不浄の切断、星の砦に昇る朝日
「……おのれ、死神の分際で、人の理を歪めるか!」
道魄の思念体が激昂し、龍脈から吸い上げた黒い奔流を無数の触手へと変えて襲いかかる。地下回廊の岩盤が軋み、箱館の大地そのものが悲鳴を上げているようだった。
「歪めてんのはどっちだ。ジジイ、お前の理屈はもう聞き飽きたぜ」
凱夜は女たちを背に従え、泰然と歩を進める。彼の周囲では、夕霧の狐火が黒霧を焼き払い、白雪の氷壁が崩落する岩を受け流していた。阿と吽は凱夜の影に溶け込み、地中から迫る呪詛の触手を影の杭で次々と封殺していく。
「夕霧、お凛、白雪、緋糸、阿、吽。……お前たちの力、貸してくれ。この城の根っこに刺さったトゲを、根こそぎ引き抜くぞ」
「「「はい、凱夜様!」」」
女たちの声が重なり、一つの巨大な霊圧となって爆発した。
凱夜が漆黒の刀を正眼に構えると、その刀身に女たちそれぞれの属性が宿っていく。夕霧の紅蓮、白雪の純白、お凛の青藍、緋糸の銀閃、そして阿吽の漆黒。六人の女たちと肌を重ね、魂を交わしてきた凱夜だからこそ成し得る、絆の結晶であった。
「――断」
凱夜の一閃。
それは肉体を斬るためのものではなく、龍脈に深く食い込み、五稜郭を爆破せんと絡みついていた道魄の「不浄の糸」だけを狙い撃った神技であった。
五稜郭の地下に、一瞬だけ目も眩むような黄金の光が満ち溢れる。
「ぐ、あああああああッ!? 龍脈が……私の支配を拒絶するだと!?」
道魄の思念体が光に焼かれ、霧散していく。
「……凱夜……。喜ぶがいい、箱館の最期は近い。その時こそ、貴様と、その愛しい女たちの魂を……冥府の底で、じっくりと、味わって、やる……」
不気味な呪詛の言葉を遺し、道魄の気配は完全に消え去った。
龍脈の拍動は本来の清浄なリズムを取り戻し、どす黒かった結晶は再び澄んだ輝きを放ち始める。
「終わりましたのね……凱夜様」
夕霧が凱夜の肩にそっと寄り添い、戦いの余韻に浸るように吐息を漏らす。凱夜は刀を鞘に収めると、疲労の色を見せる女たちを一人ずつ力強く引き寄せ、その健闘を称えるように、そして自身の愛を再確認させるように、深く、熱く抱きしめた。
数時間後。
凱夜と六人の女たちが地上へ戻ると、五稜郭の空には、夜の帳を切り裂くような鮮やかな朝日が昇っていた。
「……トシの野郎、まだ海の上か」
凱夜が水平線の彼方を見据える。そこには宮古湾での激戦を終え、ボロボロになりながらも帰還しようとする艦隊の姿があった。
五稜郭を守り抜いた男と女たち。そして海で命を懸けた男たち。
時代の終わりは、着実に、しかし苛烈にその足音を響かせている。
「凱夜様、土方様たちが戻られましたら、次は……」
「ああ。いよいよ大詰めだ。道魄のジジイに、本当の『死』ってやつを教えてやろうぜ」
凱夜を囲む女たちの瞳に、迷いはない。
彼女たちの魂は、北の極寒と凱夜の熱によって、もはや何者にも壊せぬ最強の剣へと鍛え上げられていた。




