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メインストーリーの、そのあとで  作者: 山楽かかし
第1章:月華の誓い
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第24話:英雄の弟子?

「……セレス?」


 俺はもう一度、壁際で固まっている彼女に優しく声をかけた。


 セレスは弾かれたようにビクッと肩を揺らし、恐る恐る、信じられないものを見るような碧眼を俺に向けた。


「ショウト、様……。今のは、一体……」

「ごめん、驚かせたよな。少し魔力を込めすぎたかもしれない。でも、これでとりあえずの危険は――」

「ち、違います! そういうことではなくて……!」


 セレスは壁に手をつきながらふらふらと立ち上がり、灰の山となったミノタウロスの残骸と、俺を交互に指差した。


「あれは、ミノタウロスですよ!? 本来であれば、高難易度ダンジョンの深層にしか現れない、騎士団が一箇中隊を編成してようやく討伐できるかどうかの、災害級の魔物です……! それを、たった一人で、あんな一撃で……」

「き、騎士団が一箇中隊?」


 俺は思わず聞き返した。


(ま、マジかよ……。どうりで強かったはずだ……)


「ショウト様は、一体何者なのですか……? 年齢は、私とそう変わらないように見えますのに。あんな途方もない剣技と魔(・)術(・)……どこの高名な騎士団で、あるいはどこの魔導学院で学ばれたのですか?」


 セレスの問いかけには、純粋な好奇心というよりも、得体の知れない存在に対する畏怖のようなものが混じっていた。


「いや、俺はただの駆け出しの冒険者だよ。騎士団とか魔導学院なんて、立派なところには行ったことがない。……ただ、少しばかり『師匠』に恵まれただけさ」

「し、師匠、ですか?」

「ああ。俺が右も左も分からなかった時に拾ってくれて、一から剣と魔(・)法(・)を叩き込んでくれた人がいるんだ」


 俺は剣の柄を握っていた右手を開き、軽く握り直しながら苦笑した。


「本当に、めちゃくちゃな人だったよ。『身体強化』を教えてもらってすぐに森の中を走らされたり、毎日ボロボロになるまで木剣で稽古を付けてくれたり……。でも、あの人がいなかったら、俺は今頃どうなっていたか分からない」

「……その方は、何というお名前なのですか?」


 セレスが、ごくりと唾を飲み込んで尋ねてきた。


 俺は隠すようなことでもないと思い、素直に恩人の名前を口にした。


「エルフの女性でね。名前は『リリストーラ』。……俺はいつもリリィさんって呼んでるんだけど――」

「――――えっ?」


 セレスの動きが、ピタリと止まった。


 瞬きすら忘れ、口を半開きにしたまま、文字通り石像のように完全に硬直してしまったのだ。


「セレス?」

「リリス、トーラ……? エルフ?」


 セレスは震える声で、その名前を反芻した。


「シ、ショウト様……、つかぬ事をお聞きしますが、その『リリストーラ』様というエルフの女性は……白銀の髪に、翡翠の瞳をされておりましたか……?」

「えっ、あ、うん。そうだけど。もしかして、知り合いだったか?」

「し、ししし、知り合いなどと、そんな恐れ多い……ッ!!」


 突如、セレスがパニックを起こしたように両手で自分の顔を覆い、バタバタと後ずさった。


 そして、信じられないものを見るような――いや、今度は『興奮』と『疑念』が入り混じった視線を俺に向けてきたのだ。


「ショウト様……ご自身が誰の弟子なのか、分かっていらっしゃらないのですか!?」

「え? いや、だから森の奥に住んでる、ちょっとマイペースな強すぎるエルフの……」

「リリストーラ様といえば!! かつて世界を滅ぼしかけた『邪神大戦』において、世界を救い真の平和をもたらした『6人の英雄』のお1人であり……『救世主』と呼ばれる、伝説の御方なのです!!」

「…………は?」


 俺の口から、間抜けな声が漏れた。


 今、セレスは何と言った? 『6人の英雄』? 『救世主』?


 いつもクッションを抱いてよだれを垂らしながら昼寝していた、あのリリィさんが?


「ま、待て待て待て! セレス、落ち着いて! そんなわけないって!?」


 俺は突然の情報に頭を抱えた。


 確かに強いと、強すぎるとは思っていた。


 俺が火の魔法を暴走させた時や、全力で斬りかかった時も、平然と弾き飛ばすバケモノだということは身をもって知っていた。


 だけど、まさか歴史の教科書に載るような『世界を救った伝説の英雄』そのものだったなんて、ただの一言も聞いていない!


(リリィさん……、なんでそんな重要な情報を隠して普通に振る舞ってたんだよ!? いや、クレスさんもクレスさんだろ! リリィさんの世話をしてたってことは、あの人も絶対に只者じゃないって!)


 俺は心の中で、はるか遠くの森にいるであろう2人に向かって盛大にツッコミを入れた。


「あ、ああ……どうしましょう。私、そんな伝説の御方の直弟子であるショウト様に、あんなに馴れ馴れしく……。無礼討ちにされても文句は言えませんわ……っ!」


 セレスが青ざめた顔でブルブルと震え、今にもその場に土下座しそうな勢いで身を縮こまらせている。


「いやいやいや! 違うから! 俺はそんな大したヤツじゃないって! そこら辺にいる普通の冒険者だから! 無礼討ちなんて絶対にしないし、これからも今まで通り普通に接してくれ!」

「で、ですが……英雄の系譜を継ぐ御方だなんて……」

「俺は俺だ。師匠が誰であろうと、俺がセレスを守るって決めたことは変わらないよ」


 俺が両手を振って必死に弁明し、最後に真っ直ぐ目を見てそう告げると、セレスはハッと息を呑み、その碧眼を微かに潤ませた。


 ――その直後。


 彼女の瞳に浮かんだ安堵の光は、スッと暗く、重い影へと塗り潰されていった。


「ショウト、様……」


 セレスは俯き、自分の胸のあたりを両手でギュッと強く握りしめた。


 その姿は、先ほどまでの英雄の弟子に対する恐縮とは違う、もっと根源的な『恐怖』と『諦め』に囚われているように見えた。


「……セレス? どうした?」

「……申し訳ありません」


 セレスの口から漏れたのは、とても悲しそうで消え入りそうな声だった。


 彼女はゆっくりと顔を上げ、悲壮な決意を秘めた瞳で俺を見つめ返した。


「ショウト様が……そこまで凄まじい力を持った、素晴らしい御方だからこそ。これ以上、私みたいな『忌まわしい存在』が、貴方のお側にいてはいけないんです」

「……忌まわしいって、またその話か?」

「はい。……私の、『呪い』の本当の話を、しなければなりません」


 ミノタウロスを倒し、静寂が戻った薄暗い空間の中で。


 セレスはついに、アンナたちから命を狙われる元凶となった、自らの血に刻まれた『秘密』を語り始めた。

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