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魔の山  作者: こたつぬま
4/5

天馬空を行く

オレ様の名前は馬尾草一うまおそういち15才の美少年だ。

学校ではモテまくっている。

美しく筋肉質な体型を維持するために子供の頃から体は鍛えていた。

ランニングや筋トレ、ヨガだ。

オレ様と山との因縁は2歳年上の姉が3年前に山で死んだことだ。

姉は美しかったが無謀な女だった。

登山が好きで1人であちこち言っていた。

危ない海外の国にも1人で渡航して登山を楽しんでいた。

オレ様は山にはまったく興味がない。

疲れるだけでだと思っていた。

家で大人しくしていれば死なずに住むのにわざわざ死のリスクに自ら近づくのは正気とは思えない。

姉が山で死んだのは夏だ。

めずらしく俺様を山に誘ってきたが、とうぜん断った。

姉は無計画に難易度の高い山を登り、下山中に崖から滑落して死んだ。

200メートルも転落したから遺体は全身包帯でぐるぐるにされていた。

美しい顔もズタズタだったのだろう。

姉は半袖短パンで防寒ウェアやライトやテントを持たずに軽装で登山して登頂した頃には日が暮れていた。

濃い霧も出ていたらしい。

野営することもできないそれで焦って下山しようとして足を踏み外したというのが滑落の原因らしい。オレ様がついて行ってれば生きて帰れたかもしれない。

途中で下山するように進めたし、登るなら装備を充実させてから登った。

オレ様は女の命を大事にするタイプだからな。

女が死なないように最善を尽くす。

オレ様を褒め称え貢物を山ほど送ってくる女子たちは大切にしなければいかん。

将来はホストになる予定だ。

オレ様は美しさを提供して女たちはオレ様に貢ぎものを送る。

女はオレ様にとって大事な養分だ。

全力で守るのは当然の義務だ。

しかし、あの日のオレ様はそれができなかった。

後悔でいっぱいだ。

とくに予定がなく家でダラダラしているぐらいなら登山に付き合えばよかった。

サルとは中学で知り合った。

なかなかのかわい子ちゃんだ。野生的な美少女もワイルドでいい。

ウワサでオレ様と山との因縁を知っていたのだろう。

オレ様を登山部に誘ってきた。

「いっしょにお姉ちゃんの仇を討とう!お姉ちゃんが亡くなったのも獅子牙岳でしょ?今年の冬に獅子牙岳登る計画なの!」

「敵討なんざ興味ねぇ」

「そんなこと言わないで!ウサミちゃんも登るんだよ?ウサミちゃんが遭難して死んじゃってもいいの?見捨てないで!」

「わーったよ。付き合えばいいんだろう」

「ありがとう♩」

サルは飛び上がって喜んだ。

オレ様が危険に飛び込む女子を放っておけないと読んでたな。

とくにウサミはスーパースペシャルレアの美少女だ。姉に似た雰囲気もある。

無事に山から帰すことができたらオレ様の後悔の念も晴れるかもしれねぇ。

オレ様は登山部に入部して鬼のしごきを受けた。

死の覚悟はあるか?とクマから聞かれたがオレ様はいつ死んでも良かった。

モテてきた人生だし、どこか厭世観えんせいかんを抱えて生きてきた。

厭世観とは、この世は穢れ、苦痛、不実に満ちており、生きる価値や幸福を見出せないとする悲観的な人生観のことだ。

この世界は美しくない。憎しみに満ちている。

早く死んできらびやかに輝く天国で美しい姉に再会するのも悪くない。

美しい肉体の時に死ねばみんなの記憶に1番美しい時のオレ様の記憶が残るしな。

