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第五話「愛の交錯」

今作は一番濃いボーイズラブ表現があります。

あれから俺たちは、植物の研究を続けた。

それと並行するように、染井の研究の情報収集もしていた。

染井のホムンクルスの研究に関しては、組織が無くなった今でも、俺たちが調べる対象だった。


そして、情報収集をしているうちに、とんでもない計画を発見する。

オルタナティブワールド計画だ。

空間の一点に仮想の空間の広がりを作るという、世界どころか宇宙の存続を揺るがす恐ろしい研究だ。


俺たちにできることは何なのか。


「はぁ・・・。俺たちはあまりに無力すぎる。俺たちに何ができるってんだ。」

「咲人、まだ諦めちゃダメ。」


弱気になっている俺を、晶が抱きしめる。

そして、晶は俺に顔を近づけてくる。


「晶。そうだ、俺には晶がいるから・・・」


俺は晶と唇を交わす。

俺が優しい口づけをすると、晶が深くまで踏み込んでくる。

そして深い接吻は、二人の落ち込みをなだめる。


「僕たちがすることは、愛を紡ぎ続けること。」

「ああ、今までと何も変わらない。」


俺たちが研究を続けているうちに、オルタナティブワールドは完成してしまった。

影響は凄まじく、世界は一気に混乱を起こした。

裏組織は、染井からオルタナティブワールドを奪おうと必死になり、裏保育や医療などは人経費削減により事件多発。


裏社会の混乱は、表社会にも影響が出る。

真っ先に戦力として利用されるのは、魔術系警察や治安部隊。

表社会だって、上の組織は裏社会との繋がりが深く、裏社会に支えられているのだ。

政府だってそうだ。政治家は皆仕事を投げ出し、誰が一番先にオルタナティブワールドを奪えるかの競争に走っていく。

そうなれば、犯罪は大量に起こり、治安は崩壊する。


影響は国内だけに留まらず、全世界の問題へと発展する。

世界が絡むとなれば、必然的に戦争が始まる。

オルタナティブワールドを所持している我が国に仕掛けるのではなく、奪い合いの相手と戦争するのはさすが人類と言ったところだ。


何故皆そこまで必死になるのか、俺たちは知っている。

オルタナティブワールド内は、膨大な魔力に満たされている。

そして、植物と深く繋がれるため、魔導書無しで強力な魔術を短詠唱で発動できる。

いわば、あの世界にいる全員がさくらになれるようなものだ。

それを手に入れれば、世界を支配したも同然。

そりゃ皆、血眼になって求めるわけだ。



―――――謎の基地



「明らかに敵である俺たちの力が必要になったって訳だな。」

「今は同じ目的を持った味方同士だからね。」


そこには沢山の仲間がいた。

かつて敵だった魔術の森の人間たち、そして全く新しい人達。


「今回の計画を統括する、夏目(なつめ) 涼太(りょうた)です。お久しぶりです。」

「キャスター役の、野守(のもり) 玲音(れおん)です。」


「植物研究家、牧野(まきの) 咲人(さくと)です。」

「同じく植物研究家で、今回のキャスター役、野伊(のい) 晶(あきら)です。」


「魔術の森の会長、野守(のもり) 宗一(そういち)です。」

「魔術の森のライター、天見(あまみ) 日影(ひえい)です。」

「魔術の森のキャスター、天見(あまみ) 晴菜(はるな)です。」


「基地にこれだけの人が集まるのは初めてだな・・・ こんな狭い中じゃまともに会議もできない。まずは改築だな。」

「それなら問題ないよ、涼太。私が地下に会議室と寝室を作っておいたから。」

「さすがね、瑠音。」


染井のオルタナティブワールドに対抗するために、新しいオルタナティブワールドを作るという計画だ。

それに俺たちは参加することになった。

俺たち含めて十三人・・・ か。

ここまで大がかりな計画は、雲の時ですら経験したことがない。

しばらくは、この優雅な基地の中で、計画を遂行しながら暮らすことになるのだろう。


会議が始まり、ライターとキャスターの役割を知らされる。

