第三話「序幕の決戦」
今回は一章で描写されなかった部分です。
さくらを逃がしてしまったのは結果いい方向へと向くのであった。
さくらを探し始めて二日目。さくらの家出から二日目でもある。
捜索願なんて出せるわけがない為、自力で探すしかなかった。
今日も見つからなかったため、家に帰るところだった。
「よう、お前らが探してるのはこれだろ?」
黒い服の男が二人。
二人のうちの背の高いほうが、一枚の写真を見せてきた。
さくらの写真である。
「これ、三年前くらいの写真?なんでこんなもの持ってるの?」
やはり晶は勘がいい。写真を見ただけでいつのものか分かってしまう。
そして俺は即座にひらめく。
三年前の出来事と言えば、さくらが魔術を覚えた年、そして浩美と出会った年である。
彼らの目的はなんだ?
とりあえず、さくらに危機が訪れているのは間違いない。
ここで彼らを潰しておかないとまずいと思った。
俺はポケットから紙を取り出し、頭に叩き込んだ魔術を暗唱する。
すると、その紙はいつもの魔導書へと変化する。
「反抗する気か、だが残念だったな。」
長身の男がそう言っている間に、もう一人の男は詠唱を終えていた。
もちろん魔導書なんて使わずに。
俺たちの体の周りに魔術弾が這いまわる。
本来なら魔術弾のエネルギー収集範囲は球状に広がるので、他人の体に魔術で干渉できない以上、体を這いまわすことなどできない。
それを可能にするには、エネルギー収集範囲を変えなければいけない。
そんな複雑な魔術を暗唱できる奴なのだ。こちらに勝ち目なんてない。
それでも晶は諦めなかった。
魔導書を地面に落とすと同時にページを開くインデックス魔術を暗唱。
そして落ちていく魔導書に書かれている魔術文字を唱える。
晶の発動したバリア魔術は、彼の体を這いまわる魔術弾を相殺した。
そこに長身の男の拳が入る。
「晶!!」
「ああっ・・・!」
助けようと動いた俺の右腕は、魔術弾によって火傷してしまう。
「ぐあっ!」
「咲人・・・ このままじゃさくらがっ・・・!」
「ここは一旦諦めよう、晶!きっと大丈夫だ!」
「やっと降りてくれたか。無茶な奴め。」
「俺たちの負けだ。で、目的はなんだ?」
「俺たちこういうモンでねぇ・・・」
そう言って彼は証明書のようなものを見せてくる。
そこにあったのは、コードネームのようなものと有名なマーク。
灰色の雲が蒸発しているような絵と、達筆な「雲散霧消」という文字。
間違いない。彼らは魔術撲滅組織、雲散霧消のメンバーだ。
俺たちも当然知っている。
魔術をこの世から排除する、という目的の為に魔術を用いて傷害や殺人行為を行う、非道な組織だ。
「この子の情報が欲しいんだよ。情報を提供し続けるならお前たちを生かしてやる。」
「は?お前らにさくらの情報を流し続けろだと?そんなことできるか!」
「もう反抗しても無駄ですから、言いなりになればいいのです。死にますよ。」
キャスターの方の男が喋ったと思ったら、こんな生意気な奴だったとは。
「晶、やめろ!」
「でも、さくらがっ・・・!」
晶が魔術書無しで詠唱をしようとしていた。
俺の叫びで詠唱は止まったが、諦めきれない様子だ。
「さくらが帰ってきた時、俺たちは笑顔で迎えたいよな。」
「うん・・・。」
情報提供するだけなら別にいいのだ。
でも彼らの組織は、機密情報を知っている人は組織内の人間でなければいけない。
つまり、俺たちは雲散霧消に加入しなければいけないのだ。
さくらが今ここにいたら、どうなっていただろうか。
さくらの魔術でこいつらをねじ伏せられた?
