても信じるわけないか。成功するかどうか俺もわからないし。
「じゃあ……俺が様子を見て来る。それまで待ってろ」
説得が成功していれば引き上げるだろう。
失敗していれば俺が全員、冥界へ帰すまでだ。
「嫌だね。なんでお前みたいなおっさんの言うこと聞かなきゃいけないんだ」
「俺は葬送術師だ。相手が死者なら簡単に倒せる」
「葬送術師?」
男は訝し気に俺を見る。
「そういやそんなのがシグの町に現れたって話は聞いたな」
「それが俺だ」
「くくっ、だったとしても嫌だね。俺は葬送術師なんて怪しいもんは信じないし、ギルドからの報酬もほしいんでね。なあお前ら」
他の冒険者も男に賛同して声を上げる。
「どうやらこっちの説得はダメそうじゃな」
「うんまあ……」
こんな弱そうなおっさんじゃ信用されなくてもしかたないか。
「それよりもおっさん、良い剣を持ってるな」
「うん? ああ。預かりもんみたいなもんだ。俺のじゃない」
「なら……」
冒険者たちが俺たちを囲む。
「寄こしな。俺が使ってやる」
「さっきも言ったけどこれは預かりものだ。そういうわけにはいかない」
「俺たちはA級の冒険者だ。怪我するぞ」
ますます面倒なことになってしまった。
敵は死者の軍だ。
冒険者とは争いたくないんだが。
「やめときなー。このおじさんこう見えてめちゃ強いから」
「へっへっへっ。かわいいお嬢ちゃん。俺のほうが強いってところを見せてやるよ。そうしたら俺のものになりな」
「ふふん。別にいいけど」
「おいおい」
俺が負けたらどうする気だ。
この子は俺を過大評価し過ぎだろ。
「わしも一緒につけてやってもよいぞ」
「ガキはいらね」
「なんじゃっ! ムカつくぞこいつらっ!」
「メリアちゃんにはおじさんみたいな特殊な人しか興味持たないから」
「だから違うって……」
冒険者たちが距離を詰めて来る。
やるしかないか。
そう思ったとき……。
「えっ?」
周囲が一瞬で暗くなる。
夜ではない。
なにかの魔法だ。これは。
「なんだ? 急に暗くなったぞ?」
「な、なにも見え……がはっ!?」
冒険者の呻き声。
それが次々に聞こえた。
なんだ? なにが起こってる?
確かめようにも真っ暗でなにも見えない。
「お、おじさんっ」
「大丈夫。俺から離れないで」
ユアリを抱き寄せ周囲を警戒する。
「これは闇魔法じゃ」
「闇魔法?」
「うむ。闇だけの異次元空間に相手を引きずり込む魔法じゃ。聴覚に優れた魔族や魔物が使う。魔族のくせに知らんのかお前は」
「魔法を学んだことなんてありませんし……」
俺が学んだのは葬送術と、殴り合い。
あとは墓の管理方法だけである。
「脱出はできないんですか?」
今もなお、冒険者たちの断末魔が聞こえ続ける。
いつこちらに攻撃が来るかわからない。
「これはかなり強力な闇魔法じゃ。脱出するには神クラスの光魔法を使わねばならん。もしくは使い手を仕留めるか魔法を解除させるかじゃ」
「その使い手はどこに……」
そのとき背後に気配を感じる。
振り返ったとき、その気配は遠くへ飛び退いていた。
「ん? 魔剣が……」
俺の背中にあった魔剣が無くなっていた。
「……俺の剣を届けてくれてありがとうよ。取りに行く手間が省けたぜ」
「なに?
俺の剣?
なに言ってるんだこいつは?」
「それはロイマーノの仲間、ラクサスの剣だ。お前のじゃない」
「俺がラクサスさ」
「っ」
本物か?
わからない。
姿は見えないし、見えたとしても本物とは会ったことが無い。
「これを持ってるってことぁお前が葬送術師か」
「そうだ」
俺は葬送術で棺を……。
「俺はこっちだ」
「!?」
別の方向から声が聞こえる。
気配が移動した。
姿が見えなくては棺に納めることができない。
「俺のことは見えないだろうな。けど、俺はよく見えるぜ。丸見えだ」
「くっ……」
気配はなんとなく感じる。
しかしやはり見えなくては鎖で捕らえるのは難しい。
「死者は光が無くても見えるんじゃ。そもそも冥界には光など無いからの。闇は死者にとって抜群の環境なんじゃ」
「魔法で光を発生させられませんか? 炎魔法とかで……」
「光を食う魔法じゃ。炎も食われる」
……かなり厄介な魔法だ。
これではなにもできずただやられるだけ。
相手はひとりでもかなりマズい状況だった。
「わしが闇魔法の使い手を探して倒す。それまで持ちこたえるのじゃ」
「けど、その使い手もたぶん死者です。倒せませんよ」
「ならこの魔法を解除させるだけじゃ。信じて待て」
「わ、わかりました」
初代魔王様が俺の側から離れる。
「逃がすかよ」
「!?」
斬撃。
野盗のボスが放ったのよりも大きなそれが初代魔王様へ迫る。
「ふん」
「ちっ、魔法でシールドを張ったか」
初代魔王様の気配は一瞬で遠くへ消える。
見た目は子供になってもさすがは初代魔王様である。
「ふん。まあいい。先にお前たちだ」
ラクサスの殺気が濃くなる。
「お、おじさん。これ、ヤバくない?」
「なんとかなる。メリアを信じろ」
初代魔王様が必ず闇魔法の使い手を倒してくれる。
それまで持ちこたえるんだと気を引き締めた。
―――メリア視点―――
わしは闇の中、気配を頼りに闇魔法の使い手を探す。
これほどの闇魔法じゃ。
使える者の心当たりは数人しかいない。
「……あそこか」
わしは杖に魔力を溜め、そこへ氷の刃を放つ。
そこにいる者は同じく氷の魔法を放って打ち消す。
「ほう、お前じゃったか」
姿が見えなくても魔力の大きさでわかる。
そこにいる誰かの正体が。
「4代目魔王、ハルガディアス」
「むっ」
向こうも気付いたのだろう。
わしが何者かに。




