第14話 中身がおじいさんの幼女魔王様
「……終わったかの?」
「は、はい」
裸の少女……いや、幼女と言ったほうが正しいか。
初代魔王様の転生体である幼女は立ち上がって自分の身体を眺めまわす。
「なんじゃっ! 子供ではないかこれはっ!」
「そ、そのようです……」
「わしは丁度、成人くらいと言ったのじゃぞっ!」
「ですから、なにかしら問題が起きる可能性もあると……」
しかし失敗というほどでは無い。
大人のはずが子供になってしまった。ただそれだけである。
「むうう……」
「け、けど、子供ならいずれ大人になりますし、大きな問題はありませんよ。お持ちになってる力も以前のままですし」
身体が幼女というだけであとは以前と同じだ。
なにも問題は無いと思う。
「まあそうじゃが、わしとしてはすぐにしてやりたかったのじゃ」
「なにをですか?」
「出産をじゃ」
「は?」
なにを言ってるんだこの人は?
わけがわからず俺はきょとんとする。
「冥界でお前の父、ロウーラに聞いたぞ。キラーマお前、女に興味がないらしいのう。今だに結婚もしておらんのじゃろう?」
「そう言われるとなにか誤解されそうですが、まあそうですね」
正確には墓にしか興味が無い。
女にはまったく興味が無く、結婚をしたいとも思わない。
「それでは葬送術師が絶えてしまう。じゃからわしがお前の子を産んでやるんじゃ」
「いや、余計なお世話です……」
「なんでじゃっ! 葬送術師が絶えてしまってもよいというのかっ!」
「いいとは言いませんけど……」
「そうじゃろう。ならわしの提案を受け入れるのじゃ」
「嫌です……」
「なんでじゃっ!」
初代魔王様はちっちゃい身体でぷんぷん怒っている。
この見た目では威厳がまったく無いので怖くない。
「なんでって、身体は女でも中身はおじいさんじゃないですか。嫌ですよなんか。心情的に」
「どうせ男も女も一緒に見えるんじゃろ。だったらなんでもよいではないか」
「そう言われると確かにそうなんですけど……」
子供の母親が女に転生した初代魔王様ってどうなんだ?
いや、というか子作りできる気がしない……。
「まあよい。この話はあとじゃ。それよりこれから人間界へ戻るんじゃろ?」
「はい。冥王は先に人間界を支配するようですから」
「うむ。お前が魔界にいると考えて先に人間界へ侵攻したのじゃろう。まさかお前が人間界へ行っているとも知らずにの」
「ええ」
しかしいずれは魔界へも侵攻するだろう。
その前に人間界で冥王を仕留めてやる。
「けど、冥王を倒したあとの冥界ってどうなるのでしょう?」
「そんなことはあとで考えればよい。それよりも」
「はい?」
「わしの服を用意するのじゃ」
「えっ? ああ」
初代魔王様は全裸である。
確かにこのままというわけにはいかなかった。
「その辺の町に行って買って来るのここで待っててください」
「早くするのじゃ」
ということで俺は服を買いに町へ向かった。
「……ふむ。まあいいじゃろう」
俺の買って来た服を着て初代魔王様は満足そうに自分の身体を見回す。
「わしは2万年くらい男として生きたが、女というのも楽しそうじゃ。このヒラヒラのスカートというのはなかなかよい」
「はあそうですか」
中身じいさんが言ってると思うとちょっと気持ち悪い。
「なんじゃその目は?」
「なんでもありません。それじゃ行きましょうか。初代魔王様」
「ちょっと待つのじゃ。そんな呼ばれ方をしては目立つ。名前で呼ぶのじゃ」
「メリアードヴァイス様ですか?」
それはそれで目立つと思うが……。
「メリアちゃんと呼ぶのじゃ」
「……」
「なんじゃその目は?」
「なんでもありません」
「まあよい。しかしやはり生の肉体は良いのう。2万年ぶりの肉体じゃ。冥界は暇で暇でしかたない。少し遊びたい気分じゃな」
「そんな暇ありませんよ」
遊ぶのは冥王を倒してからにしてほしい。
「わかっておる。冗談じゃよ」
「はい。じゃあ行きましょうかメリアちゃん」
「どうやって人間界へ戻るんじゃ?」
「町まで行けば馬車があるのでそれに乗って戻ります」
魔道列車があるのは魔王城だ。
ならば他の方法で戻るしかなかった。
「魔道列車を使えばよい。あれのほうが早いじゃろ」
「あれがあるのは魔王城ですよ。戻れば捕まります」
「わしとお前なら魔王城を制圧できるじゃろう」
「初代魔王様のお力があれば可能かもしれませんが……」
とは言え、今、魔王軍と事を構えるのは正しいと思えなかった。
「まあしかし、魔王軍には冥王から魔界を守ってもらわねばならんからな。制圧して魔界を混乱させれば冥王に魔界侵攻の隙を与えることになる。それはいかんな」
「はい。じゃあ……」
「運転手を脅せばよい」
ということで俺たちは魔王城に行く。
