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神速の陰陽師 〜幕末艶武伝〜  作者: 風花
第十一章:箱館燃ゆ、武士の魂と怨霊の終焉
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孤高の最期、そして死神の咆哮

「――ッ!!」

 箱館山の中腹、燃え盛る市街地を見下ろす断崖で、凱夜の足が止まった。

 その黄金の瞳が大きく見開かれ、漆黒の刀が鞘の中で激しく共鳴する。

 遠く一本木関門の方角から届いたのは、ただの一発の銃声ではなかった。それは、土方歳三という男がこの世界に繋ぎ止めていた「誠」の糸が、ぷつりと断ち切られた音だった。

「……トシ……」

 凱夜の声は、風にかき消されるほど小さかった。だが、その直後、彼の足元から地響きのような霊圧が噴き上がる。

 箱館の空を覆っていた黒い雲が、凱夜の怒りに呼応するように渦を巻き、雷鳴が轟いた。友を失った喪失感が、一瞬にして純粋な破壊衝動へと塗り替えられていく。

「凱夜様……土方様の光が、消えましたわ」

 夕霧が静かに寄り添い、その白い手を凱夜の震える拳に重ねた。彼女の瞳にも、主の友を失ったことへの深い哀惜が宿っている。

 だが、その感傷を打ち消すように、山頂から不気味な笑い声が降ってきた。

「くかかかか! 見事な散り際よ! 最後の武士が死に、この地の希望は完全に潰えた! さあ、凱夜、貴様もその絶望を私に捧げよ!」

 道魄の声が、箱館山全体を震わせる。

 土方の死によって生じた巨大な霊的な空白。道魄はその隙間に、溜め込んできた呪詛と怨念を流し込み、山全体を巨大な「死の祭壇」へと変えようとしていた。


「絶望……だと?」

 凱夜がゆっくりと顔を上げた。その瞳はもはや黄金ではなく、冥府の深淵を思わせる禍々しい漆黒に染まっている。

「……勘違いするな、ジジイ。こいつは絶望じゃねえ。……俺がお前を八つ裂きにするための、『正当な理由』ができただけだ」

 凱夜の背後で、六人の女たちが一斉にその武器を構えた。

 お凛の鬼火が青白く爆ぜ、白雪の周囲に鋭利な氷の刃が浮遊する。緋糸の銀糸が空間を細切れに切り刻み、阿と吽は巨大な影の獣を背後に顕現させた。

「トシは、武士として綺麗に逝った。……なら、俺たちは死神らしく、泥塗れの掃除を始めようじゃないか。お前のような過去のゴミが、あいつの眠る街を汚すんじゃねえよ」

 凱夜が漆黒の刀を抜き放つ。

 その瞬間、彼を中心に凄まじい熱波が放たれ、周囲の立ち枯れた木々が一瞬で灰へと化した。女たちはその熱に当てられることで、さらなる高揚感と殺意をその身に宿す。

「行くぞ。……道魄、お前のその薄汚い笑い声、二度と響かねえように喉笛から引き裂いてやる」

 凱夜の咆哮とともに、七人の修羅は地を蹴った。

 一本木関門で散った友の魂に報いるため、そしてこの時代の幕引きを汚す怨霊を葬るため、彼らは死の霧が渦巻く頂上へと突き進む。

 箱館の夜はまだ明けない。だが、その闇の中で最も熱く、最も残酷な「死神の報復」が始まろうとしていた。


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