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第四話「復讐者の到来」

今回は一章を通した別視点からの話となっております。

今回の任務は、国内大手の魔術学校であるシャイニングストーンを潰せという仕事だ。

シャイニングストーンは、教師が国内でトップを争う魔術師ばかりで構成されている。

そして当然生徒のレベルも高いため、下手したら生徒だけで俺たちの相手をできるレベルだ。

真っ当な戦い方をしても勝ち目はない。

ならばここは、非道な戦いに持ち込むだけ。


シャイニングストーンの学校には、かならず一つは魔術中枢という部屋がある。

簡易的に魔術を発動するための仕組みなどがたくさん張られている部屋だ。

まずは、人質などを取り相手の弱みを握る。

そして魔術中枢を占領すれば、その校舎を支配したことになる。


「ねえ、ちょっと君。」


「え、どちら様・・・ あっ!」


「さすが晶、完璧だな。さあ教師共出てこい!お前らに用がある!」


俺が少年の注意を惹き、晶は魔術で少年の体に複数の魔術弾を這いまわらせる。

晶が雲の奴に仕込まれた魔術だ。


「た、助けて下さい!!」


「咲人、盗聴されてるみたいだよ。森の奴らに。」

「これは、先に森のほうを片付けなければ勝ち目がないな。」


晶は森の連中の魔術をリーディングしている。

一方、俺はシャイニングストーンの魔術をリーディングする。

エリート連中の魔術の特徴は完璧に掴んだ。


「おい、不審者!彼を解放しろ!誰が相手か分かっているのか!」


「相手なんて関係ないよ。あんたたちの置かれている状況がこうだからね!」


晶がそう叫ぶと同時に、晶は魔導書を詠唱し終える。

少年を這いまわっている魔術弾は爆発し、大怪我を負った少年は倒れる。

それと同時に、それを見ていた少女に魔術弾が這いまわる。


「おい、大丈夫か!!くっ、お前ら!要求は何だ!」


「残念ながら、その要求をしている場合では無くなった。一つだけ要求するとしたら、ちょっとだけ時間をくれないか。」


「何秒だ?早く離さないとこちらの大魔術の詠唱が終わるぞ。」


「申し訳ないけど、今は正面衝突なんてしている場合じゃないんだ。もしそちらが仕掛けると言うなら、この少女の命は無い。」


「助けてっ!!先生、私ここで死にたくないっ・・・!」


もしこれが逆の立場だったらなんて、今は考える必要はない。

今俺たちがするべきことは、ここから逃亡して森の奴らとの二対二の勝負に勝つことだ。


「少女は返すよ。あんたたちがそこで後3秒立ち止まってないと、その少女の命は無いからね。」


「逃げるつもりだな?追うつもりはない。生徒の命が優先だからな。」


「物分かりが良くてありがたい。ではここは一旦引かせてもらう。」


晶が詠唱した魔法によって、俺たちは空に向かって、物凄い速度で吹き飛ばされる。

怪我が無いように、正確な力の加え方で。

少女は解放された。ここで無駄に危害を加えても、人質作戦がまかり通らなくなるだけだから。


そして、森の奴らに伝えた場所にたどり着く。

何の変哲もない廃墟だ。

元々地下がある廃墟のため、増築の魔術をする必要がないという理由でここを選んだ。


廃墟全体に防音魔術を張る。

幸い、準備中はまだ森の連中は来なかった。


「これで、戦う準備は完了だな。」

「咲人、森の奴らが来るよ。」

「ああ、作戦通りいこうな。」



空気が緊張感に包まれる。


「僕の誘いに乗ってくれたんだね、二人とも。」


「玲音の性格を利用してあんな自演をするなんて、下種な野郎共め。」


「そちらも、長年の恨みを果たしたいのではないのか?」


夏目(なつめ) 涼太(りょうた)。


年齢は二十程のライター。組織での経験は薄い。

彼の特徴は、書く魔術の文法が特殊なこと。

俺ではクラッキングができないため、単純に魔術の火力で勝負するしかない。


「涼太、護身術のキャスティングは私に任せて。」

「ああ、分かった。俺ら二人ならきっとできる。」


野守(のもり) 玲音(れおん)。


年齢は十七程のキャスター。小さい頃から組織で活動している。

それもそのはず、会長である野守(のもり) 宗一(そういち)の娘だ。

夏目の書く難解な魔術の唯一の理解者。


この二人が相手だとクラッキングできないこちらが不利だ。

だが、ここには邪魔者がいない。

クラッキングが出来なくとも、向こうの戦術を知っている俺たちなら十分勝ち目はある。


「あの二人、相変わらずラブラブね。僕たちもあんな感じになれたらいいのに。」

「今はそんなことを考えている場合じゃないぞ晶。戦闘の時間だ。」


男女のペアであるが故なのか、やたらと仲がいい。

男同士の俺たちはあまり表に出さないが、向こうはやたらと表に出しているのだ。

晶が気に障るのも不思議じゃない。


「お嬢ちゃん、君は僕が相手するよ。」


「残念だが、お前の相手は俺だ。そして玲音が牧野を相手する。」

「涼太の言う通り。そこの庭師、かかってきなさい!」


向こうはこちらの戦法には乗らなかった。

だが、これくらいは想定の範囲内。

晶の魔術をあのライターが防ぎきれるのかは疑問だが、こちらも油断はできない。


「そこの魔女!先手を打たせてもらう!」

「遅いっ!」


夏目の斬撃を晶のバリアが防ぐ。


「甘い!」


俺は玲音の魔法をバリアと体術で防ぐ。


「喰らえ、我らが誇る最強の炎魔法!」


晶が範囲の広い魔術を撃つ。