中3の冬、猛特訓で鍛え上げた鋼鉄の肉体で獅子牙岳に挑戦する。

出発前の準備でオレ様は女子たちの荷物の負担を大幅に減らしてやった。

女子2人が持つはずの共同装備を持ってやったのだ。

共同装備はテントや調理器具や医療用品や食料や燃料だ。

共同装備は重いためメンバーの体力に合わせて重いものを体力のある人が持つなど公平に分担する。

今回は公平じゃなくて過剰にオレ様が荷物を持っている。

「さすがウマオくん。女の子にやさしい♩」

「おまえらはオレ様が死んでも守ってやるよ」

キラリと輝く笑顔を浮かべて見せる。

「キャ〜!かっこいい♡」

「かっこつけすぎぴょん。でも嫌いじゃないぴょん」

「いい心がけだ。山の神は女だからな。女を大事にする男は山の神の加護を得る」

3人ともオレ様を褒めたたえる。

称賛は最高のエネジードリンクだ。

オレ様は爽快な気分で雪山への一歩を踏み出した。

銀世界は美しく冬化粧の獅子牙岳も美しく凛々しい顔だ。

寒さはちと応えるが来て良かったぜ。

登山開始早々ツキノワグマと雪崩に襲われたが、クマとウサミの機転で急死に一生を得る。

その後、天候にも恵まれオレ様たちは順調に進んでいたが、突如、悪天候に見舞われた。

ラジオで天気予報は確認していたが、山の天気は変わりやすい。

山の天気が変わりやすい理由はクマとサルが以前、教えてくれた。

山に風がぶつかって上昇気流に変わりその時に空気に水蒸気が多く含まれていると雲が発生するからだ。さらに山を越えた風が下降気流となると雲は消える。

山の複雑な地形によって上昇と下降が無数に発生し、雲か出来たり消えたりして天候が目まぐるしく変化する。

そのため地形の要素や風向きなど複雑に絡み合った山岳部の天気は、変わり易く読み難い。

みんなでせっせと雪洞を作る。

これも訓練していたから短時間で立派な雪洞が完成した。

中で吹雪が去るのを大人しく待つしかない。

ストレッチやマッサージして疲労を回復する。

夕食は鶏つくねと根菜のスープだ。

「おいちいぴょん」

「寒さと空腹は最高の調味料だな」

「鶏肉が1番好き!」

「うめえな。最後に食うメシでもいいぜ」

「それはよくないぴょん!」

デザートは甘納豆だ。クマはこれさえあればごきげんだ。

山に関する話題で賑わう。

「山でなくなる人って悪霊に誘われてると思うぴょん。悪霊は話し相手がいなくてさびしいから登山者を誘うぴょん。もしくは前世で山に人を埋めたりとか城山攻めで人を斬りまくったりとか落武者狩りをしたとか過去世のカルマも関係しているかもしれないぴょん。

前世で何かしらの山に縁があるから山に登りたくなって山で死ぬぴょん。幻覚を見たり発狂するのは極度に寒さと疲労のせいだけじゃなく悪霊が取り憑いたせいぴょん」

「ウサミちゃんはスピリチュアルだよ〜。霊感あるタイプだね」

「さっきも岩に座ってる人を見たぴょん」

「こっわ。夜眠れなくなるからやめてくれよ」

「幻覚といえばウサミちゃんのひいひいおじいちゃんが率いた冬山で全滅した部隊の兵士の中にはふんどし一丁になって川に飛び込んだ軍人もいるって話だからね。あと春や夏の山の幻覚を見たりね。兵士が魔物にさらわれたって話も幻覚だね」

「オレたちは前世で狩人や木こりだったのかもしれないな。山で暮らす民だったから魂が山に惹かれる。秀麗な山容の甘美な誘惑に心が耐えられない。そんな気もしなくはないない。オレも登山や狩りが得意すぎて前にやってた?とベテラン勢からよく聞かれたもんだ」

