じゃ、探偵らしく 3
(おう、真鈴か。これから始めるのか?)
「うん……昨日、話した通り、に……」
由美から受け取った、フォンの母の形見である指輪をはめる真鈴。
「サンディーニさん、お願いするっす」
「はいよ」
言われたフェレッチョは二人の遺体の横に梯子を降ろした。ここから遺体の近くまで降りてスキャンしようと言うワケだ。
墓穴は既に数十人が安置されており、ヘンリーたちの遺体は並んでいるとは言え、先客の遺体の上に乗せられている。梯子は遺体の上に置かざるを得ず、非常に不安定だ。
その上で、スキャンするのにヘンリーらの遺体に出来る限り近付かねばならないので、念のために真鈴の腰と脇をまわるように、転落防止の命綱も巻く。
――……
図らずも、歳頃の女の子を荒縄で縛るシチュ。
決して邪な気持ちは起こらないハズであったが、最後の一締めで真鈴が、
「あ……」
などと漏らすものだから、ちょいとドッキリな光一くん。加えて、
「……コウさん……リョウさん」
女の勘と言うものは中々に過敏。
「え?」
「なんすか?」
「……邪魔になるものが、無い、から……やり易すい……なんて、思わな、かった?」
「な、何言ってんだよ、事故防止の処置だろ?」
おまけに反応が正に予想外。緊縛プレイ? 変な気分にならなかった? 興奮してる? くらいは覚悟していたが、お胸コンプレックスを前に出されるとは……
「そうそう考えすぎっすよ、安全第一っす」
「大丈夫よ真鈴。あたしが付いてるわ」
言いつつルガーマークIの安全装置を外す一歩手前の由美。そういうのはシャレでも冗談でもやるべきではありませんよ、由美さん?
「若いからじゃれ合うのもええけんど、気を抜くと大した落差が無うてもケガせんとも限らんでな?」
「わかってるっす。みんな、気を引き締めるっす」
フェレッチョに諫められ、息を整えて気を取り直す一同。
「じゃあ真鈴ちゃん」
「うん……
「気を付けて」
「ええ……」
死臭除けに口と鼻をタオルで巻いた真鈴は、遺体の上ゆえに梯子を通して伝わる、ぐにゅっとしたキモ柔らかな感触に身震いしながらも、ゆっくりと降りて行った。それに合わせて、弛まず、引っ張らずの塩梅で命綱を保持する光一・良介。消臭や防虫、野獣除けに撒かれている石灰のおかげで、死臭は幾分マシではあった。
やがて一番下の段まで降りた真鈴は、出来るだけしゃがんで右手を梯子の段に回して身体を保持、左手を伸ばしてヘンリーの遺体に翳し、念を込め始める。
「こういう使い方は初めてっすけど……」
真鈴とフォンによる融合技でスキャンを始める二人を見ながら呟く良介。次いで、
「ヨミさんが、あの指輪は魔石の結晶だって言ってたけど、ブースターの効果も持ってるんだな。マジで強化付与魔法だなぁ」
光一も答えた。
ヨミが鑑定した魔石結晶。さすが不純物の無い、言ってしまえば魔素の集合体でもあり、魔神の精神体であるフォンが媒介する事によって対象のスキルの強化・発展する効果が認められた。
(ふむ。掛けられた石灰のせいで分解は順調に進んどるようだの。マリン? 届いとるかや?)
「ええ、来てる……うーん……」
「真鈴ちゃん? 気持ち悪くなったら止めるっすよ? 無理しちゃダメっす」
「大丈夫……フォンさん……データだけ、送って、くれてる……ありがと」
(買い被るな。さすがに本体との距離が有り過ぎるから直接映像を見せるにはユミの視覚系スキルでないと出来んだけよ)
「念話できるだけでも大したもんなのにな~」
(近くに龍脈が通っておったのが幸いしたな。そこを使えば我が本体もそちらに向かえそうじゃが。さて、調べるのは首周りじゃったな?)
「うん、その辺り……うん……うん…………あ……」
「ん? なにかあったの?」
「首に、有る……強い鬱血の後が……」
「首の鬱血? 首吊りの痕っすか?」
「うん……そこが、二つに、分かれてる……ちょっと、待って」
真鈴は腰に掛けた雑嚢から帳面と木炭を取り出すと、スケッチを始めた。
ざっとした略図を描き上げると真鈴は、上に向けて光一・良介らに見えるように掲げる。
帳面が小さいので三人は目を細めて凝視するが、肝心の部分をアップで描き、ちゃんと伝わるように描かれているのはさすが真鈴。
「二つの鬱血痕……二つ?」
「両方とも……首の、組織が変形……損傷、するほどの……力で……」
「……例えば、その…………両方とも同じく、ロープの様なモノで絞まった痕って事っすか?」
「多分……」
「なにこれ? 一つは、ほぼ真後ろに続いてるじゃん。これって……」
「そう……その、一つ目の方が……より強い力で、先に……絞められてると……思う……」
(ふむ。上に向かっている方が、後から被さって付いた感じかの~?)
そのような跡がつくとは……
――まさか……他殺?
全員の思考がそちらの方向に傾き始めた。
「その痕は両人ともかい? それともどちらか一人だけかな?」
そう。片方だけなら、無理心中の線も残るわけだが……
「……両方……二人とも同じ、痕……」
と、言う事は……。
「そんじゃぁ……ほぼ決まりじゃねーか。何だ、こんな古典的な偽装は!」
「ん~。でも、それはあたしたちの世界だから言えるんじゃないの? この世界じゃまだ……」
「……面倒なことになって来たっすね。仕事、増えるっすよ」
「どうかしたんかね? みんなでブツブツ言うて」
梯子がズレたり転倒しないように押えてくれていたフェレッチョが尋ねてきた。体重をかけるため、地面に座り込んで梯子を引き付けているので真鈴の描いた図は見えていない。
「まあ、今のところは何とも無いっす。確かにヘンリーさんとルーチェさんだと確認出来たっすから、本来の調査は終わりっすよ」
「ギルドからの紹介っちゅうから、何かと思うたが……役場の監査かなんか、かの?」
「まあそんなもんすよ。真鈴ちゃん、お疲れっす。気を付けて上がってきて欲しいっす」
降りる時と同じく、光一が命綱のテンションを張りながら真鈴は梯子を昇った。由美に手を引いてもらい、梯子から離れる。
ロープなどを片付けながら、お互いを微妙な目線で見つめ合う探偵団。
労を掛けたフェレッチョに銀貨二枚を渡し、四人は墓地を去った。