夏目は質の高い魔術を砕くのは得意だが、質の低い魔術を全て防ぎきるのは苦手だ。

夏目と玲音は地上へ逃げた。

この建物に二階は無い。あのような戦法を向こうが取り続けるなら、勝利はこちらの手にある。


「野伊はあのバリアを破壊することに専念しろ。俺があの小僧を相手する。」


野守がバリアで守ってきたので、キャスターはキャスター同士戦ってもらうことにした。


夏目が間合いを詰めようとするので、俺は魔術弾で相手のテンポを崩す。


「その程度の護身術、俺の魔術でも突破できるがな!ぐはは!」


「そちらが魔術に頼るなら、魔術と体術の両方を駆使するこっちが有利だ。」


魔術と体術を駆使するのはこちらも同じだ。

そして力の差は歴然。


俺は魔導書を速読し、電撃を放つ。

彼がナイフを投擲すると、そのナイフは爆発し、バリアへと変化した。


「新しいギミックか。見世物じゃないんだから、そんな凝る必要ないだろうに。」


「では、このままもう一本のナイフで攻めさせてもらう。」


「この電撃の中を、か?投擲するような構えではないみたいだが。」


俺が追加で電撃の魔術を詠唱していると、彼の空いていた手にナイフが現れる。

次々新しいギミックを仕込むのが森の組織の得意技だが、ここまで大きな進化は初めて見た。


「なんだと・・・?玲音があの状態でナイフを・・・?いや、まさかお前が作ったのか?」


「見世物ではない。だが、一切無駄はないギミックだ。」


俺が何度もバリアを破壊するが、向こうのバリアの生成のほうが早い。


「さあ、これでバリアは六つ。九つ破壊されたが、破壊より生成のほうが早いようだな。」


「野伊、戦法を変えるぞ!先にこいつを処理する!」

「情けねえな咲人。任せときな。」


「では、こちらも戦法を変える。俺が魔女の相手だ。」


またさっきの形勢に逆戻りだ。

だんだん相手のペースに乗せられていく感覚になるが、相手の油断を突くのがこちらの得意技だ。

夏目の武器は三本、に見せかけて四本だ。


「いくぞ魔女、そんなバリア、一瞬で破壊してみせる!」


「させるか小僧!」


晶が優勢状態の中、こちらは玲音のバリアの破壊に苦戦していた。

さすが会長の娘。詠唱速度だけじゃなく、質も高い。

だが、俺は時間を稼げれば勝ちだ。


「一つ目、二つ目、三つ目!」


晶のバリアが砕ける音が三回鳴り響く。

三つのバリアはどれもすべて異なる魔術のはずだが、あっさりと破壊されてしまった。

こいつのクラッキング能力はただものではないらしい。

だが、速さが足りない。


「次はお前だ!」


「あと一秒早ければこの炎に勝てたのにね。」


晶は炎の詠唱を終えていた。

だが、夏目は四本目のナイフをポケットから取り出しながら、晶に向けて斬りつける。

あれが対魔術のナイフだったら晶の負けだ。


「おい野伊、四本目に気付いてなかったのかお前!」


閃光は一瞬だった。

閃光が引いたと同時に見えるようになったバリアは、ナイフと炎の両方を遮った。


またさくらに助けられてしまった。

俺たちはさくらに何一つできていない上、情報提供で大変な目に合わせているはずなのに。


「なんだこの文字は!?」


向こうが呆気に取られている中、晶から魔術メッセージが届く。

「さくらは僕の攻撃も遮った。だから僕たちに勝たせるつもりもない」

俺たちの完全な味方ではない。これは全く新しい情報だった。

ここは一旦引いて、組織に戻り報告するべきだ。


「まずいことになったな、俺たちは本部に報告しにいかなければいけない。こちらから仕掛けてしまって悪いが退散させてもらう。」


そう言って俺たちは早急にその場を去った。

雲に報告すると、帰ってきた答えは「魔術の森とさくらの関係性を探ってこい」だった。

これでシャイニングストーン制圧計画なんていう無理な仕事は無くなった。

その上、さくらに関する情報は俺たちも欲しかった。

俺たちはすぐに、明日の戦闘の準備を始める。


今回は奇襲だ。

向こうは俺たちを追ってくるに違いない。

そして、向かう先はシャイニングストーンの校舎であると推測した。

俺たちがこのように安易な推測で動くと、向こうは分かっているからだ。

それを逆手に取り、森からシャイニングストーンへの道にトラップを仕掛けておく。


向こうの長点は機動力だ。

ならば、機動力を失う場所に追い込めばこちらに勝ち目がある。

選んだ場所は川の近くの下水道だ。

こちらが外から攻め、向こうは下水道の中で応戦する。

向こうは悪臭によって集中力が下がるうえ、二人が密着するのだ。

恋盛んな時期に密着なんてすれば、間違いなく集中力が下がるだろう。



―――――川沿いの道



目標は射程外、だがトラップの射程内だ。

一般人が通る道故、あまり派手にトラップは仕掛けられないが、奇襲するには十分なものだった。

向こうに気付かれないように魔術弾を三発射出する。

向こうは堤防の影に隠れたので、すぐに間合いを詰める。


「玲音、集中しろ。」

「いきなり抱きかかえられて、しかもこんな密着してて・・・」

「離れるぞ」

「離れないで」


案の定、向こうは相当集中力が下がっているようだ。


「前より随分とラブラブしてるねー、君たち。」

「う、うらやましい・・・」


戦略を考えてた俺の脳が、嫉妬に渦巻く。

落ち着け。これは自分から仕掛けた罠だ。


「咲人ー、僕たちも密着して戦っちゃうー?」

「晶、さっき戦略的に密着は避けられないって話をしたばかりじゃないか。」


