盲亀の浮木(もうきのふぼく)優曇華(うどんげ)の花
ぼくの名前は亀山亀蔵15歳だ。
ぼくは去年までちがう中学校にいた。
わけあって他県の中学校に転校したのだ。
そのわけとは鶴亀千万中学山岳部員の遭難事故だ。
親友4人と登山部を作ったぼくたちは近所の亀水山に登った。
ミニ富士山と呼ばれる名山だ。
そこで遭難して親友4人を失ってしまう。
ぼくだけが生き残ってしまった罪悪感で今もずっと胸が張り裂けそうだ。
ぼくは学校で針のむしろ状態になり転校を余儀なくされた。
おもな批判の声を紹介しよう。
「親友たちを見殺しにした!」
「スキーの練習だといつわって登頂した!」
「山岳部顧問の先生は部員に手紙まで出して登頂を禁じていたのに!」
すべて事実だ。
ぼくは矢のような批判の嵐に耐えられなかった。
学校を包み込む悲しみからも遠ざかりたかった。
ぼくがいるとみんな遭難事故を思い出してしまう。
ぼくはあの日のことをよく振り返る。
ここからは回想だ。
1月4日ぼくは寝坊して待ち合わせの駅に大幅に遅刻してしまう。
みんなはそれぞれあきれたり怒ったりかばってくれたりなぐさめたりしてくれた。
ぼくは背中を丸めてぺこぺこ謝るしかない。
登山口にたどり着いた時はもうお昼になっていた。
ぼくたちは登山するかどうか迷った。
登山は早朝出発(早出早着)が基本だ。
午後からの天候急変(雷雨・霧)を避けて安全を確保するためである。
遭難も避けられる。
本当なら登山をあきらめた方がよかったけど、快晴だったし、亀水山は遭難するような山じゃないと言われていたから登ることにする。
気軽に登れる山だと思っていたし、ぼくたちは何度も登っていた。
でも、冬に登るのは初めてだった。
途中で高校生4人のグループとすれ違った。
頂上付近で急に悪天候になり暗雲が立ちこめる。
頂上にたどり着いたぼくたちは石室に入った。
下山するか助けを待つか話しあって多数決で下山を決める。
これも判断ミスだ。
ぼくたちは吹雪で下山ルートがわからなくなる。
猛吹雪のなかで3時間近くぼくらはあてもなくさまよった。
この日の山頂の気温はマイナス2度体感ではマイナス40度で唇が震え歯がカチカチするほど寒い。
冬の山は春や夏のさわやかな顔とはぜんぜんちがう厳しい顔を見せた。
ぼくらは冬山の怖さをまるで知らなかった。
さらに運悪くコンパスを風で飛ばされてしまう。
山に足を踏み入れた時から死神にロックオンされていたに違いない。
その夜、岩陰で野宿する。
吹雪の中で火をつける方法も勉強してなかったので暖も取れない。
雪洞の掘りかたも知らなかった。野ざらしで猛吹雪に耐えるしかない。
たまらず部員の1人がすべての装備品を全部置いて助けを呼びに行って来る!と下山する。
そいつは正義感が強く行動力のある少年だった。
翌朝。リーダーと他の部員2人は起きなかった。
意識を完全に失っていた。
心臓の鼓動はまだある。
ぼくはリーダーの近くに登山用ストックに布をつけて目印として置いた。
昨夜下山した部員の足跡を追ったけどいつまで経っても辿り着けない。
何度も倒れながら歩いた。途中で神社を見つけて燃やした。
温まりたいし誰かに見つけてもらいたい一心だ。
すると近くで人の声が聞こえた。
必死におーい!と叫んだ。
ぼくは発見されて助かった。
すれ違った黄グループはベースキャンプで一泊してぼくらが降りてこないことを不審に思い遭難の恐れがあると捜索隊に連絡してくれたのだ。
