表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神速の陰陽師 〜幕末艶武伝〜  作者: 風花
最終章:黎明の風、死神たちの文明開化
46/48

廃刀令の影、消えゆく魂

 東京の街には、人力車が行き交い、煉瓦造りの建物が競うように建ち始めていた。

「散髪脱刀令」から一年。街ゆく男たちの腰から刀が消え、髷を落とした姿が当たり前になりつつある。

 凱夜は、漆黒の刀を古い布で幾重にも包み、女たちが用意した隠れ家の奥深くに封印していた。


「……変な感じだね。凱夜が刀を持ってないなんて」

 お凛が、慣れない手つきでコーヒーという苦い飲み物を啜りながら呟く。彼女は今日、新しい時代の流行である「リボン」を髪に結んでいた。

「時代の流れだ。今はもう、腰に鉄の棒をぶら下げて歩く奴は『野蛮』だとよ」

 凱夜は苦笑しながら、窓の外を見つめる。

 だが、その黄金の瞳は、ガス灯が照らす華やかな街の裏側によどむ「黒い霧」を捉えていた。

 刀という「抑止力」が消え、人々が急速な変化に精神を摩耗させる中、かつての戦死者の未練や、切り捨てられた古い価値観が混ざり合い、正体不明の怪異が生まれ始めていたのだ。


 その夜、事件は起きた。

 上野の不忍池近くで、新政府の役人が「見えない刃」によって次々と斬り伏せられるという怪死事件が頻発。怨霊の仕業と踏んだ警視庁の密偵が動くも、霊的な防備を持たない彼らは返り討ちに遭っていた。

「凱夜様、あれは……ただの未練ではございませんわ」

 夕霧が静かに告げる。彼女の九つの尾が、不穏な霊気を察知して逆立っていた。

 凱夜は立ち上がり、封印していた漆黒の刀に手をかけようとして――止めた。

「……刀は使わねえ。今はもう、刃で解決する時代じゃねえんだ」

 凱夜は懐から数枚の呪符を取り出し、指先で霊を練り上げる。

「いくぞ。土御門の術だけで、あの迷い子たちを浄化してやる。……死神の仕事は終わったが、陰陽師の仕事はまだ残ってるらしい」


 現場に現れたのは、かつての上野戦争で散った彰義隊の亡霊たちだった。彼らは「自分たちが何のために死んだのか」を見失い、文明化していく東京への憎悪だけで形を保っていた。

「――土御門流・浄霊結界ッ!!」

 凱夜の咆哮とともに、黄金の術式が夜空に展開される。

 斬るのではなく、包み込む。

 力でねじ伏せるのではなく、その無念を解き放つ。

 白雪の冷気が亡霊たちの昂ぶりを鎮め、夕霧の狐火が彼らの往く道を照らす。緋糸の銀糸が怨念の繋がりを優しく断ち切り、阿と吽が彼らの魂を彼岸へと導いた。

「……トシ。お前の言った『新しい日本』は、まだ少しばかり不安定だぜ」

 亡霊たちが光となって消えていく中、凱夜は夜空を見上げて独りごちた。

 刀を捨て、術を振るう。

 それは凱夜にとって、武士としての過去と決別し、この新時代で女たちと共に生きていくための「新しい戦い方」の証明でもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