表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/36

第24話 守られた席

新しい羊皮紙に三つの欄を引いた。


 独立確認官。匿名資料。報復申立窓口。


「本人確認は、公開資料から切り離します。外へ出すのは人数と利害関係だけ。報復があれば、この窓口で受けます」


「村名も、外すんですね」


 エルナが規則書を指で追った。


「ええ。人数と利害関係だけを出します」


 私は四つ目の欄へ「三十日」と書いた。


 私は、フェリクス殿下の執務室へと向かった。


 王国としての強制力を持つ『三十日限定の証言者保護命令』に、殿下の署名を求めるためだ。


「……私の名で、証言者を保護するのだな」


 フェリクス殿下は、私が差し出した命令書に目を通し、静かに頷いた。


「この命令書があれば、地主たちは容易に借地農民に手を出せなくなる。……だがリディア。地主側はどうするつもりだ。彼らにも、土地を失うという痛切な言い分があるはずだ」


「はい。地主側にも『土地損失を証言する席』を用意します。保護命令は、発言内容ではなく報復行為だけを禁じるものです」


 フェリクス殿下は、小さく息を吐き、そして迷うことなく命令書に署名した。



 翌日、再び合同会議が開かれた。


 私が新たな規則と保護命令を提示すると、隣国代表は条件つきで同意した。マティアス局長は、規則書の確認方法を尋ねた。


「リディア嬢。あなたが証言者を保護したいという気持ちはわかります。ですが、完全匿名資料だけでは、我々としても本当にそれが正しい意見なのか判断しかねる。……せめて、匿名原本の閲覧くらいは認めていただきたい」


 マティアスは、議長席の私へ要求した。


「原本は開示しません」


「独立確認官を選任したのも評議会です。身内同士の確認で、国家間の負担を決めるおつもりですか」


 市街側の代表が、小さく頷いた。


 私は規則書の確認官欄へ、もう一本線を加えた。


「確認官は二名。隣国と村側が一名ずつ選び、封印室で原本を照合します。持ち出しも複写も認めません」


「それなら検証できます」


 隣国代表が答えた。


「もう一件、別の資料があります」


 私は、手元に用意していた一枚の紙を高く掲げた。


「これは、かつて王室調整局で働いていた『元書記』からの、匿名証言です。彼もまた、独立確認官によって実在が証明された人物です」


 マティアスの視線が、紙へ落ちた。


「彼の証言には、こう記されています」


 私は、静まり返る議場の中で、その証言を読み上げた。


『三年前の夜、マティアス局長が執務室に残り、安全地図の原図に何らかの手を加えているのを見た。その直後、王家狩猟地が遊水地候補から外された新しい地図が作成された』


 議場が、どよめきに包まれた。


「その者は、原図の内容まで確認したのですか。それとも、私が机へ向かった姿を見ただけですか」


 マティアスは立ち上がった。


「証言は、あなたが原図を扱った事実までです。改変の認定は監査へ渡します」


 私は、レーヴェ評議会の議員たちに向き直った。


「職印、旧地図、技術報告の欠落、そしてこの証言を監査へ渡します。認定が出るまで、マティアス局長の進行権と原本閲覧権を停止してください」


 議長が、重々しく木槌を鳴らした。


「評議会として、進行責任者の要求を承認する。マティアス局長の権限は、即刻停止とする」


 マティアスの前から、進行役の札と原本閲覧用の鍵が回収された。


 市庁舎に駆け込んできた使者が、血相を変えて一枚の書状を差し出した。


「開発会社からの通告です! 『仮契約が停止されたことには抗議する。しかし、水門の補修工事に関する資材の引き揚げ期限は、十五日後とする。それまでに結論が出なければ、我々はレーヴェから完全撤退する』と……!」


 議場が、再び騒然となった。


 十五日後。


 水門崩落のタイムリミットである六十日よりもはるかに短い、新たな期限。


 私たちは、その短い期間内に、八者すべての同意を取り付けなければならなくなったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