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魔の山  作者: こたつぬま
2/5

不死身の男

参考文献 引用 Wikipedia 登山条例 

オレは熊野鉄造15才。

孤高の天才クライマーだ。

中学生とは思えない巨躯きょくの持ち主である。

自然が好きで子供の頃から暇さえあれば野山を駆け回って遊んだ。

おかげで筋肉ムキムキで無尽蔵なスタミナを誇る。

みんなはオレをクマと呼ぶ。

光栄なあだ名だ。

友だちはいない。

内向的で口下手な性格が災いして人が寄って来ない。

でもそれでいい。

オレは1人が好きだ。

孤独を愛している。

どうせだれもオレを理解できない。

オレの心を理解できる人間など存在せず山だけが唯一オレの理解者だ。

登山は3才から始めた。

趣味が登山の親父が赤子の頃からオレを登山に連れて行ってくれた。

親子で登山していたが、親父が7才の時に雪山で遭難死してからは単独登山している。

親父が遭難した時の登山にはひどい熱が出て同行できなかった。

運命の別れ道だ。同行していたら死んでいただろう。

親父が死んでからおふくろはオレまで山で失うのが怖かったのか山を辞めてくれと言った。

おふくろのためにオレは山に登ることをあきらめた。

しかし毎日、やる気がなく顔色の冴えないオレを見ておふくろは山に登って良いと言ってくれる。

山から降りたオレは死人同然だ。

山に登っている時は気持ちが高揚して生きている実感がある。

無愛想だが山のことを考えるだけで笑みが浮かぶ。

オレは山でしか生きられない人種なのだ。

登山家にはそういう人種も多い。

夏山になれたオレは10才の時から本格的に冬山登山を開始する。

初心者向けの冬山に登り、慣れてきたら上級者向けの雪山に登った。

難易度が高くなるにつれて道のりは険しくなり登頂した時の達成感が強まる。

登山はとにかく金がかかる趣味だ。

登山ガイドで金を稼いだ。

それでも海外遠征には足りない。

世界的な名山を全制覇したいという夢を叶えるためには莫大な銭がいる。

トレイルランニング(舗装されていない登山道、林道、砂利道などの「未舗装路トレイル」を走るアウトドアスポーツ)に出場して優勝賞金を根こそぎかっぱらった。

国内の大会だけでなく海外の大会でも優勝しまくった。

体の鍛えかたが他の連中とは違うのだ。

オレは北アルプスで吹雪の雪山を31時間歩いたこともある。

夜も眠らずに歩き続けた。

目的の山小屋に到着しないと死ぬからしょうがない。

若気の至りでテントもツェルトも持っていなかった。

31時間ぶっ通しで歩いた時は目当ての山小屋が取り壊されていたので元きた道を引き返し最初の山小屋に戻った。

並の登山家が4日かかるコースを1日でクリアしたこともある。

驚異的なスタミナとスピードの持ち主のオレだからこそ実現可能だった。

常人なら確実に遭難死している。

オレは山に愛されている。

山では超人になれる。

山に一歩足を踏み入れると力がもりもりみなぎるのだ。

オレは過酷な環境を追い求めて厳冬期の北アルプスを横断し、氷ノ山では凍死しかけた。

冬山で死にかけては必ず生還するオレを周囲はいつしか「不死身の男」と呼ぶようになる。

天才少年登山家としてテレビにも何度も出演したしエナジードリンクのCMの仕事もこなした。

登山雑誌にも掲載された。

お金はいくらあってもいい。新しい登山道具や海外の名山に登る遠征費用だ。

中3の春。

新学期がはじまって1週間が経過した。

オレは山に集中するために帰宅部だ。

クライミング施設やジムに通ったり近所の山に登りに行っている。

相撲部や柔道部の誘いもすべて断った。

教室を出たところでサル顔の女子生徒に声をかけられる。

「こんにちはクマちゃん。あたしのこと知ってるかな?」

「もちろんだ。猿飛空。オレはきみをライバルだと思っている」

「恐悦至極だね。あたしのことはサルでいいよ。相談なんだけど、一年間限定で登山部を作ったの。クマちゃん部長になってくれないかな?」

「断る。オレは単独登山が好きだ。足手まといはいらん」

1人のほうが自由気ままに山登りができる。

難関に挑む時は登山に精通した仲間を集めるが多くても3人だ。

子供の頃はまだ肉体的にも精神的にも技術的にも未熟で登山技術を教えてもらうために山岳会に属していたがとっくに脱会している。

オレは群れるのは嫌いだ。永遠の一匹狼でありたい。

オレは何者にも縛られたくないのだ。

部活動で仲良くわいわい山登りなどしたくない。

「メンバーを見てから決めてよ」

「部活動で登る山なんてどうせ低山ばかりだろ?低山も好きだがオレには物足りん。なぜ部活動など作った?登山の良さを知ってもらい登山愛好家を増やすためか?山は神聖な場所だ。静かなほうがいい。物見遊山の素人など山を汚すだけだ」

