↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/32

第13話 初代魔王を転生させる

「わしは……」

「ぎゃーっ!! 幽霊っ!!」


 幽霊を見て俺は悲鳴を上げて屈み、両手を組む。


「悪霊退散っ! 悪霊退散っ!」

「誰が悪霊じゃ馬鹿者っ! わしは初代魔王、メリアードヴァイスじゃっ!」

「しょ、初代魔王様……」


 チラリと見上げる。

 ぼんやりと輝く顔が俺を見下ろしていた。


「いや、初代魔王様でも幽霊には違いないっ!!」

「なんで墓守なのに幽霊が怖いんじゃっ! 死体は平気じゃろっ!」

「死体は幽霊じゃないし……」

「よくわからん奴じゃ……」


 初代魔王様を名乗る幽霊はため息を吐く。


「数多くの英雄を葬った奴が幽霊ごときで情けない」

「数多くの英雄を葬ったって……」

「墓を暴きに来た勇者や英雄を倒したじゃろう?」

「それは親父とかじいさんとか、ご先祖様だろ? 俺が倒したのは偽物だよ。勇者とか英雄の名を名乗る……」


 本物なんかが来てたらとっくに殺されていただろう。


「……まあよい。それよりもわしはお前がここへ来ると思って待っておったのじゃ」

「ま、待ってたって……呪い殺すため?」

「そんなわけないじゃろ。冥王のこと、それとお前の役割を話すためじゃ」

「冥王と……俺の役割」


 そうだ。俺はその手掛かりでもないかとここへ来たんだ。

 この幽霊がそれを知っているなら、怖がってもいられなかった。


「お前もそれを聞きにミトロスと会ったのじゃろう?」

「ああ……えっと、はい」


 俺は立ち上がって幽霊を眺める。


「本当に初代魔王様の……メリアードヴァイス様、なのでしょうか?」

「いかにも。ふむ。お前はわしの肖像画を見たことがないから顔を知らんか」

「はあ」


 名前しか知らない。


「しかしメリアードヴァイス様ならここにお墓があります。ならば冥王によって蘇り、連れ去られてしまったのでは?」

「こういった事態を予想してわしの墓は別の場所に作った。ここにあったのは影武者の墓じゃ」

「そ、そうなのですか?」


 それじゃあ俺も親父もじいさんもご先祖様も、今まで影武者の墓を守ってたってことか? いやまあこの人が本当にメリアードヴァイス様ならだけど。


「うむ。とにかくわしの話を聞け。冥王の目的、動いた理由、それとお前やお前の一族が担ってきた役割をの……」

「は、はい」


 ……初代魔王様の口から語られたのは俺や俺の一族には冥界からの侵攻を抑える門番の役割があったこと。そしてその門番である俺がいなくなったことで、冥王がこの世の支配に動き出したということであった。


「俺が出て行ったからこんなことに……」


 もしかしたらそうではないか?

 可能性としては考えていたが、まさかその通りだったとは。


 確定した衝撃の事実に俺は落胆する。


「お前のせいではない。わしが産まれるずっと大昔からお前の一族はこの地を守っていた。その間、一度も冥王の侵攻など無かったのだ。役割が忘れ去られてしまうのもしかたのないことだ」

