第50話:意外な特技
太陽の光が降り注ぐ青空の下、俺たちは互いの決意を確かめ合い、しっかりと頷き合った。
アンナの悲壮な覚悟を踏みにじり、セレスの未来を奪おうとする謎の組織、そしてジェードという人物。
奴らを打ち倒し、彼女を本当の意味で自由にするため、俺たちは全ての元凶が潜むであろう王都を目指す。
「よし。そうと決まれば、さっそく王都に向けて出発だ!」
俺は意気揚々と拳を空に突き上げた。
しかし、その勢いは数秒と持たなかった。突き上げた拳をゆっくりと下ろし、俺は周囲の景色を見渡して、思わず盛大なため息を漏らした。
「……と言いたいところなんだけど。ここ、一体どこなんだ……?」
広大なクレーターの向こうに広がっていたのは、見渡す限りの鬱蒼とした深い森だった。
元の世界であれば、スマートフォンを取り出してマップアプリを開けば数秒で現在地がわかる。
だが、ここは見知らぬ異世界、しかも襲撃の末に拉致同然で転移で連れてこられた場所だ。
俺の現代知識など全くの無力だった。東西南北すら怪しい。
「まいったな……。道らしき道もないし、下手に森に突っ込んだら完全に遭難しそうだ」
「ふふふっ」
頭を抱える俺を見て、セレスが口元に手を当てて小さく笑い声をこぼした。
「どうかしましたか、無敵の騎士様?」
「からかわないでくれよ、セレス……」
苦笑いする俺をよそに、セレスは少しだけ歩みを進め、岩壁の縁から森の方へと視線を巡らせた。
そして、足元に生えている名も知らぬ青草や、岩肌に張り付いている苔の表面を優しく指先で撫でる。
「ショウト様、あちらを見てください。あの背の高い樹木の葉、表面が少し白っぽく変色しているのがわかりますか?」
「え? ああ、言われてみれば確かに……」
「それに、こちら側に生えている苔は、他の場所よりもずっと青々として、水分をたっぷりと含んでいます。さらに……」
セレスはスゥッと目を閉じ、そよ風に吹かれながら深く深呼吸をした。
「……風の匂い。微かにですが、土と緑の香りに混じって、冷たくて湿った空気を感じます。あちらの方角に、きっと大きな水源……河川があるはずです」
目を開いたセレスは、迷いのない眼差しで森の奥の一点、北東の方角を指差した。
「すごいな、セレス! なんでそんなことまでわかるんだ?」
「王宮の書庫で、植物や地理の本をたくさん読んでいたんです」
セレスは少し照れくさそうに微笑み、視線を落とした。
「私はずっと『呪い』持ちの欠陥品として、王宮の奥に隠されるようにして生きてきました。外の世界を自由に歩くことなんて、絶対に許されなかった。……だからせめて、本の中だけでも外の景色を知りたくて、図鑑や冒険譚ばかりを繰り返し読んでいたんです。いつか、こんな日が来ることを夢見ていたのかもしれませんね」
そう言って、セレスは足元にひっそりと咲いている、淡い青色をした小さな花をそっと指差した。
「それに……この『ルリイトソウ』という花。これは、王国の特有の土壌と気候でしか育たない固有種なんです。つまり……」
「俺たちは王都から離れた辺境の町で襲撃されて、この場所に飛ばされた。とはいえ、国を越えるほど遠くまでは連れ去られていないってことか!」
「はい! きっと、歩いてでも十分に王都へ帰り着ける距離のはずです」
そう語る彼女の横顔は、かつての怯えていた少女のものではなく、自らの足で世界を歩こうとする確かな力強さに満ちていた。
俺は彼女の言葉に希望を見出し、大きく頷いた。
「川が見つかればこっちのものだ。川沿いに下流へ向かって歩き続ければ、必ず人里や街にたどり着く。そこでまずは水や食料、新しい服を調達して、王都への正確なルートを探ろう」
「はいっ! ……ふふ、なんだかショウト様より私の方が、この旅をするのに向いているかもしれませんね?」
「違いない。俺1人じゃ、今頃森の中で迷子になって野垂れ死んでたよ。これからの道案内は、優秀なセレスさんにお任せするよ」
「お任せください、ショウト様!」
俺の冗談に、セレスは花が咲くような満面の笑みで応えた。
ボロボロになった服。満身創痍の体。そして、背負ってしまった決して消えることのない重い罪。
これから歩む道は、決して平坦なものではないだろう。アンナ以上の恐ろしい刺客が俺たちの前に立ち塞がり、理不尽な悪意が襲いかかってくるかもしれない。
それでも、俺の心に不思議と恐怖はなかった。
俺の魂の奥底には、共に戦ってくれる騒がしくも頼もしい『相棒』が宿っている。
そして何より、俺の隣には同じ罪を背負い、同じ未来を目指して共に歩んでくれる、かけがえのない少女がいるのだから。
「行こうか、セレス」
「はい、ショウト様」
俺たちは自然と手を繋ぎ、太陽の光が指し示す真っ直ぐな道――広大な未知の世界へと向かって、力強く第一歩を踏み出した。
ここから始まる長い旅路が、いつか必ず、彼女の本当の笑顔を取り戻す場所へと続いていると信じて。
【第1章:月華の誓い・完】
――町中での襲撃から始まった激闘を乗り越えたショウトとセレス
――彼らは亡き少女への想いを胸に、王都への帰還を目指す
――しかし、疲労困憊の2人の元に、ジェードの影が不穏に迫る
――第2章『天穿つ白金』
「ねぇ、マティー? 本当にこっちであってるの?」
「もちろんだとも、イルミィ! なにせ僕の『聖剣』がそう言っているからね!」
「はぁ……はいはい……」
※これにて第1章は終わりとなります。幕間をいくつか投稿した後、第2章については「11月1日(日)」より投稿を開始いたします。