「そんなんじゃないって。まあ、くわしくは部室で」

「時間の無駄だ」

「残念だなぁ。甘納豆用意してるのになぁ」

「部室に案内しろ」

甘納豆はオレの大好物だ。

高糖質でエネルギー転換が早く軽量で携帯しやすい登山における優秀な行動食だ。

暑さ寒さにも強く手軽に糖分補給ができるため特に長時間の縦走や疲労時のエネルギー補給に最適といえる。

校舎裏のプレハブ小屋に向かう。山岳部の看板がかけられていた。

「クマちゃん呼んできたよ♩」

部室に入ると3人の生徒が椅子に座ってくつろいでいた。

登山雑誌やモデル雑誌を読んだりスマホを操作している。

オレを見て立ち上がった。

「いらっしゃいぴょん♩」

「ご高名はかねがねうかがっております」

「でけぇな。山男の見本みたいだぜ」

だらしなく着崩した長髪の美少年、背の低い眼鏡のガリ勉坊や、雪のように白い肌の美少女は笑顔で迎え入れてくれる。

クロスの敷かれたテーブルに甘納豆の入ったお皿と熱い緑茶、甘納豆ぜんざいが用意されていた。

ごくりと喉が鳴る。甘い匂いに食欲が刺激される。

オレの好物を調べて接待とは子供のくせにやるな。

話だけは聞いてやろう。

「座って座って」

オレは着座する。

「どうぞ食べて」

「いただこう」

オレは甘納豆を口に含む。うまい。デリシャスだ。

緑茶も渋みがあって最高だ。甘納豆ぜんざいも良い味付けだった。

ペロっと食べつくす。

サルはオレを上目遣いで見る。

「このメンバーなんだけど、どうかな?」

オレは3人の本質を見抜くために眼力を発揮する。

「ウマにカメにウサギか。登山には向いてないな。登山に向いているのはクマだけだ」

「サルだって山にいるよ?」

「集団でな。群れねば生きられぬ奴に登山は無理だ。登山とは孤独との戦いだ」

「むきー!テストしてよ!」

「いいだろう。茶菓子の礼だ」

オレが懇意にしているボルダリング施設に向かった。

「1番難しい課題をクリアして見せろ」

オレは3匹に指示する。サルは見るまでもない。岩壁登りの世界チャンピオンだ。

「オーケー牧場」

「了解です」

「挑戦こそ我が人生ぴょん」

ウマ、カメ、ウサギは課題を楽々クリアして見せた。

ほう。なかなかやるな。筋肉のつきかたもいい。

「実は春休みを利用して3人を鍛えてたんだよねぇ。クマちゃんがテストすることを見越してさ」

サルは得意げに笑う。読まれていたか。だが、簡単にクリアさせん。

「実践が大事だ。明日は山登りする。登山道具は持っているか?」

「みんな持ってるよ。部費で買ったの」

明日は土曜日で休みだ。ちょうどいい。

「明日5時。学校の裏山に集合だ」

翌朝、登山ファッションに身を包んで全員集合していた。

オレが用意したのは30キロの縦走コースだ。

縦走じゅうそうとは、ある山の山頂に登った後、下山せずに尾根(稜線)を伝って、次の山へと連続して歩く登山スタイルのことである。

複数の山頂を経由しながら長距離を歩くため、そのスケールの大きさや達成感、稜線からの大絶景が魅力だ。

「オレについて来れたら認めてやる」

オレは走りはじめる。

トレイルランニングだ。

手加減するつもりは一切ない。

美しく伸びる稜線のすばらしい景色を堪能しながら山から山へと走る。

走りながら甘納豆を食べて3時間ほどでゴールに到着した。

オレは手頃な岩に座ってやつらを待つ。

山の空気はうまい。晴天で景色も最高だ。

10分後にウマオが到着する。

「ヒヒ〜ン!クマちゃん足はやすぎっぜ」

「やるなウマオ。青瓢箪あおびょうたんじゃなかったようだな。見直したぞ」

「もうくったくたよ」

ウマオはヘナヘナと座り込む。ぜーぜー息をしている。

馬だけに脚力と体力はあるようだ。いい足をしている。

30分後にウサミが到着する。

女にしてはそうとう早いな。

「狼に追われる気持ちで走ったぴょん♩」

「ナイスランだ。ウサミ」

「つかれたからもう寝るぴょん!」

ウサミはリュックを枕に寝転がる。ブランケットをかぶって寝息を立てた。

ウサギとカメを思わせる光景だがウサミはちゃんとゴールしている。

1時間後にサルが到着した。

「いやぁ、まいったまいった。こりゃきついね〜」

「登山初心者に負けるとは情けないぞ」

