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Fランク荷物持ちのバズりキャンプ飯 〜無能と追放され最深部でヤケクソ配信したら、ラスボス神獣が餌付けされました〜  作者: 伊達ジン


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第10話 一方その頃、クズ共は

 深淵の迷宮の地上エントランスに隣接する、探索者ギルド日本本部の巨大なロビー。

 自動ドアが重々しい音を立てて開き、三人の探索者が足を引きずるようにして入ってきた。Aランクパーティー「赫き剣」の面々である。


 先頭を歩くリーダーのレオンは、最高級の素材で作られた革鎧を泥と魔物の返り血で酷く汚しながらも、その口元にはどこか誇らしげな、傲慢な笑みを浮かべていた。


「はぁーっ、やっとシャバの空気だぜ。あんな凶悪な転移トラップから無傷で生還できるなんて、やっぱり俺たちくらいのもんだな」


 後ろを歩く盾役の男と魔法使いの女も、深い疲労の中に安堵の色を滲ませて同意する。


「全くだ。あの無能なオッサンが勝手に罠を踏み抜いた時はどうなるかと思ったぜ」

「本当よね。でも、いい囮になってくれたおかげで私たちは助かったんだから、最後に少しは役に立ったってことかしら」


 三人は、堂々たる足取りで受付のカウンターへと向かった。

 本来ならば、深層でパーティーメンバーを失ったとなれば、深刻な顔で事故報告を行うのが常識だ。だが彼らの態度は、まるで偉業を成し遂げて凱旋した英雄のそれだった。


「おい、中継所のギルド職員に通信で入れた第一報の通り、第六十階層でのトラップ事故の事後処理だ。どん臭い荷物持ちが勝手に巻き込まれて消えちまったせいで、俺たちまで命からがら逃げ帰るハメになったんだぜ。……なあ、Aランクじゃなきゃ間違いなく全滅してたはずの凶悪トラップからの生還だぞ。ギルドから特別慰労金くらい出してもらわねえとな」


 レオンがカウンターに肘をつき、尊大に言い放つ。

 しかし、いつもなら愛想よく応対するはずの受付の女性職員は、レオンの顔を見た瞬間、さっと血の気を引かせて後ずさった。彼女はまるで恐ろしいバケモノでも見たかのように震える手で、カウンターの下に設置された緊急インターホンを強く押し込んだ。


「あ? なんだその態度は。こっちは疲れてるんだよ」


 レオンが不機嫌そうに舌打ちをした時、ふとロビーの空気が異様なほど重いことに気がついた。

 普段なら、若手筆頭のAランクパーティーである彼らが帰還すれば、周囲の探索者たちから羨望や畏敬の眼差しが向けられるはずだ。しかし今、ロビーにいる数十人の探索者や職員たちは、自分たちの通信端末の画面とレオンたちの顔を交互に見比べながら、ヒソヒソと囁き合っている。


 ロビーのあちこちから、小さな端末のスピーカー越しに「パチパチ」という焚き火の音や、誰かが美味そうに食事をする咀嚼音が微かに響き続けていた。彼らが向けてくる視線には、明らかな嫌悪感と軽蔑の色が濃く混じっている。


「……おい、なんだあの目。俺たちの生還劇がそんなに信じられないか?」


 レオンが苛立ちを募らせていると、カウンターの奥から、眉間に深い皺を刻んだギルドの支部長が足早に歩み寄ってきた。その後ろには、完全武装したギルドの精鋭警備部隊が十名近くも控えており、逃げ道を塞ぐようにレオンたちを取り囲む。


「おや、支部長自らお出迎えですか? 悪いんですが、俺たちも疲れてて――」

「レオン。お前たち三人は、このままギルドの特別査問室へ同行してもらう。これは本部からの直接の通達であり、拒否権はない」


 支部長の氷のような声音に、レオンたちは顔を見合わせた。


「は? 査問室? なんで俺たちがそんなところに……俺たちは被害者だぞ」

「理由は、自分たちの胸の内に訊いてみることだ。お前たちが『最深部』に置いてきたものの重さをな」


 支部長の冷ややかな言葉に、レオンの心臓が嫌な音を立てた。

 最深部に置いてきたもの。それは間違いなく、あの戦闘力ゼロのオッサンのことだ。だが、なぜギルドがその場所まで正確に把握しているのか。

 まさか、あのオッサンが生きているとでもいうのか? いや、そんなことはあり得ない。あそこは人類未踏の絶対領域であり、神獣の巣窟だ。落ちた瞬間に塵も残さず消滅しているはずだ。


「おい、ちょっと待てよ! 俺たちはAランクだぞ! 不当な拘束ならギルド本部に抗議するからな!」


 レオンの虚勢を張った怒鳴り声は、静まり返ったロビーに虚しく響くだけだった。周囲の探索者たちが向ける視線は、滑稽なピエロを見るような冷ややかなものへと変わっていた。


★★★★★★★★★★★


「よし、こんなもんか」


 俺は木製のテーブルに並べた小鉢の配置を微調整し、満足げに頷いた。

 時刻は夕方。天井の発光苔が青白い光を放ち始めている。ここ数日、分厚いステーキや豚バラのコーラ煮、海鮮親子丼といった重めの食事が続いていたため、今夜は少しヘルシーな和食の献立で胃腸を休めることにした。

