第24話 守られた席
新しい羊皮紙に三つの欄を引いた。
独立確認官。匿名資料。報復申立窓口。
「本人確認は、公開資料から切り離します。外へ出すのは人数と利害関係だけ。報復があれば、この窓口で受けます」
「村名も、外すんですね」
エルナが規則書を指で追った。
「ええ。人数と利害関係だけを出します」
私は四つ目の欄へ「三十日」と書いた。
私は、フェリクス殿下の執務室へと向かった。
王国としての強制力を持つ『三十日限定の証言者保護命令』に、殿下の署名を求めるためだ。
「……私の名で、証言者を保護するのだな」
フェリクス殿下は、私が差し出した命令書に目を通し、静かに頷いた。
「この命令書があれば、地主たちは容易に借地農民に手を出せなくなる。……だがリディア。地主側はどうするつもりだ。彼らにも、土地を失うという痛切な言い分があるはずだ」
「はい。地主側にも『土地損失を証言する席』を用意します。保護命令は、発言内容ではなく報復行為だけを禁じるものです」
フェリクス殿下は、小さく息を吐き、そして迷うことなく命令書に署名した。
翌日、再び合同会議が開かれた。
私が新たな規則と保護命令を提示すると、隣国代表は条件つきで同意した。マティアス局長は、規則書の確認方法を尋ねた。
「リディア嬢。あなたが証言者を保護したいという気持ちはわかります。ですが、完全匿名資料だけでは、我々としても本当にそれが正しい意見なのか判断しかねる。……せめて、匿名原本の閲覧くらいは認めていただきたい」
マティアスは、議長席の私へ要求した。
「原本は開示しません」
「独立確認官を選任したのも評議会です。身内同士の確認で、国家間の負担を決めるおつもりですか」
市街側の代表が、小さく頷いた。
私は規則書の確認官欄へ、もう一本線を加えた。
「確認官は二名。隣国と村側が一名ずつ選び、封印室で原本を照合します。持ち出しも複写も認めません」
「それなら検証できます」
隣国代表が答えた。
「もう一件、別の資料があります」
私は、手元に用意していた一枚の紙を高く掲げた。
「これは、かつて王室調整局で働いていた『元書記』からの、匿名証言です。彼もまた、独立確認官によって実在が証明された人物です」
マティアスの視線が、紙へ落ちた。
「彼の証言には、こう記されています」
私は、静まり返る議場の中で、その証言を読み上げた。
『三年前の夜、マティアス局長が執務室に残り、安全地図の原図に何らかの手を加えているのを見た。その直後、王家狩猟地が遊水地候補から外された新しい地図が作成された』
議場が、どよめきに包まれた。
「その者は、原図の内容まで確認したのですか。それとも、私が机へ向かった姿を見ただけですか」
マティアスは立ち上がった。
「証言は、あなたが原図を扱った事実までです。改変の認定は監査へ渡します」
私は、レーヴェ評議会の議員たちに向き直った。
「職印、旧地図、技術報告の欠落、そしてこの証言を監査へ渡します。認定が出るまで、マティアス局長の進行権と原本閲覧権を停止してください」
議長が、重々しく木槌を鳴らした。
「評議会として、進行責任者の要求を承認する。マティアス局長の権限は、即刻停止とする」
マティアスの前から、進行役の札と原本閲覧用の鍵が回収された。
市庁舎に駆け込んできた使者が、血相を変えて一枚の書状を差し出した。
「開発会社からの通告です! 『仮契約が停止されたことには抗議する。しかし、水門の補修工事に関する資材の引き揚げ期限は、十五日後とする。それまでに結論が出なければ、我々はレーヴェから完全撤退する』と……!」
議場が、再び騒然となった。
十五日後。
水門崩落のタイムリミットである六十日よりもはるかに短い、新たな期限。
私たちは、その短い期間内に、八者すべての同意を取り付けなければならなくなったのだ。