「きっと山賊だったぴょん。鍛えた能力は前世でやってた続きからスタートできるぴょん」

「ほんまかいな。じゃあ、あたしのクライミングスキルも強くてニューゲームかな」

「たぶんそうぴょん」

「オレ様の姉も山に魅せられた。城山に住む姫君だったのかもな」

「写真見たけどきれいな人だったね。お姉さん。おてんばなお姫様だったんじゃない?」

「ちがいねぇ」

オレ様たちは疲労回復するために夜8時には就寝した。

翌朝深夜4時に出発する。

2日目は吹雪が止んでいたので遅れを取り戻すためにハイペースで進んだ。

膝まで積もった雪もなんのそのクマを先頭にそのズンズン進んでいく。

先頭は雪を踏み固めながら歩くので疲労する。後続はそのぶん楽だ。

オレ様はたまに先頭を後退してやった。

クマは責任感あるから放っておくとがんばりすぎるからな。

休憩を2度挟んで夕方、数十メートルの岩壁にたどり着く。

「ひいおじいちゃんたちの倍の速度で進んでるよ。ゴールまであと少し♩」

サルがアイスアックスでスイスイ登って行く。

いつ見ても惚れ惚れすんぜ。あいつはサルの生まれ変わりだな。

サルが頂上にアイスハーケンを打ち込んでロープをたらしてくれたおかげで後続のオレ様たちも楽に安全に登れた。

頂上に登ると雲海がすばらしい。

目の前に広がるのは幻想的で美しい光景だ。

「残念だけど感動している時間はないの。はやく降りなきゃ」

サルがせかしてくる。

「わかってるさ。はやく降りようぜ」

振り返ると雪に埋もれたほこらがある。

1秒だけ祈った。

あとは下山を残すだけだ。

その時、突風が吹いた。

クマは風に飛ばされたサルをガッチリキャッチして体勢を低くする。

オレ様も身を低くした。

隣にいた体重の軽いウサミが強風にあおられて3メートルほど吹き飛ぶ。

オレ様は電光石火の動きで崖下に落下するウサミの手をしっかり握る。

容赦ない突風が吹きつけるなか、ウサミの手を離さないように力を込める。

ウサミは真っ青な顔で震えていた。

左手でウサミの手を握り右手で崖を支えている状態だ。

やばい。力が抜けてきた。

ウサミの顔が姉とダブる。

突風が少し弱まり駆けつけたクマとサルがオレ様の体をがっしりと支えた。

オレ様は両手でウサミの手をつかんで火事場の馬鹿力でウサミを引き上げた。

「うぉりゃ!」

ウサミは無事崖上がじょうに帰還する。

全身から汗が吹き出した。

ふー。肝が冷えたぜ。

「助かったぴょん!ありがとぴょん!怖かったぴょん!」

泣きじゃくるウサミをサルが抱きしめる。

いまのオレ様に女をなぐさめる余裕はねぇ。

「よくやったな。お前こそ真の登山家だ」

クマが肩に手を置いてねぎらってくれる。

「やっと気づいたか」

オレ様は微笑する。

深呼吸して立ち上がる。

空に向かってつぶやく。

「今回は助けることができたぜ」

微笑む姉の顔が晴天に浮かぶ。

サルはスマホでカメゾウに電話している。

「もしもしカメゾウくん?登頂したよ!今から降りるね!」

カメゾウは下りルートの山小屋で待機している。

山頂に1番近い山小屋だ。

もし悪天候で足止めをくらい持ってきた食料や燃料が尽きた時には山頂まで食料や燃料をカメゾウに運んでもらう予定だった。

順調に登頂できたのでその必要はもうない。

サルはスマホを切る。

「また風が吹くと嫌だからはやく降りよ!」

「おうよ」

「了解ぴょん」

「それが最善だな」

オレ様たちは早足で頂上を後にした。

頂上を離れると急に天気が崩れはじめる。

5分もしないうちに猛吹雪になった。

視界は真っ白で数メートル先も見えねぇ。

ホワイトアウトってやるだ。

悪霊の仕業かもしれねぇな。

けして生かして返さぬ、という強い悪意を感じるぜ。

獅子牙岳の頂上付近は吹きさらしの岩山なので安全な場所などない、

風邪を避けて休める場所がないから進むしかない。

しばらく下山すると獅子牙岳名物のカニのタテバイ&ヨコバイのポイントに到着する。

ここは足場が見えない切り立った断崖をカニのように横向きで鎖を伝って移動する場所であり、滑落事故が多発する危険箇所として知られている。

落ちたら一貫の終わりだ。

「去年の夏に来た時、あたし滑落して死にかけたんだよねぇ。落ちたのはたった数メートルだけど奈落の底に落ちる感覚だったよ。今回はぜったい油断しない」

「サルも木から落ちるだな」

「登りより下りが本番ぴょん!疲労による集中力低下、膝への負担などが原因で転倒、滑落、道迷いが多く発生するぴょん!」

「気を引き締めて行こうぜ」

