第15話 手を組んだ3代目勇者と4代目魔王
―――勇者ロイマーノ視点―――
……ディルハ王国の支城をいくつか攻め落とし、俺はそのうちのひとつに入ってワインを呷っていた。
「夜しか動けねぇってのは面倒くせぇな」
盗掘団を使ってすべての窓を閉じさせ、太陽の光は入って来ない。昼間だというのに室内にはロウソクの灯かりに満たされなんとも陰気な雰囲気であった。
「なにが死の無い世界だ。太陽を浴びれば終わりじゃねーか」
死人は二度と死なない。
しかし太陽の光を浴びれば肉体は滅び魂は冥界へ戻る。
遺体が消滅してしまえば蘇りは不可。
あくまで生前の姿での蘇りはだが。
「けど太陽さえ浴びなきゃ俺たちは不死身だぜ」
そうラクサスは呑気な声で言う。
「けど、このような状態を正しいとは思えません。死の無い世界を作るという冥王の考えは本当に正しいのでしょうか?」
僧侶のセラナは蘇ってからずっとこんな感じだ。
まあなんだかんだでここまでついては来たわけだが。
「なら冥界へ戻るか? あのなにも無い世界へ」
「……」
セラナは表情を歪めて俯く。
なにも無いただ時間が過ぎるだけの世界。
あんなところへ戻りたいなんてどんな聖人君子でも思わないだろう。
「けど、やはり人を殺すことは……」
「結果的には、全員がしあわせになれるんだぜ」
そう。
冥王の計画が成れば、もう生死も関係無くなるのだ。
「死の無い世界が完成すれば誰も冥界へ行かなくて済むようになる。素晴らしいじゃねぇか。冥王様はいずれ太陽を克服する方法も考えだすと言ってる。俺たちは正しいことをしてんだ。悩む理由なんてねーだろ?」
「それは……はい」
しぶしぶといった様子でセラナは頷く。
こいつも冥王の考えに賛同している。
裏切ることは無いだろう。
「――貴様と考えを同じくする日が来るとは思ってなかったぞ」
「ああ?」
部屋へ誰かが入って来る。
魔族野郎だ。
ハルガディアス。
俺がかつてぶっ殺した4代目の魔王だ。
「死者だけの国。素晴らしいじゃないか。我らの力で実現させてやろうぞ」
「はっ、なに対等みてーなツラしてんだよ、俺にあっさり殺されたくせによ」
「貴様ひとりに負けたわけではない。そいつら2人がいたから勝てた。1対1なら俺のほうが圧倒的に上だ」
「大量の魔物に攻めさせといてよく言うぜ」
まさかこいつと一緒に戦う日が来るとは思ってなかった。
敵にすれば面倒だが、仲間にいると役に立つ野郎だ。
「貴様、偉そうに言ってるが、俺との戦いで負った傷が原因であのあとすぐに死んだんだろう?」
「ま、まあな」
本当はあのあと王墓に宝を探しに行ったら、そこにいた墓守の男に殺されかけた。なんて言えなかった。
「そういえば俺の剣を持ってる奴がディルハの王城に向かってるらしいぜ」
「お前の剣? ああ、魔剣セルドカインか」
所持者の寿命を食って威力を増すとかいう剣だ。
それのせいでこいつは早死にしたらしい。
「冥王様が現れる前に盗掘団の連中がどっかの野盗に売っちまってよー。その野盗を倒した野郎が、その葬送術使いらしいんだよ。早く取り返してーぜ」
「あの剣が原因で死んだのに、未練があるのか?」
「今はもう死ぬことは無い。命を気にせずあいつを全力で使えるんだ。全力で使いまくれるのが楽しみだぜ」
そう言ってラクサスは歯をむき出して笑う。
「それよりも葬送術使いだ。ロイマーノ。こいつは厄介だぞ」
「ふん」
冥王と死者の天敵だ。
見た目は普通のおっさんだが、死者を一撃で冥界へ送る術を使うらしい。
「わたしたちを殺しに向かって来ているのでしょう」
「だったら丁度良い」
俺は剣を肩に担ぐ。
「そいつを殺せば憂いは無くなる。一刀両断だ。葬送術なんて使う前に殺しちまえばそれで終わりだぜ。はーはっはっはっはっ!!」
要は術を使われる前に殺せばいい。
多少、戦いもできるらしいが所詮はおっさんだ。
最強勇者の俺に勝てるはずなど無い。