晶は相変わらず、公の場でイチャイチャしたがる。

認められたい気持ちは分かるが、俺はあまり気乗りしない。


「玲音、今回の戦いは結構密着することになるが、集中力を切らさないようにな。」

「あいつらの戦略に乗るつもり?」

「奇襲を仕掛けられた以上、逃げるのは難しい。機動力を奪われるのはこちらとしては厳しいが、こちらはお互いにお互いを守る戦法だ。密着することで逆にメリットもある。」

「分かったよ。本気出してみせる!」


「密着することのメリットだってさ、愛の力発揮ってやつー?」


向こうは三年にも満たない恋愛だ。愛の力を発揮する前に恋の力に押し潰されるだろう。

しっかりと愛を積み重ねてきた俺らが負けるわけがない。


「こんな中途半端な恋愛をしてるやつらに、俺たちの愛が負けるわけがない。始めるぞ。」


さあ、戦いの始まりだ。

向こうが形勢を立て直すのは無理だ。

せいぜい恋愛模様くらいは見てやるか。


「ナイフはこれでいいね?」

「ああ、冷静さを欠けていなくて助かった、玲音。」

「あのねぇ・・・ 私はこれから一流の魔術師になるのよ。」

「恋する魔術師か・・・ 王道だな。すごく可愛い。」

「何を言ってるの!冷静を保てなくなるでしょ!」

「これくらい慣れてもらわないと困る。さっきの動揺は危険だ。」

「もう・・・さっさと逃げるわよ。」


本当にくだらない。

これ以上こんなのを見せつけられると、俺の集中力が持たない。


「人のイチャつきというのが、こんなに見るに堪えねぇものだとはな!」


俺は地を蹴って玲音に斬りかかる。


「玲音、逃げろ!」


夏目がナイフを明後日の方向に投擲する。

また新しいギミックか。


「おらぁ!」


「その程度、余裕だ。」


夏目は二刀流になり、俺に斬りかかってくる。

俺はそれを両手で受け止める。

ナイフを拳で全て受けきるのは難しいが、俺はキャスターでもある。


「二刀流を甘く見るな!」


「そんな武器じゃ魔術には勝てん!」


俺は魔術で後方に大きく飛び、態勢を整えながら魔術弾を詠唱する。

夏目は斬りかかりの時の慣性に任せてそのまま一回転し、二本のナイフで魔術に対抗しようとしてくる。


「武器で魔術を防げるものか!」


俺は詠唱を終え、魔術弾を三発打ち込んだ。

夏目は回転しながら、巧みに三発の魔術弾を破壊する。

夏目が隙だらけの中、俺はトラップを起動する。

一般人の目に留まる覚悟でトラップを仕掛けた甲斐があった。


さっき夏目が投げた二本のナイフは、既に爆発を起こしている。

玲音は爆発の中へ飛び込み、トラップによる無数の魔術弾から身を守る。

あの爆発には、あらかじめ設置した多数の魔術弾を相殺できるほどの力があるのだろう。


夏目の回転斬りが終わったころには、晶の詠唱がほとんど終わっていた。


「挟み撃ちよ!」


晶は七本の細いビームを玲音に向けて放つ。

避けるのが得意な相手なら、避けにくい魔術を使うだけ。おまけに今回の魔術の威力は絶大だ。

強力な分ありがちな魔術を用いているが、短詠唱のバリアを破壊し、クラッキングされる前に倒すだけの強さはあった。


夏目はナイフを変わった軌道で投擲した。

クラッキングだとしたら、あの投擲だけで数本は砕かれることとなる。

だが、彼は隙がありすぎた。


「そう簡単にいくと思うか?」


俺は、ナイフに向けて魔術弾を三発発射。

夏目は川へ飛び込みながら、魔術弾に斬りかかる。

さっき、彼は二発を簡単に破壊したものの、三発目に苦戦していた。


「・・・!」


なんと、ナイフの爆発の位置が変わったのである。

それは予想外だった。

彼は残りの二発の魔術弾を砕き、投擲したナイフによって四本のビームを砕かれた。

玲音はビームを耐えきり、下水道入り口に魔術で飛ぶ。

俺たちは詠唱をし、追撃をする。


玲音は大きなバリアを張るが、おそらくアレの耐久力は低いだろう。


「逃がさないよ!」


俺は魔術弾を数発、晶は剣の雨を降らせた。

晶の剣の雨でバリアはボロボロになり、下水道に逃げる二人を追い詰める。

夏目はその剣を腕で弾く。

なるほど、強いのは武器の技術だけではないということか。


「汚いし、臭いが酷い。これじゃ集中力が落ちるわ・・・」

「なら、俺のことを考えろ。」

「え?いや、それも集中力が・・・」

「さっきの玲音は手をつないでも集中していたぞ。大丈夫だ、俺を信じろ。」

「そういえば、繋いでたね・・・ そうね、もう緊張なんてしてられない。」


俺の思い通り、向こうは色々な要素が重なって集中力が一気に落ちる。

集中力の落ちたキャスターはただの雑魚だ。


「やだなー あんな汚いところで戦うの。」

「それは向こうも同じだろ。さっさと片付けるぞ。」


俺と晶は川を越え、一気に攻める。

俺は魔術弾を四発撃つ。晶はまだ詠唱中だ。


「あんたたち、相当前からここで戦うことを決めていたんだね。でも甘いよ!」


玲音がそう言った後、下水道の中からものすごい轟音が鳴る。

琴子の娘のことだから、きっと銃か何かでトラップを誘発したのだろう。


「最初からそんなギミックに期待なんてしてないの。隙を与えるためよ!」


そう言いながら晶は、小さい魔術弾をたくさん射出した。

玲音のバリアがそれを防ぐ。


「このバリアはいずれ破れる。涼太、やることは一つ、分かるね?任せたよ!」


向こうがなにをして来ようと、こちらがすることに変わりはない。

俺は下水道の中に踏み込んでいく。

