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蠢くタンテイ 1

 まだ慣れない役職に、給金は上がったもののストレスはその分しっかり上積みされていると言うワケだ。

 この昇格は前任の人夫頭筆頭が()()()()()になったせいだ。そしてその前任の倉庫支配人は……。


「お疲れさんっす」


 不意に声を掛けられて、ガストーネは吸い掛けた二口目を直前で止めた。


「うん?」

 声のした方に顔を向ける。

「うす」

 

そこには20代中盤の、贔屓目に見ても()()()()部類から抜けられそうにない男が立っていた。後ろについている、まだ二十歳前の小娘はキョロキョロと落ち着きなく周りを見回している。


「あ? 何だい、引き取りか? それとも納品?」

「いえ、そうでは無くて……ちょいと、お話を」

「話?」


 パイプを持ったまま、首を傾げるガストーネ。


「話って、商談か? だったら町役場向かいの支店窓口に行ってくんな。ここは倉庫だからな」

「失礼っすけど、おたくはこの倉庫の支配人の方ですか?」

「あ? 違う違う。俺は人夫頭だよ。支配人はそこの事務所に……」

「ああ、そりゃどうもです。んじゃ、そちらの方へ……」

「いや、待ちねぇ!」

「はい?」

「勝手に入って貰っちゃ困る。大体、話つっても、あんたらウチの支配人に何の用事が有るんだ? 荷の出納以外、ここでやる事なんぞねぇぞ」

「実は、こちらの支配人が交代なされたと言う事っすけど、その辺りの事情……」

「!」


 支配人の交代――このワードにガストーネの目は、わざとらしいほど反応した。反応してしまった。


「出来れば、詳しくお聞きしたい事も有りまして……」

「な、何でだよ? そんなん内輪の話じゃねぇか! あんたら一体何もんだ!?」

「その辺りは支配人さんに直接……て事で。では」

「待てって!」


 事務所に向かい、足を進めようとする二人組。遮るガストーネ。


「なんだ、騒がしいな。どうしたガストーネ(ガス)?」


 ガストーネの声が響いたか、事務所から30代後半の男が出てきた。人夫頭を"ガス"などと気安く呼ぶ所を見ると同僚以上、つまり上司。


「あ、コルシさん!」

「一段落ついたからって、仕事は山ほどあるんだぞ? 昼から入る荷のスペースは空けたんか? それに明日は、4割増しで入って来る荷の予定もあるでな?」

「いや、それが……」


 ガストールはコルシに、小走りに近寄った。耳打ちするように二人組の言い分を小声で伝える。


「あん? ヘンリーの事やと?」


 コルシの顔が険しくなった。二人組の奇妙な男女をジロジロと見回す。

 ち……軽く舌打ちしたコルシは、ガストールを除けて二人組に近寄った。


「わしはこの倉庫の支配人、ブブリオ・コルシっちゅうもんやが……ヘンリー(前任)の事がどうとか聞いとる見たいやが、あんたら何者やな?」


 眉間を寄せながら訊ねて来るコルシ。

 対して二人組。


「私どもは、然る筋から依頼を受けまして前支配人の、ヘンリー・フリージンさん……でしたかな? 彼の一連の()()を調べておるものです」

「ヘンリーの? 奴の何を調べようってんのや?」

「彼は自ら死を選んだと言う事で。しかしながら、その流れが随分と拙速ではないか? と疑問に思う方もいらっしゃいましてね」

「誰だ、そいつは!」


 ガストールが割り込んできた。


「奴の女房か? いや、妹か!? それともルーチェの……」

「すいませんねぇ。私どもの稼業は、依頼元に関しては秘密厳守が基本ですんで、口外する訳には……」 

「お前らの名前は! 名前を言えよ!」

「私どもは、王都イオタニア市北区に看板を掲げるアーリウム探偵事務所、そこに在籍する探偵でございます」

「タ、タンテイ?」

「主たる業務は、依頼人の希望に沿って様々な事象の調査・険分・検討・洗い出し等を行うことに有ります。過去の一例としましては個人はもちろん冒険者ギルド、王都府や地方の町、村役場など公的な機関からの依頼もこなしております」

「こ、公的機関?」

「お役人様たちも御多忙らしいようで。本来は治安・公安関係方が今後の指針を決める参考資料とするため事件の洗い直しや調査・検分。それらを依頼して来られる事もまあまあ有りましてね。『ああ、お上には臣民の生活も気にかけて頂けているんだな』とご協力させております次第でして。で、過去の事件サンプルをランダムに掘り起こして再検討、なんてのも過去にもいくつか……。もっとも、そんな体のいい相手ばかりじゃなくて他にも……」

「他、にも?」

「王都の暗黒街(ファミリー)からの依頼とかも……ね」

 男はニヤリと口元を歪ませた。

「……」

「依頼元は秘密厳守ですからねぇ。それを以て、ご禁制な品の浸透具合とか実態とか需要の調査なんて依頼も……」


 王都のファミリーと聞いて尻込みするコルシ、ガストール。この町にも反社はいるが、王都のそれとは規模的にも段違いだ。


「と、とにかく!」


 コルシが若干、声を裏返しながら応答してきた。


「わしの一存では、どうする事も出来ひん。倉庫内は顧客から預かった品が満載なんや。顧客の情報保護が重要なんはわしらも同じなんやで!」

「そうは言われましてもねぇ。治安・公安にも寄与する調査でして……」

「明日や! 明日、もう一度来てくれ。支店長と相談して許可を貰わん事には……勝手に社内の事を話したり調べさせたりさせるわけには!」

「……そうっすね~。支配人さんの立場もありますよねぇ。承知いたしました、明日もう一度出直すっすよ。いい返事、期待してるっす」


 そう言うと男は一礼し、女と共にその場を去って行った。



「コルシさん、なんなんですかい、あいつら? 自殺したフリージンさんが何か?」

「わ、わしだってわからんわ! わしはあの日、副支店長からいきなり『明日からお前が支配人だ』って言われたんやし」


 と、ワケ分からんアピールするコルシではあったが、声は震え気味であるし、目も水槽の金魚以上に泳ぎまくっている。至る所で器の小ささが垣間見えてしまっていた。


「……とにかく、これから行って副支店長に報告してくるわ。後の事は頼むで?」


 そうガストールに指示すると、コルシはそそくさと支店事務所に向かった。


        ♦


「おじさ~ん。ハッタリ上手くなったね~?」

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