じゃ、探偵らしく 4
墓地での検死を終えた探偵団は露店で肉の串焼きや、パニーニの様なラマント風サンドウィッチを購入して、人通りの少ない裏路地に入った。
四人はこれまでの情報を整理しようと、パニーニを食べながら話し合い始めた。
「他殺で間違いないなぁ……」
「俺も同意っす。でも、まだ他の人たちに言うのは早いと思うっす。しょせん俺たちは大した場数も踏んでない素人っすからね。警吏だって納得するかは……」
「警吏つったってさぁ~。よくよく調べもせずに見た目だけで心中と断定したんでしょぉ~? 聞く耳持つかなぁ~?」
「メンツ潰れるし、煙たがれるだろな」
「そうっすね。誰もが反論できない証拠とかでも無けりゃ、揉み消しっすねぇ」
「依頼人……には?」
「他殺の疑いがあります。俺たち探偵団のやれる事はここまでです――で終わるってのも?」
「アズマぁ―! いくら何でも、それは依頼人に薄情でしょー!?」
「や、おれもそう思うけどさぁ。でも警察権とか無いおれたちが、どこまで突っ込めるかなぁ?」
「エマさんがそれで納得してくれりゃ終了もいいっすけど、依頼は真相を明らかにするって事っすからねぇ。背景を探らない訳にも行かねぇっすね」
「んだな。それがハッキリ見えないと、他殺と納得させる事は出来ないだろうしな」
「それに……」
「それに? なぁに真鈴?」
「他殺……だとして……一体、誰……が……?」
「そこっすね。そこに至る事情……」
「そうねぇ。エマさんたちは、ヘンリーさんは不倫の末に心中するなんて、そんな人じゃない! って思いたいだけ、って言うとイジワルだけど……」
「話を聞いた時も、誰それが怪しいなんて話は丸っきり出なかったっすもんねぇ」
「そう言うのがあるのなら、あの時話してるわよねぇ~」
「コウさん? ……こういう時……どう……手を付ければ……いい?」
「え? 何でおれに聞く?」
「知識だけは無駄に多いでしょ? オタって」
由美のツッコミに、真鈴ちゃん、うんうんと首をコクコク。意外と真顔で。
「お前らなぁ~」
こんな言われ方もうんざりではあるが、まだ嘲りが残る由美と違って真鈴は先述通り、実際に光一の知識に期待、そんな真っ直ぐな眼ではあった。
とは言え、推理マニアっていうわけでも無い、広く浅くの光一では大して示唆する事も出来ないが。
「う~ん。やっぱりガイシャの身辺を洗い直すってとこじゃないかなぁ?」
「そうっすね。ヘンリーさん周辺の評判、近所とか行きつけの店、職場とか聞き込むのが常道っしょ。特に職場っすね」
「……不倫がホントかどうかから洗わないと、だよな。不倫確定だと、奥さんたちも容疑が掛かりかねないし」
「ハァ? アズマぁ、何で奥さんが?」
「あくまで予測……てか邪推レベルだけどさ」
光一が念を押しながら続けた。
「不倫を確信、もしくは疑念が高まって二人を殺害。そのあと自殺を偽装したって可能性も……」
「血が昇って犯行に及んだけど、時間が経って罪の意識に潰されて鬱を発症……とかっすか?」
「ちょっと、あんたら!」
「あくまで可能性だよ。不倫がホントで、あの偽装自殺が確定したなら、奥さんによる復讐心からの凶行。そんな風に考える奴ぁ、おれ以外だって居るんじゃねぇか?」
「そんなの! 女手であんな工作できるわけが!」
「その通りっすよ、由美さん」
「へ?」
思わず目を丸くする由美。
オタ特有の変わった目線で反証してくるかと思ったら、すんなり自分の意見が支持されて、由美さんちょいと困惑。
「女の力で森まで運び、しかも樹の枝から吊るすなんて、滑車でも使わないとまず無理っすね。ここで奥さん犯人説の可能性は激低になるっす」
「わかってんなら何でそんな説、出すのよ~?」
「他に真犯人が居るのなら、当然そんな奥さん犯人説なんて反論も出てくるっす。そんな時は、さっきの仮説で論破出来るっすね」
「逆に見れば、そんな説を言い出す奴は怪しいかも? と注視する事も出来るかな?」
「ああ……なるほど、納得したわ」
「あらゆる可能性を並べて一つずつ潰していって、最後に残ったモノを……。自殺偽装なんて物騒な案件は俺ら初めてっすけど、やる事は基本、今までと同じスタンスっすね」
「でも……聞き込みも、気を、つけないと……中に、自殺を、偽装、して……人を、殺害……する、相手……」
「真鈴ちゃんの言う通りっす。偽装しなければならなかった事情を抱えてる奴がいるってこってす。今のところ単独犯か、複数犯か、それすら不明っすからね」
「でも、やっぱり一番怪しいのはドレン商会じゃねぇか? 死んだのは両方とも同じ会社で同じ職場なんだしさ」
「ルーチェさんの……交友、関係……も?」
「ふ~ん。ルーチェさんに恋人か、もしくは恋慕する相手がいてぇ~……」
「そいつが嫉妬に狂って犯行に? まあ、可能性としちゃ無視しちゃダメだろうけどな」
「いたとしたらっすね。それでいて偽装工作までする奴かどうかってとこっすね」
「そうよねぇ。偽装殺人だと仮定すると、動機としては『知られちゃいけない事』を知られたからってところが一番説得力あるんじゃない~? 損失阻止のために自殺に見せかけて口封じ……なんて思うのはドラマの影響受けすぎかな~? 日本でも経済犯罪って珍しく無かったし~。」
「や、そこは由美の言う通り……つか、おれもそれが最も有りそうだと思うぜ? ヘンリーさんの職場だった倉庫辺りから洗うべきかな?」
「だとすると、危険の度合いも跳ね上がるっすね。みんなエモノのメンテはよろしいっすか?」
言われて三人は服の上から懐をポンポンと叩いた。
光一は、お馴染み45ACP。
真鈴も、ようやく手に馴染んできたルガー・マークI。
そして由美は最近、良介におねだりしたレッドホーク44マグナムを携えていた。
♦
ドレン商会ラマント支店の倉庫は、街の東門に続く街道より一つ奥のブロックに構えられていた。
ここにはドレンに限らず、東門から流入してくる業者が商品を受領・納品するため、何棟かの倉庫が軒を並べており、ちょっとした倉庫街――と言うより倉庫通りと言った様相である。
一番大きな倉庫はトリアーノ・キュウビィ両王国で一番のシェアを持つ、光一らの耳にもよく聞こえたアスロッカ商社。
今回、探偵団の聞き込み対象であるドレン商会はアスロッカの後塵を拝していると言われているが、このラマント支店倉庫の建屋は意外やそれに負けない規模を誇っていた。
小忙しい朝の出荷が終り、社員たちは一息つきつつ、倉庫内の仕分けや整理などに掛かり始めていた。
そんな中、倉庫内の作業員に一通りの指示を終えた一人の男が倉庫正面扉から建屋の隅に出て来て、パイプ煙草で一服し始めた。
ハァ~……
男の名はガストーネ。倉庫の現場で荷役を行っている社員を束ねる人夫頭の一人。
ガストーネの煙の吐き方は、まるで溜め息だった。出荷が一段落付いての安堵か、それとも仕事のストレスのなせる業か。なにせ彼はつい最近、平の社員から人夫頭に昇格して、責任を負う立場になったばかりなのだ。