晶の魔術弾は、俺の防護膜、いわゆる「呪い」に仕掛けられたクラッキングが打ち消す。

弾数は減るが、打ち消した弾数よりも俺の戦力のほうが圧倒的に上だ。


「おらぁ!」


夏目は両手に持っていたナイフを投擲した。

夏目が投げたナイフを破壊する時に結構痛みを感じたが、それはただの衝撃によるもので、怪我はない。


「こんなもの効かんぞ!」


夏目は、俺がナイフの破壊で両手の動きを制限されているところに、二本のナイフを投擲した。

避けるしかなかったが、避けたらまずいのは分かっていた。

ナイフが起爆しないようにクラッキング範囲を変え、ナイフに当たる範囲の晶の魔術弾を打ち消した。

俺はすかさず夏目に蹴りを入れる。

これで夏目が後ろに引けば、夏目は魔術弾に焼かれる。


夏目は両腕で俺の蹴りを受ける。

仰け反らないように、必死に足を踏ん張っているのが分かる。

二度目の蹴りを入れようとした時、ナイフが起爆する。

まさか、あの状況でナイフ同士が衝突するような軌道に投げたのか・・・?

下水道の入り口が崩壊していくのが分かる。

まずい、このままだと酸素が持たない。



「はぁ、はぁ、くそっ、お前だけでも!」


俺は左手に魔導書を持ちながら詠唱し、右手と足で攻める。

弱っている俺の攻撃を弾くのは彼にとって容易だった。

そして、目の前が真っ暗になる。





―――――病院にて



目覚めたとき、俺は病院にいた。


「咲人・・・ ぐすっ。無事で、よかったっ・・・!」

「俺、生きてたのか・・・。晶は無事だったのか?」

「向こうは俺たちとさくらの関係を知りたかったみたいだったから、さくらと血縁関係があるって話したよ。そうしたら解放してくれた。」


森も随分とゆるくなったものだな。

ここで天敵を生かしておくということは、それだけ余裕があるということなのかもしれない。


「咲人が死んじゃったら、僕・・・!」


殺人組織だろうと、仲間の命は大切なものなんだ。

これまで何人の尊い命を奪ったかは知らない。

でも、俺たちは生き続けなければいけない。

植物の研究を進めて、さくらを守るために。


赤ちゃんのさくらを検査した際、短命であることが分かっていた。

さくらは、生きられてあと十年だろう。

沢山の大切なものを捨ててでも、守りたいものが俺たちにはあるんだ。

それが他人の不幸を生むものだとしても、構わない。

俺たちは、俺たちのすべきことをするだけだ。



―――ある日


「えっ、晶が必要なんですか?」


「ああ、そうしてくれたら、前の失敗を見過ごしてやろう。」


「晶に乱暴はしないでくださいね。」


「ああ、命は保証する。」


「安心して、咲人。ちょっと実験台にされるだけだから。」

「まあ、晶がそう言うなら・・・。」



―――ある日


「嘘だろ・・・ おい・・・!」


次世代魔術研究所と雲が繋がっていることは知っていた。

だが、ここまで酷い仕打ちをしてくるとは。


「野伊の命に全く別条は無い。安心するんだ、牧野。」


「安心できますか!野伊を返してください!」


「欲しければ自分で取り戻してみろ。まあ、助けたところで組織でまた邪魔者扱いされるだけだけどな。」


「絶対取り返しますからね!」


「ふっ。」


晶は、魔術起動装置というものを付けられ、操られてしまった。

俺には解除の仕方なんて分からない。

こうなったら、最終手段しかない。



―――――折田の潜伏場所へ進む道



野伊を操っている奴の潜伏場所の途中で待ち構えていると、珍しい組み合わせの二人が来た。


「こんばんは。おっと、珍しい二人だね。」


「牧野か。今のお前に勝ち目は無い。邪魔するんなら気絶するまでこらしめるぞ。今度は後遺症が残っても知らない。」

「このひとは邪魔にしにきたんじゃない。」


夏目とさくらだ。

さくらに会えて嬉しかったが、罪悪感で逆に接しにくかった。


「さくらの言う通りだ。俺は助けを求めている。野伊が操られちまったんだ、お前らも同じような目的だろ?」


「おいおい・・・ 二人助けなきゃいけないのかよ・・・ こりゃ作戦考えるの大変だぞ」

「りょうたはこの人信じられる?私は大丈夫だけど」

「ああ。さくらが信じるなら俺も信じるさ。」


「今だけ協力関係になるだけだからな?この件が終わったら敵同士だ。」


こんな条件、飲み込んでくれるか分からなかった。

でも、今は死に物狂いで誰かにすがるしかない。


「申し訳ないけど、この件が終わったら俺たちに関わらないでくれないか。俺たちはお前らを殺すつもりはもうないんだ。」


俺たちだって関わりたくない。

俺たちはお上さんの言うとおりに、仕方なくやっているから。


「なら、お前らは俺らの活動を邪魔しないということだな?邪魔するんならぶっ潰すからな。これが俺らの組織の方針だ。」

「たしか、雲散霧消は脱退したら暗殺されるんだっけ?俺は組織のリーダーを倒すところまで考えてるけどな。」

「それで負けたのがお前の組織なんだろ。お前らの実力じゃ俺らのボスを倒すなんて無理だ。」


正直、あれが勝利とは、はっきりとは言い難いが。

だが、さくらを生んだのは俺たちなのだ。


「森の会長の妻、野守(のもり) 琴子(ことこ)が何故死ぬことになったのか、お前ももう気付いてるんだろ?」

「わたしが・・・ 私がいなければ・・・」

「そりゃ気付いてるさ。さくらをいくら手懐けようと、血縁関係のある俺らを守らずにはいられない。これはさくらの理性じゃどうにもならない。植物によって動かされているのだよ、さくらは。」