いや、まだ未熟なさくらにそれは無理だ。組織の実験台にされていただろう。
逃げたら暗殺される。
だから、俺たちは雲散霧消のメンバーとして働かなければいけない。
三人の愛をここで終わらせるわけにはいかない。
何としてでも生き延びなければいけないのだ。
「これがこれからお前たちを縛る魔術だ。雲の呪いとでも覚えておけ。」
さくらの運命は浩美とさくらに託されることとなる。
そしてその人生を妨害し続けるのは親である俺たち。
なんて無力な親なのだろう。
無力でも、無力なりにのし上がっていくしかない。
「ほうほう、これが植物に魔術を干渉させる技の一つだね? ・・・っ!いっつもいつも出し惜しみしやがって! まあいい。後悔するのはお前らなんだからな!」
俺たちはさくらの情報を提供する度に偉くなっていった。
当然偉い階級には実力が伴わないといけないので、魔術の鍛錬は欠かせない。
ただでさえ仕事が大変だってのに、魔術の鍛錬にもかなり時間を割かないといけないのだ。
それでも俺たちは頑張った。生きるため、必死にもがいたのだ。
情報提供だけでのし上がっていく俺たちをメンバーは良く思うことは無く、
同性愛差別も相まって俺たちは組織内で孤立することとなる。
もう慣れっことはいえ、下手したら殺されてしまうような組織でそれはとても大変なことだった。
やがて、俺たちに大仕事がやってくる。
雲散霧消の天敵である、「魔術の森」と決闘をすることになったのだ。
魔術の森には、俺たちも酷い仕打ちを受けた。
あいつら、平和のためならどんな酷い手でも使ってくる。
まあ、どちらが正義なのかは言うまでも無いのだが。
俺は森の奴らのせいで入院したことがあるのだ。
正直、相手にしたくない組織だった。
でも、今回の戦いは頂上決戦。
雲のボス、東雲 竜郎が戦にでるのである。
そして向こうは、会長である野守 宗一が出てくる。
向こうの戦力は、情報によると会長とその妻、そして天見という姉弟の優秀なペア一組の四人らしい。
立場だけでなく能力も上がった俺たちは、当然戦力として採用を検討される対象となる。
最初は、ボスの東雲、俺と晶、そして優秀な男女カップルペア一組の予定だった。
だが、その優秀なペアと俺たち二人の仲があまりにも悪いのだ。
ボスはなんとかなる、と言っていたが、急遽どちらかが採用されることとなった。
直前になってのあまりにも急な変更だったため、俺たちも驚いた。
それもそのはず、組むはずだった優秀なペアの派閥が東雲を戦死させるために仕組んだのだ。
東雲が死ねば雲散霧消のメンバーが皆解放されるからである。
実際、俺たちのように無理やり組織に入れられた人は少なくない。
その人達のことを考えれば、こういう計画が起こることも不思議ではない。
結局、より優秀な方が選ばれ、東雲と俺と晶の3人で戦う事になった。
俺たちはメンバー解放のための捨て駒だ。
とはいえ、人数より大事なのはチームワークだ。
実際、前より戦力が上がっているとも言える。
「では、いざ参るとしようか。」
「はい!」
すごく高い身長と、鍛え抜かれた体。
そして何物にも屈しない強靭な精神。
東雲竜郎、悪の組織のボスにとてもふさわしい見た目だ。
待ち合わせ場所は、地下などない三階建て廃墟に作られた地下二十階。
最後の階段を降りたところにいたのは、情報通りの四人の相手だった。
「久しぶりだな、野守 宗一。今日は決戦だが、どんな気分だ?」
「東雲 竜郎、お前の強面を見るのは今日が最後か。」
「宗一の妻の野守 琴子と申します。こちらは万全の態勢ですが、そちらは違うみたいですね。」
茶髪のショートヘアに黄緑色の派手な葉っぱのヘアピンをしている女性。
彼女はあまり表に出ないが、今日は違うようだ。
東雲の魔術を打ち破るには、ライターとキャスターの協力が必要なのだろう。
「こちらにはちと組織構造が複雑でなぁ。」
「複雑というより、穴だらけなだけだろう。そちらが弱っているなら、そこを潰すだけだ。」
「相変わらず生意気な口叩きやがって!てめぇのその面、ぶっ潰してやる!」
そろそろ戦闘が始まるだろう。
ここで東雲を殺すような戦い方をしたら、裏切者として俺たちが殺されるだけだ。
だから、俺たちは東雲の盾とならなければいけない。
とはいえ、道理にかなった戦い方をするだけだ。
東雲は一人で会長夫婦を相手する。
ボスは強い。相手が組織最強のペアだろうと、対等かそれ以上に戦えるはずだ。
そして、俺たちが天見姉弟を相手する。
「俺たちはただの盾じゃない。お前たちの行動を縛る鎖とならなければいかないからな。」
「忍者が鎖に縛られるとでも?」
天見の弟はライターで、護身術に投擲を用いる。
相手が投擲なら間合いを詰めれば有利だが、そう簡単にはいかない。
俺だけ間合いを詰めても晶が投擲を防ぎきれないからだ。
「咲人が投擲を防いでくれるおかげで、僕の魔術は絶好調だよ!」
「晴菜、今だ!」
弟の投げた数本のクナイは、姉の魔術よるエネルギーが追加され威力を増す。
これもライターとキャスターの協力の強みである。
だが、こちらも負けてはいられない。
俺はクラッキング魔術を詠唱した後、魔術によるエネルギーが切れたクナイを体術で破壊する。
「残念だったな!俺はただの半端者じゃねぇんだ。」
