第16話 2代目勇者は本物か偽物か
「いやけど、死者なら昼間は出て来れないだろ」
あのシスターは普通に太陽の光を浴びている。
死者だったらすでに消滅しているはずだ。
「聖霊術じゃ」
「聖霊術?」
ってなんだ?
「あ、それ知ってる。聖霊の力を借りて使う術だよね。ロイマーノ様の仲間だった聖霊術師セラナ様も使ってたっていう」
「そうじゃ。あの女は召喚した聖霊を身に纏い、陽の光を遮断している。じゃから死者でも昼間に活動できておるんじゃ」
「なるほど……」
しかしどうして死者が街中で人々に神の救いがとか言ってるんだろう?
なにか別の目的があるんじゃ……。
「お前はあの女を見たことあるのではないか?」
「えっ?」
初代魔王様に言われて、俺はシスターをじっと見つめる。
確かに……どこかで。
「あっ」
と、俺は思い出す。
あれはもう700年は前のことだが……。
「700年前、偽物のロイマーノと一緒に王墓へ来た女か」
間違い無い。
あのときの女だ。
「偽物ではない。お前が倒したのは本物のロイマーノじゃ」
「またまたー。冗談キツイですよ。4代目魔王ハルガディアス様を倒した勇者一行が、俺みたいな墓守のおっさんに負けるわけないじゃないですか」
「じゃああの女はなんじゃ? 偽物が聖霊術まで使うのかの?」
「うーん……葬送術みたいに一子相伝じゃなければ偽物でも使えるんじゃないですか?」
詳しく無いから知らんけど。
「そ、そうだよっ! 最強の勇者が墓守のおじさんに負けるわけないじゃんっ! こんな墓に頬ずりしたり幼女に子供産ませようとする変態おじさんにっ!」
「お、おっきな声で言わないでっ。変な人だって思われるからっ」
周囲の視線が痛い。
思い切り変な人だと思われてしまった。
「最強の勇者……?」
ユアリの大きな声を聞いたシスターが一瞬だけこちらを向く。
しかしすぐに向き直り、祈りを求め続けた。
「まあなんでもよい。それでどうするんじゃ?」
「どうするって……」
どんな目的は知らないが、死者ならば冥界へ帰さなければならない。
しかし目的を知る必要もある気がした。
「しばらく様子を見ましょうか」
「わしもそれがいいと思う」
ということで様子を見ることに。
セラナの偽物は移動し、別の場所で人々へ祈りを求める。
町のあちこちで人々を祈らせた偽物はやがて人気の無い出入り口へ向かう
そこから王都を出て行こうと……。
「待て」
俺は彼女を止める。
振り返った偽物は不思議そうにこちらを見つめていた。
「……なにか?」
「お前は死者だろう?」
そう声をかけると偽物は目を剥く。
それからスッと目を据わらせた。
「なぜわたしが死者だと?」
「聖霊を召喚して陽の光を避けてる、そんなことをするのは死者だけだ」
「……それ」
偽物は俺の背を指差す。
「ラクサスの剣、魔剣セルドカインですね。それを持っているということは……そう。あなたが葬送術使いですか」
「それがわかっているなら話は早い。目的を話せ。王都へスパイにでも来たのか?」
「わたしがここへ来たのは少しでも人々の心を救えればと考えたからです。肉体は救えなくても、心だけはと……」
そう言って偽物は辛そうな表情で俯く。
これは俺を騙す演技か?
それとも本当にそれだけが目的で……。
「スパイが目的じゃないのか?」
「そんなことをする必要はありません。葬送術使いならおわかりでしょう」
確かに、向こうは死も痛みも無い英雄の集団だ。
普通の人間では勝てる見込みがない。
「わたしを冥界へ送りたいならどうぞ。これも神の定めた運命でしょう」
「なら……」
偽物の背後に黒い棺が現れる。
話す気が無いのなら用は無い。
すぐ冥界へ……。
「ま、待ってっ!」
と、ユアリが俺の腕を掴む。
「わたし、この人からロイマーノ様の話を聞きたい」
「いやでも、この女は偽物だよ?」
「それは話を聞いて判断する」
ユアリの真剣な眼差しに見つめられた俺は葬送術を解いて棺を消した。
「ありがとう。セラナさん」
「なんでしょうか?」
「ロイマーノ様は……本当に大勢を虐殺して、王都の人たちも同じように殺そうとしてるの?」
「……本当です」
辛そうな顔のままセラナは答える。
今さらな問いだ。
しかし疑問を投げかけたユアリの気持ちは理解できた。
「嘘」
「えっ?」
「ロイマーノ様は勇敢で心優しい勇者様だよ。人々を虐殺なんてするはず無い。やっぱりあなたは偽物のセラナ様。一緒にいるのもきっと偽物のロイマーノ様だよ」
「……」
ユアリの話を聞いてなにを思ったか、偽物はますます辛そうな表情を見せる。
「そう……思いますか?」
「当然でしょ。勇者様はみんなのヒーローだもん。人々を苦しめるようなことなんて絶対にしない」
「けど、冥王様は死も痛みも無い世界を作ろうとしています。それは救いではありませんか? 人々を救う勇者の役目ではありませんか?」
「あなたは今の自分が救われてると思うの?」
「そ、それは……」
「死ぬことと痛み。それが無いのって本当にしあわせなのかな? わたしは死んだこと無いからわからないけど、死も痛みも無くて必死になれるの? 必死になってがんばって生きようって気持ち無しで、永遠に存在し続けるのが正しいのかな?」
「……」
俺はユアリの言葉に頷く。
その通りだ。
冥王の目指す世界は一見、究極の救いにも思える。
しかしそんな世界は正しくない。
死も痛みも無い世界で永遠に存在するなど、そんなのはただの怪物だ。生も死も無い。成長も衰退も無い世界が正しいとは思えなかった。
「……あなたの言う通りかもしれません。ロイマーノは偽物、わたしも偽物。世界を救った心優しい勇敢な勇者たちは、今も冥界で人々の幸せを願っていることでしょう。邪悪な思惑に加担した偽物とは違って」
偽物は背を向ける。
「わたしに少し時間をください。ロイマーノを……偽物の勇者を説得します」
「……信じろと言うのか?」
「信じてください」
振り返った偽物が俺の目を見る。
それをしばらく見返した俺は頷く。
「……わかった」
「ありがとうございます」
「けど、本当に説得できるのか?」
「彼もかつては正義を志したことのある人ですから」
そう言って偽物は王都の外へ向かった。
「あの人、やっぱり本物のセラナ様、かも」
「どうしてそう思うの?」
「なんとなく」
「じゃあそう、かもしれないね」
そんなことはもはやどちらでもいい。
本物であろうと偽物であろうと、彼女がロイマーノを止めてくれるならばそれでよかった。
「……わたしもロイマーノ様と話してみたい」
「偽物じゃないかな?」
「それは会ってから判断する」
「……」
行くと言ったらきっとひとりでも行ってしまうだろう。
ならば一緒に行くしかなかった。
「王都へ攻め込んでくる前にこちらから行くのも悪くないじゃろう。あの女が説得に失敗したなら、我らでそのまま討ち滅ぼしてしまえばよい」
「そうだな」
ということで俺たちもロイマーノがいる支城へ向かうことに。
やがてやって来ると……。
「うん?」
支城の側には大勢の冒険者たちの姿が見えた。