遭難するような山ではないと言うことで地元の警察は雪山登山用の装備を用意するのに1日かかっているけど、これは責めてもしょうがないことだ。
ぼくらがぜんぶ悪い。
悪天候が続いたことも捜索が遅れた要因だ。
ぼくらはつくづくツイてなかった。
入院先のベッドで他の4人の死の知らせを聞いた。
みんな凍死だ。
ぼくは心にぽっかり穴が空き涙が止まらなかった。
先生の言うように登頂するべきじゃなかった。
ぼくが遅刻しなけばよかった。頂上で助けを待つように強く意見すればよかった。
下山派の意見に安易に乗っかってしまった。
寒さと怖さではやく家に帰りたいホームシックのような気持ちが湧いたのだ。
リーダーは部員2人を抱き抱えて雪に埋まっていたそうだ。
小枝にマッチで火をつけようとしていた痕跡もあったらしい。
生への執着だ。最後の力を振り絞ったのだろう。
先行した部員はあと少しで山を降りられた場所で凍死していた。
さぞ無念だったろう。
回想は終わりだ。
何度もあの日のことを頭の中で思い返す。
みんなが生き残れた世界線は必ずあったはずだ。
クマくんとサルさんに鍛えられた今のぼくなら余裕で正しい判断が下せる。
けどタイムマシンもないしもう考えても仕方がないことだ。
転校したぼくはサルさんに誘われて登山部に入った。
了承したのは命がけの登山に挑戦するから力を貸してほしいと言われたからだ。
ぼくは1人だけ生き残ったことに罪悪感を感じていて雪山で凍死すれば彼らと同じ苦しさを味わえると思った。うっすらとした自殺願望だ。けして積極的ではない。
自分から雪山登山に行くつもりはないが誘われてしょうがなく登って凍死するならやむを得ない事故だ。せっかく助かった自分の命を無駄にするほど愚かではない。
雪山へのリベンジもしたかった。
今度こそ仲間を助けたい気持ちも強い。
登山を成功させれば親友たちへの供養にもなるんじゃないかな。
いろんな想いがぼくを後押しした。
新しくできた登山部の仲間はぼくの話を聞いてもぼくを責めることはなかった。
旅館でクマくんの部長就任を祝った時に部員たちにすべて話したんだ。
サルさんはどこかでぼくの話を仕入れたみたいですでに知ってたけどね。
クマくんは腕組みをしてうなった。
「う~む。若気の至りだな。雪山を登りたいが大人の許可が降りない。でも、どうしても登りたい。そうだ!大人にウソをついてしまおう!近所の山で何度も登ったこともあるから、たぶんだいじょうぶだろう!このようなきみらの心理は非常によくわかる。未知の世界へとチャレンジしたいと欲求は仕方のないことだ」
「あたしも山で何度か仲間を失ってるよ。親に嘘ついて冬山に登って尻尾巻いて帰って怒られたこともある。きみたちを責める資格はあたしにはないね。悲しいけど、登山は命懸けで自己責任だからカメゾウくんが気に止む必要はないよ。ちゃんと反省もしてるんだしさ」
「オレも山で友を何人も失った。就寝中の雪崩やロッククライミング中の滑落。悲しいが山ではよくあること。登山家はいつでも死ぬ覚悟がいるのだ」
「あたしは山が好きな人間が山で死ぬのは悪いことじゃないと思ってる。無理やり連れて行かされたり、知識なく訓練で死んだ人はかわいそうに思うけどね」
「オレも同意だ。カメゾウの親友たちはだまされたり無理やり誰かに連行されたわけではなく自分の意思で雪山に登った。不幸だとは思わん。山で死ねてうらやましい」
「登山は山との勝負で生きて帰れないと負けだから負けは負けだけどね。今度は勝とう!みんなの敵討だよ!」
