道魄の宣告、呪いの侵食
地下回廊の最果て。そこには、五稜郭の土台を支える巨大な龍脈の結晶が、どす黒い霧を纏って不気味に脈動していた。その結晶の前に、陽炎のように揺らめく一人の老人の姿があった。
「くかか……やはり来たか、凱夜。それに、その薄汚れた雌狐どももな」
実体を持たぬ道魄の「思念体」が、裂けた口で不気味に笑う。その姿は半透明ながらも、周囲の空間を腐らせるほどの圧倒的な殺意を放っていた。
「……汚ねえ口を閉じろ、ジジイ。俺の女たちを侮辱して生きて帰れると思うなよ」
凱夜が低く、地を這うような声で告げる。その背後では、夕霧たちの殺気が限界まで膨れ上がっていた。しかし、道魄はそれを楽しむかのように杖を振った。
「愛か……執着か。凱夜よ、貴様の抱くその熱は、女たちにとっての救いではなく、緩やかな毒だとは思わんか? 貴様の強すぎる生命力を注ぎ込まれ、彼女たちはもはや、貴様なしでは息もできぬ『化け物』へと成り下がった」
道魄の言葉に合わせ、黒い霧が女たちの足元に絡みつく。霧は彼女たちの脳裏に、最悪の幻想を見せ始めた。――凱夜が戦場で果て、自分たちだけが異形として生き残る孤独。あるいは、凱夜が自分たちを「道具」としてしか見ていないという猜疑心。
「……違う。凱夜様は、そんな……」
夕霧が苦しげに胸を押さえ、九つの尾が弱々しく垂れる。お凛や白雪も、精神を侵食する呪詛に膝をつきかけた。阿と吽の二人ですら、道魄が囁く「お前たちはただの器だ」という毒に、黄金の瞳を曇らせる。
「見ろ、これが貴様らの絆の正体だ。脆く、儚い。……さあ、その絶望を龍脈に捧げよ。この城ごと、貴様らの愛を肥料にしてやるわ!」
道魄の嘲笑が地下に響き渡る。だが、その瞬間だった。
凱夜が、迷いなく女たちの中心へ踏み込んだ。彼は膝をつきかけた夕霧を、そしてお凛を、まるで壊れ物を扱うような優しさと、決して離さないという強引さで、その太い腕の中に引き寄せた。
「……おい。誰の許可得て勝手に絶望してんだ」
凱夜の低く、温かい声が女たちの芯に響く。彼は一人一人の頬を撫で、あるいはその身体を強く抱きしめ、自身の中に渦巻く猛烈な生命の熱を、直に彼女たちへと流し込んだ。
「道魄のジジイが何を言おうが関係ねえ。俺が抱き、俺を愛したお前たちは、世界で一番強い女たちだ。……俺の熱が毒だぁ? 上等じゃねえか。なら、その熱で地獄の果てまで焼き尽くしてやるよ」
凱夜の強引な抱擁と、肌から伝わる圧倒的な肯定感。その「熱」に触れた瞬間、女たちの瞳から濁りが消えた。
夕霧は凱夜の胸に顔を埋め、歓喜の涙を流しながら再び九つの尾を燃え上がらせた。阿と吽は凱夜の腰に縋り付き、主を守るための牙を以前よりも鋭く研ぎ澄ます。
「……ふふ、失礼いたしました、凱夜様。わたくしたちの絆、このような亡霊に揺さぶられるほど安くはございませんわ」
夕霧が立ち上がり、道魄を睨み据える。その背後には、凱夜の愛を受けて再覚醒した、六人の修羅たちが並び立っていた。
「くかか、聞いたかジジイ。……こいつらは俺の女だ。お前のくだらねえ理屈が届く場所にはいねえんだよ」
凱夜が漆黒の刀を抜き、黄金の瞳が暗闇の中で燦然と輝いた。道魄の思念体が、初めてその表情を驚愕に歪ませた。