「油断するなよ。シグの町じゃ英雄を数十人は葬ったららしいからな」
「関係ねぇよ。俺を誰だと思ってる? 最強の勇者ロイマーノ様だ。英雄1万人よりも俺のほうが強い。葬送術使いのおっさんなんか俺が一瞬で殺してやる」
恐れも恐怖も無い。
死すらない俺に、勝てる者などいるはずは無かった。
―――キラーマ視点―――
ロイマーノ率いる軍が王城を狙っているらしい。
そんな話を聞いた俺たちは場所でディルハの王都へ向かっていた。
「ロイマーノ様が人間を殺しまわってるなんて信じられない……」
英雄の軍を率いているのはロイマーノ。
その話を知ってからユアリはずっとこんな様子だった。
「ロイマーノ様は多くの人々に尊敬される勇敢で心優しい勇者だったって歴史には残ってる。そんな御方が虐殺なんてことするはずない」
「名声を気にして人前では心優しい男を演じていたのじゃろう。歴史に残る英雄たちなどそんな連中が大半じゃ」
「ロ、ロイマーノ様はそんな御方じゃ……てか、誰なのこの子っ!」
昨日は宿で一緒だったのだ。
今さら聞くことかと、俺は頭を掻いた。
「魔法美少女メリアちゃんじゃ」
「それは昨日、聞いた。なんなのさ魔法美少女って?」
「魔法が使えるかわいい美少女じゃ」
「美少女って、ずいぶん自己評価高いこと。おじさんとはどういう関係なの?」
「わしはこいつの子を産んでやるのじゃ」
初代魔王様がそう言った瞬間、ユアリの表情が引きつる。
「えっ? お、おじさんってそういう……」
「違う違うっ! 冗談に決まってるでしょっ! そういうんじゃないから俺っ! なんてこと言うんですかっ! 変なこと言わないでくださいよっ!」
「事実じゃ」
助けてー。
変なこと言う中身クソジジイのこの子を止めてー。
「確かにそれならおじさんがわたしの着替えを見ても無反応だったことに頷ける。実は女に興味が無いんじゃなく、小さい女の子にしか興味が……」
「違うってっ! この子は見た目、ちっちゃい女の子だけど、中身は初代魔王様なのっ! 俺の力で転生したっ!」
「そっちのほうが冗談に聞こえるんだけど。嘘吐くならもっと本当っぽいこといいなよ。まあ墓にしか興奮しないよりはいいと思うよ」
「違うってー」
初代魔王様のせいで墓好きから幼女好きにされてしまった。中身が初代魔王様だと信じてもらうのは難しそうだし、誤解はしばらく解けそうも無かった。
それから3時間ほどしてようやく王都へと到着する。
「なんか慌ただしいのう」
冒険者や兵たちが慌ただしく動いている。
冒険者たちは装備や道具を整え、兵たちは王都の外にバリケードを築いていた。
「夜になれば英雄たちが攻め来るかもだし、慌ただしくもなるよ」
ユアリは気落ちした様子でそう言う。
尊敬するご先祖様がここへ虐殺へ来るのだ。
辛い気持ちは理解できた。
王都の人々も不安そうな様子で街中を行き交っている。
「昼間に攻め込んだ兵隊もやられたらしい」
「奴らは太陽の光が苦手だって話じゃないのか?」
「そうらしいけどわからん。どうなってるんだ……」
住民たちの会話からそんな声が聞こえてきた。
なにか太陽の光を防ぐ手段が奴らにあるのだろうか?
今のところはわからなかった。
「うん?」
と、通りの一角に人だかりを見つける。
よく見ると、その中心にはシスターらしい女性がいた。
「恐れることはありません。神はいつだって弱い者の味方です。祈りましょう。救いを求めて神に」
そんな言葉を聞いて周囲の人たちは両手を組んでいた。
「旅のシスターさんっぽいねー。おじさんはああいう女性に興味無いだろうけど」
「興味は無いけど、君が思ってるような意味じゃないからね」
まあ綺麗な女性ではある。
なんとなく青白い顔をしていて、弱々しい印象だが。
「ふむ」
「どうかしました?」
「うむ。あの女……」
初代魔王様がシスターを眺めながら眉根を寄せる。
「たぶん死者じゃ」
「えっ?」
それを聞いた俺は目を見開いてシスターを見た。