今回の魔術はとても大がかりなものなので、ライターの俺は複数人で協力して魔術を書く。

そして、キャスターの晶は、彼に割り当てられた魔術を発動する。


今回の会議の内容は、情報の確認とチーム構成についてだ。

夏目達が持っている情報と、俺たちが持っている情報を合わせると、もうすでに魔術の全体像が見えてくる。

初の会議ということで手短に終わり、俺たちは風呂に入ることになった。


「夏目、俺たち二人が男子風呂に入るときは、二人きりにしてくれないか。」


「時間を被らせないように配慮してくれるなら、全然構わないぞ。」


俺たちは風呂に入る。

まずはシャワーで軽く体を流し、大きな浴槽を二人占めする。


「いやぁ、相変わらずぶれないね、あの人たち。」

「そうだな。まさかこんなに簡単に俺たちを受け入れてくれるなんて、思ってもいなかった。」


今日は、仕事の緊張をほぐすように談笑しながら風呂に入った。

全員に軽く挨拶をした後、慣れない環境に適応するために、すぐに寝室へ向かう。


「僕たち、二人部屋なんだね。」

「大体、カップルで一部屋らしいな。あの大橋って奴、なかなかやり手だ。」

「で、どうするの?」

「そりゃあ、まず緊張をほぐさないとな。」


俺は晶を見つめる。

見つめ合う二人の心は高ぶり、晶がキスを求めてくる。

俺は晶に優しく口づけをした。


キスをしていると、妙に安心するのだ。

安心が過ぎるとそれは欲望に代わり、俺は晶の首筋へと舌を這いずりまわす。

晶がくすぐったそうにしながらも、俺を求めているのがわかる。


「晶、可愛い。」


このままいつものように愛を交わし、眠りにつく。

晶の頭を撫でていると、いびきが聞こえてくる。


「ぐー。すぴー。」

「寝ちゃったのか。晶も、結構疲れてたんだな。」



―――――二日目



二日目の会議も、特に問題なく終わった。

今日の風呂は、皆が入った後に俺たちが入る。

佳乃というホムンクルスが、早く女子風呂を上がったので、俺と晶は彼女と話をしていた。

彼女は、染井がオルタナティブワールドを作るためだけに生まれた存在。

しっかりとした自我を持ち始めた頃から、彼女は生きる意味を求め始めたというのだ。

意外にも、晶より俺のほうが佳乃と気が合った。


「誰かの為に生きるってのは、どうだ?」

「とても素敵だと思います!」


軽くアドバイスをして、俺たちは風呂に入る。

ぬるま湯の浴槽に入りながら、晶と会話する。


「こうして温まってるとさ、心まで温まってこない?」

「そうだな。そして、今の晶は欲望まで温まってるみたいだ。」

「勘が良くて助かるよ、咲人。」


晶のほうから強引にキスをしてきた。

風呂で温まっている唇の温度は、俺の心まで溶かしていった。

晶からくるなんて珍しい。

きっと、晶は感じ取っていたのだ。


俺と佳乃の関係に。


二日目の夜は、昨日よりも激しく求め合った。

晶の身体は改造されたまま戻していないので、まるで女の子が相手のようなのだ。

誘ってきたのは晶なのに、快楽に溺れているのも晶自身だ。

まるで何かから快楽に逃避するように。


「今日の僕、いつもと違ったでしょ?」

「ああ、心というか、魂が違ったな。」

「流石に疲れた・・・ 僕はもう寝るよ。」

「俺も寝る。身体の疲れを取らないとな。」



―――――三日目



仕事の後、俺は佳乃に呼ばれ、部屋に行った。

彼女は大橋がルームメイトだが、大橋は部屋に居なかった。


「私、誰かのために生きることにしました。そう考えると、とても気が楽になりました。」

「それは良かった。相手が見つかるといいな。」

「いえ、もう見つかったのです。 あなたは、花を愛してくれますか?」


佳乃に上目遣いで、そう言われた。

俺が花好きなのは佳乃にも話した。

だが、そういうことではないのだろう。

佳乃が背筋を伸ばすと、花が揺れるかのように髪をなびかせる。

花の女の子・・・ 俺がいつか夢見た・・・

何を考えているんだ俺は。


「俺には晶がいるんだ。すまないが、諦めてくれ。」

「そんな顔で言われても、説得力がありませんよ。自分の心に正直になってください。」