視界不良のなか吹雪にあおられながらカニの横ばいをクリアすると眼前には白銀の世界が広がっている。下山を急ぐが雪の勢いも止まらねぇ。

いつのまにか胸まで雪が降り積もってきた。

1番恐れていたドカ雪に襲われちまうとはついてねぇ。

天は我々を見放した!ってか。

サルはクマに問う。

「雪洞掘る?」

「いやここでは生き埋めになる危険がある。山小屋までは300メートル程度だ。晴天ならもう山小屋は見えてるはずだ。一気に突き進む」

「方向合ってんのか?」

「あたしとクマちゃんは一般登山道を何度も登った経験があるから体が覚えてるよ」

「2人を信じるぴょん」

「こうなりゃラッセル地獄だな」

オレ様は荷物からハンドラッセルを取り出してクマに渡す。

ハンドラッセルは雪かき用のスコップだ。

ラッセルとは除雪車(ラッセル車)を指す言葉で語源は除雪車のメーカー名に由来し、転じて雪を踏み固めて進む「ラッセルする(動詞)として使われる。

先頭のクマが雪をかきわけて後続のオレ様たちは雪を踏み固める。

深い雪のラッセルは空荷で行う。オレ様がクマの荷物を持った。

疲れたらクマと交代する予定だが、クマは交代を言い出さない。

鬼神のように雪を蹴散らしていく。

ほんと頼りになる男だぜ。

とはいえ1時間で30メートルしか進んでねぇ!

完全に日が暮れてきたし猛吹雪は止まねぇしこいつはマジでヤベェ。

ぬくもりと温かい飯の待っている山小屋まであと少しで凍死とか最悪すぎだろ。

ちょうど50メートル掘り進めたところでクマはガクンとひざから崩れ落ちた。

「すまん。オレはここまでだ。交代してくれ」

「あとは任せろ!」

オレ様はハンドラッセルを受け取りラッセルを開始する。

雪が硬くてきちぃ。

雪が胸まであるからまるで雪の中を泳いでる見てぇだな。

白い壁をどんどん打ち壊すオレ様には明確な目標があった。

とにかく女子2人を必ず生かして帰る。

オレ様とクマは死んでもいい。男だかんな。

すべての女性を愛するオレ様は女性の命を背負った時にもっとも力を発揮する。

2時間かけて50メートル掘った。山小屋まであと200メートルだ。

命を燃やしたぜ。精も根も尽き果てたオレ様は片膝をつく。

「サルちゃん交代だ」

サルにハンドラッセルを渡す。

「まかせて!うりゃぁ!」

サルは勇猛果敢に雪に挑む。

オレ様はクマの姿がないことに気づく。

「クマちゃんはどうした?」

「少しうしろで雪洞作って待機中ぴょん」

もう動けないのか。超人に思えたクマにも限界はあるんだな。

「オレ様もそうしよう。置いてってくれ」

「雪洞作るぴょん」

ウサミは雪洞を作ってくれる。

穴はすでに掘ってあるから後ろに雪を固めて天井にツェルト(簡易テント)を貼るだけの竪穴式だ。

棺桶みてぇだな。

オレ様は寝袋にくるまってテントマットを敷いた上に待機する。

眠くなってきた。

「ぜったいねちゃダメぴょん!好きな歌歌うぴょん!」

「ゆーきやこんこん♩・・・」

「最悪なチョイスぴょん!」

冗談が言える元気はかろうじて残っていた。

ここで死ぬものわるかねぇな。

姉が死んだ同じ山だ。姉が迎えにきてくれる。

猛吹雪は勢いをますばかりだ。

眠れないぐらいの大騒音でビュービュー吹いてやがる。

頭がぜんぜん回らないので難しい歌は歌えねぇ。童謡を歌い続けた。

歌いながらこの一年を振り返る。

サルの持ってきた登山計画を最初に聞いた時はぶっ飛んでて驚いたね。

天馬空を行くような発想だった。

天馬空を行くとは天馬が空を自由に駆けるように、着想や行動が自由奔放で何ものにもとらわれない様子のことだ。

オレ様を仲間に引き入れたのは山と因縁を持つからだけじゃなく女の子のために命を張れる男であり、女の子のためならすごい馬力が出せる男だからだろう。

サルはムリゲー登山をクリアするために奇跡のメンバーを集めた。

サルのひいじいちゃんたちは失敗して「山男よ、勝手に死ね!」とまでマスコミに言われたらしい。

世間の正直な声だろうな。

常識を大事にする世間をあっと言わせるためにも生きて帰りてぇ。

オレ様は生への執着を燃やして歌い続けた。





参考文献 引用 ネット記事「天気予報はアテにならない?登山で天気と上手く付き合うには」やまどうぐレンタル屋さん

【剱岳19歳女性ソロ登山滑落死】なぜ彼女は、日本最難関の剱岳に単独軽装で登り150mも滑落してしまったのか?【ゆっくり解説】

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