「しかし……」

「嘆いていてもしかたのないことじゃ。お前はお前のやるべきことをやれ」

「俺のやるべきことを……」


 冥王を止める。

 そして死者を冥界に帰す。


 それが俺の今、やるべきことだった。


「ミトロスとはなにを話した?」

「なにも……。ルロイに葬送術を伝授するように命じられました」

「なるほど。それを拒否してここへ来たというところか」

「はい」

「ミトロスめ、呆れた奴じゃ」


 メリアードヴァイス様は額を抑えて頭を振る。


「本当なら、お前を中心に魔王軍を動かし、冥王軍と戦ってほしかったのじゃが」

「俺ならひとりでも……」

「確かに葬送術を使えば死者を一瞬で冥界へ帰すことができる。しかし相手は数十万はいる大軍じゃ。葬送術とて、無限に使えるわけではあるまい」

「それは……」


 葬送術の使用には魔力が必要だ。1度の使用に大量の魔力が必要なわけでもないが、無限に使うことはもちろんできない。


「敵は遺体が残っているすべての死者じゃ。それをお前ひとりでどうにかできると思うのか?」

「いいえ。けど葬送術は俺にしか……」

「わしにも露払いくらいはできる」

「えっ? いやけど……」


 メリアードヴァイス様はすでに亡くなって幽霊となっている。

 この状態でなにができるというのか……。


「幽霊のわしにはこうして話すことくらいしかできぬと思っておるな?」

「は、はい。メリアードヴァイス様はすでに亡くなられておりますし……」

「うむ。この状態ではこうして話をすることくらいしかできん。しかしキラーマよ。お前の葬送術には転生を行えるものがあるじゃろう?」

「それは……」


 確かに転生を行える術もある。しかし……。


「けどあれは条件が難しいです」

「知っておる。魂の器が必要なんじゃろう?」

「はい」


 魂の器とは魂を肉体へ固定するのに必要なものだ。これは冥王しか持っておらず、入手は困難なものだと親父には聞いた。


「魂の器ならある」

「えっ? しかしどちらに……?」

「ついて来い」

「は、はい。けど他にも必要なものが……。

「それもある。とにかくついて来るのじゃ」


 そう言われて俺はついて行く。

 ……やがてやって来たのは小高い丘の上にある木の下だった。


「ここにあるんですか?」

「うむ。その木の根元を掘り返してみよ」

「はあ。ここですか?」

「そうじゃ。そこにわしの遺骸がある」

「ええっ!!?」


 こんなところに初代魔王、メリアードヴァイス様のご遺体が?


 信じられない。

 けどもしも本当だったら……。


「お墓を掘り返すのは、元墓守としてちょっと……」

「中に入ってる本人がいいと言ってるんじゃ。早く掘らんか」

「そういう問題なのかなぁ」


 中に入ってる本人の許しがあれば掘ってもいいかどうかなんて聞いたことも無いので、なんとも言えない。


 けどしかたないかと俺は指示された場所を掘った。


「あっ」


 しばらく掘ると大きな棺桶が出て来る。

 初代魔王が埋葬されているとは思えない質素なものだ。


「これですか?」

「うむ。開けてみよ」

「はい」


 棺の蓋をそっと開く。

 中にあったのはご遺体の骨。それと豪奢な形の杖だった。


「その杖の先にあるのが魂の器じゃ」

「こ、これが……」


 大きさは拳大くらいか。

 金色に輝く宝石のような玉だった。


「それには大量の魔力を込めることもできたからのう。杖としても強力じゃった」

「けどこれをどちらで?」

「大昔に冥王から譲り受けたものじゃ」

「冥王から? しかしどうして……」


 なんの理由も無く冥王がこれを譲り渡すはずなど無い。


「うむ。わしはさっき、冥王の侵攻は一度も無かったと言ったが、小競り合いのようなことが1度だけあったのじゃ」

「小競り合いですか」

「大昔に冥界の者がわしの首を狙ったことがあった。そのときはお前の先祖がそいつを葬ったが、冥界とは一触即発になっての。わしもお前の先祖を送り込んで冥王の首を取らせようとした」

「そ、それでどうなったのですか?」

「冥王のほうからわしに直接、謝罪をしたいと申し出てきた。じゃからわしはそのとき、魂の器を要求してことを収めたのじゃ」

「そういうことでしたか」


 まさか過去にそんなことがあったとは。

 初代魔王様が魂の器を手に入れられた理由には納得であった。


「こういうこともあろうかと冥王からもらっておいたのじゃ。それがあればわしを転生させることはできるじゃろう」

「はい。魂の器と、このご遺体、あとは……血族の血が必要です」


 血族とはつまり初代魔王様の子孫だ。魔王は世襲制ではなく純粋な強者がなるもの。だから今の魔王様とメリアードヴァイス様は血縁関係には無い。転生させるには、メリアードヴァイス様の子孫を探さなければならないのだ。


「わしの血族ならその辺におる」

「その辺って……」

「魔物じゃ。魔物はすべてわしの血液に魔法をかけて作ったものじゃ。つまり魔物はすべてわしの血族のようなものなんじゃ」

「な、なるほど」


 確かそんな話を聞いたことがあるような。

 ともかくこれで材料はそろった。


 俺は適当な魔物から微量の血を摂取し、それを布に染み込ませる。

 それと一緒に魂の器とご遺体を並べた。


「性別や種族、年齢を選べますが」

「種族は魔族のままでよい。年齢は丁度、成人くらいじゃな。性別は女にするのじゃ」

「えっ? 女に? なにか理由でも?」

「理由はあとで話す」


 なにか理由はあるのだろう。

 初代魔王様のことだ。

 なにか重大な理由なんだと思う。


「では転生を行います。けどあの、やり方がわかってるだけでやるのは初めてなんで、なにかしら問題が起こる可能性もありますが……」

「多少のことならよい。自分の力を信じろ。わしは信じておる」

「わかりました」


 俺は魂の器、初代魔王様のご遺体、魔物の血。

 そして初代魔王様の魂を前に立つ。


「では……」


 葬送術、転生を発動。


 魂が器に納められる。

 そしてそれはご遺体に。

 血は布から離れ、ご遺体へ染みついていった。


 そして大きな光がそれらを包み込む。


「おお……」


 光が新たな肉体の形となっていく。。


 これはうまくいきそうだった。


 ……やがて肉体の形成は終わる。

 そこに横たわっていたのは金髪の小さな女の子だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。