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神速の陰陽師 〜幕末艶武伝〜  作者: 風花
第六章:伏見の雪華と、氷肌の処女
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氷の褥、熱病の交わり

「……下がってろ、トシ。こいつは剣で斬るより、もっと別の『始末』が必要だ」

 凱夜は、全身を震わせる土方や新選組の隊士たちを背後へ退かせ、白雪へと歩み寄った。彼女の周囲数メートルは、空気が凍りついて結晶が舞い、呼吸をするだけで肺が焼けるような冷気に満ちている。

 白雪は、先ほどまで抱きついていた隊士を物言わぬ氷像のように放り捨てると、ふらりと凱夜の胸に身を預けた。

「ああ……あつい。貴方の奥から、逃れられないほどの熱が伝わってくるわ……」

 彼女の白い指先が凱夜の頬に触れた瞬間、ジュッと肉が焼けるような音がした。熱いのではなく、あまりの冷たさに細胞が死滅しかけているのだ。だが、凱夜は眉ひとつ動かさず、その細い腰を強引に引き寄せた。

「凱夜様! そのままでは貴方の命の灯火まで吸い尽くされてしまいますわ!」

 夕霧が声を荒らげるが、凱夜は片手を挙げてそれを制した。

「心配すんな。こいつの腹の中に飼ってる『氷の化け物』が、俺の熱を欲しがってるんだ。……なら、腹一杯食わせてやるのが男の甲斐性ってもんだろ?」

 凱夜は白雪を抱きかかえ、奉行所の一角にある、戦火を免れた奥座敷へと踏み込んだ。


 襖を閉め切った暗がりの中、二人の吐息だけが白く光る。白雪は、飢えた獣のように凱夜の着物に手をかけ、その冷たい唇を重ねてきた。

「……溶かして。わたくしを縛る、この冷たい鎖を……壊して……」

 白雪の肌は、触れるたびに凱夜の体温を奪い、心臓を凍りつかせようと呪いを流し込んでくる。だが、凱夜の「黄金の霊気」は、それを許さない。神速を司る彼の血潮は、極限の摩擦と霊圧によって、内側から爆発的な熱を産み出していた。

「くかか、随分と欲しがるじゃねえか。……道魄のジジイに、よっぽど酷い仕込みをされたらしいな」

 凱夜は白雪の柔肌に深く指を食い込ませ、その冷徹な美貌を歪ませた。

 交わりが深まるにつれ、座敷の壁や畳は白く凍りつき、まるで氷の棺の中のような幻想的な光景が広がる。白雪は絶頂と苦悶が混ざり合った悲鳴を上げ、凱夜の背中に爪を立てた。

 彼女の体内で、道魄が仕込んだ「氷結の核」が、凱夜の放つ圧倒的な「陽」のエネルギーに抗い、激しく脈動している。

「……あ、あぁッ! くるしい……熱くて、壊れてしまう……!」

「壊れりゃいいさ。真っ白に凍りついたお前の昨日を、俺が全部焼き払ってやるよ」

 凱夜の動きが神速の領域へと達する。

 肌と肌が擦れ合う音は、硬質な氷が砕けるような、あるいは業火が爆ぜるような轟音へと変わっていった。


 その時、奉行所の外で巨大な砲声が響いた。

 鳥羽・伏見の戦端が開かれたのだ。

 爆炎が夜空を焦がし、銃弾が建物を貫く中、凱夜は白雪の深奥に眠る「核」へと、己の全霊を込めた熱を叩き込もうとしていた。


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