第19話「能力確認」
三人で魔力草を集めに、朝から森に来ていた。
ラスカが加わっても、変わらずに生活費は稼がないといけない。
宿に泊まるために稼がないといけないという事情をラスカに話すと、文句も言わずに手伝ってくれた。
その代わりに、午後からはラスカの魔法を確認することになっている。
「……よし」
午後を過ぎたあたり。
今日、宿に泊まる分くらいの魔力草は集まっただろう。
そろそろラスカを見ないと、と歩き出した直後。
不意に近くの茂みが揺れる。
「ひいぃぃ!? 魔物、魔物が出ました、師匠! 助けて!!」
茂みの近くにいたラスカが情けない悲鳴を上げ、俺の背中に張り付いてきた。
「大丈夫。後ろに隠れてて」
そうラスカを落ち着かせ、右手に黒炎を展開する。
茂みの奥から現れたのは――一匹の一角兎だった。
俺は黒炎をそっと散らした。
「ま、ま、魔物!! 師匠! 早く! 倒して!!」
「ラスカくん、落ち着いてください……ただの一角兎ですよ」
フィリアが腰に手を当て、呆れたように呟いた。
「だ、だってあの角! あんなので突かれたらひとたまりもないですよ! 風穴あいちゃいますって!! ああ、ここで死ぬんだ、僕たち。アネリアさん、アネリアさん、アネリアさん――」
「あの、勝手に俺とフィリアまで殺さないでくれる……?」
俺たちに驚いたのか、一角兎は茂みの奥に帰っていった。
◇
「ラスカの魔力について確認しようか」
「はい、師匠!」
魔力草集めを終え、ラスカと俺が出会った魔力溜りにやってきていた。
ここなら森の入り口付近だから魔物もほぼ出ないだろう。
ラスカは極度の怖がりのようだ。
この場所だとラスカも安心のはずだ。
「まずは何をすればいいですか?」
「うーん、そうだなぁ……とりあえず、あの木に向かって魔法を撃ってみて」
「は、はい!」
ラスカが腕を前に構えた。
手のひらに魔力が集まる。
ぱちぱちと軽い音がなった。
そしてそのまま、雷を放出――目標の木には届かなかった。
距離にして五メートル程度の標的だったのだが、ラスカの魔法は一メートル弱しか飛ばなかった。
「遠くに放つのが苦手なの?」
「……はい、そうなんです」
俺が聞くと、ラスカは露骨にしょんぼりとした。
なるほど、そういうタイプなのか。
確か、先生の資料にも記載があったはずだ。
魔法として放つのがあまり得意ではない魔力も存在するのだろう。
「ラスカ、身体強化もやってみてくれる?」
「あ、えっと。出来はするんですがあまり得意ではなくて……」
「そうなの?」
「魔法学園って、ちょっと考え方が偏ってて、放出至上主義なんです。だから身体強化とかは最初に少しだけしか教えてもらえなくて……まあ、魔法使いは基本後衛で後ろから魔法を撃つだけなので間違ってはないんですが……」
「そうなんだ……とりあえず、見てみてもいい?」
「はい!」
ラスカの身体に魔力が巡るのを感じる。
だが、その魔力の流れはあまりに歪だった。
身体中に隅々まで行き渡っておらず、右腕、左足には通っているが、左腕、右足には極薄くしか通っていない。
これでは身体が強化されたとしても満足に動けないだろう。
魔力の巡らせ方の問題か?
強化の具合自体は問題ないように思える。
「あだっ!」
ラスカが強化した身体で前に向かって走り出した。
一歩目は良かった。
ちゃんと速度が出ていて、強化された力を感じた。
しかし二歩目で足が噛み合わず、こけてしまっていた。
ラスカは鼻先を手で押さえながら起き上がった。
「メアくん、ちなみにですが、私は身体強化はほぼできないですよ。ラスカくんやメアくんみたいに、放出もできて身体強化もできる魔力はちょっとだけ珍しいと思います。空島でもどっちもできる人はいませんでしたし」
隣で座っていたフィリアがそう声をかけた。
「そうなんだ……」
「魔法学園でもうっすらと強化できる程度の人が大半で、師匠のように身体強化、放出のどちらも実戦レベルで使いこなせる人は学園首席や教師レベルです。もちろん、歴代首席でも放出特化の人の割合が高いです。そもそも放出できることを試験されて入学するので、そうなるのも当然なんですよ。……まあ、僕は固有魔力で入学したので別でしたが」
身体強化に魔力を使える人間が戦士になり、基本、放出系はほぼ使わない。
魔法使いは逆で、身体強化はほぼ使わないが放出系の素質が高い。
そんなところなんだろう。
「放出至上主義って言ってたけど、身体強化を極めても評価されないかな?」
「それは分からないです。放出を重点的に見られますが、僕の魔力は短射程で高威力とは言われています。……どうやっても当たらないから後衛の魔法使いとしての評価は低いですが、それを当てに行ける身体能力があれば学園の評価も変わるかもしれません」