「カメゾウくんのお友だちは生まれ変わってもきっと山が好きにちがいないぴょん!」
「山好きは死んでもなおらねぇってか。オレ様も姉を失ったからおめえの気持ちはわかるぜカメちゃんよ。生き残ったおめえが楽しく幸せに生きることがそいつらが1番望んでることだと思うぜ」
「ぜったいそうぴょん!」
「みなさん、ありがとうございます」
ぼくは笑顔でお礼を述べた。
「ぼくらの出会いは盲亀の浮木、優曇華の花ですね」
「なんだいそりゃ?」
「めったに起こらない奇跡的な出会いや、非常に幸運な機会を意味する仏教由来の言葉です。100年に一度浮上する盲目の亀が漂う流木の穴に入ること(盲亀の浮木)と、3000年に一度咲く伝説の花(優曇華)が出会うほど稀であることを表します」
「教養あんなぁ。まあ、そういうことだな」
「奇跡にかんぱいぴょん!」
ぼくらはコップを打ち鳴らしジュースを飲み干す。
その後、クマ部長による猛特訓がはじまった。
部員の中でもっとも山に適性がないぼくは必死でついていく。
そしてついに冬休みに突入する。
ぼくはサポートメンバーとして下山ルートの山小屋に待機することになった。
山荘はこの時期は閉まっているがクマくんとサルくんが登山界の有名人であることとお金にものを言わせて鍵をゲットしていた。食料や燃料は空っぽらしい。
「遭難した時の連絡や山小屋への食料や燃料の運搬は重要な役割だ。頼むぞ」
「わかっています。みなさんもお気をつけて」
「あたしたちが登頂したらカメゾウくんも登頂したことと同じだからね」
「もし遭難したらぜったい助けに来て欲しいぴょん!」
「オレ様はカメちゃんをこの世で1番信頼してるぜ。いままで出会ってきた中で1番誠実な男だ」
「背中はまかせてください。苦難におちいった時はかならず駆けつけましょう。足は遅いですが確実に到着します」
ぼくはみんなと別れて山頂付近の山小屋に向かった。
1週間分の食料と燃料を持っているので重い。
けど地道に歩いて目的の場所に到着する。
鍵を開けて中に入る。綺麗で快適な山荘だった。
ぼくが食料や燃料を無駄に消費するわけには行かないから2段ベッドで冬眠状態に入る。
起きた時は食堂の書棚に登山関係の本があるので読みながら過ごした。
2日目の夕方、サルさんから登頂したという連絡が入る。
電話を切ったあとぼくは1人で踊り狂った。
すぐに降りてくるから食事やお風呂の準備に取りかかる。
しかし気になることがあった。
窓の外に暗雲が立ち込めてきたのだ。
嫌な予感がする。
嫌な予感は的中して猛吹雪が襲来した。
この勢いで雪が降り積もれば胸の高さになる。
はたしてサルさんたちは山小屋までたどり着けるか?
ぼくはソワソワしながらみんなを待つ。
夜になっても帰って来ない。
ぼくは居ても立っても居られなくなりハンドラッセル片手に立ち上がった。
玄関を開けて猛吹雪の中に飛び込む。
想像以上の寒さと風の冷たさだった。
ぼくはひとつ深呼吸して気合いを入れる。
ぜったいにすぐ近くまで来てるはずだ!
こっちからも道を作る!
ぼくは胸まで積もった雪をかき分けて頂上に向けて道を作り始める。
ラッセルはクマくんに筋がいいと言われた得意分野だ。
おそらく最短のルートでサルさんたちは山小屋に向かってくるはずだ。
そう信じて道なきところに道を作っていく。
人生2度目の冬山でのホワイトアウトはかつてのトラウマを蘇らせる。
今度はみんなで生き延びる道を選ぶ!
死の運命なんてねじ曲げてやるんだ!
山の魔物など生への執念で打ち砕く!
