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メインストーリーの、そのあとで  作者: 山楽かかし
序章:心に眠る炎
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第12話:『魔素』の知覚、立塞がる壁

「……ああっ、また割れた! これで今日5個目だぞ!」

「ショウト様。割れた卵は後でオムレツにして残さず食べていただきますので、ご安心を」


 『身体強化』を維持したまま、生卵を割らずに移動させるという、精神をゴリゴリと削る特訓を言い渡されてから数日。


 俺はなんとか魔力の出力を繊細にコントロールする術を身につけ、卵を割らずにカゴからカゴへ移せるようになっていた。


 『身体強化』の加減も掴み、うっかり地面を陥没させるような事故も起こさなくなった頃、リリィさんは次のステップを提示してきた。


「さて。魔力操作と身体強化の基礎ができたところで、次はいよいよ『魔素』に目を向ける修行に移るよ」


 リリィさんは切り株の上に座り、足をブラブラさせながら言った。


「ショウト、『魔法』の仕組みは覚えているね? 自分の体内の『魔力』を放出し、大気中に満ちている『魔素』と干渉させることでイメージした事象を起こすんだ」

「ええと……なんとなくわかったような。つまり、『粘土』を使って何かを作るみたいな? 大気中の『魔素(粘土)』を、自分の『魔力(道具)』を使ってイメージした形にする、って感じですか?」

「うんうん、いい喩えだよ。ショウト、君は今、自分の『道具』を手にしただけの状態だ。でも、その『道具』を使うための『粘土』がなければ、どれだけ素晴らしい作品をイメージしても意味がない。だから今日からは、空気中に漂う『魔素』を感じ取る訓練を始めるよ」

「はい! わかりました」


 リリィさんが教えてくれた『魔素』を知覚する方法は、最初に教わった『魔力』の知覚になんとなく似ていた。


 深く瞑想し、今度は意識を自分の内側ではなく、皮膚の表面からさらに『外』へと広げていくのだという。


 一定量の『魔力』を一部に纏うと、その部位に何かが吸い付くような感覚が起きるらしい。


 その感覚を覚えると、『魔力』を纏わなくても『魔素』を感じられるようになり、慣れてくると感覚の強弱で『魔素』の濃度もわかるようになるみたいだ。


「目を閉じて、指先に魔力を集めるんだ。そして自分の周囲にある空気を肌で感じて。風の流れ、温度、匂い……その奥に潜む、微細なエネルギーの粒子を捉えるイメージだよ」


 リリィさんのアドバイスに従い、俺はあぐらをかいて目を閉じた。呼吸を整え、意識を外へ向ける。


 肌を撫でる初夏の風。木々のざわめき。


 そこからさらに深く、空気に混ざった『魔素』そのものの質感を探ろうと、意識を向けようとした――その時だった。


(……うっ)


 意識を外へ向けようとした途端、俺の身体の奥底に鎮座する、あの『熱の塊』が、まるで自己主張するかのようにドクンと大きく脈打ったのだ。


(……熱い)


 火傷をするような痛みはないが、圧倒的な存在感を放つ熱量が、俺の意識を強引に内側へと引き戻そうとする。


(ダメだ、外に意識を向けろ。熱は無視するんだ……!)


 俺は必死に『熱の塊』から目を逸らし、外に向けて意識を集中しようとした。


 だが、暗闇の中で感覚を澄ませようとすればするほど、内なる熱は煌々と燃え盛る篝火のように、俺の意識を内側から焼き尽くしていく。


 この強烈な熱の前では、外の世界に存在する微かなエネルギーの存在など、完全に掻き消されてしまうのだ。


「……くそっ」


 一時間後。俺は集中が完全に途切れ、重い溜息とともに目を開けた。


「どうだい、ショウト。何か掴めそうかい?」

「すみません……リリィさん、全然ダメです。外の感覚なんて、これっぽっちも分かりません」


 俺が苦々しい表情で首を振ると、リリィさんは不思議そうに小首を傾げた。


「おや、意外だね。魔力操作の飲み込みが早かった君なら、魔素の知覚もすんなり終わると思っていたんだけど。うまくいかない理由が何か、分かるかい?」

「それが……」


 俺は未だに熱が残る感じのする、自分の胸のあたりをさすりながら、正直な感覚を伝えた。


「意識を外に向けようとすると、身体の奥にあるあの『熱の塊』が、ものすごい自己主張をしてくるんです。外の微かな音を聞きたいのに、部屋の中で音楽を大音量で流されるような……とにかく、身体の奥から発せられる『熱の塊』が強すぎて、外の微細な感覚が全部搔き消されて何も分からなくなっちゃうんです」


 俺の言葉を聞いた瞬間、リリィさんとクレスさんの間に『何かを察した』ような沈黙が降りた。


「……なるほどね」


 リリィさんは顎に手を当て、少しだけ難しい顔をした。


「君の中に眠るその『熱の塊』は、良くも悪くも桁外れに強大すぎるんだ。」

「なるほど……」

「本来なら、その『熱の塊』の力すらも手足のように制御できれば一番いいんだけど……今の君が下手にソレ(・・)に触れるのは、まだ危険すぎる」


 そう言うと、リリィさんは切り株から飛び降り励ますように俺の肩を叩いた。


「大丈夫、焦る必要はないよ。今はとにかく、その『熱の塊』に慣れながら、少しずつ『魔素』を探す練習を続けよう。君なら絶対にできる」

「……はい。やってみます」


 俺は、リリィさんの笑顔に後押しされ、再び目を閉じ『魔素』を知覚する修行を続けた。


 しかし――――


(……くそっ、やっぱり熱い。何も感じない……!)


 その日1日中、俺はひたすら瞑想を続け『魔素』を感じようとしたが、結果は惨敗だった。


 翌日も、その次の日も。


 俺は朝から晩まで目を閉じ、外の『魔素』を感じ取ろうと悪戦苦闘を繰り返した。だが、胸の奥の『熱の塊』は一向に静まる気配を見せず、巨大な障害となって俺の前に立ちはだかり続けていた。


 順調だった異世界での修行生活において、初めてぶつかった完全に先の見えない分厚い壁。


 少しずつ蓄積していく疲労と焦燥感が、俺の心に暗い影を落とし始めていた。

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