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メインストーリーの、そのあとで  作者: 山楽かかし
序章:心に眠る炎
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第7話:身に宿る『力』と忠告

「……ッ!? リリィさん、クレスさん! 感じました!」


 俺の歓喜の声に、木陰でうたた寝をしていたはずのリリィさんが、ヒョイッと身軽な動作で身を起こした。


 先程までの気怠げな様子は鳴りを潜め、その翡翠の瞳には指導者としての鋭い光が宿っている。


「ストップ、ショウト。そこで慌てて集中を切らさないでね」


 リリィさんの凛とした声が飛んでくる。


「今、君が感じているその小さな脈動……それが『魔力』の源だ。そのまま目を閉じて、慌てずにその感覚を保ち続けなさい。点ではなく、線として……体中を巡る魔力の『流れ』を掴むんだ」

「……はいっ!」


 俺は逸る気持ちをぐっと抑え込み、再び目を閉じた。

 リリィさんの助言に従い、胸の奥でピクリと動いたその感覚に全神経を集中させる。


(点じゃなくて、線……あのエネルギーが流れていく感覚を掴む……)


 最初は、暗闇の中を当てもなく手探りをしているような感覚だった。


 しかし、意識を研ぎ澄ませていくうちに、全身の血管とは違う、もう1つの『見えない管』のようなものが体中に張り巡らされているのが分かってきた。


 心臓から腕へ。腕から指先へ。胸から足へ。


 微かな温もりを伴ったエネルギーが、静かに、けれど確かに俺の体内を循環している。


(……すげぇ。これが、俺の魔力……!)


 悪戦苦闘しながらも、俺はようやく自分の中にある『魔力』の全体像を把握することに成功した。


 ふと、その流れを注意深く辿っていくうちに、ある『違和感』に気がついた。


 俺の体中を巡る魔力。それは全て、胸の中心辺り……心臓のすぐ隣にある、1つの『源』から発せられている。


 そことは異なる『へそ』あたりに、さっき『微かな温もり』として知覚した『魔力』とは比べ物にならないほど高密度な『熱の塊』が鎮座していたのだ。


(な、なんだ、これ……? 魔力とは、全然違う……)


 例えるなら、体の中に小さな太陽が埋め込まれているような感覚。それは直接触れている訳でもないのに、発せられる余波だけでも『魔力』より遥かに強い『熱』を感じた。


 俺は純粋な興味本位から、その『熱の塊』の正体を知ろうと意識のピントをそこへグッと合わせ、より深く覗き込もうとした――その瞬間だった。


『――――ッ!!』

「……っ!? あ、あああぁぁぁッ!?」


 突然、全身の血液が沸騰したかのような、爆発的な熱量が俺の身体を内側から焼き尽くすような感覚に襲われる。


 細胞の1つ1つが炎に直接包まれたような激痛と灼熱感に襲われ、俺は悲鳴を上げながら弾かれたように瞑想を中断し地面を転がった。


「ハァッ……! ハァッ……! ハァッ……!!」


 目を見開くと、そこには訓練場の景色があった。


 しかし、俺の全身からは滝のように汗が吹き出し、息はゼーゼーと荒く乱れ、心臓が破裂しそうなほど早鐘を打っている。


「ショウト! 大丈夫かい!?」


 いつの間にかリリィさんが俺の目の前にしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込んでいた。後ろには救急箱を持ったクレスさんも険しい表情で控えている。

 その声で、自分が燃えてなどいないこと、あれは瞑想中に妙な感覚に襲われただけに過ぎなかったことをようやく理解した。


「ハァ……ハァ……す、すみません。大丈夫、です……」

「ひどい汗だ。一体、何があったんだい? 途中でショウトの魔力が暴走したような気配はなかったけれど」


 俺は乱れた呼吸を整えながら、先程自分の中で起きた現象を正直に話した。


「魔力の流れを辿っていったら、お腹の下あたりに……魔力よりもすっごく熱い『熱の塊』みたいなものがあったんです。それに意識を向けた途端、全身が炎で燃やされるようなすさまじい感覚に襲われて……」


 俺が正直にそう告げた瞬間。リリィさんとクレスさんの顔から、スッと表情が抜け落ちた。

 2人は視線を交わし合い、ほんの一瞬――背筋が凍るほど神妙で、何かを確信したような、鋭い視線を交錯させた。


「……リ、リリィ、さん?」

「――おっと。いや、何でもないよ」


 俺が戸惑って声をかけると、リリィさんはすぐにいつものふんわりとした笑顔を取り戻し、俺の頭をポンポンと撫でた。


「初めての瞑想でそこまで深く魔力を知覚できるなんて、ショウトは本当に覚えが早いね。上出来だよ!」

「あ、ありがとうございます。でも、あの『熱の塊』は一体……」

「んー、そうだね。君の魔力の源泉みたいなものかな。でも、今のショウトにはまだ刺激が強すぎるみたいだ」


 リリィさんは立ち上がり、パンパンとスカートの土を払いながら、少しだけ声を低くして告げた。


「いいかい、ショウト。魔力の流れを感じるのはそのまま続けていい。けれど、君の言う『熱の塊』には、今は絶対に意識を向けないこと。……いいね?」


 それは、師匠としての有無を言わさぬ忠告だった。

 あの異常な熱さ。そして一瞬だけ見せた、2人の真剣な表情。


 自分の中に眠るあの『熱』がただ事ではないことを本能で悟った俺は、ゴクリと唾を飲み込み、力強く頷いた。


「分かりました。……絶対に、意識を向けたりしません」


 俺の返事を聞いて、リリィさんは満足そうに微笑む。


 こうして、俺の体内に潜む得体の知れない『熱の塊』の正体は謎に包まれたまま、『魔法』の修行は次のステップへと進んでいくのだった。

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