無心で一心不乱にラッセルを続けた。
3時間で100メートルは掘り進めた。
もう限界だ。ひと掘りする力も残ってない。
完全にばてて手が止まる。
またぼくだけ生き残るわけにはいかない。
ぼくもここで死のう。
生への道をあきらめたその時、まっ白い視界の数メートル先に違和感を感じる。
なにか動いた気がする。
もしや・・・・
希望が見えた瞬間、限界だった体に力が戻る。
ぼくはラッセルのスピードを上げた。
道が開けてピンクレイヤリングのウサミさんが出現した。
ぼくを見て目を丸くしている。
「ウサミさん!」
「・・・奇跡ぴょん」
ウサミさんは倒れ込む。もう限界だったんだろう。
ぼくは彼女を抱き止めた。ビーフコンソメスープを入れた保温性最強の水筒だけは持って来ていたので彼女に飲ませる。
「・・・生き返るぴょん」
ごくごくとぜんぶ飲み干していく。よっぽど飢えていたんだろう。
「ぜったい寝ちゃダメですよ!」
ぼくは彼女をお姫様抱っこして全力ダッシュで山小屋に駆け戻った。
山小屋の中はすでに温めている。
ぼくは彼女をお風呂場に連れていく。
手袋と靴下を脱がして手足をシャワーのお湯で温めた。
「あとは自分でお願いします!ぼくは他の部員を助けます!」
「頼んだぴょん・・・」
「食堂にトンカツ定食とカレーとうどんも用意してますから!」
「かたじけないぴょん・・・」
ぼくはビーフコンソメスープを補充して猛吹雪の中を戻る。
ラッセルでつないだ道を走っていくと竪穴式の雪洞で寝ているサルさんを発見した。
「サルさん!しっかり!」
「・・・カメゾウくんナイス♩」
寝袋にくるまれたサルさんの顔は青白く唇は震えている。
寝袋から救出してウサミさんの時と同じようにスープでエネルギーを回復してもらいダッシュで山小屋に連れ帰った。
予想通り順番にラッセルして山小屋までの道を切り拓いていたようだ。
山頂付近はビバークに適した場所がない。
猛吹雪の中でのビバークは、山岳遭難において最も危険な状況の一つであり、即座に死に直結するリスクがある。低体温症や判断力の低下、落石、滑落、雪崩など、命を奪う要因が重なるため、最大級の警戒が必要だ。
山小屋まで突き進む手段を選ぶと思っていた。
ぼくの掘り進めた道とつながったのはウサミさんのいうようにホントに奇跡だ。
今回のぼくらは運がある。
次はウマオくんだ。
スープの補給をするために食堂に立ちよるとウサミさんがすでに水筒を持って待ち構えていた。
「大復活ぴょん!さあ行くぴょん!」
ウサミさんの顔は血色が最高にい。
食事でエネルギーが回復したようだ。なんて回復力だ。若さとは偉大だ。
「行きましょう!」
ぼくらは猛吹雪の中を走ってウマオくんの眠る雪洞に急いだ。
「ウマオくん!助けに来ましたよ!」
「まだ死んじゃダメぴょん!」
ウサミさんは凍死寸前のウマオくんにスープを飲ませる。
「最高にうめぇ・・・」
「すぐもっとうまいもんが食べられますよ!」
ぼくはウマオくんを寝袋から救出して背負う。
「まだスープ半分残ってるからわたしはクマくんのところに先に行くぴょん!」
気づかなかったがウサミさんはソリも持って来ていた。
準備がいい。あれでクマくんを運ぶつもりだ。
「お願いしましす!」
ぼくはダッシュで山小屋に戻る。
山小屋まであと少しのところで体に力が入らなくなる。
しまった!
長時間のラッセルと救急搬送で体力が限界だ。
でも、せめてウマオくんだけは山小屋に届けないと・・・
ぼくは歯を食いしばって一歩一歩進む。
山小屋の玄関で倒れる。
息が完全に切れていた。まだ重量級のクマくんが残っているのに。
回復までに1分はいる。
いまは一分一秒欲しい時なのに情けない。
もっと鍛えておけば良かった。
1秒遅くてクマくんを救えなかったら一生後悔する。
「バトンタッチ♩」
陽気な声がしてウマオくんがひょいと持ち上げられる。
見上げるとサルさんだ。
彼女もお風呂と食事で超回復している。
超人だな。
ぼくは無言で微笑する。
呼吸を整えて回復に専念する。
1分で体力がわずかに回復した。全開にはほど遠いが動ける。
サルさんが戻ってきた。
「動ける?」
「もちろんです」
「じゃあクマくんを助けに行こ!」
「はいっ!」
ぼくらはクマくんのところに向かった。
寝袋に入ったままのクマくんをソリで運んで来てた。
苦しそうな顔だ。思いのだろう。
「交代します!ウサミさんは後ろから押してください!