相変わらず、お上さんは研究が早いのだ。

さくらが合わられてから、裏で植物に対する研究が進み、植物同士が交信し合っていることが分かっている。


「まあ、この話は後回しだ。今は折田をどうするかを考えよう。」

「言っとくが、俺はお前の魔術は発動できないぞ?玲音を連れてこないのか?」

「玲音は魔術起動装置を外した後記憶喪失になった少女を守っている。だが、この状況だとあいつらに同行してもらうのもありだな。」


魔術起動装置は、やはり外せるのだな。

付けられるものはかならず外せるとはいえ、それを簡単にやってのけるこいつらにはびっくりだ。


「るねも大切な子だよ。二人は私がなんとかする。」

「さくら、何か手があるのか!?」

「玲音がいればたすかる。」

「牧野に基地がばれるのはあまり良くないが・・・ まあ今はそれよりももっと大事なことがある、行こう。」


やはり、助けるのはいつもさくらなのだ。

俺たちは、いつも助けられてばかり。

でも、弱い俺たちは、そういう風にしか生きられないのだ。


―――――玲音の基地



「やっぱり私の力が必要だった?・・・って、牧野!?何でここに?」

「野伊が魔術起動装置で操られてしまった。」

「野伊まで!?こんなに連続で成功するのを運とはいいがたいよね。もしかしたら装置に操られてるのはもう二人なんてもんじゃないんじゃないの?」


どうやら、装置を付けるのは、必ず成功するわけじゃないらしい。

下手したら晶が死んでたって、俺はなんてことをしてしまったのだ・・・。


「玲音の力があれば、わたしが一瞬でみんなたすけられる。」

「私が・・・?うん、分かった。瑠音ちゃん、体調はどう?」

「・・・大丈夫です。何が何だかわかりませんが。」

「それも仕方ないよね。でも、ここに一人残すわけにはいかないから、ついてきてほしいの。」

「・・・分かりました。」

「さくら、どこに行けばいいんだ?」

「お母さんのところ。咲人、お母さんのところに行ってもいい?」

「別に会いに来ちゃいけないなんてことはないんだがな。野伊を助けるためだ。連れてってやる。」


桜に変なことをするとは思わなかったので、連れていくことにした。




―――――牧野宅


道中の話声を聞いてると、どうやらさくらのお母さんのことを人間だと思っているらしい。

どうやらこいつらは、そんなに情報を持っていないらしいのだ。

本当に晶を助けられるのか、心配になってくる。


「ここが牧野の家か、立派な一軒家だな。こんなに大きな木、久しぶりに見たぞ。」

「お母さんはこの家にいるのね。早く会ってみたい・・・」

「本当に何も知らないんだな。お母さんならここにいるってのに。」

「まさか・・・ 幽霊なの!?」

「いや、この桜の木のことを言ってるんだろう。」

「桜の木の下に埋まってるってこと?やっぱり幽霊じゃない!」

「そうじゃなくてだな・・・」

「この桜の木が、私のおかあさん。お母さん、会いに来たよ。ひさしぶり。」

「えっ!?え、木がお母さん?じゃあお父さんは?お父さんも木?いや、それだとさくらも木じゃないとおかしい・・・」

「科学と魔術の力でこの桜の木から卵子を作り出し、野伊の精子を受精させた。そして野伊の人工子宮の中でさくらは育ち、生まれた。」


理屈は簡単だが、いざ言葉にしてみると、やっていることが飛びぬけていると感じる。

こんなすごいことをしてしまったのだ。

そりゃあ、こんな運命になったって仕方がないのだろう。


「ひろみを、絶対にたすける。玲音、瑠音に使った魔術をこの木におねがい。」

「お母さんって呼んでいいんだよ。空打ちでいいのかな?」

「ありがとう。お母さんに空打ちしてほしいの。」

「分かった。十五分かかるから、しばらく待ってね。」


十五分の詠唱の魔術を空打ち・・・ となると、さくらがその魔術を真似る、と言ったところだろう。

夏目と玲音もすごいが、さくらも随分と成長したものだ。



―――――十五分後



「ふぅ・・・ やっぱり十五分は疲れる・・・」

「十五分の魔術をミス無しで詠唱し続けるなんて人間に可能なんだな。お前らを見直したぞ。」

「負けたやつが見直したなんて言葉を使うな。」


俺にはそんな超人技は無理だ。

こいつらに勝てないのも頷ける。


「さくらちゃん、どう?」

「魔術、完成したよ。これでひろみとあきらを助けられる。」

「さくら、もしかして魔術の変換をしたのか?」

「うん、そうだよ。」


やはりそうか。

魔術の変換。

魔術の文字列は、人間を通して根源的な情報へと翻訳(コンパイル)され、魔術として発動される。

その根源的な情報を人間が理解するなんてことは当然無理なので、魔術の変換なんてものは空想上の物に過ぎなかった。

でも、さくらはそれを平然とやってのけた。


「産まれたときからこの桜と共にいて、植物の研究もしてきたというのに、俺にはどういう理屈なのか全くわからねえ。」

「牧野さん、これはきっと理屈じゃないのよ。植物は、なんかこう・・・ 魂みたいなものでつながっているんじゃないかな?」

「そう、たましいでつながってる。」


植物が関わっているのは知っていたが、まさか魂まで関わっているとは。

研究ができる人生なら、もっと深くまで知っていたのかもしれない。


「魔術界の革命だな、これは。そちらの方面の研究もできることならしたいんだがな。」

「なら尚更、雲のボスを倒すことを本気で考えないとな、牧野。やるときはちゃんと手伝ってもらうからな。」

「俺らの組織はそんな甘いもんじゃないぞ。夏目、お前は俺のこの魔術の防護膜を解読できるのか?」

「自爆装置が仕掛けられているのは、自身を失ってまで敵を倒すためじゃなくて・・・ まさか裏切らないための呪いなのか?」