「いやいや初心じゃないのよ。こうくると思って、このコースで修行させたの」

「いい読みだ」

「でしょ♩」

2時間遅れてカメが到着する。

「みなさんすごすぎます。お待たせしてすみません」

「気にするな。登山に不向きな体でよくやったカメゾウ」

「ありがとうございます」

カメは両手を広げて仰向けに倒れ込む。

小柄で鈍足だが粘り強い奴だ。

「みんなナイスガッツでしょ?どうどう?合格?」

サルは体を横に揺らす。

「まだだ。岩壁のあるコースで帰る。岩壁を登れるかチェックだ」

「えーーーーっ!」

3匹は悲鳴をあげる。

「15分休んだら出発する」

「は~いぴょん」

「やるっきゃねぇな。目にもの見せてやんぜ」

「わかりました」

「よし!じゃあ、カメくんのマッサージをみんなでしよう!」

サルたちはカメゾウの全身をマッサージする。

疲労の蓄積を防ぎ、膝痛や腰痛の予防に効果的だ。

先に到着したメンバーもマッサージをしていた。

あとから到着したメンバーのマッサージも手伝っていてなかよしこよしだ。

登山前に入念なストレッチもしていたな。こいつらはかしこい。

山に対して油断が微塵もない。出発前に荷物チェックしたが準備もしっかりしていた。

サルの教育が行き届いている。

チームワークもいい。

鬼気迫る形相で走る姿は山に負けるもんか!という強い執念を感じた。

現時点でオレの評価は最高だ。

クライミングで失望させないでくれよ。

そびえ立つ岩壁に到着した。

サルは両手を腰にあてる。

「あたしがトップで登ってリードするよ」

そのやりかただとルートを選びはサル任せだ。テストがひどく簡単になる。

「ずるいな」

「いやいや。ほんちゃんでもこのやりかただし」

本番に即しているなら認めざる負えない。

「わかった。それでいい」

テストは開始された。サルがスルスルと岩壁を登っていく。

さすがクライミング大会の世界チャンピオンだ。スピードも圧倒的だった。

スピードクライミングの世界チャンピオンでもあるからな。

さすがのオレも舌を巻く。

ルート選びもいい。1番難易度が低いコースを瞬時に見極める力がある。

サルに続いて3匹とも楽々岩壁をクリアする。

こいつら天才か?

初心者のくせにベテラン登山者のような洗練された動きだ。

いや待てよ。岩壁がはじめてではないのかもしれない。

「こいつら岩壁ははじめてじゃないな?」

「じつはこの岩壁でも修行させたの」

「さっきのえーーー!はなんだったんだ?」

「いちおう言って見ただけぴょん」

「こいつら天才か!?ってクマちゃんに思わせたかったのさ」

「2人のサル芝居にお付き合いしました」

「登山の基本スキルは持ち合わせているようだな。合格だ」

「やった〜〜〜〜ぴょん!」

「よっしゃ!」

「春休みをつぶしてがんばった甲斐がありました」

「部長を引き受けてくれるってことだね?」

「うむ。引き受けよう」

オレは登山部部長に就任する。1年だけこいつらのお遊びに付き合おう。

命がけの登山はしばらくおあずけだな。

「クマちゃんの歓迎会を開くよ。すでに高級温泉旅館を予約してあるんだ。はやく降りて行こ」

サルは準備がいい。

オレたちは下山して温泉に浸かった。

乾杯して豪勢な食事に舌鼓を打つ。オレは大好物のシャケに食らいついた。

「じつはクマちゃんを誘ったのは理由があるんだよねぇ。国内に残された超難関の未踏ルートに挑戦したいんだ」

「なるほどそういうことだったのか。野心家だな。しかし、国内に未踏ルートなどあったか?」

「富山県・獅子牙岳の最難関ルート獅子牙尾根の厳冬期初登攀げんとうきはつとうはんだよ」

「!?」

オレは目を見開く。

「条例違反だ」

「条例はもちろん破るよ」

いっさい罪悪なしなのが怖いな。無邪気な狂気を感じる。

登山条例とは山岳遭難の防止を目的として、山岳地域および山頂に入る登山者を対象に、登山届の提出を義務化することを柱とする条例だ。

日本国内では第二次世界大戦以降山岳の観光地化が進み登山者が増加したが、弊害として踏破困難な登山ルートに経験実力のない登山者が安易に挑戦することが増え、このような登山者の遭難事故が続発し社会問題となったことから富山県、群馬県などでは登山条例を設け、登山の安全に関わる季節やルートに対して規制を行うようになった。