「わかったぴょん!」
「あたしは?」
「ぼくが力尽きた時に最後の詰めをお願いします!」
「ラジャー!」
ぼくはソリを引っ張る。想像以上に重いが一刻も早く山小屋に運ばなきゃいけない。
生命力を一滴も残さず運べるところまでクマくんを運んだ。
あと15メートルぐらい残して力尽きる。ぼくはひざから崩れ落ちた。
「もう限界です」
「あとはまかせて♩」
「ぼくは気にせず置いて行ってください」
「すぐ助けに来るぴょん」
サルさんとウサミさんはソリを山小屋に運んでいく。
猛吹雪が容赦なく打ちつけてくる。
雪の積もるスピードは想像をはるかに超えていた。
せっかくかきわけた道がどんどん埋まっていく。
これじゃぼくまで埋まってしまう。
ここまでか・・・
思い残すことはない。
未練は何もなかった。
天国で親友たちと会えるのが楽しみだ。
これじゃ雪に埋もれて助けてもらえない。
観念したその時、体がふわっと浮き上がる。
「みんなで生きて帰ろうぜ!」
ウマオくんはニカっと夏の海のような笑顔を浮かべる。
ぼくも笑い返した。
山小屋に戻ったぼくは風呂場に連れて行かれる。
風呂には先約がいた。
クマくんは先に入っていてもう復活している。
「・・・また生き延びてしまった」
「山の神に愛されてるんですよ」
「さて次はどこへ登ろうか」
「いまさっき死にかけたのにもう次ですか!?クマくんにはかなわないなぁ」
ぼくはあきれてしまう。
山に生きて山で死にたい。クマくんなら達成するだろう。
お風呂を出て食事をする。
大量に作った料理はみんなでぺろっと平らげた。
疲労がマックスなのですぐに眠る。
翌日は丸一日寝た。
外はまだ天気が荒れていて吹雪いていた。
翌々日、快晴が訪れた。
「祝勝会は下山してからにしよう!」
サルさんの提案で軽い朝食を食べてさっさと下山した。
みんなの顔が輝いている。
達成感で胸がいっぱいだ。
高級旅館に宿泊して宴会をする。
どんな登山だったのかみんなに聞くと想像を絶する過酷さだった。
「わたしは最後に亡霊を見たぴょん!」
ウサミさんは興奮して語った。
「世界中の冬山で死んだ亡霊が集まって応援してくれたぴょん!マラソンの時に沿道で応援する人たちみたいだったぴょん!」
「へーっ、ラッセルしてる時?」
「そうぴょん。もう限界で倒れた時に現れたぴょん。それで元気回復して掘り進めたぴょん。あれがなきゃ全滅だったぴょん」
「おおげさだなぁ。カメちゃんが反対から来てたんだから全滅はねーよ」
「いや、ぼくも限界でしたからね。全滅はあり得ましたよ。あきらめて死を受け入れてました。ウサミさんの姿がわずかに見えた瞬間、力が戻ったんです」
「亡霊たちの応援が2人に力を与えた可能性もあるね」
「有名な登山家もいたぴょん」
「だれだれ?」
「マロリーさんや文太郎さんぴょん。軍服を着た人たちもたくさんいたからわたしのひいひいおじいちゃんたちぴょん。あとみんなの家族もいたぴょん。カメゾウくんのお友だちも」
「ほんまかいな?どんな顔してた?服は?」
「えーと・・・」
ウサミさんは抜群の記憶力で自分が見た亡霊の特徴を答えて見せた。
ぼくは驚愕する。
ウサミさんの挙げた特徴はぼくの親友たちと一致している。
みんなも当たっていたのかぽかんとしている。
「ウサミちゃんに亡くなった人の写真見せた?」
「いいえ」
「見せないぞ」
「見せてねえよ」
「ってことはマジじゃん!幻覚じゃなかった!?」
「だから幽霊はいるってずっと言ってるぴょん」