彼は解読したと一言も言っていないが、この言いぶりだと本当に解読したのかもしれない。

話を逸らしたのは、無能さの露出を避けたいがためか、あるいは・・・


「自爆戦法もあるが、メインはその呪いってやつだ。かつて会長の次に優秀だったライターが書いたクラッカーですら、クラッキング時の自爆を避けられなかった。」

「それは会長が書いたものなんだろ?会長が死ねば呪いは解けるように見えるが。」


こいつは、本当に解読したようだ。

だが・・・


「その通りだ。だが、会長、俺、野伊、さくら、その他雲のメンツ。そいつらにお前らは勝てるのか?」

「お前、自分の娘の大事なところすら見逃してるんだな。まあ、戦略なんて当然教えないが、勝ち目は十分にある。」


大事なところ・・・ か。

恐らく、植物との交信を途絶えさせる方法、そしてさくらの寿命のことだろう。


「なるほどな。俺も当然分かっているが、だからといって勝てるとは決まっていない、」


「二人とも、その話はいつでもいいでしょ?早く行きましょう?時間が無いことくらい分かってるでしょ?」

「ああ、すまない。急がなければな。さすがに現地に瑠音を連れてくのは危ない。ここからは俺と牧野とさくらの三人で行く。」

「そうね、瑠音ちゃん、調子はどう?」

「大丈夫です・・・ 相変わらず何が何だか分かりませんが。」

「私がついてるからね。何かあったら、すぐに言ってちょうだい。」


「んじゃ、いくか。」

「お前は折田を殺すつもりでいるか?」


こいつらは、やたらと命を大事にしたがる。

あいつがいる限り、晶は安心できないのだ。


「いや、自由を奪った状態で生かしておくつもりだ。」

「ああ、そうか。なら俺も賛成だ。」

「ころさないんだね、よかった。」


全く、優しいんだか道理にかなっているんだか良く分からないやつらだ。

まあなんであろうと、助けられればそれでいい。



―――――折田の基地



「やっと来てくれたかい。待ってたよ。」


「野伊を操りやがって。てめぇ何がしたい!」


「さくらを渡してほしいんだよ。さくらさえ手に入ればもう何も言うことは無いねぇ。」


さくらを渡す・・・ か。

だが、こいつらはそんなことはしないだろう。


「さくら、初めてもらって構わない。」

「はじめるよ。」


「なんだなんだぁ?そっちが魔術を使ってくるなら、こっちもやっちまうぞ?」


さくらが先ほど変換した魔術の詠唱を始める。

玲音は十五分かかったのに、さくらは数秒で終わらせてしまった。


「ひろみ!」


「おい、二人とも何してる!やっちまえ!」


「野伊の相手は俺だ。野伊の特徴は全て知っている。」

「俺も手伝うぞ。今の野伊にお前ひとりじゃ敵わない。」


晶は、俺たちに向けて何十発もの魔術弾を放ってくる。

俺はバリアで防ぎ、夏目は体術で受け流している。


「さすがはさくらの作った防護膜だ。これだけの威力の魔術を軽々と弾ける。」


さくらの二度目の詠唱もすぐに終わった。

これで、晶は助かった。

浩美と野伊は気を失って倒れている。

今はそれより、あの男だ。


「俺を殺すつもりかぁ?牧野、てめぇらの組織への援助は少なくなるぞ!」


「フリーでも十分やっていける俺らにそんな脅しは効かないぞ!」

「牧野、折田の魔術を防いでくれ!俺が仕留める。」


こいつは間違いなく強い。

脳を燃え尽きるほど酷使し、最強のバリアを張る。


「後から後悔しても遅ぇんだからな!悪あがきだけしてやんよ!」


俺の詠唱は間に合った。

普段だったらものすごい疲労に見舞われるところだが、今はそんなことすら気にならない。


「さすが俺らのライバルなだけある。バリアの性能は優秀なようだな!」


夏目はバリアの穴から折田に何発も打ち込む。

バリアに相殺作用があるとはいえ、熱さは相当なものだろう。


「自由を失ったお前は、人に支えてもらって生きているということを実感することになるだろうな!」


夏目は、折田が気を失っても殴り続けた。

魔術も体術を極めているこいつなら、死と後遺症の中間くらい分かるのだろう。

彼は何も感情に身を任せているわけではないのだ。


そして、晶を裏組織の病院に連れて行った。

向こうは浩美のお見舞いを、俺は晶のお見舞いをすることになった。



―――――病院にて



晶が目を覚ました。


「晶!無事か!?どこか痛いところは無いか?」

「咲人・・・?」

「晶・・・ 無事で良かったよ・・・!」


泣きそうになるが、ここは笑顔を見せたかった。


「僕、悪夢を見てて・・・ 起きたらここ・・・?」

「晶は、魔術起動装置に操られていたんだ。そして、さくら達が助けてくれた。」

「僕、あの後眠らされてさ、そしたら酷い悪夢を見て・・・ って、魔術起動装置を付けられてたって!?」

「ああ。どうやら、あの倫理的に禁止されている技術が完成したみたいでな。」

「助けてくれて、ありがとう・・・!ぐすっ。」


晶が泣いたせいで、俺も泣いてしまう。


「晶がいねぇと・・・ ぐすっ、俺、生きていけねぇから・・・!」

「これからも、ずっと一緒だよ、咲人。」


それから、雲の中では前よりも邪険に扱われるようになった。

どんなに危険な仕事を任されようと、俺たちは必死に生き抜いた。

いつか幸せが訪れると信じて。



俺たちは十年生き続けた。

俺たちの下がった評価は順調に取り戻し、いつしか俺たちは、立派な悪の組織の一員となっていた。

そんな俺たちに届いたのは、いつか必ず来るはずだったメッセージ。

さくらの体調が急に悪化したのだ。老衰である。


結局さくらを幸せにできないまま終わってしまう。

さくらの最後になるであろう誕生日パーティーに俺たちは誘われず、代わりに俺たちが見たのが、これだ。



