孤高の最期、そして死神の咆哮
「――ッ!!」
箱館山の中腹、燃え盛る市街地を見下ろす断崖で、凱夜の足が止まった。
その黄金の瞳が大きく見開かれ、漆黒の刀が鞘の中で激しく共鳴する。
遠く一本木関門の方角から届いたのは、ただの一発の銃声ではなかった。それは、土方歳三という男がこの世界に繋ぎ止めていた「誠」の糸が、ぷつりと断ち切られた音だった。
「……トシ……」
凱夜の声は、風にかき消されるほど小さかった。だが、その直後、彼の足元から地響きのような霊圧が噴き上がる。
箱館の空を覆っていた黒い雲が、凱夜の怒りに呼応するように渦を巻き、雷鳴が轟いた。友を失った喪失感が、一瞬にして純粋な破壊衝動へと塗り替えられていく。
「凱夜様……土方様の光が、消えましたわ」
夕霧が静かに寄り添い、その白い手を凱夜の震える拳に重ねた。彼女の瞳にも、主の友を失ったことへの深い哀惜が宿っている。
だが、その感傷を打ち消すように、山頂から不気味な笑い声が降ってきた。
「くかかかか! 見事な散り際よ! 最後の武士が死に、この地の希望は完全に潰えた! さあ、凱夜、貴様もその絶望を私に捧げよ!」
道魄の声が、箱館山全体を震わせる。
土方の死によって生じた巨大な霊的な空白。道魄はその隙間に、溜め込んできた呪詛と怨念を流し込み、山全体を巨大な「死の祭壇」へと変えようとしていた。
「絶望……だと?」
凱夜がゆっくりと顔を上げた。その瞳はもはや黄金ではなく、冥府の深淵を思わせる禍々しい漆黒に染まっている。
「……勘違いするな、ジジイ。こいつは絶望じゃねえ。……俺がお前を八つ裂きにするための、『正当な理由』ができただけだ」
凱夜の背後で、六人の女たちが一斉にその武器を構えた。
お凛の鬼火が青白く爆ぜ、白雪の周囲に鋭利な氷の刃が浮遊する。緋糸の銀糸が空間を細切れに切り刻み、阿と吽は巨大な影の獣を背後に顕現させた。
「トシは、武士として綺麗に逝った。……なら、俺たちは死神らしく、泥塗れの掃除を始めようじゃないか。お前のような過去のゴミが、あいつの眠る街を汚すんじゃねえよ」
凱夜が漆黒の刀を抜き放つ。
その瞬間、彼を中心に凄まじい熱波が放たれ、周囲の立ち枯れた木々が一瞬で灰へと化した。女たちはその熱に当てられることで、さらなる高揚感と殺意をその身に宿す。
「行くぞ。……道魄、お前のその薄汚い笑い声、二度と響かねえように喉笛から引き裂いてやる」
凱夜の咆哮とともに、七人の修羅は地を蹴った。
一本木関門で散った友の魂に報いるため、そしてこの時代の幕引きを汚す怨霊を葬るため、彼らは死の霧が渦巻く頂上へと突き進む。
箱館の夜はまだ明けない。だが、その闇の中で最も熱く、最も残酷な「死神の報復」が始まろうとしていた。