あくまでも身体強化ではなく、放出系の魔法が評価されることになるのか。
今の話を聞くに、身体強化で当てに行けるようになったとしても、放出魔法は相変わらず変わっていないから低評価、とできてしまいそうなところが怖いな。
「師匠、どうしましょう……?」
「俺の個人的な意見だけど、ラスカは身体強化を伸ばした方がいいと思う。……学園から手っ取り早く評価されるかは分からないけど」
「メアくん、なんで身体強化なんですか?」
「先生の資料、覚えてる? 単純にラスカの魔力の性質上、短射程高威力の魔法になるんじゃないかなと思って。ただ、身体強化は魔力の質というよりラスカのイメージの問題な気がするんだ。伸ばす要素がある……と思う」
「……師匠! 分かりました、身体強化を練習します!」
「うん、まずは身体に均等に魔力を巡らせるところからだね」
「はい!」
ラスカは再び身体に魔力を巡らせる。
しかし、どうやってもうまくいかない。
身体の一部に巡らず、魔力の強さの気配も身体の部位によってバラバラだ。
ここにいる俺でさえそれを知覚できるのだから、よほどうまくいっていない状況と言えるだろう。
「師匠~、何かアドバイスないですか……?」
ラスカもそれを自覚しているのか、アドバイスを求めてきた。
難しいな。
俺の場合は火が燃え広がり、そのまま燃え続けるイメージだけど。
そのイメージの過程を教えろということなのだろう。
言語化が難しい。
「えっと……その……こう、ぶわっと?」
「ぶわっと?」
「そう、ぶわっと」
「ぶわっとって……ええ……?」
「ラスカくん、メアくんの言葉を疑うんですか! 姉弟子として見過ごせません!」
「ひっ、ごめんなさい!」
「いや、フィリアは弟子じゃないよ……」
ラスカが体内の魔力の巡りを変える。
変えたが、結果は前と変わらなかった。
さすがに説明が悪すぎた。
だが、これ以上の説明もできそうになかった。
感覚としか言えない。
「じゃあ、一度に全身を強化しようとせずにまずは足だけに集中してみよう」
「足だけに……分かりました、やってみます!」
これが鶴の一声だった。
結果は成功。
ラスカの足は均等に強化されていた。
俺の見立ては間違っていなかったのだろう。
身体強化自体に問題は無い。
ただ、イメージがうまくできていない。
大幅に基礎能力が向上しているのは目に見えて分かる。
できた、と嬉しそうに駆けまわるラスカ。
その動きはとても軽々としていた。
「よし、じゃあまずは足だけで慣れて、徐々に全身を強化できるようにしよっか」
「はい、師匠!」
ふと、ラスカの腰で揺れる二振りの短剣が目に入った。
「ラスカ、短剣を使うの?」
「あ、はい。一応護身用に。僕の魔法は遠くまで飛ばないから杖とは相性悪いし」
「へえ――」
俺も武器、使ってみたいんだよな。
素手で戦うか、近距離で黒炎を展開するのみだ。
もう少しバリエーションを増やしておきたかった。
もし次に強敵と戦うことになったとき、武器があれば戦い方の幅が広がるだろう。
「使ってみます? 師匠」
「いいの?」
俺がうらやましそうに見ているのがバレてしまったのか、ラスカがそう言った。
ラスカから、二振りの短剣を受け取る。
意外とずっしりとした重みを感じる。
ただ、身体強化してしまえば振り抜くのは容易い。
何度か振っていくうちに、あることを思いついた。
この短剣に黒炎を纏わせることができるんじゃないか?
黒炎は範囲は広いが、出が遅い。
それを短剣に纏わせることでカバーできるのではないだろうか。
もちろん拳に纏わせることは今の段階でも可能なのだが、拳よりも剣の方がリーチが長く扱いやすいだろう。
……そういう建前もそうだし、ちょっと魔法剣という概念に憧れもある。
試しに短剣に魔力を流し込んでみる。
成功だ。
短剣に黒炎が宿った。
「すごいです、メアくん!」
フィリアが横で目を輝かせた、次の瞬間。
「あっ!」
二振りの短剣の刀身が、崩れ落ちた。
魔力の負荷に耐え切れなかったのだ。
「あああああ! 僕の短剣!?」
「ご、ごめん、こんなつもりじゃ……」
膝から崩れ落ちるラスカ。
申し訳の無さが心を埋め尽くす。
「名誉の殉職ですね……あの短剣も、メアくんの魔力を受け止められて嬉しかったんじゃないでしょうか……? あ、でもラスカくんにはごめんなさいですね」
「嬉しいわけあるかあああ!!」
フィリアだけはなぜか満足気だった。
そんなこんなで、帰路につく。
ラスカは街に入ったところで別れていた。
そろそろ日が落ちる。
その時、指に嵌めていた指輪の魔石が淡く光りだした。
賢者が帰ってきたのだ。