ウサミさんは得意げな顔だ。
スピリチュアル全開の不思議ちゃんだと思っていたけど彼女の霊感は本物だった。
「ずっと見守ってくれたのかなぁ。ありがたい」
「雪山には悪霊ばかりじゃなくて善霊もいるんだな。オレがいつも見るのは悪霊ばかりだった」
「クマちゃんは死にたがりだからじゃねーの?ウサミちゃんは生きたがりだし、さまよう悪霊たちの供養のための登山っていう崇高な目的で動いているから悪霊も善霊もみんな応援してくれたんだろう」
「過酷で死にかけてまで自分たちのために行ってくれる供養だもんね。その健気でがんばる姿が悪霊を善霊に変えたのかもね。美少女だし誰だって応援したくなるもん」
「登山中、時間は短いけどちょいちょいお祈りしてきたぴょん。安らかにお眠りください。もう山で登山者を惑わさないでくださいって。サルちゃんの言ってた大きなご利益あったみたいぴょん」
「あのさウサミちゃん。いいにくいんだけどウサミちゃんを登山部に入部させるために過酷な山登りのほうがご利益が大きいって言っただけで山の神様は低山でも高山でも山を愛する者を差別しないと思うんだよね〜山に対する愛情の深い人を山の神様はひいきして可愛がるんじゃないかなぁ。ってことで山岳信仰はライフワークとしてこの先も続けてちょ」
サルさんはウィンクして手を合わせる。
科学的に証明できない理屈をこねてウサミさんを勧誘していたようだ。
よっぽどウサミさんを過酷な登山に引き込みたかったんだな。
彼女の聴覚や視力は貴重だ。
へこたれないがんばり屋さんだし運動神経も良く運も良さそうで悪いところがひとつもない。
サルさんはエゴイストの人たらしだ。
みんなを登山部に誘う時に「ぜったい供養になるから!冬山で亡くなった大切な人の魂に会いに行こう!」なんて言ってたけど、過酷な登山を達成するためにみんなの個性的な能力がどうしても欲しかっただけだ。
ぼくを選んだのは誠実で重荷を苦にせず仲間を裏切らない点を高く評価したと言っていた。
サルさんはクライミングだけじゃなく人間観察の目も優れている。
だからベストメンバーを集められた。
ウサミさんは肩をすくめた。
「あきれたぴょん。信じてたぴょん。それならこれからは無理して高い山に登らず低い山に登るぴょん。命がけの過酷なチャレンジはこりごりぴょん。みんなに山の良さを知らせる活動は続けていくぴょん」
「ありがとうさぎ!」
サルさんは手を頭に乗せてうさぎ耳を作る。
ウマオくんは髪をかきあげた。
「竪穴式の雪洞には参ったぜ。狭すぎて棺桶みてぇでよ。けど、ウサミちゃんのひいひいじいちゃんたちは6畳ぐらいの雪洞に軍人40人が立ちっぱなしでぎゅぎゅう詰めでおしくらまんじゅうしてたっていうからそれよりゃマシかなと思ったぜ。いちおう天井はテントで吹雪を防いでたし。軍人たちの雪洞は天井を塞ぐ木や布もなくて吹きさらしだったって聞くしよ」
「ぜったいマシだよ。だって軍人たちは殴り合って眠らないようにしてたっていうし」
「あやうくパトラッシュとネロになるところだったぜ」
「オレは三途の川を渡る夢を見て慌てて飛び起きた」
「寝てたら危なかったね。冬に窓を開けて寒さに耐える訓練してて良かったでしょ?」
「良かった。あれがなきゃ耐えられなかったね。まじ感謝」
「暗い道路を1人で走る訓練もしましたがあれはなんの意味が?」
「恐怖と孤独耐性だね。効果あったでしょ?」
「わかんないぴょん。あったかもぴょん」
「冬山に挑むならメンタル鍛えるのは大事ですね。鉄のハートが入ります」
