第12話 魔王に呼び戻されるが……
「魔王様はなんの用で使いを寄こしたんだ?」
「すでにお分かりかと」
使いの言葉を聞いて俺は考える。
やはり魔界でも冥王の動きを知っていたか。
ずいぶん派手に動いているらしいし、当然だろうが。
「冥王の件で魔王様が俺に会いたがっているということか」
「はい。ぜひお越しいただきたいと」
「……」
恐らく葬送術のことを知っているのだろう。
それで俺を呼び戻すことにしたというわけか。
追い出しておいて必要になったから戻って来いとは。
ずいぶん勝手な話だ。
しかし俺も魔王様には用がある。
魔王様ならば冥王のことをなにか知っているだろう。
それを聞く必要があった。
「どうするのおじさん? 戻る?」
「うん。俺も話があるからね」
「じゃあわたしも行く。魔界には一度、行ってみたかったしね」
「いや……」
俺は考える。
魔王様との話はたぶん円満には終わらない。
ユアリを連れて行くのは危険だと思った。
「すぐ戻って来るからここで待ってて」
「えー」
「頼むよ」
「むーわかった」
納得してもらいホッとする。
「けど、もしも戻って来なかったら」
「そういうことは言わないで」
「……わかった」
戻って来れないかもしれない。
けど、必ず戻って来なければ。
冥王の目的を潰すため。
世界中の墓を見るという目的のためにも。
「ではさっそく参りましょう」
使いがイスから立ち上がる。
「魔界って遠いの?」
「いや、たぶん魔道列車で行くからそんなにかからないよ」
魔道列車とは世界のどこからでも魔界へ行ける乗り物だ。利用できるのは魔王の許可を受けた者か幹部クラスのみであり、それ以外の者が乗れることは無い。
町の外へ出た俺は使いが呼んだ魔道列車へ乗り込む。
そのまま魔界へ向かった。
魔界へはあっという間につき、すぐ前にある魔王城へと入る。
そのまま食堂へと通され……。
「おお、待っていたぞキラーマ」
食堂の長いテーブルの上には豪華な料理が。
そして奥には魔王様がおり、歓迎ムードでこちらへ顔を向けていた。
食堂の壁には大勢の兵が立っている。
その者たちの役目はなんとなくわかった。
「おひさしぶりですミトロス様」
「はははっ、1ヶ月ぶりくらいか。よくぞ戻って来た」
自分で追い出しておいて白々しい。
「まあ座れ。お前のために用意した宴だ。遠慮せず好きなだけ食べるといい」
「ありがとうございます」
執事に案内され、イスへと座る。
「おひさしぶりですわね。キラーマさん」
テーブルを挟んだ向かい側にはルロイが座っていた。
「ああ、どうも」
あまり見たくない顔であった。
「魔王様、私を呼び戻されたのは……」
「固い話はあとでいいだろう。まずは宴を楽しめ」
執事の手で目の前のグラスに酒が注がれる。
「宴を楽しんでいられるような状況ではありません。今このときにも冥王は死者を冒涜して自らの目的を遂げようとしています。一刻も早く奴を討たなければ……」
「わかっている。そのためにお前を呼び戻した」
魔王様はグラスを置いて俺へ真剣な目を向けてくる。
「率直に話そう。冥王と戦えるのはお前だけだ。したがって我が魔王軍はお前に将軍の地位を与え、冥王軍との戦いに備えようと思う」
「……」
「すでに葬送術で英雄のひとりを葬ったのだろう? 冥王を倒すにはその力が必要だ。墓守だったお前がその力のおかげで将軍の地位を得られるのだ。嬉しいだろう? はっはっはっはっはっ」
魔王様は上機嫌な様子で笑う。
しかし俺は一切、笑わなかった。
「しかし葬送術の使い手がお前ひとりでは心許ない。そこで、このルロイに葬送術を伝授してやってほしい」