「はぁ・・・ とりあえず、今日はここまでにしてくれないか。」


キャスターは大抵勘がいい。

究極のキャスターである佳乃のような存在なら、勘の良さも相当だろう。

晶には言いにくいが、どうせ勘繰られるのだろう。



―――――五日目


四日目も佳乃に誘われたが、また適当に流して終わりだった。

このまま放っておくつもりだったが、五日目の風呂の時、ついに晶に言われた。


「佳乃との件、どうするの?僕は別にいいと思うけど。」

「別にいいと思うって、晶は嫌じゃないのか?」

「僕を捨てるわけじゃないんでしょ?咲人なら関係性もうまく保てると思うけど。」


あんなに必死だった晶がこんなことを言うのは、すごく意外だった。

彼も彼なりに、色々心の整理をしたのだろう。

まったく、晶に一人きりで悩ませるなんて、俺は何をしているのだ。

その夜、佳乃との件についてさらに詳しく話した。


「佳乃と子供を作りたいんでしょ?」

「そういうことか。」

「やっぱり僕も、さくらの件、心残りがあるみたい。」

「俺もなんだよな・・・。」

「これからも生きる意味が必要だからね。咲人が佳乃と結婚して、僕と咲人と佳乃、そして子供の家庭で暮らせたら、どんなに幸せなことか。」

「明日、佳乃とちゃんと話してくるよ。」


こうして、五日目の夜は進展で終わった。



―――六日目



「佳乃、話がある。」

「はい、待ってました。」


俺たちの考えについて話したところ、佳乃はあっさりと認めた。

たとえ三角関係でも、三人全員が認めていれば、なにも問題ないのではないか、そう思った。


「咲人さん、好きです。」


佳乃に優しく熱く抱きしめられ、その勢いで唇を交わしてしまった。

もう引き下がれないのだ。

いや、引き下がる必要なんて、ない。



やがてオルタナティブワールドは完成し、さくらは「世界の守護者」となった。

染井のオルタナティブワールドの世界樹は、佳乃の漆黒に染まった槍で破壊された。

無限大に勝てるのはただ一つ、虚無。

オルタナティブワールドの魔力源、植物との繋がり、そして佳乃という存在でしか発動することができない、魔術の頂点のようなものだ。

そして、夏目を中心としてできたグループ、「桜花の守り人」が世界を裏から支配することとなった。


現実に残りたい人は残っていいと言われたので、俺と晶と佳乃は現実に残った。

それからは、桜花の守り人の権力を少しだけ借りて、再び国に認められた存在として生きることとなった。


生活環境や資金が調ってから、俺と佳乃は結婚し子供が出来た。

俺は晶と佳乃を愛し、晶は俺を愛し、佳乃は俺を愛しているという関係だ。

晶と佳乃はお互いを認め合っているので、この関係は成立している。

一番の問題は、子供である。


さくらは孤独の中、世界を守る守護者となっている。

でもそれはさくら自身が望んだことなのだから、俺たちが関わることではない。


さくらの頃の経験もあり、小学生の頃まではとてもうまくいった。


だが、中学生になり俺たちの噂が流れだしてからは、娘の美咲(みさき)はうまくいかなくなってしまった。

学校から帰ってきてはいつも部屋に閉じこもる美咲。


「美咲、一人で泣いてないで、もっと親を頼っていいのよ。」

「うるさい!関わらないでっていってるでしょ!」


そんな美咲は高校に入り、少しは元気を取り戻した。

彼女はとても研究熱心だった。

でもその理由を俺たちは知っている。

彼女は、必死に生きる意味を探しているのだ。

かつて俺たちがそうしてきたように。

俺たちは、ただその研究を後押しした。それが最善の選択だと思ったから。


美咲が高校を卒業した後の進路として、俺たちは夏目魔術学院に通わせようとした。

夏目とは、あの桜花の守り人の夏目である。

彼は、世界の均衡を守る魔術師を積極的に養成している。

そして、彼の作った学院は、とても美咲に合っていると感じた。


あそこはペアを組むと、とても有利になる。

美咲も、いいお相手ができると思ったのだ。

美咲の環境を理解してくれる人が、一人くらいいても何もおかしくはない。