「むかし富山県をあざむいて挑戦した登山家グループがいたな。安全なルートで登頂すると偽り危険なルートに挑んだ。3人とも死んでいる。嘘ついたあげくに失敗して世間からとてつもない批判を浴びた。死者に鞭打つとはあのことだ」

「じつはリーダーはあたしのひいおじいちゃんなんだよね」

「なんだと!?」

「あたしが登山することに両親が大反対だったのはそのせい。両親は隠していたから自分で調べて気づいたの」

「そうだったのか。オレはきみのご先祖さまは勇敢だと思うぞ。リスペクトしている。世間の声など気にするな」

「ありがとうクマちゃん」

「彼らは生きて帰れなかったが、登頂自体は果たしていたという説もある」

「生きて帰れなかったら意味ないよ。そんなの記録にならない。ひいおじいちゃんは山に負けたんだ」

「山への復讐か?」

「まあね。だけど、ひいおじいちゃんの敵討だけじゃなくて純粋にあたしが挑戦してみたい気持ちもあるよ。いまこの歳で命を賭けた自然との勝負がしたいんだ。肉体がおとろえて気力が尽きるまえに」

「オレは山に生きて山で死にたいが犬死にはごめんだ。ちゃんとした登山計画はあるのか?」

「もちろん!」

サルはウキウキと登山計画を語った。

運頼みの部分もあるがなかなかどうしてよく練られている。

人選もいい。

これならワンチャン登頂を成功させて生きて帰れそうだ。

「わかった。オレも参加しよう」

「やったね♩百人力だよ♩」

「オレはいいがこいつらは山で死ぬ覚悟をしているのか?

冬山登山なんて死ににいくようなもんだぞ?自殺行為だ」

オレはほかのメンバーを見やる。

「覚悟してるぴょん!」

「どうせ死ぬなら人生で1番美しい時に死にたいんでね」

「受験に敗れて命を断つ受験生もいるんですよ?山に敗れて死ぬほうがはるかにマシな死に方だと思います」

3匹ともあっけらかんとしている。

「気に入った」

オレは果汁100%のぶどうジュースをあおる。

「この子達もそれぞれ山に因縁があるんだよ」

「ほう。聞かせろ」

「じゃあ、わたしから話すぴょん!わたしは・・・」

ウサミが語り始める。

続いてウマオ、カメゾウも語る。

どれもとても興味深い話だ。

3匹とも並々ならぬ想いを冬山に対して持っている。

山に勝とうとする執念の源泉はこれだったのか!と理解できた。

じつはオレにも冬山に対して因縁がある。

こいつらにばかり語らせるのは良くないな。オレは自分語りをはじめる。

「知っているかもしれないが、オレの親父も山男だった。オレが7歳の頃に亡くなっている。親父は登山家としては3流だった。

亡くなった時点で登山歴40年だったが運良く生き残っていただけの男だ。

登山するのにラジオを持たず天気を確認することもなかったぐらいだからな。

親父はリーダーとして仲間10人を率いていたが、たびかさなる判断ミスで全員死亡した。

戦犯として親父は世間から大バッシングを受ける。リーダーのくせに登山届けも出さずラジオも持たずに全員を死地に追い込んだ、とな」

「知ってるよ。登山界では有名な話だからね」

「知らなかったぴょん」

「同じく」

「ぼくはネットで調べました。福島県・七妻連峰なづまれんぽう雪山遭難事故ですね。8年前の2月11日土曜日に事故は起こりました」

「だらしない親父だったがオレは好きだった。子煩悩でやさしい人だったからな。だからテレビのインタビューで反論したよ。

親父だけの責任ではないだろ?