「まあわたしは最初から全員生き残るってわかってたぴょん。死相が見えなかったぴょん」
「いーねースピリチュアル全開だね」
「登山前に聞きたかったぜ。そしたら安心して登れた」
「忘れたぴょん。テヘペロぴょん」
ウサミさんは舌を出す。
ぼくらはごちそうを食べながら夜更けまで歓談した。
高級旅館に一泊した後は解散して自宅に戻った。
翌日からぼくらは部室に集まりそれぞれカメラのデータを取り出して動画編集を開始する。
じつは登山の様子をぜんぶカメラで撮影していたのだ。
ぼくは自撮りが多かったけど、みんなはそれぞれ持ち回りで撮影していた。
持ち運びしやすい寒さに強い高性能カメラはスマホぐらいの大きさだ。
ヘッドカメラも装着してずっと回していた。
なので雪山登山を臨場感たっぷり味わえる。
視聴者は自分が雪山登山している気持ちになれるはずだ。
ネットで動画を公開するとめちゃくちゃバズった。
批判も多かったが、賞賛の声が上まわった。
ぼくらは世界的に有名になる。
動画配信による収入、キャラクターグッズ化、舞台化、映画化などの収入でぼくらは超大金持ちにもなる。名声も手に入れたし命がけの冒険にふさわしいごほうびを手にした。
ぼくらはテレビにゲスト出演して取材を受けた。
ものすごい視聴率だったらしい。
「いい子は真似しないようにね♩」
とサルさんが最後にしっかり釘を刺している。
ぼくらの冬山との戦いは終わった。
クマくんは相変わらず世界中の山を飛び回って登山ライフを楽しんでいる。
腕利きのハンターとして害獣駆除でも活躍している。
最後は山で死んで山の神様のもとに行きたいと話している。
サルさんは高い山が怖くなったのか高い山を登るのを辞めて低山やボルダリング施設でクライミングするようになった。
本人いわく高い山が怖くなったのは気力のおとろえが原因だそうだ。
人生最大の目的を達成したので登山に対する気持ちが弱まりクライミング中に集中力が高まらなくなったとのこと。集中力を欠いた崖登りはケガのもと。
低い山や施設でのボルダリングでじゅうぶん満足しているらしい。
ウマオくんは山が気に入り山小屋のオーナーになり登山客をもてなしている。
女性客がウマオくん目当てで登山するようになった。
登頂せず山小屋で宿泊したら帰る女性もいるようだ。
イケメン登山家としてタレントとしても活躍している。
それからぼくとウサミさんは付き合うようになる。
ウサミさんはぼくに抱えられた時にぼくに惚れたみたいで告白されてしまった。
ぼくのほうは一眼見た時から美少女の彼女のことが好きだったから告白されてうれしかった。
カメとうさぎという山岳信仰の宗教を2人で作った。
カメがうさぎを運ぶイラストが目印だ。
信者さんたちと山登りする時は下調べをしっかりして遭難防止のために低い山を登っている。
牧歌的な安心安全な登山だ。命は何よりも大事だからね。
みんなからよく「死ぬ思いまでしてよく山を嫌いにならなかったですね?」
と聞かれる。
でも、ぼくは楽しかった。生きてるって感じがした。
山はやっぱり楽しい。
ほかの部員もみんな同じ感想だった。
ぼくらの登山の話はこれでおしまい。
最後に祈らせてください。
この世界に住むすべての人が山を愛しますように。
参考文献 【実際にあった高校生遭難事件を描く】「空と山のあいだ -岩木山遭難・大館鳳鳴高生の五日間-」
引用 高校生の身に一体何が起きたのか?地形図で解説!!【岩木山遭難事故】youtube




