獄からの帰還、誓いの再会
明治四年。箱館戦争の終結から二年の月日が流れた。
かつて五稜郭で旧幕府軍と共に戦い、怨霊・道魄を葬った凱夜は、降伏後、賊軍の重要協力者として軍艦で東京へと護送されていた。
新政府軍にとって、土方歳三の傍らで異能を振るった凱夜の存在は、旧幕府軍の残党の中でも特筆すべき脅威であり、その身柄は厳重な監視の下、東京の獄に繋がれた。
それは、凱夜にとって、かつての活動拠点であり、女たちと深く愛し合い、血を流して駆け抜けた「京都」の湿り気ある空気とは対照的な、乾いた「東京」の変貌を獄窓から見つめる孤独な二年間でもあった。
「――出ろ。恩赦だ」
看守の無愛想な声と共に、東京の獄舎の重い鉄扉が軋んだ音を立てて開く。
逆光の中、一人の男がゆっくりと足を踏み出した。凱夜だ。
二年前、彼は土方や散っていった兵士たちへの義理を通すため、あえて逃げずに投降した。その「時代の清算」を終え、彼は今、再び自由の身となった。
「……まぶしいな」
凱夜は空を仰ぎ、細く息を吐いた。
獄舎の門を抜けた、その先だった。
「「「凱夜様!!」」」
幾重にも重なる、愛おしい声。凱夜が視線を上げると、そこには彼を追い、東京で潜伏し続けていた六人の女たちの姿があった。
夕霧が涙を浮かべて駆け寄り、お凛が腰にしがみつく。白雪、緋糸、そして少し大人びた阿と吽。凱夜は何も言わず、ただ力強く、愛しい女たちを次々とその腕の中に抱き寄せた。
その夜。
東京の片隅、文明開化の喧騒から隔絶された女たちの隠れ家は、静かな熱気に包まれていた。
外は春の冷え込みが残っているが、奥の寝所は、幾つもの灯火と、待ちわびた女たちの体温で春の盛りのように暖かい。
「凱夜様……本当に、夢ではございませんのね。京を離れ、この不慣れな地であなた様を待ちわびた日々が、ようやく報われましたわ……」
夕霧が、凱夜の胸にそっと顔を寄せた。
凱夜は、円座になった女たちの中心で、一人ひとりの顔を慈しむように見つめる。慣れ親しんだ京の街並みも、土方たちとの日々も今は遠い。だが、彼女たちと分かち合った命の温もりだけは、東京の冷たい獄壁の中でも決して色褪せることはなかった。
「ああ。夢じゃねえよ。……二年間、この肌の熱さだけを思い出して、自分を繋ぎ止めてきたんだ」
凱夜の手が、夕霧の柔らかな髪を撫で、お凛の肩を引き寄せる。その熱に誘われるように、白雪が凱夜の腕に指を絡め、緋糸が背中からそっと抱きついた。阿と吽は、凱夜の両膝を枕にするようにして、その顔を覗き込んでくる。
誰からともなく、深い口付けが交わされた。
それは情欲というよりも、互いの魂がまだここに在ることを確かめ合うような、切実な儀式だった。
「……凱夜様の熱、二年前よりも、ずっと熱い気がする……」
お凛が火照った頬を凱夜の胸に擦りつける。
凱夜は、女たちの肌が重なり合い、それぞれの吐息が一つに溶け合っていく感覚を全身で受け止めた。夕霧の甘い芳香、白雪の清涼な肌、緋糸の微かな銀糸の響き。それらすべてが凱夜の内に流れ込み、凍てついていた「賊軍の死神」の心が、内側から激しく融解していく。
「お前たちの命は、今も俺が預かってる。……今夜は、その全部を俺に叩きつけてくれ。二年の空白なんて、一晩で焼き尽くしてやる」
凱夜の声が低く響くと、女たちは歓喜に近い吐息を漏らし、主へと縋り付いた。
絡み合う手足、重なり合った七人の影は、一つの巨大な命のうねりとなって溶け合っていった。
「……もう、どこへも行かせませんわ」
夕霧の幸福に満ちた呟きに、凱夜は力強く頷いた。
窓の外には、東京の夜を照らす新しい時代の星が輝いている。だが、この部屋に満ちる情愛の熱だけは、どの時代にも、どの法にも縛られない、彼らだけの永遠の領域だった。