メンバーがだれもラジオ持たず天気も確認せず家族に登山計画伝えてないっていうのはひどくないか?と叫んだ。

オレの反論もまた大バッシングを浴びた。

だがオレは思うんだ。

ネットがない時代とはいえ雪山の危険に関する情報はその気になれば簡単に入手できる。

それさえしてないのはメンバー全員自分の命は自分で守る!という意識が低すぎる。

リーダーが全て完璧に用意してくれるだろうというという甘えが招いた悲劇だ。

忙しくても準備する時間はじゅうぶんあったはずなんだ。

登山は半年前から計画されていたことだからな。

リーダーの力量不足も問題だが、メンバーの他力本願寺も問題だ。

登山では命は自分で守るもの。

全員準備と覚悟不足で山に入る資格なし。

そう思わないか?思わんだろうな。

きさまらに愛する親父が世界中から誹謗中傷を浴びたオレの気持ちがわかるか?

オレの気持ちを理解してくれる人間はだれもいない。

気持ちがわかるという人間もいたがウソだ。

いったいオレの何がわかる?

オレを理解してくれるのは山だけだ」

オレは涙ぐみグビリとぶどうジュースを飲む。

「幼い身で大人から容赦ないバッシングを受けたせいで人間不信になったようですね。

クマくんが他者を寄せつけない理由がわかりました。

人は日々そばにある死線に鈍感すぎます。

もっと死に対して臆病になるべきなんです。

死に無頓着だから冬山という死地に覚悟も準備もなく踏み込み猛吹雪という魔物の手がすぐそこに迫るまで気づかない。危険察知能力が低すぎます。

遭難事故は多いですが、登山の途中で1人だけ下山して命が助かった登山者も多い。

自分の力量や天候などから嫌な予感がして引き返したんです。

彼らは周りに流されない意思の強さを持っていたのです。

守護霊様が守ってくれたのかもしれない。

運がよければ人生の中で出会った誰かが雪山の危険性を説き情報を与えてくれてそれが強く記憶に残ったかもしれない。

命を救う情報にめぐりあうだけの運がメンバー全員になかったのです。

けしてクマくんのお父さんだけの責任ではありませんよ」

「メンバー全員、死ぬべくして死んだな。メンバーに1人でも人生のどっかで自分の考えの甘さによって命の危機に陥りそこから脱出した経験があれば、雪山に挑む危険性を理解して準備万端で登山に挑み生きて帰れただろう。危険察知能力が全員ないパーティだったのが運の尽きだな。クマちゃんのいうように親父さんだけの責任じゃねーよ」

「翌日に会社に出社するために吹雪に中で下山を急いだんだよね。1日小屋でじっとしてれば翌日は嘘みたいな晴天だったんだ。責任感が強いのはいいけど、会社の評価より命を大事にすべきだね。あたしなんて海外遠征で登山する時は平気で学校休むし。自分優先だよ」

「その日、わたしは友だちと雪合戦してたぴょん。同じ日に吹雪の中で遭難して震えてた人たちがいたなんて思いもしなかったぴょん。合掌ぴょん」

サルはオレンジジュースを一気飲みしておもいのたけを叫ぶ。

「無計画だ!とか命を無駄にした!とかいうけど、あたし山が好きだし山を愛する人間が山で死ぬのはそんなに悪いことじゃないと思ってるんだ!みんなに迷惑かけた!っていうけど、他人に迷惑をかけない人間なんてこの世にいないしお互い様じゃないかな!」

みんなのやさしさが身に染みる。

こいつらはいいやつだ。

オレは涙ながらにみんなに感謝の意を伝えた。

気づけば布団に寝かされていた。

寡黙なオレは8年分の想いを一気にしゃべったことで脳が疲労して寝落ちしてしまったようだ。

それから冬までの間、オレはオニの部長として部員たちを鍛えに鍛えた。

学校を休み雪の残ってる山に遠征してもう特訓だ。

雪山歩行の基礎、吹雪の中での火の付けかた、雪洞のつくりかた、雪山ラッセル(雪の中を掻き分け、踏み分けて道を開きながら進む行為)の手順、アイゼンやピッケルを駆使した技術、雪崩なだれが起きやすい場所の知識などの雪山で必要な知識と技術をオレの知りうる限りすべて叩き込んだ。

みんなよく着いてきてくれてた。

こいつらはけしてへこたれない根性がある。

彼らの情熱は吹雪でも消せない炎のようだった。

1人の脱落者も出ないまま冬休みを迎える。

オレたちは家族に旅行だと偽り、富山県・獅子牙岳に向かった。

参考文献 「じゃあ乾杯♪」雪山を甘く見たメンバーの残酷すぎる結末とは…1994年 吾妻連峰雪山遭難事故【地形図とアニメで解説】YouTube動画

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