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メインストーリーの、そのあとで  作者: 山楽かかし
序章:心に眠る炎
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第15話:漆黒の剣と、乗り越えた壁

「……器へと造り変えられた、って」


 手鏡に映る真っ赤な髪と瞳の自分を見つめたまま、俺は呆然と呟いた。


 まるで別人のような姿だが、不思議と体の中に違和感はない。


 むしろ、これまでずっと抱えていた『何か得体の知れないものが詰まっている』ような息苦しさが消え、本来の自分の姿を取り戻したような、奇妙なまでのしっくり感があった。


「驚くのも無理はないけれど……変化は見た目だけじゃないよ、ショウト。」


 リリィさんの静かな声に促されるように、俺は自分の右手に異変が起きていることに気がついた。


 熱い。だけど、それは火傷をするような今までの痛みではなく、凝縮された圧倒的な『何か』が、今まさに外へ出たがって脈打っているような感覚だった。


「右手を開いて、魔力を操作する感じで、その『力』を外に押し出してみて」

「こ、こうですか……?」


 俺が恐る恐る右手を前に突き出し、魔力で押し出すように意識して『何か』を解放した、その瞬間。


 ――ゴウッ!!


 手のひらから、爆発的な真紅の炎柱が巻き起こった。


 その炎柱は空中に散ることなく、俺の右手の中で渦を巻き、ギュルギュルと凄まじい勢いで圧縮されていく。


 そして、眩い閃光が弾けた後――俺の手の中には、一本の『剣』が握られていた。


「……剣?」


 それは、ただの鉄の剣ではなかった。


 刃渡り一メートルほどの、吸い込まれるような美しい『漆黒の刀身』。


 柄から刃の先まで、まるで夜の闇をそのまま固めたような深い黒色をしており、その表面には微かに、明滅するような赤い紋様が走っている。


 重さはほとんど感じない。まるで自分の腕の延長線にあるかのように、しっくりと手のひらに馴染んでいた。


「……やっぱり、間違いないね」


 リリィさんはその漆黒の剣を見つめながら、小さく息を吐き出した。


「それは『神器(じんき)』……あるいはそれに類する、とてつもなく強力な破格の武具だ。ショウト、君の中に眠っていたあの強大な『熱の塊』の正体は、その剣そのものだったんだよ」

「これが、あの『熱の塊』の正体……」

「そう。強力すぎる力が君の魂の中に眠っていたから、君の魔力はあんなに不安定になっていた。でも今、君はその力に完全に同調し、操作することに成功したんだ」


 リリィさんの説明を聞きながら、俺は漆黒の剣をそっと振ってみた。


 空気を切り裂く音すらしない。ただ、刃が通った空間に、微かな赤い炎の軌跡が残るだけだ。


 この漆黒の剣が恐ろしいほどの切れ味と力を秘めていることは、素人目にも明らかだった。


「すごい……これが、俺の力」

「ふふ。でも、喜ぶのはまだ早いよ。……ショウト、剣を持ったまま、もう一度目を閉じてごらん」

「え?」

「いいから。そして、昨日までずっと失敗していた『魔素の知覚』をもう一度やってみるんだ」


 リリィさんに言われるがまま、俺は左手に漆黒の剣を握りしめ、右手に魔力を集めながら静かに目を閉じた。


 ――今度は意識を身体の内から外へと向ける。


 昨日までは、ここで身体の奥にある『熱の塊』が猛烈に自己主張を始め、外に向けた意識を妨害し、その感覚の全てを焼き尽くしてしまっていた。


 しかし――今回は違った。


 俺の胸の中にあったあの『熱の塊』は、今や右手に剣となって外に顕現している。


 あるいは、完全に俺自身と一体化して落ち着いているからだろうか。


 長く『魔素』の知覚を邪魔していた『壁』は、綺麗に消え去っていたのだ。


(……あっ)


 暗闇の中で、俺の意識が外の世界へと広がっていく。


 肌を撫でる風。土の匂い。


 そして、そのさらに奥にある――無数の、小さな光の粒。


 空気中に漂う、目に見えないほど微細なエネルギーの粒子。これが『魔素』だ。


 邪魔をしていた内なる『力』がない今、その光の粒たちは、夜空の星のように鮮明に輝き、魔力を纏った俺の右手に吸い付くような感覚に気付く。


「リリィさん……分かります。空気の中に、キラキラしたものが、いっぱい……!」


 俺が興奮して目を開けると、リリィさんは満面の笑みで拍手をしてくれた。


 隣ではクレスさんも、懐かし気に俺を見ながら満足そうに深く頷いている。


「おめでとう、ショウト。君を塞いでいた最大の『壁』は、今、完全に突破されたよ」


 リリィさんは俺に歩み寄り、ポンと肩を叩いた。


「これでもう、君の魔法の修行を邪魔するものは何もない。これでようやく、本格的な魔法の基礎訓練に進めるね!」

「はいっ! ここまで長かったですけど……俺、頑張ります!」


 リリィさんの翡翠の瞳が、いたずらっぽく、そして頼もしく輝く。


 俺は手鏡で赤く変貌した自分の姿をもう一度確認し、自分の左手にある漆黒の剣を強く握りしめた。


 停滞の時間はようやく終わった。


 ここから始まるであろう本格的な修行に胸を躍らせながら、俺はようやく異世界のスタートラインに立ったのだった。


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