停まっている魔道列車へ潜入し、運転手を脅して人間界へ戻った。
「案外、あっさりうまくいきましたね」
人間界へ帰って来た俺は、戻って行く魔道列車を眺めながら言う。
「最強魔法少女メリアちゃんのおかげじゃ」
「そ、そうですね」
初代魔王様の魔法で見張りを眠らせて潜入に成功したのだ。
当たり前だが魔法の腕はさすがであった。
「ここにお前の仲間がおるのか?」
「はい」
すぐそこにはシグの町がある。
しかしどうも様子が……。
「うわーっ!!?」
「ぎゃーっ!!?」
なにやら町のほうから悲鳴が聞こえる。
時刻は深夜。
嫌な予感しかしなかった。
「なにかあったようじゃな」
「はいっ! 行きましょうっ!」
俺たちは急いで町の中へ駆け付ける。
そこに見えたのは……。
「あっ!?」
逃げ惑う町の人たち。
それを守って戦う冒険者や兵隊。
町を襲っているのは……。
「蘇った英雄かっ!」
そうだとわかった瞬間、俺は駆け出す。
「ユアリっ!!」
英雄と戦っているユアリを見つける。
俺はユアリへ斬りかかる英雄を殴り飛ばす。
「おじさんっ!!」
「怪我はっ?」
「な、無いよっ。襲って来たのはついさっきだしっ」
英雄たちが俺たちを囲む。
「いてぇなおっさん。くくっ、借りは返すぜ」
「お前たち、元は英雄だろう? なんでこんなことを……」
生前は人々のために戦った者たちだ。
それがこんな虐殺行為をするなんて信じられなかった。
「冥王様の命令だからだ」
「冥界へ帰りたくない、からか?」
「そうだ」
「人々のために戦っていた英雄がかっ!?」
「人々のため? くく、そりゃおっさん、英雄を勘違いしているぜ」
「なに?」
他の英雄もくっくっくっと笑い出す。
「俺たちは別に人々のために命張ってたわけじゃない。金や名声がほしかったんだ。冥界にはそれが無い。なにも無い。ただなにも無い世界でなにもしないだけ。転生だっていつになるかわからない。そんな世界で過ごすことは耐えられないっ!」
「それで冥王の目的に加担して虐殺なんか……っ!」
「そうだよ。冥王様はすべての世界から生者を無くし、死者のみの世界を作ろうとされている。そうなれば俺たちは永遠に死ぬこと無く、金や名声を得続けられる。死んだ奴らだって俺たちと同じになるだけだ。悪いことは無い」
「ふざけるなっ!!」
俺は珍しく大声で怒鳴る。
「生者がいなくなったらどうなるっ? これから生まれてくる命が無くなるってことだっ! 命は失われるから尊いんだっ! 精一杯に生きて亡くなるからすごいんだっ! 死者しかいないなんて、そんなのは命への冒涜だっ!」
命は大切なものであり、それゆえに失われたときに悲しい。
だからお墓は大切だし、精一杯生きたご遺体には敬意を払わなければならない。
死者の王である冥王がもっとも死者を冒涜している。
生と死を軽んじている。こんな状況は許せなかった。
「うるせえよ。おっさんもこっち側に来れば考え方は変わるぜっ!!」
英雄たちが一斉に襲い掛かって来る。
「俺がそっちへ行くのは当分、先だ」
葬送術を展開。
英雄たちの背後に複数の棺が現れ……。
「が、あ……こ、これはっ!?」
棺から伸びた鎖が英雄たちを拘束する。
「お、お前……もしかしてっ!?」
「俺が葬送術師の……キラーマだ」
鎖が引かれ、英雄たちは棺桶へ収まり消滅する。
その光景を見ていた周囲の英雄たちの動きが止まる。
「あ、あいつが冥王様の言っていた……」
「ああ、冥王様と同等の力を持つとか言う……」
「葬送術使い……」
叫び声や悲鳴は消え、場はシンと静まる。そして……。
「うわあああああっ!!」
英雄たちが一斉に逃げ出す。
「逃がさん」
と、俺の隣で初代魔王様が杖を掲げる。
瞬間、周囲を結界が覆った。
「くそっ! なんだこれっ! 出られないっ!」
「なんだよこれはーっ!」
結界に英雄たちがへばりついて壊そうとしている。
しかし結界はビクともしなかった。
「今のうちじゃ」
「はい」
俺は葬送術を使い英雄たちを冥界へ送り返す。
……やがて町には静寂が戻り、俺は一息ついた。
「あ、ありがとうございますキラーマさん」
町長がやって来て礼を言う。
「いえ、その、こういうことはもうあちこちで?」
「はい。冒険者の方々によれば、このディルハ王国にも冥王の軍が攻めてきているとのことで、王国軍や冒険者の方々が必死の抵抗をしているようです」
「そうですか……」
世界各国でこのようなことが起こっているのか。
これはのんびりもしていらない状況だった。
「私も冒険者さんから噂で聞いただけなのですが、なんでも冥王軍を率いているのは4代目魔王を討った3代目勇者、ロイマーノ様だとか」
「ロ、ロイマーノ……様」
ロイマーノの名を聞いたユアリが絶句したような表情を見せた。