俺たちはそう信じていた。


美咲も俺たちのことを信じ、その学院に進学した。

最初のころは一人だった美咲も、一年目でパートナーが出来た。

そして、パートナーの男、三好(みよし) 辰巳(たつみ)はなんと、さくらの魔術文字、通称「新魔術文字」を理解できるというのだ。

美咲たちはもしかしたら、俺たちが必死に研究していたことを短期間でやり遂げてしまうかもしれない。

当然彼の研究には、新魔術文字の魔術が詠唱できる美咲の存在が必要不可欠だ。


美咲たちは二人で研究したいと言ったので、俺たちは応援した。

ある程度研究になれてきた美咲たちに、俺たちが研究していた植物の延命治療の研究をやらせてみた。

すると、彼女らはそれをわずか三か月で完成させてしまった。


俺たちが土台を作ったとはいえ、あまりにも早くて驚いてしまった。

佳乃の魔術で行うものなのだが、とりあえず実験は成功した。



―――――牧野宅、桜の木にて



ついに本番だ。


「じゃあ、始めるわよ。」


佳乃が魔導書を持って詠唱を始める。

まずは先端部分から試してみることにした。


「きゃあっ!何!?」


佳乃は吹き飛ばされ、詠唱は阻害されてしまった。

幸い怪我は無かった。

佳乃が言うには、さくらが妨害しているとのこと。

さくらが延命処置を望んでいないわけがない。この木はいずれ朽ち果てるのだから。

佳乃によると、どうやらさくらは植物に無理やり魔術を使わされて、妨害させられているらしい。


「でもおかしいぞ?さくらは幽霊になってから、植物の干渉を受けなくなったはず。」

「今さくらと公信してるんだけど、どうやら世界樹が原因らしいの。」


世界樹は永遠なる存在で、人の寿命という世界の理すら捻じ曲げてしまう存在。

永遠など本来は存在しないもの。世界樹はそれを実現させてしまう存在なのだから、さくらを操るくらい容易なのだ。

そんな事実を知ってしまってはもうすることは一つ。

さくらにとっての本当の幸せを、無理にでも彼女に教えることだ。


「さくらは世界の守護者になってから、ずっと桜の木に縛られて自由を奪われ続けてるんだ。もう、選択の時は来てるのかもしれない。」

「美咲、辰巳くん、この世界を捨てなければ、さくらは救われないの。僕たちはさくらを救いたい。」


美咲と佳乃はさくらと公信するが、さくらは守護者をやめることを拒んだ。

そこで、佳乃はとある人を連れてくることにした。

浩美である。

もう52歳の彼女だが、いまでも一途にさくらを愛し続けている。

俺たちも見習うべきなのだろうか。いや、愛し方なんて人それぞれだ。


浩美の説得にさくらは納得し、俺たちはオルタナティブワールドに移住する。

もう現実世界に干渉することはできない。

どのように崩壊していくのかも分からないが、今はこちらが現実だ。

向こうの世界は想像でしか考えることができず、俺たちはこの世界で生きている。

つまり、世界は反転したのである。


俺たちは、さくらに悲しい人生をおくらせてしまった。

そして今度は、美咲と辰巳の「現実」という居場所さえ奪ってしまった。

結局俺たちの人生、何を残したのかさっぱり分からなかった。


「浩美、今度湖に泳ぎにいこっ!美咲も!」

「そういえば、さくらは水泳をしたことは無かったわね。」

「え、さくらって泳いだことないの!?」

「魔術を使わないで泳いで見せるんだから!」


さくらも佳乃も美咲も幸せそうに新しい世界で暮らしている。

結局、人生っていうのは自分が主人公なのだ。

他人から見た評価なんてものは、所詮ただの物差しにすぎない。


自分が感じる自分、きっとそれが全ての最果てなのだろう。

色々な矛盾を発見しては前作を少しいじったりと、ヒヤヒヤすることが多い外伝執筆でしたが、一作目は無事完結しました。

二作目は浩美とさくらの百合なので、期待していてください。

今作とはまた違う視点から見た世界観が、きっとあなたを包み込むことでしょう。

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