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推しの勇者が死にましたが、私の不注意で蘇りました。どゆこと?  作者: こう


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2 ヘッドトゥーヘッド


(そして現在に至る……!)


 しっかり回想してみたが、何が起きたのかよくわからない。


 混乱して逃げだした私を秒で捕らえたノワール様は、ここでは落ち着いて話もできないからとアルト様と私を連れて控え室へと引っ込んだ。

 熱狂した民衆を落ち着かせるのは神官達に任せ、生き返った勇者と生き返らせた私を彼らから素早く引き返した。実に仕事のできる男らしい選択だった。


 ノワール様は、魔法使い。勇者アルトが所属するパーティーの参謀役であり、副リーダー的存在だ。アルト様とは昔馴染みで、パーティーを組む前からの知り合いらしい。

 小麦のような褐色の肌に、薄い唇。黒炭のように黒い髪はさらさらと真っ直ぐで、風にそよぐのが美しく、真っ赤な瞳はまるで薔薇のよう。

 アルト様とは別ベクトルだが、彼も黙って立っているとアンニュイな空気の怪しげな空気から目がそらせない美貌の持ち主だ。


 魔法使いらしく黒いローブ姿が有名で、いつもタブレット型の魔導具で情報の確認をされるほど真面目。勇者ではないのでアクスタやブロマイドは売られていないが、ちょこちょこアルト様のおまけみたいな形で映り込むので存在は周知されていた。


 ちなみに彼の他にも七人の愉快な仲間達がいるのだが、彼らは民衆を落ち着かせる側に回ってくれている。というか民衆と一緒になって蘇った勇者に大歓喜だったので、宴会の準備をしていた。

 このままでは国を挙げた祭りが開催されそうで、震えている。教会の人達には頑張って欲しいが、なんとなく遠くからどんちゃん騒ぎが既に……聞こえてくる、気がする。


 ちょっと遠い目をしたところで、咳払いが聞こえてハッと我に返った。

 明後日の方向を見ている私を、ノワール様がジト目で見ていた。咳払いをしたのも彼だ。


「君……」

「ぅあ、はい、ポムです! 一介の村娘ポムと申します!」

「そうですか、俺はノワールです。君は知っているようですが彼の相棒です。それで、君が一体何をしたのか、詳しく教えてくれませんか」

「ノワール、そう目くじらを立てるな。何をしたって、俺を助けてくれた事に変わりはないだろ?」

「助けたと自認している人間が、奇声を上げながら逃げるわけがないでしょう」

(そうですね! そのとおりです!!)


 私がアルト様にうっかり突っ込んだとき、周囲は私がアルト様にキスをしたように見えたらしい。いや、結果からそう推察しただけかもしれない。


 だが、私はキスなどしていない。

 したのは頭突きだ。

 棺に安置されたアルト様に向かって、うっかり頭突きをしたのだ。


 死者への冒涜と言われても仕方がない。その後、棺をひっくり返した事も含め、詫びても詫びきれない冒涜感で良心がねじ切れそうだ。

 生き返ったからいいじゃないなど言えるわけもない。そもそも何故生き返ったのかがわからないのだし。


「逃げたから、一応捕まえましたが……君からは魔力の気配を感じません。修行したところで、蝋燭に火を着けるのがやっとでしょう。かといって、鍛えているようにも見えません。腕を掴みましたが、ふにゃふにゃでしたし」

(誰の腕が脂肪しかないって?)


 そんな事、一言も言っていない。

 言っていないが、言われている気になってしまう。乙女心は複雑なのだ。


「持ち物も、簡素な旅装だけ……一体何をして、アルトを生き返らせたのですか?」

「だから、皆言っていただろ? 真実の愛のキスだって!」

(げぎー!!)


 にっこり満点の笑顔で断言するアルト様に、私は胃をひっくり返されたカエルのような声を出しそうになった。実際にそんな声聞いたことないけれど多分こんな声。


「俺が死んだと聞いて、ここまで来てくれて……日付からして、本当にすぐ来てくれたんだろ? 本気で泣いて、悲しんで、俺に触れてくれたんだな」


 言われて、ハッとした。顔の穴という穴から水分を垂れ流していた痕跡が残っていることに気付いたのだ。

 思わず窓ガラスを凝視すれば、金髪碧眼のどこにでもいる村娘が険しい顔をして睨んでいるのが見えた。


 目元は赤く腫れて、日に焼けた肌が腫れている。鼻の頭に散ったそばかすも野暮ったく、着ている物も色が落ちて糸が飛び出している着古した衣服。見るからにどこにでもいる村娘だ。