「一人で二人分の相手か。この戦いに参加するだけあって、ただものじゃないな。」
「おまけに向こうのコンビネーションは完璧よ。一人ずつ潰すのは難しい。」
「そこは会長が頑張ってくれないとな。」
「残念だが、そちらの主力は随分と苦戦しているようだ。」
「足止めしかできない忍者。やっぱり鎖にしばられてるんだね。」
「残念ながら、こっちは逃げ足だけは自信あってね。晴菜!足止めをお願い!」
「もう詠唱は終わってるわよ!日影、気を付けて!」
天から無数の魔術光線が降り注ぐ。
避けるのは容易だが、行動が大きく制限されてしまう。
晶のバリアと俺のクラッキングで十分巻き返せるが、足止めされるには十分なほど強かった。
「クソっ、援軍か!あの二人は何してるんだ!」
「こっちの組織は、会長クラスさえもメンバーとの共闘を訓練していてね。ここから一気に巻き返すぞ!」
「こうなったら、部下から片付けるしかねぇか・・・」
「それはさせない。こっちの部下はただの捨て駒じゃないんでね。」
「会長様、僕たちのことはいいですから、早くそいつを・・・!」
必殺技ってとこか。難しい構成のせいでクラッキングに無駄に手間を取られてしまった。
だが、やっと行動の自由が出来た。即座に戦況を把握し、会長めがけて攻撃を仕掛ける。
「これで一気に形勢を崩すよ!」
「おっと、会長を守るのが俺の役目でね。」
「ここは私も行くよ。宗一の妻として、全力で相手してあげる。」
ライター二人が攻めてきた。
近距離の戦闘はこちらが不利。
ここからはボスの盾としてどこまで耐えられるかが勝負だ。
「日影、今よ!」
「クソ、手榴弾か!」
会長の妻、野守 琴子。
会長専属のライターで、護身用の武器は数種類の銃。そして手榴弾も使用する。
俺たちはどちらも魔術を使うため、エネルギー収束の範囲が重ならないように二人は離れていた。
そこを突かれて、手榴弾の攻撃によって俺たちの相互補助は分断されたのだ。
俺がバリアを張ったところに、琴子は銃弾を数発打ち込んでくる。
ここで俺が魔術弾を発射したら、回り込まれて銃撃されて終わりだ。
だから、第二のバリアを張ってさらに時間稼ぎしてから攻めないといけない。
ようは、弱点を突かれて足止めされているのである。
「遅いぞ、雲の姫!」
「さすがね、森の忍者。」
晶を守るには間に合わない。
俺は晶を守り切れないのか・・・。
―――その時。
「何だ!?」
天見の弟がそう叫んだときには、閃光は収束へと向かっていた。
ものすごく強力なバリアは投擲を弾き、晶を無敵といえる状態まで一転させた。
俺は謎の魔術について考える間もなく、俺を追うライター二人を相手する。
それと同時に晶が会長に強力な魔術光線を放つ。
ボスの魔術を防いだばかりの会長はそれを防ぐことができない。
「宗一!!」
その光線を防いだのは、会長の妻の身体だった・・・。
光線を思い切り受けた会長の妻は焼け焦げて死んでしまった。
「こ、琴子・・・!ああああああぁぁぁ!!!」
一旦戦闘が止まる。
一人死んだのもあるが、お互いに謎の魔術を警戒しているのだ。
「ちっと邪魔者が入ったみたいだな。ここは引かせてもらうぜ。命拾いしたな、野守宗一。」
「クソっ・・・ クソっ!!!」
会長は焼き焦げた妻を抱きながら、壊れた表情で嘆いている。
とりあえず、一時休戦となった。
―――雲の組織の基地
「これがあの邪魔者の魔術の文字列です。そしてこちらがさくらの魔術。これはさくらのもので間違いないでしょう。」
晶はリーダーで謎の魔術を読んでいたので、それをボスに報告した。
晶はすぐにさくらのものだと分かっていた。さすがにあの場所では言えなかったが。
「あの魔術がなかったらこちらの負けだった。残念ながら、お前らの戦いに評価は与えられんなぁ。」
ボスはあの戦いに対して、俺たちにあまり良い評価はしなかった。
ここで良い評価を貰えなかったのは、後に俺たちの没落へと繋がった。
もう俺たちが提供できる、さくらに関する情報はほとんどないのだ。
それから俺たちの地位はどんどん下がっていき、危険な仕事や無理な仕事、そして雑用ばかり任せられるようになった。
「はぁ・・・ 今回も厳しい仕事だった。」
「咲人、僕たちは結局さくらに恩返しできないままだよね。」
「そうだな。今、さくらは十歳。生きられてあと十年だろうな。」
「早くさくらの人生を取り戻さないと。でも、今の僕たちに出来ることが少なすぎるよ・・・。」
「そもそも、取り戻すって何なんだ? 俺たちがさくらを生んだ時点で、こういう組織の餌になるのは決まっていた。ならばこれは三人の運命なんじゃないのか?」
「やっぱり浩美の言ってた、早すぎたって話は正しかったのかな・・・。」
「遅かれ早かれ来る運命だ。さくらが浩美の元で笑顔でいるのかどうか。今はそれが一番大事だろう。」
「そうだね。さくら、元気でいてね・・・。」
俺たちは、二人で厳しい中ひたすら生き抜いた。
それが何のためなのかも分からず、ただ必死に。
たとえそれが悲しみの連鎖を生むだけだったとしても、俺たちは止まることは無いのであった・・・
書いているうちに時系列がおかしいことに気づき、急きょ修正しました。
多少無理しましたが、何とか時系列を合わせることができました。
プロットは勢いで書くものではありませんね。




