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第22話 誰を当事者と数えるのか

「会議開催の条件として、匿名証言ではなく、実名が記載された『検証可能な名簿』の提出を求めます」


 私は要求書の「検証可能」の文字へ線を引いた。


「先生。これ、本当に名前を出さなきゃいけないんですか?」


 整理を手伝っていたエルナが、不安そうに私を見た。


「地主のお偉方に見られたら、クララさんたち、絶対に嫌がらせを受けますよ。明日には畑を取り上げられて、村から追い出されるかもしれないのに」


「わかっています」


 会議開催まで、あと二日だった。


 私はペンを取り、白紙の羊皮紙に向かった。


「……折衷案を作りましょう」


「実名原本は事務局で保管します。提出用には、所属村と立場だけを残します」


「実名の確認は事務局が担保し、外部には集計だけを出す」


 オスカーが納得したように頷いた。


 だが、エルナだけは、その折衷案を聞いても顔を曇らせたままであった。


「先生……本当に、それで大丈夫ですか?」


「何か問題がありますか、エルナさん」


「だって、村ってそんなに広くないんですよ」


 エルナは、自分の指を数えるようにしながら言った。


「『南の村』の『借地農民』で、『畑の一部を貸してもいい』って証言できる条件の人……村の地主なら、ちょっと考えれば『ああ、あそこの区画を借りてるあいつか』って、ある程度目星がついちゃうんじゃないですか?」


 ペン先から、インクが一滴落ちた。


「会議を三日延ばすよう、隣国へ求めましょう」


 オスカーが書状を出した。


 戻った返答は、短かった。


『延期は認めない。期限までに検証可能な資料がなければ、第四案を議題から外す』


 机の期限札には「二日」とある。


 私は、落ちたインクを吸い取り紙で押さえた。


 私は『公開範囲決定書』へ自分の名前で署名した。


『提出用名簿には、氏名を伏せ、所属村と立場のみを記載する』


「これを、正式な決定として隣国と王室調整局へ通達します」



 翌日の午後。


 市庁舎の広場で、第四案を正式な議題とするための『事前確認会』が開かれた。


 四者の代表と、マティアス局長、そして三村の地主の代理人たちが、私が作成した折衷案の提出用名簿を回し読みしている。


「事務局が本人確認を担保するなら、この数字を『村の意見』として議題に載せましょう」


 隣国の代表が名簿を机に置いた。


 マティアスも異議を唱えなかった。


「では、事前確認会はこれで――」


「なるほど、よくわかりました」


 地主の代理人として出席していた男が、提出用名簿の写しを丁寧に折りたたみ、懐にしまった。


「南の村の借地農民で、この面積を耕している者なら、見当はつきます」


 彼は名簿の写しを指で叩いた。


「貸与に出す区画は来季の収穫が読めない。我々も、借地契約を見直さなければなりません」


 男は私に向かって一礼すると、名簿の写しを持って議場を出た。


 私は、自分の手元にある「所属村と立場」だけが書かれた名簿の紙面を見下ろした。


「……先生」


 背後で、エルナが震える声で私を呼んだ。


「私の……ミスです」


 署名した紙のインクは、もう乾いていた。

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