「さくら、さくら!大丈夫!?」

「う、うう・・・ 浩美、苦しい・・・」


「どうも、牧野です。さくらの病状はどうですか。」

「僕も一緒に来ました。さくらの体調は・・・」


俺たちはさくらの父達なので、お見舞い人として受け入れられた。

生きてるさくらに笑顔を見せられたとはいえ、もう何もかも手遅れだった。

これが、悪の組織から抜け出せなかった酷い親に待っていた現実。

唯一嬉しかったのが、さくらと浩美が幸せに生活していたという事実だ。

さくらの身を確保する組織から逃げ続けながらも、必死に幸せを紡いできた。


さくら、二十三歳。心臓はまだ動いているが、もう意識を取り戻すことは無かった。


「さくら・・・ お願い・・・ 死なないで・・・ お願いっ・・・」



さくらの心臓が、止まった。


「嫌、嫌ぁぁああああああああ!」

「さくらちゃん・・・」

「さくら・・・ くそっ。」

「さくら・・・」



さくらの遺書に書いてあったのは、死んだ後、自分の死体を母である桜の木の下に埋めてくれ、ということだった。


「え、本当に骨埋まってるじゃない!」

「これは・・・ 女性の骨か?みたところそんな年取ってないように見えるが・・・」

「もしかして・・・ これがお母さん?」

「野伊が産んだって話はウソだったってか?嘘をついている目ではなかったんだろう?」

「たしかにそうだけど・・・ この桜って、いつ頃からあるんだろう。」


親から話は聞いている。

数百年前に桜の木の下に埋められた「千夜(ちよ)」のこと。

さくらがそれを知っていたのは、桜の木から聞いたからだろう。


「六百年ほど前だ。あとそれはお母さんではない。」


俺は、死体を埋める作業を一般人に通報されないように、通りすがる人を監視していた。


「牧野、これ誰の骨か知ってるか?」


「この桜の伝説みたいなのは親から聞いた。桜の木の下には死体が埋まっていて、この桜が美しいのは、その死体のエネルギーを吸っているからだ、と。」


「そんな小説があったわね。もしかしてそれの元ネタってこの木?」


「別に桜の木の下に死体を埋めるのは昔なら珍しいことではないと思うけどな。」


「とりあえず、さくらの言う通り、これは掘り返さずにさくらを埋めるぞ。」



埋め立てが終わった後、晶が来て、俺と晶はさくらにお祈りをする。

その後で夏目達がお祈りするとのことで、俺たちは先に帰った。




―――――次の日



「お前らの今回の任務は、国内最王手の塾『染井魔術塾』を潰すことだ。」


「ふふっ、やっとこの仕事ができるのね。」


染井魔術塾。染井グループの会長、染井 尚史「そめい ひさし」が管理している塾だ。

ちょっと怪しい雰囲気のグループだが、実力は国内最高。

ちょっと怪しいどころではなく、完全にブラックな組織なのだが。


染井グループは、雲がさくらの情報を横流ししている組織「次世代魔術研究所」と裏で繋がっている。

そして今、秘密裏にとんでもない計画を行っているのだ。


ホムンクルス制作計画。

簡単に言えば、二代目さくらだ。

そんなこと許せるわけがない。

俺たちは、この情報を知ったときから、ずっとこの染井グループを潰したいと考えていた。

その計画が今日、始まろうとしているのだ。



―――――染井魔術塾 白樺キャンパス



今回は裏口から入って攻め込む。

正面突破が効かないような組織だからな。


「牧野、野伊。今回の任務は国内最王手の塾を潰すことか。」


こういう重要な時に限って、森の奴らは邪魔してくる。

しかも今回の相手は、十年前に一度敗北した強敵だ。


「夏目、野守、何の用?もうあんたたちには僕たちの邪魔する意味なんてないと思うけど?」


「魔術撲滅は気に入らないけどね。私たち、これからあんたたちのボスを倒しに行きたいの。」


は?こいつらは何を言っているんだ。

ボスは今や、国内最強のキャスター。しかもハイブリッドだ。

こんな、エリートに上がったばっかりの魔術師程度が倒せる相手ではない。


「正気か?お前ら。居場所は教えないぞ。」


「なら力ずくで教えさせるよ。」


「僕たちにとって十年前のリベンジだね!」

「俺たちの腕は確実に上がっている。組織のカリキュラムの訓練をしていないお前らより圧倒的に勝っているはずだ。」


「やってみないと分からんよな。五分で終わらせてやるからちょっと時間をくれないか。」


「過度な自信は慢心だぞ。まあ、五分くらいなら付き合ってやろうか。」



五分で終わるなら別に付き合ってやってもいいか。

無駄な消耗は避けたかったのだがな。

残念ながら、手を抜くわけにはいかない。




―――――とある廃墟 二階


「先手は譲ろう。こっちは後手が有利な戦法に変わったからな。」


「後手が有利な魔術なんて聞いたことないけどー?舐められてるのかな。」


また小賢しいギミックを積み込んできているのだろう。

まあ、やることは変わらない。


「こっちが五分で勝つかもな。行くぞ、晶。」


俺と晶は詠唱を始める。

玲音は詠唱をし、夏目はライターらしく前線に立ってくる。


「五分もかかんないかもね!」


俺は二人に向けて魔術弾を大量に発射する。

晶は二人の両端から魔術弾を大量に発射する。

先手でここまですれば、流石に形勢を返すのは難しいはずだ。


玲音は、両端にバリアを張る。

そして、夏目が二本のナイフで魔術弾を斬りながら突進してくる。

魔術弾を数発斬った後、夏目は二本のナイフを投擲し、それは起爆する。


起爆方法が変わったとはいえ、根本が全く変わっていない。


「十年前と戦法が全く変わっていないな。まあ当然か。」


夏目が受け流した弾を、玲音がナイフで処理する。