 ハクはすでに定位置である俺の足元で伏せの姿勢をとり、テーブルの上から漂ってくる甘酸っぱい香りに鼻をヒクヒクとさせている。


「お前も今日は肉じゃなくてヘルシー路線だからな。足りなかったら後で何か焼いてやるよ」


 端末の画面では、数十万人の視聴者がいつものように文字の濁流を生み出している。


『昨日のイクラ丼のどこがヘルシーなんだよ!』

『このおっさんのヘルシーは絶対に信用できない』

『どうせまたとんでもない飯テロが始まるんだろ、俺は騙されないぞ』


 画面越しのツッコミを横目に、俺が用意したのは、豆腐と鶏挽肉の団子の甘酢照り焼きをメインにした定食だ。

 まずはボウルに木綿豆腐を入れる。通常は重石をして時間をかけて水切りをするが、俺は『極・生活魔法』で豆腐内の余分な水分だけを微細に飛ばし、数秒で完璧な水切りを完了させる。そこに鶏挽肉、すりおろした生姜、少量の片栗粉と塩を加え、粘り気が出るまでしっかりと練り合わせ、一口大の団子状に丸めていく。


 フライパンに薄く油を引き、団子を並べて火にかけた。

 生活魔法の干渉領域を展開し、団子の中心部まで均一に熱を通しながら、表面だけをカリッと香ばしく焼き上げる。

 綺麗な焼き色がついたところで、醤油、みりん、酒、砂糖、それに少量の黒酢を合わせた特製のタレをフライパンに一気に流し込んだ。


 ジュワァァァッ!


 酸味の飛んだ甘く濃厚な香りが立ち昇り、食欲のスイッチを強引に押し上げてくる。

 生活魔法でタレの水分だけを的確に飛ばし、粘度を上げながら団子の表面に絡めていく。照り輝く琥珀色のタレが、ふわふわの団子を美しくコーティングした。


『タレの照りがヤバい』

『あんなの絶対ご飯泥棒じゃん』

『深夜に見る甘酢照り焼きの破壊力よ』


 副菜には、別のフライパンで油を引かずにから煎りし、表面の水分を飛ばしてカリカリに仕上げた厚揚げ。そして、魔法で沸かした湯で色鮮やかに塩茹でしたブロッコリと、薄切りトマトの和風サラダを用意した。

 そして汁物は、たっぷりのもずくを入れた熱々の吸い物だ。鰹と昆布の合わせ出汁に、もずくの磯の香りが溶け出している。


「仕上げに、これだな」


 俺はアイテムボックスから小さなガラス瓶を取り出し、もずくの吸い物に数滴だけ垂らした。沖縄の調味料、コーレーグース。島唐辛子を泡盛に漬け込んだもので、独特の風味と強烈な辛味が出汁の味を何倍にも引き締めてくれる。


『コーレーグース! 沖縄の調味料か!』

『美味いけど入れすぎると咽せるやつ』

『吸い物にそれ入れるの絶対美味い』


「よし、完成だ。食うぞ」


 俺はハク用の大きな木桶に、甘酢タレをたっぷり絡めた豆腐と鶏の団子を山盛りにし、少し冷ましてから置いてやった。

 ハクは「ワフッ!」と短く鳴くと、豆腐が入っていることなど気にせず、ものすごい勢いで団子を口の中に吸い込み始めた。甘酢の匂いが鼻先をくすぐるのか、時折フシュッと鼻息を漏らしながらも、夢中で木桶を舐め回している。


 俺も手を合わせ、箸を取った。

 まずは、もずくの吸い物をお椀から直接すする。


「……っ、効くな」


 出汁の優しい旨味が喉を通った直後、コーレーグースの鮮烈な辛味と泡盛の芳醇な香りが、胃袋の中からカッと熱を帯びて立ち上がってきた。ただの優しい吸い物が、一気にパンチのある大人の味に変化している。ツルッとしたもずくの喉越しも最高だ。


 胃のエンジンが完全に温まったところで、メインの団子に箸を伸ばす。

 タレがたっぷりと絡んだ団子をかじると、カリッとした表面のすぐ下から、豆腐の滑らかなフワフワとした食感と鶏肉の旨味が口いっぱいに広がった。生姜の風味がしっかりと効いており、黒酢を加えた甘酢ダレの酸味が肉の脂をサッパリとさせてくれる。


 すかさず白飯を掻き込む。

 濃厚な甘酢ダレと熱々の白飯。この組み合わせに勝てるものなどそうそうない。

 から煎りした厚揚げには、少しだけ醤油を垂らす。サクッ、という小気味良い音と共に、大豆の濃厚な香りが鼻を抜ける。茹で加減を完璧にコントロールしたブロッコリの瑞々しさと、トマトの酸味が、濃い味付けの合間の完璧な箸休めとして機能していた。


 団子の甘酢照り焼き。

 コーレーグースの効いた吸い物。

 サクサクの厚揚げと野菜たち。


「たまにはこういう献立も悪くないな」


 俺は箸を止めることなく、ヘルシーながらも圧倒的な満足感を与えてくれる夕食をじっくりと堪能した。

 ハクも自分の分を平らげた後、俺が食べている厚揚げに興味を示したので、一切れだけ口に放り込んでやると、サクサクとした食感に目を丸くして喜んでいた。


 食後、俺はアイテムボックスから急須を取り出し、昼間にも飲んだゴーヤー茶を淹れた。

 湯呑みを両手で包み込み、温かいお茶をゆっくりと喉へ流し込む。

 独特の香ばしい焙煎香がふわりと鼻を抜け、心地よい満腹感に浸る胃袋を静かに落ち着かせてくれた。肉の重さがない分、いつもより身体の芯が軽く感じる。


 俺はキャンピングチェアの背もたれに深く寄りかかり、足元で丸くなって満足げに腹を出しているハクの柔らかい毛並みに、足の裏をそっと押し当てた。

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