 その村娘に、神々しい美貌の勇者が手を差し伸べている。


「それが、俺を生かしてくれた。俺は嬉しい。今まで困っている人達の為に戦ってきたけれど、これからは君の為だけに戦いたくなるくらい嬉しい!」

「それは解釈違い!!」

「介錯?」

「それはカイシャク違いです」


 きょとんとしたアルト様に、私は飛び上がるようにソファの端っこへ逃げた。


「純白の騎士アルト様は誰か一人の為なんて言いません! 見知らぬ誰かの為、世界中の人達の為にとか平然と言えちゃうちょっとイカレタ善性の強すぎる勇者様なんです! 私はそのイカレタところがわりと好きなんです!! その精神故に助けられた側なので!! 感謝感激ヘチマ大臣なので!! 是非そのままであって欲しい!! それが私個人の為に戦うなんて解釈違い甚だしい!! 私は!! 推しに認知されて推しに悪影響を及ぼす害悪ファンになりたくない!! 戻して! 私を知らない頃のアルト様に戻して!」

「わあ、聞いたノワール! この子、俺の事好きだって!」

「アルトがイカレテいるのは同意見ですが、そこが好きと断言する君もイカレテいるようですね……」


 現物が目の前にいるのに解釈違いも何もないし失礼な物言いと思ったが、アルト様は寛容だった。いや、私の話半分も聞いていないかもしれない。話聞いてください。


「君がアルトのファンなのは、今日ここに来た時点でわかっています。そのファンが、勢い余って何かしでかしたと考えるのは自然でしょう?」

「あの、ほんとに、私が何かしたわけじゃないんです。キスもしてないし頭突きしちゃっただけで。好意も害意もないんです。推しとしてはめちゃくちゃ好きですけどそれとこれとは話が別って言うか。推しにキスなんてできません! 本当です、信じてください!」

「推しに頭突きはできるのですね?」

「あれは事故だ……!」

「事故ならキスした可能性も……」

「違う……違うんです、お願い信じて……!」


 私は罪を犯した罪人の気分で必死に弁明した。実際には勇者を蘇らせた功労者かもしれないが、気分としては傷害罪。やっぱり切腹しかない。

 しかし私の推しは、いつだって皆の太陽だった。


「本人もわかっていないようだし、そう追い詰める必要はないだろ?」


 にっこり笑って、訝しげに私を睨むノワール様の肩を叩くアルト様。


「とにかく、彼女のおかげで俺は助かった。それだけがわかればいいじゃないか」

「よくないですよ。蘇ったのは僥倖ですが、それが今後、どう作用するか検証もできないのですから」

「俺が死んだらまたキスして貰えば何かわかるんじゃないか?」

「軽率に死ぬとか言わないでもろて……! あとキスしてないです頭突きです!」


 マウストゥーマウスではない。ヘッドトゥーヘッドだ。直接対決の方ではない。頭部がぶつかり合う方。かなり痛かった。


「はは、ごめんな! 実は俺、自分が死んでいた自覚がなくて……だって眠くなって寝ただけなのに、起きたら教会で、棺桶から放り出された所だったんだ。意味がわからないだろ?」

「え?」


 アルト様の発言に、私はびっくりする。


(アルト様に、亡くなった自覚がない?)


 そういえば、恐慌状態で死因をちゃんと聞いていなかった。

 訃報ではなんと言っていただろうか。記憶が曖昧で覚えていない。確か、毒で倒れたと聞いた気が……。

 毒……。


「確か、ノワールに村の特産物だって林檎を渡されて、それを食べたら息苦しくなって……林檎って眠くなる成分でも入っているのかな? リラックス効果があるって聞いたことあったけど、そういう意味だったのかな」


 その瞬間、私はノワール様を凝視した。

 ノワール様は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 アルト様は、相変わらず太陽のように笑っている。


(え、それ――林檎に毒が入っていた、のでは……?)


 林檎を食べて息苦しくなり意識を失う。そしてそのまま永眠。勇者の死因は毒。

 むしろ他に口にした記憶がないなら、役満では?

 犯人が長年の相棒とは何事かと思うが、それより重大なのは。


(アルト様ご自身が何もお気付きでない――――!!)


 自分でしっかり「林檎を食べたら息苦しくなった」と言っているのに!?



ヘチマ大臣っ!!

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