キャスターが武器で戦うとは。俺たちも舐められたものだ。


「私がナイフで本気で戦うのはこれが初めてだね!焦らなければこの程度の速さの弾は斬れる!」


「キャスターがナイフを使うだって?あんた恥ずかしくないの?」


玲音はナイフを三本作り、そのうちの一本を投擲する。

また新しいギミックだろうか。


「連鎖爆撃の弱点は高密度持続攻撃。今晶が詠唱しているのはそれだろうな。」


何も行動を起こさないということは、あの爆撃でビームを全て耐えきるつもりなのだろう。

俺は今、とてつもないデジャヴを感じている。


「戦法が変わってないのはそっちなんじゃないのか?」


晶の詠唱が終わり、十年前よりもはるかに強力なビームが放たれる。


「ビームの方向を間違えたようね!」


「もうビームをクラッキングされた!?」


リーディングした魔術を人間を媒介せず自動でクラッキングする、という卑怯に近いことをこいつらは成功させた。

何故だ。陰でこっそり研究を続けているような奴らが、何故こんなにも強いのだ!


夏目がナイフで俺に斬りかかる。

俺は必死にそれを受けきる。


玲音はナイフで晶に斬りかかる。

近接戦闘に晶はだいぶ苦戦している。


そして、向こうは風圧の魔術をいつの間にか詠唱し終え、俺たちは吹き飛んでしまった。


「ぐあっ!」

「ああっ!」


残念ながら、ここから立て直すのは無理だ。


「もう降参したほうが身のためだぞ。ボスの居場所はどこだ。」


ボスは色々な基地を渡り歩き、たまに雲の基地を訪れるような人だ。

ボスの居場所を教えたところで殺されはしないが、地位は一気に落ちる。


「ボスは当然、一か所にずっと留まるなんてことは絶対にしない。だから別に教えても俺たちが殺されるとかいうことはないんだがな。」

「ボスに仇を討ってもらうしかないね、これ・・・ 言っとくけど、あんたたち死ぬよ?ボスを舐めてるでしょ。」


「森の会長と互角かそれ以上。俺たちはもう十年前の会長の強さを超えている。」


確かに強かったけど、ボスもこの十年で相当強くなった。

あいつらがボスを倒せるなんてありえない。

まあ、こいつらが死んでくれるならそれはそれでありがたいのだが。


「もう勝手にしろ。場所はここだ。」


俺は魔術メッセージで居場所を伝えた。

すると、夏目と玲音は颯爽とこの場を去った。



「晶、大丈夫か!?」

「うう・・・ 骨、折ったかも・・・。」

「骨折に対する治癒魔術は会得しているよな?俺が見張りするから、治しててくれ。」


魔術界隈では、治癒魔術という分野はあまり表に出ない。

それもそうだ。魔術は他人の体に影響を与えることが不可能だから。

自分で自分を治療することしかできないので、研究も全く進んでいない。

骨折まですると相当集中力が落ちるので、そんなものを治す魔術なんて公の場には無い。

だが、雲は例外だった。

常に死と隣り合わせなので、キャスターは治癒魔術の会得が必須となっている。


晶の治療が完了すると、今度は見張りを交代し、俺が自分の背中の打撲を治療する。


雲の手紙仲介人を通じて、ボスに魔術メッセージを送る。

ボスの今の基地に邪魔者が来ることを伝えると、返事が来た。

それはとても衝撃的で、最終決戦が始まることを知らされることになるのであった。


森側と、染井に関する情報の取り合いになったため、森と戦争を開始すると。

俺たちは、染井たちの目を戦争から逸らすために利用されただけなのだ。

結局、染井たちには何もできなかったが。

雲から、染井たちへの攻撃を続けろと言われたので、俺たちはそれを始める。


「要件はなんでしょうか。」

「染井尚史さん、あるいは彼に近い存在と会いたいのですが。」

「いきなり来て何ですか?駄目ですよ。」


そりゃあ、駄目に決まっているわな。

だが、俺たちの今の目的はそれじゃない。


「咲人、どうする?」

「あの人から、時間をかけて情報をできる限り引き出す。」

「なるほどね。」


「あなたたちの考えはお見通しですよ。大人しくしないと怪我しますよ?」


「残念ながら、大人しくはしていられない。」


「逃げるなら追います!」


「鬼ごっこで時間稼ぎ、ってね。」


俺たちは今度こそ東雲が死ぬと思っていた。

だから無駄な時間稼ぎをする。

東雲が勝てば、俺たちの地位は下がる。

だが、夏目と玲音。彼らならやってくれると何故か信じられた。

彼らは、俺たちと違って仲間がたくさんいるからだ。


案の定東雲の呪いが解けたので、東雲の敗北が確定した。

俺たちはさっさとこの場から去る。




―――――ボス死亡、その後



東雲が死んだことで雲散霧消は解散。

雲のメンバーの中から、魔術撲滅をしたい人達で新たな組織はできたが、強力なリーダーがいない組織なんてすぐに潰れるだろう。

解放を喜んだ人たちは、裏社会で活躍する立派な魔術師となる。

俺たちもそうだ。社会の裏で植物の研究を始めることになった。


「これが、平穏な生活か・・・。」

「ここにさくらがいたら、どんなに幸せだったんだろうね。」

「さくらは死んだけど、存在は今も残り続けている。」

「ふふ、そうだね。これからもずっと一緒だよ、咲人。」

「ああ。もう俺たちの愛を邪魔する者はいない。」


邪魔するものはいない。

でも、自らが愛の輪から外れないとは限らない。

愛は交錯し、やがて世界を反転させることになることになるのであった・・・

別視点から話を書くのは初めてで、とても面白かったです。

特に一章は戦闘が多いので、戦闘を別視点から書くという難しいながらも楽しい執筆ができました。

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