と、魔王様はルロイへと目をやる。
「よろしくお願いしますわ。ふふ、教えていただければきっとキラーマさんよりうまく使いこなしてみせますわよ」
「はははっ、これは頼もしい後継者ができたなキラーマ。うん? どうした? もっと嬉しそうにしたらどうだ? 将軍の地位を得た上に後継者までできたんだ。嬉しいはずだろう?」
魔王様は俺へ笑顔を向けながら言う。
それに対し、俺は首を横へ振る。
「葬送術は本家の者のみに伝えられる一子相伝の秘術です。同じ血族でも教えることはできません」
「なに?」
魔王様の表情が変わる。
一転して怒りのような表情を見せた。
「一子相伝など関係無い。魔王である俺の命令を聞け」
「申し訳ありませんが魔王様の命令でも聞けません」
「つまり俺に逆らうと、そう言うのだな?」
「そう捉えていただいても結構です」
そう答えた俺を魔王様は怒りの表情で見続ける。
そして右手を上げた。
瞬間、食堂の壁に立っていた兵士が一斉に動き出し、槍を俺の首へと向けた。
「俺の言うことを聞け。そうでなければ……」
「殺しますか?」
「……っ。捕らえて拷問することだってできるんだぞ?」
「ならばそうなさったらよろしい」
魔王様の目がますます怒りに歪む。
「キラーマさん、おとなしく魔王様の命令をお聞きなさい。このままではあなた、とんでもなく痛い目に遭いますわよ?」
「例えそうなっても、葬送術を伝授する気はありません」
きっぱりそう答える。
葬送術は亡くなった方を冥界へ戻す術だ。
本家のみに伝えられる一子相伝の術だからというのもある。
しかしもっとも大きな理由は、亡くなった方やご遺体への敬意の無い者がこれを使うことは絶対にダメだというものだった。
「どうあっても俺の命令は聞けないというのだな?」
「くどいと言わざるを得ません」
「もう一度、よく考えて答えろ。1日くらいなら時間をやってもいい」
「何日、日をいただこうと私の考えは変わりません」
「っ! こいつを捕らえろっ!」
魔王様が叫ぶ。
瞬間、兵士たちは一斉に襲い掛かって来るが、
「がはっ!?
「ごはっ!?」
俺の拳により、あっさりと全員その場へ倒れる。
「雑兵くらいなら元墓守でも倒せますよ」
「ざ、雑兵だと? こいつらは我が親衛隊……。ええいっ! 捕らえろっ! 早くっ! そいつを捕らえるんだっ!」
前後から迫って来る大勢の兵。
それらをかわして俺は魔王城から逃げ出した。
「はあ……。なんとか逃げ切ったな」
しかし魔王軍からよく逃げ切れたものだ。
このあいだは英雄を倒せたし、俺なんかでも意外とやれるもんだ。
「まあ、相手の油断もあったんだろうけど」
こんなおっさん相手じゃ油断もするだろう。
英雄ボルザックのときも同じく。
「それよりもどうするかな?」
魔王様から冥王の目的は聞き出せなかった。
これじゃ魔界へ戻って来た意味が無い。
「……そういえば」
葬送術を伝授されたものは王墓から離れてはいけないという掟があった。
理由は親父も知らなかった。
「俺が王墓を離れてすぐに冥王が動いた……」
今までそんなことは一度も無かったのにだ。
「もしかしたらあの場所になにか秘密があるのかも」
そう思った俺は王墓へと向かった。
……王墓へやって来た俺は目の前の光景に絶句する。
「めちゃくちゃだ……」
荒らし回されめちゃくちゃだった。
冥王が遺体を蘇らせ、連れて行ったからだろう。
「……許せないな」
こんなことは死者への愚弄だ。
改めて冥王への怒りが沸いた。
「――キラーマか」
「えっ?」
名前を呼ばれて振り返る。
そこにはぼんやりと輝く何者かが立っていた。




